セルフアンケートとは?調査の民主化を進める新しいリサーチの形

アンケートは専門家に頼むもの」
そんな常識を覆しつつあるのが、「セルフアンケート」という調査手法です。

マーケティング担当者、商品開発者、UXデザイナーなど。
日々の業務の中で「この仮説、ちょっと検証してみたい」「生活者の声をすぐに知りたい」と思う瞬間は、誰にでも訪れます。

都度、リサーチ会社に依頼して企画書を書いて、見積もりを取って、やり取りを重ねて……という従来型の調査フローでは、スピードと柔軟性に限界があります。

セルフアンケートは、そういった課題を解消する手段として近年注目を集めています。
本記事では、セルフアンケートの意味・特徴・使い方・向いている調査と注意点まで、実務に役立つ視点で解説していきます。

監修

Macromill News 事務局

監修:株式会社マクロミル マーケティングユニット

20万人以上が登録するマーケティングメディア「Macromill News」を起点に、マーケティング知見や消費者インサイトに関わる情報を発信。

20万人以上が登録するマーケティングメディア「Macromill News」を起点に、マーケティング知見や消費者インサイトに関わる情報を発信。

セルフアンケートとは?:調査の“内製化”を可能にする仕組み

セルフアンケートとは、リサーチャーでない一般の担当者でも、自分で設計・配信・回収・分析までを行えるアンケート調査のことを指します。

専用のクラウド型調査ツール(例:Questant、Googleフォームなど)のテンプレート等を用いることで、専門知識がなくても簡単に調査票を作成し、Web上で配信できるのが特徴です。

従来型調査との違い

項目従来型のアンケート セルフアンケート
設問作成  リサーチ会社が主導   担当者自身が作成
配信管理 専門スタッフが対応Webツールで自動実行
分析・レポート報告書で納品される担当者自身が閲覧・活用
費用感数十万〜数百万円数万~数十万、無料で利用も可能
実施スピード数週間〜1ヶ月最短当日中に完結も可能

セルフアンケートの特徴:最大の価値は“機動力”

セルフアンケートの最大のメリットは、「スピード」と「柔軟性」にあります

思いついたその日に調査できる

たとえば、上司との会話の中で「この仮説、本当にユーザーが共感しているの?」という疑問が出たとします。
従来ならそこから社内で稟議を通し、リサーチ会社に依頼し……と2〜3週間かかっていたところが、セルフアンケートならその日のうちに質問を作成し、翌日には結果を見て意思決定ができることもあります。

この「圧倒的な時間短縮」が、企画やマーケティングのスピードを格段に引き上げてくれます

小回りが効くので“現場目線”を逃さない

  • 商品開発中の機能名A/Bテスト
  • 広告コピーの言い回し検証
  • 顧客インサイトに基づいた仮説確認
  • 社内向け企画の共感度チェック

このような“ちょっと聞きたいこと”は、大規模調査では扱いにくい領域です。
セルフアンケートは、そうした現場の「違和感」や「気づき」に即座に反応できる、小回りの効く手法として非常に重宝されます

調査実施が“自分ごと”になる

設問を自分で作り、結果を自分で分析することで、調査結果への理解と納得感が増します
また、設問を作る過程で「自分は何を知りたいのか? それは誰に聞くべきか?」という問いの解像度が上がるという副次的効果もあります。

セルフアンケートの活用シーン:現場力を活かす“軽量リサーチ”の真価

セルフアンケートは、限られた時間や予算の中でも、生活者の声を手にしたいときに威力を発揮します
ここでは、実際の企業活用に近い「典型シーン」をいくつか紹介します。

コンセプトやコピー案の仮説検証

商品企画や広告制作の初期段階では、「この言葉は伝わるのか」「競合との差異は伝わるのか」といった仮説の精度が鍵を握ります。
セルフアンケートなら、複数のコピー案やパッケージ案を並列に提示し、生活者視点での“響き方”や“選ばれ方”を迅速にチェックできます

社内プレゼンの裏付けとして

上司や関連部署への企画提案において、「直感や経験」だけでは説得力に欠けることもあります。
そのときにセルフアンケートを用いて、生活者の反応や支持傾向を“根拠データ”として添えることで、企画の納得性を高められます

