「高齢者にも使いやすいUIにしましょう」
「視覚に配慮した色設計が必要です」
「できるだけ誰にでも伝わるコピーを書いてください」
こうした声が、マーケティングや商品開発の現場で日常的に聞かれるようになってきました。
その背景には、 “すべての人のため”の設計思想──ユニバーサルデザインの浸透があります。
一方で、「バリアフリーとの違いがわからない」「実際にどう取り入れたらいいのか曖昧」「福祉領域の話では?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、「ユニバーサルデザインとは何か?」という基本的な定義から始まり、その背景、7原則、マーケティングやブランディングへの影響、実践例、そして“ビジネス成果”につながるポイントまでを、わかりやすく解説していきます。
- ユニバーサルデザインとは?定義と本質
- ユニバーサルデザインの誕生背景
- 7原則で理解するユニバーサルデザイン
- 身近なユニバーサルデザインの例
- ユニバーサルデザインがマーケティングにもたらす価値
- ブランド戦略におけるユニバーサルデザインの役割
- ユニバーサルデザインの実践例:領域ごとに見る具体的な設計と改善
- “誰でも使える”ではなく“誰でも気持ちよく使える”へ
- ユニバーサルデザインとSDGs・DEI:社会潮流との接点
- ビジネス成果につなげる7つの視点
- まとめ:ユニバーサルデザインとは、“やさしさの戦略化”である
ユニバーサルデザインとは?定義と本質
ユニバーサルデザイン(Universal Design)とは、年齢、性別、国籍、障がいの有無などにかかわらず、できるだけ多くの人が利用しやすいように設計されたモノ・サービス・環境のことです。
これは単に「バリアを取り除く」のではなく、最初から“すべての人”を対象に設計することを目指す点に特徴があります。
バリアフリーとの違い
| 観点 | バリアフリー | ユニバーサルデザイン |
|---|---|---|
| 意図 | “障がい者のため”に既存のバリアを取り除く | “すべての人”の使いやすさを最初から設計する |
| 対象 | 高齢者・障がい者など限定的 | 年齢・国籍・文化・言語・習慣なども含むすべての人 |
| タイミング | 後から対応・改善する | 最初から意識してデザインする |
→ ユニバーサルデザインは、「特定の誰かのため」ではなく「みんなのため」の設計思想です。
ユニバーサルデザインの誕生背景
ユニバーサルデザインという概念は、1980年代にアメリカの建築家ロナルド・メイス氏によって提唱されました。
彼自身が障がいを持っていたことから、「誰かの善意や特別な配慮に頼らない」「あらゆる人が平等に使えるデザイン」を目指す思想が生まれたのです。
その後、建築・プロダクト・教育・ソフトウェア・ウェブサイト・交通・商業施設など、あらゆる分野に拡張されていきました。
7原則で理解するユニバーサルデザイン
ユニバーサルデザインには、以下の“7原則”があります。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 公平性 どんな人でも同じように利用できること |
| 2 | 柔軟性 利用者の幅広い好みや能力に対応できること |
| 3 | 単純さと直感性 使い方がすぐに理解できること |
| 4 | 情報のわかりやすさ 必要な情報が簡単に取得できること |
| 5 | ミスへの寛容性 操作ミスをしても安全・安心なこと |
| 6 | 身体的負担の少なさ 無理な姿勢・力が不要なこと |
| 7 | 接近と利用のしやすさ 必要なものに簡単に手が届くこと |
この7原則は、建築やプロダクトデザインだけでなく、マーケティング・UI・コピーライティング・サービス設計などにも応用できる普遍的なフレームです。
身近なユニバーサルデザインの例
| 分野 | 実例 |
|---|---|
| 街 | エレベーターの低いボタン、音声案内、スロープ付き歩道 |
| プロダクト | 左右対称のハサミ、段差のないドア、ユニバーサルフォント |
| Webサイト | コントラスト比の高い配色、キーボード操作対応、画像にaltテキスト |
