マーケティングとは?売る技術を超えて“つながりを設計する戦略”へ進化する現代ビジネスの中核
「マーケティング=広告や販促」だと思っていませんか?
あるいは、「マーケティング=売るための仕組み」と理解している方も多いかもしれません。
たしかにそれらもマーケティングの一部ですが、現代のマーケティングはもっと広く、もっと深く、そして企業全体の在り方にまで影響する概念へと進化しています。
本コラムでは、「マーケティングとは何か?」を再定義するために、定義、歴史、基礎フレームワーク(STP・4P/4C)、データドリブン戦略、顧客体験(CX)、ブランド、パーパス、テクノロジーとの融合まで、全体像を体系的に解説します。
- マーケティングとは何か?定義と現代的な理解
- マーケティングの歴史:目的の変化から見える5つの時代
- マーケティング戦略の基礎:STPフレームワーク
- マーケティング施策の基本:4Pと4Cフレームワーク
- データドリブンマーケティング:仮説から確信へ
- CX(カスタマーエクスペリエンス)とマーケティングの接点
- パーパスとマーケティング:存在意義が選ばれる時代に
- これからのマーケティング:未来を構想する視点
- まとめ:マーケティングとは“顧客・社会・企業”の価値をつなぐ設計である
マーケティングとは何か?定義と現代的な理解
アメリカ・マーケティング協会(AMA)は次のように定義しています。
「マーケティングは、個人と組織の目的を満たすような交換を生み出すために、ア イデアや財、サービスの考案から、価格設定、プロモーション、そして流通に 至るまでを計画し、実行するプロセスである」
この定義には以下のようなポイントが含まれています。
- 単なる「広告」や「販促」ではなく、企業活動全体に関わる
- 商品やサービスを“売る”だけでなく“価値を生み出す”ことが含まれる
- 顧客だけでなく、社会・パートナー・組織などのステークホルダー全体を対象とする
マーケティングとは「売るための武器」ではなく、「何を、誰のために、なぜやるのか」という企業活動の起点であり、その本質は“価値の設計と共創”にあります。
マーケティングの歴史:目的の変化から見える5つの時代
マーケティングの進化を理解するには、社会やテクノロジーの変化とともに「何を目的にしていたか」を追うことが有効です。代表的な5つのフェーズをご紹介します。
1. 生産志向(〜1950年代)
製品を大量に作れば売れる時代。マーケティングの役割は「いかに効率よく供給するか」にありました。
2. 販売志向(1950〜70年代)
モノが溢れ始め、競合が増えると「いかに売るか」が課題に。セールス力やマス広告が強化され、マーケティングは“プッシュ型の販売支援”の側面が強くなります。
3. 市場志向(1980〜90年代)
顧客を起点に市場をセグメント化し、ターゲティングやポジショニングを明確にする「STP戦略」が主流に。商品企画や広告は、顧客理解を前提としたものになります。
4. 顧客志向(2000〜2010年代)
CRM(顧客関係管理)やLTV(顧客生涯価値)といった考え方が登場し、「一度売って終わり」から「長期的な関係性」へとシフトします。
5. 共創・パーパス志向(2010年代〜現在)
顧客と一緒に価値をつくる「共創」、企業が社会に存在する意味を言語化する「パーパス」が注目され、マーケティングは“信頼の設計”へと変化しています。
このように、マーケティングは「誰に、何のために、どんな価値を届けるか?」という問いに、時代ごとの解を与え続けてきた営みなのです。
マーケティング戦略の基礎:STPフレームワーク
マーケティング戦略を考えるときの基本が、STPフレームワークです。
STPとは、以下の3つのステップの頭文字をとったものです。
- Segmentation(セグメンテーション):市場を細かく分ける
- Targeting(ターゲティング):狙う対象を選ぶ
- Positioning(ポジショニング):独自の立ち位置を築く
1. セグメンテーション(Segmentation)
市場を「年齢」「性別」「職業」「ライフスタイル」「価値観」などの軸で細かく分解します。すべての人に訴求するのではなく、顧客の違いを理解するところから始まります。
例:飲料市場を「健康志向」「エナジー志向」「リラックス志向」などに分類する
