ダイバーシティとは?意味・背景・企業が取り組むべき理由をわかりやすく解説
公開日:2025/12/25(木)
「ダイバーシティ経営に力を入れています」
「女性管理職比率を上げています」
「国籍も年齢も関係なく採用しています」
近年、企業のIR資料や広報リリースの中で、こうした言葉を目にする機会が増えてきました。
その中心にあるキーワードが「ダイバーシティ(Diversity)」です。
一見ポジティブな響きのこの言葉ですが、「具体的に何を意味しているのか?」「なぜ今これほどまでに重要視されているのか?」と問われると、曖昧なまま理解している人も少なくありません。
この記事では、「ダイバーシティとは何か?」という本質的な問いから出発し、その背景、企業にとっての意味、よくある誤解、そしてビジネスやマーケティングとの関係まで、わかりやすく解説していきます。
- ダイバーシティの定義:「多様性」以上の意味がある
- 日本企業が向き合う「3つの背景」
- ダイバーシティと「インクルージョン」の関係
- 企業がダイバーシティに取り組むメリットとは?
- マーケティングにおけるダイバーシティ:ブランドの“伝わり方”が変わる
- 顧客の多様化に応える組織=“開いた組織”へ
- ダイバーシティ推進の具体的な取り組みとは?
- 推進を支える仕組み・風土づくり
- 日本企業にありがちな3つの壁とその乗り越え方
- ダイバーシティの未来:多様性のその先にあるもの
- マーケティングやブランドへの影響
- まとめ:ダイバーシティを成果につなげる7つの視点
- ダイバーシティとは、“人と企業の信頼を編み直す営み”である
ダイバーシティの定義:「多様性」以上の意味がある
「ダイバーシティ(Diversity)」とは、直訳すると「多様性」という意味を持ちます。
しかしビジネス文脈におけるダイバーシティは、単に“違いがある”という事実ではなく、多様な個性・属性・価値観を尊重し、それらが活かされる環境や仕組みをつくることを含意しています。
具体的には、以下のような“違い”が対象になります。
- 性別・年齢・国籍・人種・宗教
- 性的指向・性自認
- 働き方・障がいの有無
- 家族構成・学歴・職歴・地域性
- 働く動機・価値観・発想のスタイル
これらはすべて、「企業に属する人材の“違い”」であり、かつその違いが業績や競争力に影響を与える経営要素として扱われるべきものです。
日本企業が向き合う「3つの背景」
なぜ今、ダイバーシティが日本企業にとって避けて通れないテーマとなっているのでしょうか。
そこには、大きく3つの社会的・経済的背景があります。
1. 少子高齢化と人材確保の危機
日本は世界に類を見ないペースで少子高齢化が進行しており、労働人口は年々減少しています。
企業が持続的に事業を成長させるには、年齢・性別・国籍・家庭環境などに関係なく、幅広い人材を受け入れ活用していく体制が必要です。
「優秀な人材に来てもらう」のではなく、「多様な人が活躍できる会社になる」ことが、今後の雇用戦略の本質になります。
2. グローバル化と価値観の多様化
市場や顧客の価値観も急速に多様化しています。
世界中のサービスや商品と比較され、評価され、選ばれる時代。
そこでは、「自分たちの当たり前」が通用しないことも多く、“違い”に対する理解と対応力が企業価値に直結します。
3. ESG・SDGsの潮流と“社会的評価”の変化
企業の価値が「利益」だけで測られる時代は終わりました。
ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)の文脈において、ダイバーシティの推進は“社会的責任”として企業に求められています。
- 女性役員比率
- 障がい者雇用率
- 外国人比率
- 柔軟な勤務制度の導入状況
こうした取り組みは、投資家・求職者・消費者の評価基準に組み込まれており、ダイバーシティは「選ばれる会社」になるための条件にもなっているのです。
ダイバーシティと「インクルージョン」の関係
近年、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という言葉がよく使われるようになりました。
インクルージョン(Inclusion)とは、多様な個性や背景を持つ人々が、安心して自分らしく働き、力を発揮できる状態をつくることを意味します。
- ダイバーシティ:違いを認識し、尊重する
- インクルージョン:違いを受け入れ、活かす仕組みや文化をつくる
この両輪が揃って初めて、組織は多様性を“力”に変えることができるのです。
企業がダイバーシティに取り組むメリットとは?
