【第4話】最新のNPS®分析手法「NPS®マップ」|NPS®を使いこなす方法

2022/9/6(火)

このコラムでは、過去3回に渡りNPS®(ネット・プロモーター・スコア)の概要や活用方法をについて解説してきました。顧客ロイヤリティの指標として活用されているNPS®ですが、実際に導入をした時、さまざまな問題に直面します。具体的にどのような問題に直面するのか、その対策として一般的にはどのようなことが行われているのか。過去3回のコラムでは、NPS®の現状にフォーカスをしてきました。

今回からは「NPS®のこれから」に着目し、顧客ロイヤリティリの強さを理解するための新しいアプローチとして、「NPS®マップ」を紹介していきます。

1.  NPS®マップとは?

NPS®マップとは、NPS®を活用するための分析手法です。NPS®の調査結果に意味を持たせて解釈を容易にするとともに、NPS®を改善するためのアプローチに対しても示唆を与えることができます。NPS®をより使いやすくするために、2021年春にマクロミルの独自手法として開発しました(特許出願中)。本コラムでは、NPS®マップの開発背景、そして、分析ロジックや活用方法などをご紹介します。

参考)日本マーケティング学会主催「カンファレンス2021」で、当社の内田智之が『NPS®マップ分析の提案 NPS®をより使いやすくするために』を発表(2021年10月29日)

2.  開発の背景 ~改めて、NPS®の課題とは?~

本コラムの第1話でも取り上げましたが、NPS®導入に直面する課題を改めて整理します。

【NPS®導入時に直面する3つの課題】

  1. NPS®がマイナスになり、結果をどう評価したら良いかわからない 自社他社含めてNPS®がマイナスになることが多く、解釈に困ります。
  2. 目標値が設定しにくい NPS®をKPIと設定した場合、NPS®いくつ以上を目指すべきかわかりません。
  3. NPS®をコントロールする要因が不明 NPS®をコントロールするキードライバーがわからないため、NPS®向上のための具体的な施策立案の難易度が高く感じます。
NPS®は、売上や利益、成長率に相関があるとされ、経営指標の一つとして導入する企業が増えています。しかし、実際に導入すると上記のような課題に直面することが多々あります。これらの課題を解決するのが「NPS®マップ」です。

3.  NPS®マップのベースとなる仮説 ~NPS®構造仮説~

NPS®マップの開発に当たっては、「NPS®とは何を表す指標なのか」、「どんなものなのか」、まずはその基本から見直しました。

NPS®の算出のロジックをおさらいします。NPS®は、製品やサービスに対する「推奨度」を11段階で聴取し、「推奨者(9-10)」と「批判者(0-6)」の差分で算出します。そこで、この「推奨者」「中立者」「批判者」の3者の関係に着目して以下の仮説を設定しました。

マクロミルのNPS®構造仮説

NPS®を考える際、まず「批判者」「中立者」「推奨者」とはそれぞれどのような状態なのかを考えます。具体的には、「批判者」「中立者」「推奨者」をそれぞれ以下の様に定義しました。
  1. 【批判者】=製品やサービスに満足しておらず、推奨もしたくない状態
  2. 【中立者】=製品やサービスに満足しているが、推奨には至らない状態
  3. 【推奨者】=製品やサービスに満足し、推奨もしたいと思う状態

つまり、【批判者】と【中立者】【推奨者】の違いは、製品・サービスに対する満足度の有無にあり、【中立者】と【推奨者」の違いは、製品・サービスに対する情緒的なつながりの有無にある、と考えます。【図1】

図2:NPS®構造イメージ

【図1】 NPS®構造イメージ

NPS®は、この3段階の“推奨者と批判者”の関係を見てブランドロイヤリティを把握します。このことから、「製品・サービスの満足度」と「情緒的なつながり」の2つの指標を合わせた総合指標であると理解できます。【図2】

そして、この構図を可視化することで、NPS®の3つの課題を解決する、新しいアウトプットの誕生につながるのではないかと考えました。

図2:マクロミルによる指標の理解

【図2】 マクロミルによる指標の理解

4.  2つの新たな指標、「満足者充足率」と「推奨者充足率」の設定

NPS®を「製品・サービスの満足度」と「情緒的つながり」を合わせた総合指標として理解するために、新たな指標を作りました。「満足者充足率」と「推奨者充足率」です。それぞれ以下の様に定義しています。

満足者充足率

満足者充足率は、NPS®の調査設問に回答した人全体における「【中立者】と【推奨者】の合計」の割合です。NPS®の調査設問の回答者における「満足している人」の割合を表す指標です。【図3】
図3:満足者充足率の定義