2. ターゲティング(Targeting)
分けたセグメントの中から、自社が強みを持ち、かつ市場性がある層を選定します。マーケティング施策の焦点を絞ることで、効率的な展開が可能になります。
例:「20代女性×エナジー志向」をコアターゲットにする
3. ポジショニング(Positioning)
選んだターゲットに対して「競合とどう違うか」「なぜ自社を選ぶべきか」を明確にするステップです。顧客の頭の中に“独自のポジション”を築くことが目的です。
例:「自然由来の成分で身体にやさしいエナジードリンク」
STPは、顧客の視点から自社の存在意義を再定義する戦略の基本であり、「誰に、何を、どう伝えるか」のすべてのマーケティング活動の出発点です。
マーケティング施策の基本:4Pと4Cフレームワーク
STPによって「誰に、何を、どう伝えるか」を設計したあとは、具体的に「どのように届けるか」を考える必要があります。そこで用いられるのが、マーケティングミックスと呼ばれる「4P」です。
4P(売り手視点の設計)
4Pは、1960年代にジェローム・マッカーシーが提唱した「売る側から見た」4つの基本要素です。
- Product(製品):どんな商品・サービスを提供するか
- Price(価格):いくらで提供するか
- Place(流通):どこで・どのように提供するか
- Promotion(販促):どのように認知・理解を促すか
これらを総合的に組み合わせて戦略を立てるのが、マーケティングミックスです。
例:ある無糖紅茶飲料を訴求する場合
- Product:香りと茶葉にこだわった微香タイプ
- Price:150円のプレミアム設定
- Place:コンビニ中心の流通+EC販売強化
- Promotion:SNS×YouTubeで「無糖=味気ない」の先入観を覆す動画を展開
4C(顧客視点の設計)
近年では、4Pを“顧客の立場”で読み替えた「4C」も重視されています。
- Consumer Value(顧客価値)=Product
- Cost(顧客にとっての総コスト)=Price
- Convenience(利便性)=Place
- Communication(対話)=Promotion
4Cの発想では、「商品をどうつくるか」ではなく「顧客にどんな価値を提供し、どう体験されるか」を主眼におきます。4Pが「企業が何をするか」だとすれば、4Cは「顧客がどう感じるか」。両者を行き来しながら設計することで、より共感されるマーケティングが実現できます。
データドリブンマーケティング:仮説から確信へ
現代のマーケティングでは、デジタル化により顧客行動のあらゆるデータが取得可能になっています。これにより、感覚ではなく「仮説と検証」に基づいた精度の高い施策設計が可能になりました。
基本的な手法
- Google AnalyticsやGA4によるWeb行動分析
- CRMデータを使ったセグメント別LTV(顧客生涯価値)分析
- ヒートマップやスクロール解析でUI/UXの改善
- A/BテストによるLPや広告クリエイティブの最適化
- マーケティングオートメーションツールによるナーチャリング設計
これらはすべて、「データに基づく意思決定」の基盤となる手法です。
統計・AI活用による高度化
- MMM(Marketing Mix Modeling):テレビCMや交通広告などマス施策の長期効果を数理モデルで推定
- MTA(Multi-Touch Attribution):デジタル広告の各接点の影響度を算出し、最適配分を導出
- ディープラーニングによる需要予測・レコメンド最適化
- 顧客の離脱予兆検知やチャーンリスクスコアリング
データドリブンとは、単に数値を読むことではありません。
意思決定に使える「ストーリーと洞察」を引き出すための“問いの設計力”が求められます。
CX(カスタマーエクスペリエンス)とマーケティングの接点
マーケティングはもはや「買ってもらう」だけでなく、「また使いたいと思ってもらう」「周囲に勧めたくなる」という“体験価値”までを対象とするようになっています。CX(顧客体験)の考え方とは、「顧客がブランドと接するすべての瞬間の印象・感情・行動に注目し、それを一貫性と感動で設計する」ことです。
主なCX設計領域
- 情報収集時のわかりやすさ、温度感(例:Webやカタログ)
- 購入時のストレスフリーな導線(例:フォームや決済UI)
