【第5話】NPS®のコントロールに向けて|NPS®を使いこなす方法

2023/5/10(水)

第5話ではNPS®のコントロールについて考えます。NPS®を調査したものの、何をしたらスコアが上がるのか、キードライバーが見つけにくいという課題があります(NPS®に関する3つの課題は第1話でご紹介しています)。

NPS®をコントロールするための分析手法やロジックが様々な企業から提唱されていることからも、活用の難易度がうかがい知れます。今回は、マクロミルが開発した新手法「NPS®マップ」が、この問題をどのように扱っているのか、スコアが持つ意味に着目するNPS®マップならではのアプローチを解説します。皆様のブランドのNPS®向上のご参考になれば幸いです。

1.  NPS®の成長仮説

マクロミルがNPS®を使って定期的に実施した調査では、対象とした多種多様な業界で共通するNPS®上昇の傾向を見て取ることができました。

図1は、携帯キャリアブランドのNPS®をスコア順に並べ、各ブランドの「推奨者(赤線)」「中立者(緑線)」「批判者(青線)」の割合をグラフ化したものです。NPS®が最も低いブランドがグラフ横軸の左側、右に行くにしたがって高いブランドが配置されています。

図1:携帯キャリアのNPS

【図1】 携帯キャリアのNPS®

NPS®が低いブランドから高いブランドへの動きを追っていくと、「推奨者」がいきなり増えてNPS®が上がるということではなく、まずは「批判者が減るフェーズ①」があり、次いで「中立者が増えるフェーズ②」、そして最後に「推奨者が増えるフェーズ③」があることが分かります。もちろん例外もあり、すべての業界においてこのような3段階を踏むわけではありませんが、一つの傾向として「批判者の減少」→「中立者の増加」→「推奨者の増加」の流れでNPS®が上昇(改善)しています。

このNPS®の成長仮説をNPS®マップ上に表現すると、図2のようになります。

ブランドが低評価ゾーン❺にプロットされた場合、そこから次は一般ゾーンへ❹、一般ゾーンのブランドはロイヤルゾーン❸へ、ロイヤルゾーンのブランドは❶の高ロイヤルゾーンへとステップを踏んで成長していくと考えられます。

言い換えると、対象となるブランドが、NPS®マップ上のどこにプロットされたかによって、次に目指すべき位置、つまりNPS®改善の方針が見えてきます。

図2:NPS®の成長仮説

【図2】 NPS®の成長仮説

では、プロット位置を次のステップへ移動させるためにはどうすればよいのでしょうか。NPS®マップ上のプロットの移動=NPS®を高める施策についての考え方を解説していきます。

2.  NPS®改善のための方針立案

NPS®は、総合満足度との相関が高く、CSポートフォリオなど総合満足度を高めるための施策との相性が良いことが知られています。本コラムの第3話でもCSポートフォリオを活用したNPS®の改善アプローチをご紹介しました。

NPS®マップは、「総合満足度を高める施策を打ちましょう」といった従来の考え方だけでなく、「誰の総合満足度を高めるべきなのか」といったターゲット視点を追加した形で、NPS®改善施策を考えることができます。

図3のグラフ下部のグレーの部分は、NPS®ラインの下側のため、NPS®の値は必ず「マイナス」になります。このマイナス状態から脱出するためには、プロット位置を縦方向に移動させる必要があります(オレンジの太矢印)。プロット位置が左右に移動しても、グレーの部分にいる限り、決してNPS®はプラスになりません(ブルーの太矢印)。

図3:NPS®の成長仮説

【図3】 NPS®マップ上プロット位置の移動

では、縦方向にプロット位置を動かすためにはどうしたら良いのでしょうか。

NPS®マップにおける縦軸は、「満足者充足率」です。これは、回答者全体の中で、7点以上(中立者+推奨者)の割合を示しています【図4】。

図4:NPS®の成長仮説

【図4】 「満足者充足率」と「推奨者充足率」の考え方

つまり7点以上の方の割合を増やすことで、NPS®マップ上のプロット位置は縦方向に移動し、NPS®のスコアも改善していきます。例えば、7点以上の方を増やすためには、「5点・6点」の評価を付けている回答者に対し、「5点・6点」を付けた理由、具体的な不満点や改善要望などをヒアリングし、製品やサービスに反映します。そうすることで、縦方向のスコア改善が期待できます。

図3の「A」にプロットされているブランドは、縦方向にプロット位置を移動することでNPS®ラインを超え、NPS®プラスにすることができそうです。プロット位置の縦方向の移動とは、満足者充足率の向上であり、具体的には「5点・6点」のユーザーの改善が必要と考えられます。

