「リサーチャーって、アンケートをつくる人?」
「データ分析する人?」
「ひたすら調べる職人?」
そんな印象を持っている方も多いかもしれません。しかし、現代のリサーチャーは、単なる“調べる人”ではありません。
ビジネスにおいて、何をつくるか、誰に届けるか、どう伝えるか――そのすべての判断の土台となる「問いを立て、データで読み解き、意味を構築するプロフェッショナル」、それがリサーチャーの役割です。
このコラムでは、「リサーチャーとは何か?」という基本的な定義から、仕事内容、求められるスキル、調査の種類、キャリアパス、リサーチの価値、リサーチャーが社会に果たす役割までを、丁寧に解説します。
- リサーチャーとは?定義と基本的な役割
- リサーチャーが関わる調査の種類
- リサーチャーの仕事内容とプロセス
- 求められるスキルとマインドセット
- なぜいま、リサーチャーが求められているのか?
- どこで働く?リサーチャーのキャリアパスと職種の広がり
- リサーチャーの仕事が企業にもたらす価値
- まとめ:リサーチャーとは“問いを読み解き、意味をつくる”専門職である
リサーチャーとは?定義と基本的な役割
リサーチャー(researcher)とは、あるテーマや課題に対して、定量・定性の調査を通じて事実や意見を集め、それを分析・考察し、意思決定に役立つ知見として提供する専門職です。
マーケティングリサーチの領域では特に以下のような活動を担います。
- 問題の明確化(調査課題の言語化)
- 調査設計(アンケート/インタビューの企画)
- 実査の管理(対象者の抽出・配信・実施)
- 集計・分析(統計処理・パターン抽出・ストーリ化)
- 報告・提案(レポート作成・プレゼンテーション)
つまり、リサーチャーは「情報を拾ってくる人」ではなく、「問いを立てて、解を導く人」であり、「情報をどう読むかの視点」を提供する専門家なのです。
リサーチャーが関わる調査の種類
リサーチと一口に言っても、その種類は多岐にわたります。主に以下の2軸で分類できます。
手法:定量調査と定性調査
| 手法 | 概要 | 目的 |
|---|---|---|
| 定量調査 | 数字・統計で傾向を見る | 何人がそう思っているか?全体の構造はどうか? |
| 定性調査 | 言葉・行動で深く理解する | なぜそう思うのか?どんな文脈でそう考えるのか? |
例:
- 定量調査:オンラインアンケート(n=1000)で商品評価を集計
- 定性調査:デプスインタビュー(1on1)で購買行動の背景を探る
領域:マーケティング/UX/ビジネスリサーチなど
- マーケティングリサーチ:商品開発、広告評価、ブランド理解など
- UXリサーチ:Webやアプリの操作性・体験価値を可視化
- ビジネスリサーチ:業界分析、競合調査、トレンドの把握
- 学術・政策系調査:意識調査、世論調査、社会課題の可視化
- 社内調査:従業員満足度、組織診断、エンゲージメント分析
リサーチャーはこれらの領域で、「問いを明確にし、調査という手段で答えを探し、意味づけて届ける」ことを担います。
リサーチャーの仕事内容とプロセス
リサーチャーの仕事は、「調査を回す」ことではありません。「調査を通じて意味ある知見を生み出す」ことです。そのためには、以下のようなプロセスが必要です。
ヒアリングと課題整理
- クライアントや社内関係者と「なぜ調査をするのか?」を共有
- 仮説や背景、現場の文脈を丁寧に聞き取る
調査設計
- 対象者、サンプルサイズ、質問内容、分析方法を設計
- アンケートやインタビューフローの構成、分岐、選択肢設計など細部を詰める
実査(データ取得)
- パネル調査会社への依頼
- インタビュー実施・録音・文字起こし
- ローデータの回収とチェック
分析・解釈
- 単純集計、クロス集計、自由回答のテキストマイニング
- 共通点の発見、仮説との照合、ストーリー化
報告・提案
- PowerPointやNotionなどでレポートを作成
- 分析結果だけでなく、「ではどうするべきか」の提案を行う
調査結果は単なる“数字”ではなく、“解釈された意味”にして初めて価値を持ちます。それを行うのがリサーチャーです。
求められるスキルとマインドセット
論理力と構造化思考
- 複雑な問いを分解し、シンプルな設計に変換する力
- 「なぜ?」「それはどういうことか?」を言語化する力
仮説思考と柔軟性の両立
- 自分なりの仮説を持ちつつ、調査結果が逆だったときに受け止める冷静さ
- 思い込みを手放し、データに“耳を傾ける姿勢”
言語力とストーリーテリング
- 調査結果をわかりやすく、意味ある「ストーリー」として伝える力
- 数字と文章を“つなぐ翻訳力”
倫理観と客観性
- 回答者のプライバシー・心理的安全に配慮した設計
- クライアントの都合ではなく、生活者の声に誠実に向き合うスタンス
リサーチャーとは、知識よりも“姿勢”が問われる職種でもあるのです。
なぜいま、リサーチャーが求められているのか?
