今回からは「NPS®のこれから」に着目し、顧客ロイヤリティリの強さを理解するための新しいアプローチとして、「NPS®マップ」を紹介していきます。
1. NPS®マップとは?
NPS®マップとは、NPS®を活用するための分析手法です。NPS®の調査結果に意味を持たせて解釈を容易にするとともに、NPS®を改善するためのアプローチに対しても示唆を与えることができます。NPS®をより使いやすくするために、2021年春にマクロミルの独自手法として開発しました(特許出願中)。本コラムでは、NPS®マップの開発背景、そして、分析ロジックや活用方法などをご紹介します。参考)日本マーケティング学会主催「カンファレンス2021」で、当社の内田智之が『NPS®マップ分析の提案 NPS®をより使いやすくするために』を発表(2021年10月29日)
2. 開発の背景 ~改めて、NPS®の課題とは?~
本コラムの第1話でも取り上げましたが、NPS®導入に直面する課題を改めて整理します。【NPS®導入時に直面する3つの課題】
- NPS®がマイナスになり、結果をどう評価したら良いかわからない 自社他社含めてNPS®がマイナスになることが多く、解釈に困ります。
- 目標値が設定しにくい NPS®をKPIと設定した場合、NPS®いくつ以上を目指すべきかわかりません。
- NPS®をコントロールする要因が不明 NPS®をコントロールするキードライバーがわからないため、NPS®向上のための具体的な施策立案の難易度が高く感じます。
3. NPS®マップのベースとなる仮説 ~NPS®構造仮説~
NPS®マップの開発に当たっては、「NPS®とは何を表す指標なのか」、「どんなものなのか」、まずはその基本から見直しました。NPS®の算出のロジックをおさらいします。NPS®は、製品やサービスに対する「推奨度」を11段階で聴取し、「推奨者(9-10)」と「批判者(0-6)」の差分で算出します。そこで、この「推奨者」「中立者」「批判者」の3者の関係に着目して以下の仮説を設定しました。
マクロミルのNPS®構造仮説
NPS®を考える際、まず「批判者」「中立者」「推奨者」とはそれぞれどのような状態なのかを考えます。具体的には、「批判者」「中立者」「推奨者」をそれぞれ以下の様に定義しました。- 【批判者】=製品やサービスに満足しておらず、推奨もしたくない状態
- 【中立者】=製品やサービスに満足しているが、推奨には至らない状態
- 【推奨者】=製品やサービスに満足し、推奨もしたいと思う状態
つまり、【批判者】と【中立者】【推奨者】の違いは、製品・サービスに対する満足度の有無にあり、【中立者】と【推奨者」の違いは、製品・サービスに対する情緒的なつながりの有無にある、と考えます。【図1】
【図1】 NPS®構造イメージ
NPS®は、この3段階の“推奨者と批判者”の関係を見てブランドロイヤリティを把握します。このことから、「製品・サービスの満足度」と「情緒的なつながり」の2つの指標を合わせた総合指標であると理解できます。【図2】そして、この構図を可視化することで、NPS®の3つの課題を解決する、新しいアウトプットの誕生につながるのではないかと考えました。
【図2】 マクロミルによる指標の理解
4. 2つの新たな指標、「満足者充足率」と「推奨者充足率」の設定
NPS®を「製品・サービスの満足度」と「情緒的つながり」を合わせた総合指標として理解するために、新たな指標を作りました。「満足者充足率」と「推奨者充足率」です。それぞれ以下の様に定義しています。満足者充足率
満足者充足率は、NPS®の調査設問に回答した人全体における「【中立者】と【推奨者】の合計」の割合です。NPS®の調査設問の回答者における「満足している人」の割合を表す指標です。【図3】【図3】 満足者充足率の定義
推奨者充足率
推奨者充足率は、「【中立者】と【推奨者】の合計」における、【推奨者】の割合です。「満足している人」の中で「高い推奨意向」を持っている人の割合を表す指標で、「ファンの割合を示す指標」とも言えます。【図4】【図4】 推奨者充足率の定義
「満足者充足率」と「推奨者充足率」をNPS®の11段階の質問を使って表現すると、以下の図のようになります。【図5】【図5】「満足者充足率」と「推奨者充足率」の考え方