- 購入後の不安解消、驚きの演出(例:サポート品質、開封体験)
- サービス解約時の印象(例:退会UXの誠実さ)
- コミュニティ体験、継続インセンティブのデザイン
UX(ユーザー体験)とCX(顧客体験)は密接に関連しながら、ブランド全体の印象=パーセプション形成に大きく影響します。
評価指標
- NPS(Net Promoter Score)®:推奨度で体験満足度を測定
- CES(Customer Effort Score):手間の少なさでCXを可視化
- Churn Rate(解約率):リテンション力の定量指標
マーケティングとは「体験を通じて信頼を積み上げる活動」であり、その意味で、CXは戦略の中心に位置づけられる時代となっています。
パーパスとマーケティング:存在意義が選ばれる時代に
「なぜこの商品をつくるのか」「なぜこの会社で働くのか」「このブランドは、社会に何をもたらすのか?」
こうした問いに答えるためのキーワードが「パーパス(Purpose)」です。
パーパスとは、企業やブランドの存在意義そのものであり、マーケティング戦略においては“価値の背景”を伝える役割を担います。
パーパスがマーケティングにもたらす3つの力
1. 意味の共感を生む
顧客はもはや「安いから」「便利だから」だけでは動きません。「このブランドの考えに共感できる」「信じられる」という“価値観の一致”が選ばれる理由になります。
2. 長期的なブランド戦略の軸になる
広告キャンペーンや商品開発がバラバラにならないために、パーパスは“一貫性の源泉”として機能します。短期の売上ではなく、長期の信頼と好意の蓄積を可能にします。
3. 社内文化と外部発信をつなぐ
パーパスは社内の意思決定や行動基準にもなり、インナーとアウターの一貫したブランド体験を実現します。
実践例:パーパスを軸にしたマーケティング
Dove:「あなたらしさが、美しさ」
世界中の広告で一切の画像加工を行わないという見事なアクション。商品広告に多様な体型や人種の女性を起用。
Patagonia:「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」
地球を”唯一の株主”と宣言し、環境保護を優先するマーケティング。商品の購入自体を「活動参加」と位置づける。
パーパスがあるからこそ、商品や施策の一つ一つが“メッセージ”となり、マーケティングが「伝える」ではなく「共鳴をつくる」営みへと進化します。
これからのマーケティング:未来を構想する視点
マーケティングは今後さらに複雑化・多層化していきます。その中で求められるのは、以下のような“未来を見通す視点”です。
AIと創造性の融合
生成AIの登場により、コンテンツ制作や需要予測は自動化されつつあります。一方で、“問いの設計”や“ストーリーの構築”といった創造的プロセスの価値はむしろ高まります。 AIは“正解”を出すパートナー。人間は“意味”を問い直す役割へとシフトしていきます。
感情と共創の設計
感情データ、行動心理、共創型ブランドコミュニティ(たとえばDiscordやnote)の運営など、「顧客と一緒にブランドを育てる設計」が求められています。
サステナブルマーケティングの標準化
脱炭素対応、リユース・リペアの促進、エシカル消費の推進など、マーケティングも環境・社会課題と切り離せなくなっています。
広告が環境破壊を促すのではなく、「よい選択を導く仕組み」として再構築されることが期待されます。
まとめ:マーケティングとは“顧客・社会・企業”の価値をつなぐ設計である
マーケティングとは、
単なる売るための技術ではありません。
単なる広告でもデジタル施策でもありません。
それは――
「誰の、どんな課題を、どんな価値で解決するか」
「自分たちは、なぜそれをやるのか」
「その価値を、どのように“体験”として届けるか」
を統合的に設計する、企業活動の中核です。
マーケティングとは、価値の本質を言語化し、伝達し、共感を生み、行動を変え、社会と関係を築くこと――つまり、
“顧客・社会・企業”という三者の未来をつなぐ、価値設計の仕事なのです。
マーケターだけでなく、あらゆる職種・組織・個人にとって、マーケティングの視点はこれからさらに重要になっていくでしょう。
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