近年、あらゆる業界で「リサーチャー的な視点」の価値が急速に高まっています。その背景には、以下のような構造変化があります。
“ユーザー中心”が全業界に広がった
マーケティングに限らず、プロダクト開発、サービス設計、人事、行政、メディアまで、あらゆる分野で「相手の視点に立つ」「ニーズを掘り起こす」ことが求められています。リサーチャーはその“視点”を体現する存在です。
“感覚では動けない”時代に入った
変化が早く、競争が激しく、ステークホルダーが多様化している現代において、「なんとなく」「たぶん」で意思決定するリスクは高まっています。“仮説を立て、検証する”というサイクルは、もはや一部門の仕事ではなく、全体戦略の基本です。
“ノイズの中から本質を拾う”力が重要になった
SNS、ログ、口コミ、社内チャット…情報は溢れています。しかし、「聞こえていること」と「本当に大事なこと」は必ずしも一致しません。リサーチャーは、“言葉にならない声”に耳を澄まし、“偏りなく、深く”読み解く力を提供します。
どこで働く?リサーチャーのキャリアパスと職種の広がり
リサーチャーという仕事は、かつては“調査会社の専門職”というイメージでしたが、現在では多様なキャリアパスがあります。
マーケティングリサーチ会社
- 調査の設計・分析を専門とする“プロ集団”
- クロミル、インテージ、クロス・マーケティングなど
- 多様な業界・テーマに携われる一方、納期プレッシャーも大きい
事業会社(インハウスリサーチャー)
- 自社の製品・ブランド・顧客を深く理解し、長期的視点でリサーチを活用
- UXチーム、マーケティング部門、商品企画などに所属
- 「調査をやる人」ではなく「意思決定を支える戦略人材」としての役割
コンサルティング会社や広告代理店
- プランニングの前提として「市場の理解」や「顧客インサイト」が求められる場面で活躍
- 戦略提案にデータ・調査が不可欠になるにつれ、リサーチャーの視点が重宝される
フリーランス/リサーチユニット
- 特定分野に強みを持ち、柔軟な働き方を実現
- インタビュー設計やモデレーター業務に特化する人も
リサーチャーという肩書きでなくても、“リサーチ的スキルを持った人”はあらゆる現場で求められています。
リサーチャーの仕事が企業にもたらす価値
“納得できる意思決定”をつくる
「なんとなく進めたけど、うまくいかなかった」ではなく、「生活者の声に基づいて判断したからこそ、説明できる」という納得感が組織に生まれます。
“問いの質”を高める
よいアウトプットは、よい問いからしか生まれません。リサーチャーが入ることで、「そもそも何を知るべきか?」という“問いの立て方”が深まります。
“意見ではなく、仮説で話す文化”が根づく
リサーチがある組織は、「誰が言ったか」ではなく「何に基づいて言っているか」が重視される文化になります。これは、再現性のある成長にとって重要な基盤です。
まとめ:リサーチャーとは“問いを読み解き、意味をつくる”専門職である
リサーチャーとは、データを集める人でも、集計をする人でもありません。
それは、「問いを立てて、意味を探し、他者と共有できる形にする」という仕事です。
- 顧客の声に耳を澄ませる
- 社会の変化に感度を持つ
- 仮説と直感を往復する
- データと人間のあいだを橋渡しする
そして何より、組織や社会が「確信を持って前に進む」ための土台をつくる。
リサーチャーとは、意思決定の“安心材料”ではなく、
意思決定の“深さ”と“広さ”をつくる、問いの編集者なのです。
