ニューロリサーチ(ニューロ官能調査)活用事例
2018/10/4(木)
高砂シンガポール(高砂香料工業株式会社ASEAN拠点)様
ニューロ官能調査を活用したフレーバーの好感度測定で
インドネシア人の嗜好をより明確に、深く理解する。
Takasago International (Singapore) Pte. Ltd.(以下、高砂シンガポール)は、27の国と地域で事業を展開するグローバル企業である高砂香料工業株式会社の、ASEAN拠点の中枢を担っている。今回、インドネシア市場における女性消費者のフレーバー嗜好をより明確に把握するための施策として、高砂シンガポールのフレーバー部門は、当社のニューロリサーチを活用したニューロ官能調査を実施した。
高砂シンガポールはこれまで、アンケートによる調査でフレーバーの好感度評価を実施してきた。一方で、フレーバーに対する反応を細やかに表現するボキャブラリーが豊富ではなかったり、国によっては礼儀を重んじて控えめになる傾向があるアジア人にとって、好感度を尋ねる質問や言葉による評価を求める当手法は負荷が高く、好みを正確に特定できない結果につながる可能性があった。
高砂シンガポールにとって、フレーバー開発の要となる消費者の嗜好の客観的把握は優先課題であった。近年活用件数が増加している脳波などの生理指標を用いたニューロマーケティングは、こうしたニーズに合致するものであり、今回、マクロミルのニューロ官能調査実施につながった。
ニューロ官能調査とは、マクロミル独自のニューロリサーチ手法の一つで、脳波や心拍数、皮膚電気反応などの生理指標を用いる調査手法だ。主観指標(アンケート)のデータと合わせることによって、アンケートやインタビュー単体では導き出しきれない、本人が意識をしていない領域でのインサイトを評価できる手法として、近年注目を浴びている。
実際の調査は、インドネシア人女性を被験者として、2018年2月にインドネシアのジャカルタにて実施。フレーバーという、匂いと味が組み合わさった外部からのインプットに対する生理反応の時系列的な変化を測定してからアンケートを実施する、というのが一連の流れだ。
測定する生理指標は脳波・心拍数・皮膚電気反応の3つ。脳波からは、対象物への注意喚起や好き嫌いなどの反応(中枢神経系の働き)、心拍数と皮膚電気反応からは、意識的ではない即時的な生理反応(自律神経系の働き)がそれぞれ測定できる。
こうして得られた生体データとの相関関係を分析するため、通常高砂シンガポールが実施しているアンケートによるフレーバー評価調査も合わせて実施した。
ニューロ官能調査による、好感度測定のアプローチ
シークエンシャル・モナディックテスト法で、飲み物用に開発した全6種のフレーバー(F1~F6)を順番に、匂い、味、ともにテストする。被験者は目隠しをした状態で、各フレーバーの試飲の合間に設けられた定期的な休憩の際に、「味覚疲れ」を防ぐため口をゆすぐ。被験者は、このテストを実施している間、脳波(後頭部アルファ波、左前頭部ベータ波)・心拍数・皮膚電気反応を計測するデバイスを装着する。これに加えて、被験者はアンケートにも回答する。
本調査におけるn数は20~29歳の女性30名、CLT(セントラルロケーションテスト)で実施した。
以下の図は、フレーバーテストの概要を示している。
フレーバーテスト概要
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実査の風景
測定データを分析する
調査結果の分析は、匂いと味の2軸で実施。アンケートでは、「香り」「甘み」「苦み」などの各フレーバーの特性、生理反応では、「覚醒」「落ち着き」などの指標をもとに、それぞれ6つのフレーバーに対する被験者の評価をまとめ、最終的に2つの手法から得られたデータの相関関係を分析した。
調査結果
アンケート結果(意識的反応)によると、6つのフレーバー(F1~F6)のうち、F1とF6が高い総合好感度を獲得していることが分かった(図1)。F2とF4も同様な評価を得てはいるものの、F1とF6は他の評価軸においても全体的に高くスコアが出ていたため、特にこれら2つのフレーバーについて生理指標(無意識的反応)を分析し(図2)、高い好感度の背景にある感情を明らかにするとともに、女性をターゲットにした際のインドネシア市場におけるポテンシャルを評価した。
図1 <意識的反応> 総合好感度の平均スコア
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図2は、脳波(後頭部アルファ波、左前頭部ベータ波)・心拍数・皮膚電気反応の測定データである。後頭部アルファ波と皮膚電気反応からは「覚醒」および「落ち着き」が、左前頭部ベータ波と心拍数からは「快さ」の指標に対する生理反応が読み取れる。表中、黒い点のラインで示されたコントロール値(水によるコントロール)からどれだけ高い、または低いかで、被験者の反応の強さを判断する。
図2 <無意識的反応> 生理指標の測定値
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脳波(後頭部アルファ波)の測定値からは、F1は「落ち着き」の指標でのみ他のフレーバーに比べて高評価ということが分かった。F1のスコアがコントロール値より低い、つまり、後頭部に出現したアルファ波の抑制が最も低く、過去の生理学的研究結果に基づいた分析によると、この状態にある被験者は「落ち着き」を感じていると言えるからだ。F1の匂いと味が、被験者が普段慣れ親しんでいる飲み物に近いものであった、ということが推察される。
一方、F6を見てみると、このフレーバーは被験者の「覚醒」を刺激するほか(脳波―後頭部アルファ波と皮膚電気反応)、「快さ」を促進している(脳波―左側前頭部ベータ波と心拍数)ことが、それぞれの生理指標から読み取れる。後頭部アルファ波における高い抑制と、高い皮膚電気反応(それぞれスコアがコントロール値より高い)が見られることから、被験者はおそらく「快さ」を伴った上で、F6を肯定的に体感したと考えられる。
ニューロ官能調査が示す、好感度調査の結果
これらの考察をまとめると、調査対象のフレーバーのうち、F1とF6は最も好感度の高いフレーバーである一方で、その意識的反応を生み出した背景には、それぞれ異なった感情・感覚があることが判明した。また、この差異は、F1とF6の2つのフレーバーを高く評価するという、女性被験者の選択に影響した感情であるため、各フレーバーが持つ強みとも言える。さらに、よりポジティブな感覚を被験者に与えたF6については、インドネシア市場においてのポテンシャルが高いと考えられる。
「生体指標を用いたニューロ官能調査の実施は、特に好感度の高かった2つのフレーバーに対する被験者の感情的な反応、つまり嗜好の背景を明らかにすることにつながりました。」
高砂シンガポールのフレーバー部門でコンシューマーインサイト&マーケットリサーチを統括するChan Siew Hoong氏は語る。
「フレーバーはそれぞれ異なった感情反応を呼び起こす、ということが、この調査で実証されました。きめ細やかに被験者の反応を測定したこの調査結果を高砂のフレーバリストと共有し、より消費者の嗜好にあった、最適なフレーバーの開発をしていきたいと思っています。」
※本調査の被験者はジャカルタに住むインドネシア人女性に限定しており、同地における男性の嗜好やフレーバー好感度の把握および女性から得られた結果との比較・検証については、現段階では実施しておりません。
フレーバー部門 コンシューマーインサイト&マーケットリサーチ
アジア地域管掌
Chan Siew Hoong氏
高砂シンガポールにて、アジア地域のインサイト管理や、ナレッジ共有・アクティベーションを担当。アジアと米国において、エージェンシーやインハウス含め、25年におよぶマーケットリサーチ従事経験がある。
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