ユーザーインタビューを実施したにもかかわらず、「思ったより浅い話しか出てこなかった」「結局仮説をなぞっただけだった」という経験はないでしょうか。時間をかけてヒアリングしたのに、意思決定に使えるレベルの示唆が得られないという状況は、実務では非常に多く発生しています。
この問題は、対象者の質や質問の数ではなく、「聞き方の設計」に原因があります。特に、あらかじめ決めた質問を順番通りに聞く構造化インタビューでは、相手はその質問に対して“それらしい答え”を返そうとします。その結果、本音ではなく整理された説明が返ってくるため、表面的な理解にとどまりやすくなります。
非構造化インタビューは、この問題を解決するためのアプローチです。質問の流れを固定せず、相手の発言や思考に合わせて会話を展開することで、言語化されていない意思決定の裏側や感情の動きまで引き出すことができます。
- 非構造化インタビューの定義と本質
- なぜ本音は質問だけでは引き出せないのか
- 本音に到達する会話プロセス
- 非構造化インタビューの価値
- 非構造化インタビューの進め方
- 非構造化インタビューの具体例
- 分析フェーズで重要な視点
- よくある失敗と改善ポイント
- まとめ
非構造化インタビューの定義と本質
非構造化インタビューとは、事前に細かく質問を固定せず、会話の流れに応じて問いを変えながら進めるインタビュー手法です。ただし「何も準備しない」という意味ではありません。重要なのは、質問の内容ではなく「知りたいこと(目的)」を軸にすることです。
この手法の本質は、「情報を集める」ことではなく、「人の思考と行動の構造を理解する」ことにあります。構造化インタビューが“正確な回答”を得ることに向いているのに対し、非構造化インタビューは“なぜその行動が起きたのか”を解明することに向いています。
たとえば「なぜこの商品を買ったのか」という問いに対して、構造化インタビューでは「価格が安いから」という答えが返ってきます。しかし非構造化インタビューでは、「最初に目に入った」「同僚が使っていた」「安心感があった」といった、より本質的な要因が見えてきます。
つまり非構造化インタビューは、答えではなく“プロセス”を聞く技術です。
なぜ本音は質問だけでは引き出せないのか
人間は自分の意思決定を正確に説明できません。多くの場合、行動したあとに理由を整合的に作ります。これをそのまま聞いても、実際の意思決定プロセスとはズレが生じます。
非構造化インタビューでは、「なぜ?」ではなく「どういう流れで?」と聞くことで、後付けではないリアルな思考の流れを引き出します。これにより、表面的な理由ではなく、無意識の判断基準や環境要因を把握できます。
本音に到達する会話プロセス
人は最初から本音を話しません。会話の流れは通常、表面的な回答から始まり、徐々に具体的な体験や感情に近づいていきます。非構造化インタビューは、このプロセスを前提に設計されているため、最終的に深い情報に到達できます。
NGなのは、最初の回答で満足してしまうことです。そこからさらに深掘りすることで、“本当の理由”にたどり着く可能性が高まります。
非構造化インタビューの価値
非構造化インタビューの価値は、想定外の発見にあります。質問を固定すると、会話は仮説の範囲内に収まりますが、自由に進めることで全く違う文脈が出てくることがあります。
例えば、ある機能の使い方を聞いていたはずが、「実は別の用途で使っている」という話が出てくることがあります。このような脱線は一見無駄に見えますが、実際には新しい価値やニーズの発見につながります。
非構造化インタビューの進め方
1. 目的(知りたいこと)を定義する
最初にやるべきことは、「何を知りたいか」を明確にすることです。ここが曖昧だと、会話が散漫になり、分析もできなくなります。
例えば「購入理由」ではなく、「購入に至るまでの意思決定プロセス」と定義すると、聞くべき方向が明確になります。
2. 安心して話せる環境を作る
本音は安心できる環境でしか出ません。いきなり本題に入るのではなく、雑談や軽い話題から始めることで、相手がリラックスできる状態を作ります。
NGは、最初から質問を連続させることです。これでは“尋問”になってしまい、表面的な回答しか得られません。
3. 「なぜ?」ではなくプロセスを聞く
「なぜ?」ではなく、「どういう流れでそうなったか」を聞きます。
例:
NG:「なぜそれを選びましたか?」
OK:「最初にそれを知ったのはどのタイミングでしたか?」
この違いにより、回答は大きく変わります。前者は結論、後者はプロセスが出ます。
4. 沈黙を活用する
沈黙は重要な瞬間です。相手が考えている時間であり、その後に出てくる言葉はより本質に近いことが多いです。
多くのインタビュアーは沈黙を埋めようとしますが、それは最も重要な情報を失う行為です。沈黙は「失敗」ではなく「価値が生まれる前兆」と捉えるべきです。
非構造化インタビューの具体例
Q:なぜこのサービスを使っていますか?
A:便利だからです
→ ここで終わると何も分からない
Q:最初にそのサービスを知ったのはいつですか?
A:SNSで見ました
Q:そのとき、何をしようとしていましたか?
A:別のツール探してました
Q:他にも候補はありました?
A:ありました
→ 比較軸・意思決定基準が出る
分析フェーズで重要な視点
非構造化インタビューの価値は、分析によって決まります。
- 発言ではなく背景を見る
- 単発ではなくパターンを見る
- 感情の変化を拾う
例えば「価格が理由」という発言が複数あった場合でも、その背景を見れば「安心感」「他人の影響」など別の構造が見えてきます。
よくある失敗と改善ポイント
→ 会話ではなく尋問になる
→ 改善:相手が話す時間を増やす
→ 仮説を強化するだけになる
→ 改善:中立的な問いを使う
→ 浅い理解で終わる
→ 改善:その場ではまとめない
まとめ
非構造化インタビューは、効率的な手法ではありません。しかし、最も深い理解を得ることができます。
データや数値では見えない、
- 行動の背景
- 意思決定の構造
- 感情の動き
を理解するためには、この手法が不可欠です。
そしてその理解こそが、
プロダクト改善やマーケティングの質を大きく引き上げる要因になります。
著者の紹介
株式会社マクロミル
鳥居 慧
2009年に株式会社マクロミルに入社。
10年以上にわたり定量調査から定性調査まで幅広いリサーチサービスの運用部門に従事し、10,000件以上のプロジェクトに関与。
2024年、セルフ型のオンラインインタビュープラットフォーム「Interview Zero」を立ち上げ、プロダクト責任者として従事。