問題発見の“入口”として

  • サービス利用者がどこでつまずいているのか
  • 離脱要因はどこにあるのか
  • 顧客満足度が思うように上がらないのはなぜか

こうした曖昧な課題に対して、まずはセルフアンケートで仮説を並べて反応を見る“叩き台調査”を行うことで、問題の輪郭を明確化できます。

社内施策やイベントの参加意向調査

社員向けの制度案、研修内容、社内イベントの満足度確認など、インターナル・コミュニケーションの領域でもセルフアンケートは有効です。
匿名性が高く、スピーディに実施できるため、オープンな社風醸成にもつながります

どんな調査に向いている?:セルフアンケートの“適材適所”

もちろん、セルフアンケートは万能ではありません。適した領域・不向きな領域を見極めることが成功の鍵です

◎向いている調査

調査タイプ説明
仮説検証型コピー、商品名、デザインなどのABテストや印象評価
反応把握型トレンドや話題への共感度、購買意向など
絞り込み型アイデア出し段階の方向性判断
小規模ターゲット型特定の顧客層に向けた予備的インサイト把握

セルフアンケートの最大の強みは、「早く、安く、小さく試せる」ことにあります
これはいわば、“マーケティングのスニーカー”のような存在です。重装備で走る必要のない調査には、これほど軽快な選択肢はありません。

△不向きな調査

調査タイプ説明
サンプルサイズが厳密に求められる調査国勢調査、意識調査などの統計的厳密性が必要なもの
設問設計が複雑な調査多段階ロジック、コーディングを伴うもの
長期トラッキング継続的なパネル設計が必要なプロジェクト

このような調査は、設計ミスやバイアスが結果に大きく影響するため、やはり専門家の関与が必要です。
特に経営判断に直結する調査では、セルフ型での実施はリスクを伴うこともあります。

設計から分析まで:セルフアンケート成功のコツ

セルフアンケートは手軽にできる反面、設計を誤ると意図しないデータが集まってしまうリスクもあります。
ここでは、設問作成から集計・分析まで、実務で意識すべきポイントを解説します。

設問設計のポイント:答えやすさ × 聞きたいこと

アンケートの成否は、設問の質にかかっているといっても過言ではありません。
以下は、設問を作る際に押さえておきたい基本の原則です。

視点 良い設問の条件
明確性意図が曖昧でなく、誰が読んでも意味が通じる
単純性 一文に一つの内容。二重質問や否定表現を避ける
中立性回答を誘導するような表現を使わない
回答しやすさ無理に想起させず、選択肢で補完できるようにする

NGな例

「あなたは普段どれくらい健康を意識して生活していて、食品の原材料表示などを見ていますか?」

これは「健康意識」と「原材料表示」の二つの要素が混ざっており、回答者が混乱してしまいます。

より良い設問

「食品を購入する際、原材料表示を確認しますか?」

このように、設問は具体的かつ1トピックで構成することが基本です。

選択肢設計の落とし穴に注意

選択肢にも“設計ミス”はありがちです。たとえば・・・

  • 抜け漏れがある(該当なし、わからない、その他などを忘れる)
  • 範囲がかぶっている(「20〜30代」「30〜40代」などの重複)
  • 順序にバイアスが出る(上の選択肢が選ばれやすくなる)

こうしたミスは、セルフアンケートにありがちな「急いで作る」ことの弊害です。
アンケートの目的を見失わず、“調査票のシミュレーション”を自分で行うことが非常に有効です