| 店舗 | 多言語対応ピクトグラム、車椅子でも入れる動線設計 |
| パッケージ | 点字のある飲料、誰でも開けやすいキャップ、色覚対応のラベル |
→ “使いやすさ”の積み重ねが、見えないストレスを取り除き、信頼や好印象につながるのです。
ユニバーサルデザインがマーケティングにもたらす価値
ユニバーサルデザインは、建築や福祉の文脈だけにとどまりません。
今やその概念は、UX(ユーザー体験)やCX(顧客体験)の設計における“当たり前の前提”となりつつあります。
なぜなら、ユーザーのニーズは「年齢や障がい」だけでなく、環境・認知特性・デバイス・言語・感性などにおいても多様化しているからです。
ユーザー体験(UX)のバリアを取り除く
ユニバーサルデザインの実践により、以下のような“見えないバリア”を解消できます。
| バリア | 解消方法の例 |
|---|---|
| 小さすぎる文字サイズ | フォントサイズや行間を調整/スケーラブル対応 |
| 情報が詰まりすぎて読みづらい | 視認性を意識した余白設計/階層構造を明確に |
| 色だけで情報を伝える | 色+アイコンやラベルの併用/色覚特性に対応 |
| スマホ非対応の操作設計 | タップ領域の最適化/レスポンシブデザイン |
このような改善は、特定の層だけでなくすべてのユーザーの快適性を高める“体験の普遍化”となり、離脱率の低下やブランド好感度の向上にもつながります。
顧客体験(CX)を“瞬間価値”から“記憶価値”へ
ユニバーサルデザインの考え方をCXに応用することで、「選ばれるブランド」への転換が可能になります。
たとえば、
- ECサイトでのスムーズな購入体験
- 高齢の両親でも理解しやすいチュートリアル動画
- 子育て世代にも響く店舗導線や時間配分
- 多文化・多言語対応のサポートチャット
→ これらはすべて、“自分のことを考えてくれている”という実感を生む設計であり、顧客の記憶に残るCX体験の一部になります。
ユニバーサルデザインは“選ばれる理由”になる
消費者は無意識のうちに、「ストレスがない」「わかりやすい」「自分に合っている」ブランドを選びます。
この“無意識の選好”を生み出す鍵が、ユニバーサルデザインです。
| ブランド要素 | ユニバーサルデザインが貢献する視点 |
|---|---|
| 商品パッケージ | 開けやすさ/文字の読みやすさ/点字の有無 |
| 店舗体験 | アクセス/導線/サイン設計 |
| デジタルタッチポイント | UI設計/ナビゲーション/音声・字幕対応 |
| カスタマーサポート | 多言語対応/筆談やチャット活用/柔軟な応答時間 |
→ このように、ユニバーサルデザインは“気づかれないけれど、選ばれる理由”を増やす手段でもあるのです。
ブランド戦略におけるユニバーサルデザインの役割
企業にとって、ユニバーサルデザインの実践は「配慮」や「CSR」の文脈に留まりません。
それは、“誰にとってもわかりやすく、信頼できるブランド”であることの証明であり、競争戦略でもあります。
言語・文化・感性を越える“伝わる設計”
多国籍のユーザーに製品を届ける際、言葉だけでは伝わらないニュアンスがあります。
そのときに求められるのは、ピクトグラム、色使い、操作導線などによる非言語的理解の設計です。
- 全世界共通のトイレマーク
- “戻る”と“次へ”の視線誘導
- おもてなしの意図が伝わる店舗接客
→ これはまさに、「伝えたい」という気持ちだけではなく「実際に伝わる」ことを目的としたユニバーサルデザインの思考です。
“不便を感じない”というブランド価値
ユーザーは、利便性の高さよりも、「不便さのなさ」に安心感を抱きます。
そしてその安心感は、再訪意欲やリピート率、推奨度に影響します。
- アクセシビリティの高い予約導線
- 音声・字幕付きのオンラインセミナー
- 高齢者でも迷わず使えるカートUI
→ こうした“何も困らなかった”という無意識の快適体験が、「このブランドは安心」というポジショニングをつくっていきます。
3. “選ばれる社会性”としての意味
ユニバーサルデザインは、ESG・SDGs・DEIといった文脈とも深くつながっています。