【図3】 満足者充足率の定義

推奨者充足率

推奨者充足率は、「【中立者】と【推奨者】の合計」における、【推奨者】の割合です。「満足している人」の中で「高い推奨意向」を持っている人の割合を表す指標で、「ファンの割合を示す指標」とも言えます。【図4】
図4:推奨者充足率の定義

【図4】 推奨者充足率の定義

「満足者充足率」と「推奨者充足率」をNPS®の11段階の質問を使って表現すると、以下の図のようになります。【図5】
図5:推奨者充足率の定義

【図5】「満足者充足率」と「推奨者充足率」の考え方

5.  NPS®マップの作成

「満足者充足率」を縦軸に、「推奨者充足率」を横軸に設定し、NPS®のスコアとともにブランドをプロットしたものが「NPS®マップ」です。【図6】

NPS®マップを活用することで、NPS®のスコアに意味を見出すことができます。また、NPS®向上のための施策立案にも効果を発揮します。NPS®マップの読み方については、は次章で詳しく説明します。

図6:NPS®マップ

【図6】 NPS®マップ

6.  NPS®マップの見方

NPS®マップには、満足者充足率50%のラインと推奨者充足率50%のラインのほかに斜めに曲線が2本入ります。

一つ目の曲線は、NPS®値=0の境界線で、「NPS®ライン」と名付けました。NPS®マップにプロットする際、NPS®ラインより上側には、NPS®値がプラスのブランドが必ずプロットされます。NPS®値がマイナスのブランドは、必ずNPS®ラインの下側にプロットされます。

二つ目の曲線は、「推奨者(9点以上)」の割合が2割を超える境界線で「パレートライン」と名付けました。2割の顧客が売上の8割を担っていると言われる「パレートの法則(2:8の法則)」を参考に設定しています。9点以上を付ける「推奨者」が2割以上いるということは、売上の大半を占める顧客が推奨者であることが推察され、ロイヤルユーザーによって支えられたブランドの判断基準にできると考えます。

NPS®ラインとパレートライン、満足者充足率の50%ラインの3つのラインを使って、5つのゾーンに分け、どこにプロットされるかによって、NPS®スコアの意味を解釈することができます。【図7】
図7:5つのゾーニング

【図7】 5つのゾーニング

7.  NPS®マップの活用(1)NPS®の値の意味を理解する

このゾーニングを活用することで、NPS®から以下の様な読み解きを行うことができるようになります。

例えば、競合ブランドと自社のNPS®を比較した時、どちらも同じ「NPS®=▲40」だったとしても、③ロイヤルゾーンにプロットされる▲40と、④一般ゾーンにプロットされる▲40、そして⑤低評価ゾーンにプロットされる▲40では意味が異なります。自社が④一般ゾーンにプロットされた▲40ならば、スコア自体は低くてもプラスの評価が可能です。一方、⑤低評価ゾーンにプロットされた▲40の場合は、早急に脱却が必要です。

この様にNPS®マップを活用することで、NPS®値を絶対値だけで判断するのではなく、一定の基準を元にNPS®値の良し悪しを判断できるようになります。つまり、NPS®を単なる数値として見て終わりにするのではなく、数値の意味が理解できるようになります。

その結果、冒頭で述べたNPS®の課題の内、以下の2つを解決するツールとして機能します。

【NPS®導入時に直面する3つの課題】

  1. NPS®がマイナスになり、結果をどう評価したら良いかわからない 自社他社含めてNPS®がマイナスになることが多く、解釈に困ります。 →ゾーニングによって、絶対値以外の解釈が可能に
  2. 目標値が設定しにくい NPS®をKPIと設定した場合、NPS®いくつ以上を目指すべきかわかりません。 →「目指すべきゾーン」を設定することで、目標値の設定が容易に
  3. NPS®をコントロールする要因が不明 NPS®をコントロールするキードライバーがわからないため、NPS®向上のための具体的な施策立案の難易度が高く感じます。
次回は3つ目の課題、「NPSをコントロールする要因が不明」に対して、NPS®マップができることを考えたいと思います。NPS®マップを読み解くことで、NPS®値を高めるために何が必要なのかが見えてきます。そのノウハウを紹介していきます。

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著者の紹介

内田智之

内田 智之

株式会社マクロミル リサーチ営業本部 第3営業部 リサーチプランナー
電機業界専門紙の記者を経て、2002年にインタースコープ(現マクロミル)に入社。
営業職、営業企画職を経験したのち、2009年よりリサーチャーとして、広告代理店や製造業、サービス業など幅広い業界を担当。 専門統計調査士の資格を有し、現在はリサーチプランナーとしてクライアントへの調査企画・提案、設計や分析、勉強会など営業活動の支援を行う。2021年にNPS®マップを提唱し、日本マーケティング学会で発表(特許出願中)。

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