集計・分析のポイント:可視化と仮説検証

多くのセルフ型アンケートツールでは、回答データをCSVでダウンロードしたり、リアルタイムに集計結果を閲覧したりできます。

分析において重視すべきなのは、「答えを出す」のではなく、「仮説を検証する」視点です
たとえば・・・

  • 「男性よりも女性の方がA案を支持するだろう」という仮説を検証
  • 「30代よりも20代が新しい提案に好意的では?」という傾向を可視化

表やグラフにすることで、“なんとなくの感覚”ではなく“見える比較”が可能になります。

セルフアンケートあるある失敗と対策

失敗もまた、セルフアンケートの成長材料です。
ここではよくある失敗例と、それを回避・修正するためのTipsを紹介します。

よくある失敗1:設問が多すぎて離脱される

▶ 対策:設問数は15問以下で、約10分以内が望ましい。不要な質問は削る勇気を持つ。

よくある失敗2:設問の意図が伝わらず、バラバラな回答が集まる

▶ 対策:「誰が読んでも同じ意味で理解できるか?」を社内や身近な人に試してもらい、事前テストを行う。

よくある失敗3:集めたはいいが、使えるデータになっていない

▶ 対策:事前に「どんな仮説を、どう検証したいのか?」を言語化してから設問設計に入る。

よくある失敗4:自由回答を活かせず、読まずに終わる

▶ 対策:「3名分だけ読む」「気になる単語にマーキングする」など、気軽に“読める仕組み”を作ることが大切。

アンケートは“設計力”で9割決まる

セルフアンケートは「簡単に始められる」反面、設計が甘いとすぐに“ノイズだらけのデータ”になります。
だからこそ、最低限の設計知識と仮説の意識を持つことで、一歩先を行く調査結果に変わるのです。

まさに、設問設計は「調査の入り口」であり、「回答者との会話」でもあります。
その言葉選び一つで、調査の成果が大きく変わってくるのです。

セルフアンケートの未来:調査の民主化と“生活者との距離感”の変化

セルフアンケートの普及は、単なる「手軽な調査手法の登場」ではありません。
本質的には、「生活者の声に近づくためのハードルが下がった」ことに意味があります。

これまで調査は、企画や開発とは“別の専門領域”として扱われがちでした。
しかし今後は、誰もが「仮説を持ち」「検証して」「改善する」ことが当たり前になる時代がやってくるでしょう

“社内にリサーチ文化を持つ”という発想

調査を内製化できるということは、組織の中に生活者視点を組み込むチャンスでもあります。

  • 企画会議で「じゃあ聞いてみよう」が自然に出る
  • 若手がデータをもとに上司を説得できる
  • 数字ではなく“声”で判断する土壌が生まれる

こうした変化は、製品やサービスだけでなく、組織の意思決定スタイルそのものを変える力を持っています

どのツールを選ぶべき?:目的別・セルフ型調査ツールの比較視点

セルフアンケートを始める際、多くの人が悩むのが「どのツールを使えばよいか?」という点です。
以下は、代表的な視点です。

比較軸具体的な視点
回収スピード数日内で回収できるか
対象者の絞り込み性別・年代・居住地などの条件指定ができるか
質問形式の自由度選択肢形式/画像挿入/分岐ロジックが使えるか
回答数と費用感 月額制・従量課金など料金体系とボリューム感
分析機能グラフ化・集計・エクスポートのしやすさ

リサーチ会社との併用:セルフで始めて、プロに繋げる

セルフアンケートは万能ではありません。
ですが、うまく使えば“プロの調査に橋渡しする素材”にもなります。

  • まずはセルフで仮説を立てる
  • 一部の反応や定性的ヒントを見つける

その結果をもとに、リサーチ会社に「この点をより深く調べたい」と相談する

このように、セルフで始める→プロに渡すというハイブリッド型の運用は、スピードと深さを両立できる有効な戦略です

また、セルフで失敗した結果をプロに見せることも、調査の質を高めるためのヒントになります。

まとめ:セルフアンケートは「問いの力」を育てる手段

セルフアンケートは、単に「安く」「早く」できる調査ではありません。
本質は、“問いを持つ人が、その問いを自分で確かめに行ける”という、マーケティングの民主化です

  • 考えて
  • 聞いて
  • 驚いて
  • 変えていく

このサイクルを、誰もが自分の手で回せる時代。
セルフアンケートは、その入口として、すべてのマーケターに開かれた“リサーチのはじめの一歩”なのです

著者の紹介

徳田 瑞樹

株式会社マクロミル 事業統括本部 リサーチプロダクト部セルフリサーチユニット長

徳田 瑞樹

2008年ブランドデータバンク株式会社入社、その後2010年にマクロミルに統合。BDBの営業、運用、サービス企画、オープン調査領域の営業、サービス企画を経て、現在のリサーチプロダクト部セルフリサーチユニットへ異動。マクロミルにおいて、セルフセグメント事業(Questant、ミルトーク、Interview Zeroなど)を担当する。

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