- 障がいの有無に関係なく商品を選べること
- 育児・介護中でもサービスを利用できること
- 年齢・国籍・宗教にかかわらず“買える・選べる”設計になっていること
→ これらは、企業が社会全体に対して開かれているかどうかの“態度表明”として機能し、社会的信用の醸成にもつながります。
ユニバーサルデザインの実践例:領域ごとに見る具体的な設計と改善
ユニバーサルデザインは「考え方」であると同時に、「具体的な設計の積み重ね」でもあります。
この章では、Web/UI/コピーライティング/プロダクト/店舗設計など、マーケティングや事業活動に関わる領域ごとに、実際の適用例と“よくある落とし穴”を整理します。
Web・デジタル領域:情報の “わかりやすさ”を全員に
Webサイトやアプリは、企業とユーザーをつなぐ最も基本的な接点です。
その体験を“誰にとっても直感的に、ストレスなく”使えるように設計することは、ユニバーサルデザインの原点とも言えます。
| 対応ポイント | 実践例 |
|---|---|
| フォントの読みやすさ | 最低16px以上/明朝体よりゴシック体/行間の確保 |
| 色の使い方 | 色だけに頼らずアイコン併用/コントラスト比4.5:1以上 |
| キーボード操作対応 | タブキー移動/フォーカスの明示/ショートカット配慮 |
| スクリーンリーダー対応 | alt属性・ラベル・見出し構造の適正化 |
| 多言語対応 | 動翻訳連携/グローバルナビに言語選択ボタン配置 |
よくある失敗例
- グラフィック重視で文字が読めない
- 色に意味を持たせすぎて色覚多様性に対応できていない
- ナビゲーションの構造が複雑/トップページに戻れない
- 音声読み上げが不自然 or 情報が飛んでしまう
→ ユニバーサルデザインは“凝ったデザイン”ではなく、“伝わるためのデザイン”です。
UI・プロダクト設計:操作のしやすさ=ユーザー中心設計
アプリや製品、機械操作系におけるユニバーサルデザインは、操作ミスの防止・意図の明示・習熟度の差への対応が鍵になります。
| 配慮要素 | 実例 |
|---|---|
| ボタンサイズと間隔 | スマホでは48px以上/誤タップ防止の間隔設計 |
| 表記の一貫性 | 「戻る」→「戻る」ではなく「キャンセル」などに統一 |
| 操作ステップの最適化 | 1アクション1目的/確認ダイアログの設置 |
| 選択肢の明快化 | ラジオボタン・プルダウン・アイコンで直感操作 |
| 誤操作への寛容性 | 戻る・やり直す・キャンセルができる構造にする |
→ これらは“高齢者でも使える”という設計ではなく、“誰にとってもやさしい”を実現するための工夫です。
コピーライティング:伝える言葉は、届く言葉か
コピーは、「情報を届ける」だけでなく、「理解してもらう」ためにあります。
ユニバーサルデザインの視点では、専門用語の排除・難読語の置き換え・長文の分割・語尾の明確化が重要です。
| 改善前 | 改善後(ユニバーサルデザイン視点) |
|---|---|
| 専用のIDでログインしてください | ログインには、お客様のIDが必要です |
| 初期設定はユーザー側で実施願います | 初期設定はお客様ご自身で行ってください |
| ご不明な点がございましたら〜 | わからないことがあれば、いつでもご相談ください |
→ “やさしさ”は簡略化ではなく、“相手の読み方に寄り添った構文”で生まれます。
店舗・空間デザイン:リアルの動線にも「やさしさ」を
実店舗、オフィス、展示会などリアルな空間でも、ユニバーサルデザインは力を発揮します。
| 配慮ポイント | 具体例 |
|---|---|
| 動線の直線化 | ベビーカー・車椅子でも迷わず進めるような配置 |
| 案内表示の統一 | 色+アイコン+文字で情報を多重化/多言語表記 |
| 高低差対応 | 段差→スロープ設計/エレベーター案内の明示 |
| 音・光・感触の多様性 | 視覚・聴覚に偏らない演出(LED・振動・音声) |
→ 店舗体験のスムーズさは、購買行動のハードルを下げ、滞在時間と満足度を上げる直接的な要因となります。
“誰でも使える”ではなく“誰でも気持ちよく使える”へ
