ウォンツ(Wants)とは?ニーズやデマンドとの違いと潜在欲求を引き出しマーケティング戦略に活用する方法を解説
- タグ
- マーケティング
マーケティングにおける三つの概念、ニーズ(Needs)、ウォンツ(Wants)、デマンド(Demands)は「消費者の欲求」を捉えるうえで重要なキーワードです。よく「ニーズとウォンツはどう違うのか」「ウォンツとデマンドの関係はどこにあるのか」という混同が起こりやすいため、本稿ではこれらを明確に区別しながらウォンツに焦点を当てて解説します。
ニーズは消費者が抱える「解決すべき問題」や「本質的な必要性」を指し、ウォンツはニーズを満たすために具体化された「欲しいもの」。そしてデマンドは購買力(資金やタイミングなど)が考慮に加わり、「購入可能な特定の商品」に欲求が向けられたものを指します。
ウォンツを理解すると、顧客が単なる必需品を超えて「どうしてもこれが欲しい」と思う心理の背景に迫ることができます。結果として、競合製品との差別化や価格競争からの脱却、リピーターやファンづくりなど、多くのメリットを得る可能性が高まります。ぜひ最後まで読み進めて、ウォンツを軸にしたマーケティング戦略のヒントをつかんでください。
- 三つの概念を整理する
- ウォンツが重視される背景
- ウォンツとニーズ・デマンドの違いを具体例で見る
- ウォンツを捉えるためのマーケティング手法
- ウォンツを活かしたプロダクト開発とブランディング
- ウォンツに応える企業事例
- ウォンツを継続的に検証・改善する仕組み
- まとめと今後の展望
三つの概念を整理する
ニーズ(Needs)
ニーズとは、消費者の生活や仕事を支える上で必要不可欠な要素や解決したい問題を指します。例えば「空腹を満たしたい」「移動手段が欲しい」「情報をやり取りしたい」といった、本能的あるいは機能的な欲求や必要性に相当します。人間が生きていくうえで避けられない「不足状態」を埋めるものと言えます。よく「ニーズを生み出す」という言説が出てきますが、ニーズとは根源的な欲求のことを意味するため、マーケティング従事者が”ニーズを生み出す”ことは困難であると言えます。
ウォンツ(Wants)
ウォンツは、ニーズを満たすために具体化された形としての「欲しいもの」です。上記の例でいえば、空腹を満たすために「ファストフード」なのか「フレンチレストラン」なのか、移動手段を確保するために「軽自動車」なのか「高級外車」なのか。ニーズという大枠に対して「どれを選びたいか」を決める際の嗜好やこだわりがウォンツを生み出します。消費者が心から求めるブランド・デザイン・雰囲気など、感情的・心理的な価値が大きく関わる点が特徴です。
デマンド(Demands)
デマンドとは、ウォンツに購買力(資金や行動意欲など)が伴った上で特定の商品を想起し、実際の市場需要として顕在化した状態を指します。欲しいと思うだけでは購入に至らない場合も多いですが、資金やライフスタイル、購入タイミングが整い「買うことができるし、買いたい」という意思決定が固まると、そこにデマンドが発生します。企業にとっては、ニーズやウォンツを把握したうえで顧客が購買を実行しやすい状況を提供することが大切です。
ウォンツが重視される背景
高度成長期や物資が不足していた時代には、ニーズを満たす商品やサービスをいち早く提供できる企業が強みを持ちました。しかし、現代の日本は市場が成熟し、基本的なニーズを満たす商品は既に溢れています。そのため「ある程度の品質・機能」は当たり前になり、消費者は「どのようなブランドやデザイン、ストーリーでニーズを満たしたいか」をより重視するようになりました。
SNSやインターネット上で多種多様な情報が手に入るため、消費者は他の製品やブランドと簡単に比較が可能です。企業はコストや機能面だけで勝負するのではなく、「私が欲しかったのはこれだ」と顧客に思わせる付加価値を提供しなければなりません。そこでウォンツが重要な鍵を握ります。
ウォンツとニーズ・デマンドの違いを具体例で見る
例1. スマートフォン
ニーズ
電話やメッセージで連絡を取りたい
ウォンツ
電話やメッセージで連絡を取るためにスマホがほしい
デマンド
実際にiPhoneを買う意欲と予算がある
ニーズの段階では「連絡手段が必要だ」という一般的な必要性しか示されません。しかし、ウォンツやデマンドの段階で「ブランドイメージやデザイン、OSの快適さ、カメラ機能など特定の価値を求める」に変わり、消費者は「これがいい」と具体的に欲しい対象を絞ります。そこに予算と購入意欲が重なればデマンドが発生し、実際にスマートフォンが売れるわけです。
例2. 食事
ニーズ
お腹が空いて栄養を取りたい
ウォンツ
高級フレンチで特別なディナーを味わいたい / ヘルシーなオーガニック食材を使ったレストランに行きたい
デマンド
具体的にその店舗を予約し、実際に食事をする意欲と予算がある