5. NPS®マップの作成
「満足者充足率」を縦軸に、「推奨者充足率」を横軸に設定し、NPS®のスコアとともにブランドをプロットしたものが「NPS®マップ」です。【図6】NPS®マップを活用することで、NPS®のスコアに意味を見出すことができます。また、NPS®向上のための施策立案にも効果を発揮します。NPS®マップの読み方については、は次章で詳しく説明します。
【図6】 NPS®マップ
6. NPS®マップの見方
NPS®マップには、満足者充足率50%のラインと推奨者充足率50%のラインのほかに斜めに曲線が2本入ります。一つ目の曲線は、NPS®値=0の境界線で、「NPS®ライン」と名付けました。NPS®マップにプロットする際、NPS®ラインより上側には、NPS®値がプラスのブランドが必ずプロットされます。NPS®値がマイナスのブランドは、必ずNPS®ラインの下側にプロットされます。
二つ目の曲線は、「推奨者(9点以上)」の割合が2割を超える境界線で「パレートライン」と名付けました。2割の顧客が売上の8割を担っていると言われる「パレートの法則(2:8の法則)」を参考に設定しています。9点以上を付ける「推奨者」が2割以上いるということは、売上の大半を占める顧客が推奨者であることが推察され、ロイヤルユーザーによって支えられたブランドの判断基準にできると考えます。
NPS®ラインとパレートライン、満足者充足率の50%ラインの3つのラインを使って、5つのゾーンに分け、どこにプロットされるかによって、NPS®スコアの意味を解釈することができます。【図7】【図7】 5つのゾーニング
7. NPS®マップの活用(1)NPS®の値の意味を理解する
このゾーニングを活用することで、NPS®から以下の様な読み解きを行うことができるようになります。例えば、競合ブランドと自社のNPS®を比較した時、どちらも同じ「NPS®=▲40」だったとしても、③ロイヤルゾーンにプロットされる▲40と、④一般ゾーンにプロットされる▲40、そして⑤低評価ゾーンにプロットされる▲40では意味が異なります。自社が④一般ゾーンにプロットされた▲40ならば、スコア自体は低くてもプラスの評価が可能です。一方、⑤低評価ゾーンにプロットされた▲40の場合は、早急に脱却が必要です。
この様にNPS®マップを活用することで、NPS®値を絶対値だけで判断するのではなく、一定の基準を元にNPS®値の良し悪しを判断できるようになります。つまり、NPS®を単なる数値として見て終わりにするのではなく、数値の意味が理解できるようになります。
その結果、冒頭で述べたNPS®の課題の内、以下の2つを解決するツールとして機能します。
【NPS®導入時に直面する3つの課題】
- NPS®がマイナスになり、結果をどう評価したら良いかわからない 自社他社含めてNPS®がマイナスになることが多く、解釈に困ります。 →ゾーニングによって、絶対値以外の解釈が可能に
- 目標値が設定しにくい NPS®をKPIと設定した場合、NPS®いくつ以上を目指すべきかわかりません。 →「目指すべきゾーン」を設定することで、目標値の設定が容易に
- NPS®をコントロールする要因が不明 NPS®をコントロールするキードライバーがわからないため、NPS®向上のための具体的な施策立案の難易度が高く感じます。
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著者の紹介
内田 智之
株式会社マクロミル リサーチ営業本部 第3営業部 リサーチプランナー
電機業界専門紙の記者を経て、2002年にインタースコープ(現マクロミル)に入社。
営業職、営業企画職を経験したのち、2009年よりリサーチャーとして、広告代理店や製造業、サービス業など幅広い業界を担当。 専門統計調査士の資格を有し、現在はリサーチプランナーとしてクライアントへの調査企画・提案、設計や分析、勉強会など営業活動の支援を行う。2021年にNPS®マップを提唱し、日本マーケティング学会で発表(特許出願中)。
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