ユニバーサルデザインの本質は、「使える」だけでなく、「不快じゃない」「分かりやすい」「楽しい」まで含めた“心地よさの総合設計”です。
- 色に意味を込めるだけでなく、色の見え方にも配慮する
- コピーに魅力を持たせるだけでなく、すっと頭に入る表現にする
- 操作しやすくするだけでなく、迷わないようにガイドする
こうした“小さな設計の積み重ね”が、やがて大きなユーザー体験の差を生み出し、マーケティング成果やブランド評価に直結していくのです。
ユニバーサルデザインとSDGs・DEI:社会潮流との接点
ユニバーサルデザインは、単に“使いやすい製品”や“親切な設計”を意味するものではありません。
それは今、SDGs(持続可能な開発目標)やDEI(Diversity, Equity, Inclusion)といった社会的潮流と結びつきながら、企業活動の中核を担う思想へと進化しています。
SDGsの理念とユニバーサルデザイン
SDGsの中でも、以下の目標はユニバーサルデザインと極めて親和性が高い領域です。
| SDGs目標 | 関連する視点 |
|---|---|
| 目標3 | すべての人に健康と福祉を 情報格差の解消/心身の負担を減らす設計 |
| 目標4 | 質の高い教育をみんなに 学習ツールや教材のアクセシビリティ |
| 目標10 | 人や国の不平等をなくそう 言語・文化・身体・認知の差に配慮した設計 |
| 目標11 | 住み続けられるまちづくりを 公共空間・施設・交通のユニバーサルデザイン化 |
→ サステナビリティとは、「誰も取り残さない」こと。
ユニバーサルデザインは、それを形にする設計戦略なのです。
DEI(多様性・公平性・包摂性)とユニバーサルデザイン
| Diversity(多様性) | 多様な人が使えるようにする |
| Equity(公平性) | 一人ひとりの“違い”に応じて支援や調整を加える |
| Inclusion(包括性) | 誰もが尊重され、参加できる空間をつくる |
これらはすべて、ユニバーサルデザインの“7原則”に通底する考え方です。
つまり、デザインでDEIを実装する手段として、ユニバーサルデザインがあるといえます。
ビジネス成果につなげる7つの視点
ユニバーサルデザインを「社会的に正しいこと」だけで終わらせないために。
マーケティングや事業活動に組み込む際に、押さえておきたい7つの実践視点を紹介します。
1. “対象者を広げる”だけではなく、“誰も外さない”設計
高齢者向け/障がい者向けといった限定的な設計ではなく
最初から“全員がユーザーになりうる”前提で考える
2. “親切”や“気づかい”を、ルールや構造に変える
担当者の思いやりに依存するのではなく
組織のプロセス・チェックリスト・ガイドラインに落とし込む
3. “使える”ではなく“迷わない”“疲れない”まで設計する
使えるだけでは、ストレスや離脱の原因は残る
無意識に心地よい構造が、ブランド体験を高める
4. “自分たちの感覚”を基準にしない
若年層中心の開発メンバー/日本語ネイティブ前提など
多様なテストユーザー・視点を設計初期から組み込む
5. “UI/UX”だけでなく“言葉”にも配慮する
誤解を招く表現/曖昧な敬語/複雑すぎる構文など
コピーライティングもユニバーサルに整える
6. “美しさ”と“やさしさ”は両立できる
無機質にする必要はない
視覚的魅力と機能的やさしさの“統合”を目指す
7. “配慮されている”ことを“感じさせない”自然さ
ユーザーが“気づかないまま快適”が理想
「特別な対応」ではなく「これが当たり前」にする
まとめ:ユニバーサルデザインとは、“やさしさの戦略化”である
ユニバーサルデザインは、「特定の誰かのため」ではなく、
「すべての人にとって、少しずつ“いい”を積み上げる」デザインです。
高齢者でも、忙しい人でも、子育て中でも
初めての顧客でも、リピーターでも、言語が違っても
すべてのユーザーに向き合った設計は、必ずブランドの信用に、売上に、社会的価値に返ってきます。
やさしさを、仕組みに変える。
それこそが、ユニバーサルデザインの真の力であり、マーケティングの未来を拓く戦略でもあるのです。