ウォンツを掘り下げると「健康志向である」「大切な記念日に特別感を求める」などの背景が見えてきます。このようにウォンツが明確になることで、具体的な体験やストーリーを提供しやすくなり、価格が多少高くても顧客は納得して購買に至る可能性が高まります。
ウォンツを捉えるためのマーケティング手法
市場調査とセグメンテーション
まずは消費者がどのようなウォンツを持っているかを把握するために、市場全体を調べます。アンケートやインタビュー、SNS上の声や検索キーワード分析などを通じ、どのような属性の人々が、どのようなウォンツを抱えているのかを探ります。そのうえで共通点や特徴からセグメンテーションを行い、ターゲットとすべき層を絞り込みます。
ペルソナ設計とインサイト分析
狙いたいターゲット層が明らかになったら、その層を代表するペルソナを作成します。年齢や職業、休日の過ごし方、興味関心、SNS利用状況などを具体的に設定し、「この人ならどんなウォンツを抱えているか」を物語化するイメージです。ペルソナを用いて深層的な欲求(インサイト)を整理すると、ウォンツにアピールするメッセージや製品特徴を導き出しやすくなります。
ウォンツを形にする価値提案
ウォンツが見えてきたら、それを満たすための製品やサービスの強みをまとめ、ターゲットに分かりやすく伝える価値提案を作ります。機能面の話だけでなく、「どんな体験や気持ちを得られるか」「どのようなストーリーがあるのか」という感情的価値や物語を織り交ぜると効果的です。
ウォンツを活かしたプロダクト開発とブランディング
ウォンツを押さえたプロダクト開発では、消費者が自分の理想像や憧れを重ねられるようなデザインや機能性を意識します。例えば、「自宅でもおしゃれなカフェ気分を味わいたい」というウォンツに合わせて、コーヒーメーカーに洗練された見た目と簡単な操作性を盛り込み、さらにSNSでの写真映えを狙った工夫をするなどが考えられます。
ブランディングでも同様です。ブランドのロゴや広告だけを強調するのではなく、そのブランドが提案するライフスタイルや世界観を明確に示すことでウォンツを刺激し、「こうなりたい」「こんな体験を共有したい」と思わせることが重要です。
ウォンツに応える企業事例
A. スターバックス
コーヒーが欲しいというウォンツに対して、「心地よい空間でリラックスしたい」「自分の好みに合わせたカスタマイズを楽しみたい」という付加価値を加えて差別化を行っています。消費者が求める居場所や体験を提供することで、コーヒーそのもの以上の満足を生み出し、リピート利用につなげています。
B. Apple
スマートフォンやPCが持つ機能的価値だけでなく、「操作感やデザインが洗練されているものが欲しい」「アプリやサービスがシームレスにつながる環境で暮らしたい」というウォンツを満たしています。その結果、価格競争に巻き込まれにくい高いブランド力を保持し、多くのリピーターを獲得しています。
C. Dyson
掃除機や家電において、「デザインがスタイリッシュ」「吸引力や機能が普通じゃない」という強い付加価値を打ち出しています。一般的な掃除機ニーズを超えて「最新技術を体験したい」「家事をスマートにこなしたい」というウォンツをしっかり取り込み、高価格帯でも支持を得ています。
ウォンツを継続的に検証・改善する仕組み
ウォンツは時代やトレンドとともに移り変わります。同じターゲット層でも、環境の変化やライフステージの進行によって新たな嗜好や価値観が芽生えるものです。そのため、定期的に市場調査やSNS分析などを実施してウォンツの変化を捉え、製品やプロモーションを見直すことが大切です。
また、デジタル領域ではABテストなどを行い、どのメッセージやデザインがより多くの反応を得られるかを確認する方法も有効です。顧客満足度調査やレビュー分析を継続し、リアルタイムに改善点を洗い出すことで、常にウォンツに合ったブランド体験を提供できます。
まとめと今後の展望
ウォンツとは、ニーズを満たす具体的な手段として「これが欲しい」と思わせる欲求であり、そこに購買力が伴うとデマンドとして実際の売上につながります。現代の成熟市場では、ニーズを満たすだけの差別化は難しく、ウォンツを的確に捉えた価値提案を行える企業が勝ち残りやすいといえます。
ウォンツを明確に把握するためには、徹底した市場調査やペルソナ設計、インサイト分析が欠かせません。そして、その知見をもとにプロダクト開発やブランディングを一貫して設計することが重要です。時代の変化とともに消費者が抱くウォンツも変化するため、継続的な検証と改善を行う姿勢が求められます。
情報技術やSNSが発達し、消費者の声がこれまでになく可視化される現代では、ウォンツを取り込むヒントが身近に転がっています。それを拾い上げて商品やサービスに反映するかどうかで、企業の競争力やブランド価値は大きく変わるでしょう。ニーズだけでなくウォンツを深く理解し、デマンドとして市場に反映させることこそが、今後のマーケティングにおける一つの鍵となります。