一方、「B」の位置にプロットされたブランドの場合はどうでしょうか。同様に縦方向にプロットを移動すれば、NPS®ラインを越えられそうですが、現状7割を超えている「満足者充足率」をさらに8割、9割と上げていく必要があり、ハードルは高そうです。一方、「推奨者充足率」は現状2割程度。これを3割強まで高めれば、NPS®ラインを横方向に超えることでき、NPS®はプラスに転じます。

図4:NPS®マップ上プロット位置の移動

(再掲)【図3】 NPS®マップ上プロット位置の移動

では、プロット位置を横方向に移動するにはどうすればよいのでしょうか。

NPS®マップの横軸は「推奨者充足率」であり、7点以上における「9点・10点」の割合です。つまり、「7点・8点」の方を「9点・10点」にすることで「推奨者充足率」は上がり、NPS®も改善します。

「B」にプロットされたブランドは、「7点・8点」のユーザーの改善要望をヒアリングし、「9点・10点」を付けてくれるファンへと育成することで「推奨者充足率」が向上し、NPS®がプラスになると考えられます。

つまり、NPS®マップを活用すると、自社のNPS®を高めるためには、自社のどのユーザーをターゲットに関係性の強化を図るべきかを読み解くことができます。「何を改善すればよいか」の視点に加え、「誰を(どのユーザー)を改善すればよいか」の視点を加えることができるNPS®マップは、NPS®改善の方針立案を強力に支援します。

3.  具体的な施策を導き出すためのロジック

ここからは、NPS®マップを活用したNPS®改善施策立案の流れを説明します。

ステップ1:「NPS®マップ」を作成

まず、自社のNPS®の状況を正しく理解するために」「NPS®マップ」を作成

ステップ2:改善施策の方針とターゲットを決定

作成したNPS®マップを元にNPS®改善のための基本方針を決定

※「満足度充足率の改善」(=縦方向の改善)を目指すのか、「推奨者充足率の改善」(=横方向の改善)を目指すのか

ステップ2の方針を元に、改善ターゲットを特定

「満足者充足率の改善(=縦方向の改善)」を目指す場合、右図のように「5点・6点」の方が改善のターゲットとなる

ステップ3:CSポートフォリオ分析と具体策検討

CSポートフォリオ分析を使い、改善点の優先順位付け

※NPS®は総合満足度との相関が高いため、総合満足を改善するための手法としてよく使われる。この時、ステップ2で決めた改善ターゲットにおけるCSポートフォリオを作成することで、NPS®向上に必要な要素の洗い出しと優先順位付けがより効率的にできる

つまり、「満足者充足率」の改善を図る場合は、「5点・6点」の顧客をターゲットに、「満足度向上」に向けた施策案抽出を行います。具体的にはCSポートフォリオ分析による改善項目の抽出を想定しています。

「推奨者充足率」の改善を図る場合は、「7点・8点」の顧客をターゲットに、情緒的つながりの強化に向けた施策案抽出を行います。

分析ステップ まとめ

  1. NPS®マップを作成し、状況把握
  2. NPS®の改善施策の方針と、ターゲットを決定
  3. CSポートフォリオ分析と具体策検討
    • 満足者充足率を上げる方針の場合
      →「5点・6点の顧客の分析」および、満足度向上施策を検討
    • 推奨者充足率を上げる方針の場合
      →「7点・8点の顧客の分析」および、ファン育成に向けた施策を検討

以上が、NPS®をコントロールするためのNPS®マップによるアプローチです。自社のスコア改善に役立てていただければ幸いです。

次回は、マクロミルが実施してきた自主企画調査の結果を元に、下記の8つ業界(自動車、ノートパソコン、高級腕時計、携帯端末(スマートフォンの機種、携帯キャリア、ECサイト、VOD(ビデオオンデマンド)、スマートフォン向けゲーム)のNPS®マップを紹介します。業界ごとにNPS®の傾向が変わることや、NPS®マップを活用することでNPS®のスコア差の要因仮説が見えてくることなどを解説します。

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著者の紹介

内田智之

内田 智之

株式会社マクロミル リサーチ営業本部 第3営業部 リサーチプランナー
電機業界専門紙の記者を経て、2002年にインタースコープ(現マクロミル)に入社。
営業職、営業企画職を経験したのち、2009年よりリサーチャーとして、広告代理店や製造業、サービス業など幅広い業界を担当。 専門統計調査士の資格を有し、現在はリサーチプランナーとしてクライアントへの調査企画・提案、設計や分析、勉強会など営業活動の支援を行う。2021年にNPS®マップを提唱し、日本マーケティング学会で発表(特許出願中)。

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