ダイバーシティ推進は、CSRやイメージ戦略の一環として語られることもありますが、それだけではありません。
企業が戦略的にダイバーシティに取り組むことで得られるメリットは、明確な経営成果や競争優位につながるものです。
以下では、ビジネスにおける具体的なメリットを3つの視点から整理します。
1. 多様な視点によるイノベーションの創出
「同じようなバックグラウンド」「同じような価値観」を持つ人たちの中では、思考も発想も似通いがちです。
その中で新しいアイデアや問題解決の突破口を見つけるのは、非常に難しくなります。
一方で、年齢・性別・国籍・職歴・考え方が異なるメンバーが集まれば、常識の違いや視点のズレが、発想の種となりやすいのです。
実際、世界の先進企業では、「多様なチームほど問題解決力が高い」「ダイバーシティの高い企業は業績が良い」という研究結果も報告されています。
2. 優秀な人材の確保とエンゲージメント向上
今後の労働市場では、企業が人材を選ぶのではなく、「人材から選ばれる企業」であることが前提になります。
そのためには、性別、育児、介護、LGBTQ+、国籍、働き方の希望など、多様な生き方やニーズを尊重し、活かせる職場づくりが不可欠です。
また、ダイバーシティ推進は「自分が認められている」という安心感を生み、従業員のエンゲージメントやパフォーマンス向上にも寄与します。
3. 顧客との共感・信頼の構築
顧客の多様化が進む中で、企業の側も“同質性の高い集団”であれば、変化するニーズに気づけず、対応できないリスクがあります。
- 若年層の価値観を、上層部が誤って理解している
- 女性ターゲットの商品を、男性中心で開発してしまう
- グローバル展開なのに、英語対応が不十分
こうした“ズレ”を防ぐためにも、組織内部に多様な声を持つことは、顧客理解とマーケティング品質の向上に直結します。
マーケティングにおけるダイバーシティ:ブランドの“伝わり方”が変わる
マーケティングとは、「誰に、どんな価値を、どう伝えるか」を設計する活動です。
その「誰に」の対象が、多様化・細分化・複雑化している現在、ダイバーシティへの理解は、ブランドと顧客との信頼関係を築くうえで極めて重要です。
「誰もが主語になれる広告・表現」の重要性
近年では、ジェンダー・人種・障がい・宗教などに関して、配慮がなされていない広告やプロモーションが、批判や炎上につながる事例も増えています。
その一方で、「この広告は自分のことを見てくれている」と感じられる表現は、共感や拡散につながりやすく、ブランドへの好感度を高める効果があります。
例:
- 性別を限定しないキャッチコピーやビジュアル
- 視覚・聴覚に配慮したコンテンツ設計(ユニバーサルデザイン)
- 文化・価値観の違いを前提にしたストーリーテリング
→ マーケティングにおけるダイバーシティは、単なる“配慮”ではなく“成果につながる差別化要素”になっているのです。
“ターゲット”から“コミュニティ”への発想転換
従来のマーケティングでは、年齢・性別・職業といった属性によって「ターゲット」を設定することが一般的でした。しかしダイバーシティ視点に立つと、より重要なのは「共通の価値観やニーズを持つ人々のグループ」=コミュニティを理解し、尊重し、支援することです。
- LGBTQ+当事者コミュニティへの発信
- ワーキングマザーの悩みに寄り添うコンテンツ提供
- 地方の学生と都市部の学生が抱えるギャップの可視化
→ こうした文脈理解の深さが、商品やブランドの「あり方」そのものを再定義していくのです。
顧客の多様化に応える組織=“開いた組織”へ
マーケティングや商品開発の精度を高めるには、社内の意思決定プロセスにも多様な視点を持ち込む必要があります。
- 若手社員の声が経営に届く仕組み
- 多様な部門を巻き込むワークショップ型プロジェクト
- アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)に気づく社内研修
こうした取り組みを通じて、外の多様性に対応できる“内側の多様性”が育っていきます。
ダイバーシティ推進の具体的な取り組みとは?
「多様性を大切にします」と掲げるだけでは、ダイバーシティは前に進みません。
本当に必要なのは、“日々の業務の中でどう制度化し、行動に落とし込んでいくか”という視点です。
ここでは、企業が実際に取り組んでいるダイバーシティ施策を、カテゴリごとに整理して紹介します。
採用:入口の多様性を担保する
- 学歴・新卒/中途にとらわれない採用枠の導入
- 女性・外国人・シニア・障がい者向けの求人設計
- 採用面接官のバイアスを可視化するトレーニング
- 採用ページでの多様な社員紹介と職場風景の発信
採用は、ダイバーシティの“起点”です。
自社がどんな人材を「歓迎している」と発信するかによって、応募者の層は大きく変わります。
配属・評価・育成:公平性と納得感の設計
- ライフステージに応じた異動や職責の柔軟対応
- キャリア志向の多様化に合わせた等級・評価制度の見直し
- 男性の育休取得促進や時短勤務者への公正な評価体制
- 外国籍社員への育成プログラム・語学支援・文化理解研修
単に「受け入れる」だけでなく、入社後にどう育ち、活躍し、報われるかの制度設計こそが重要です。
働き方:多様な前提を前提とする
- ハイブリッドワーク/フレックス勤務/時差出勤の整備
- 介護・育児・通院など“配慮の必要な状況”に応じた勤務選択制
- 時短社員同士の知見共有・コラボ促進制度
- LGBTQ+社員向け福利厚生(通称の使用、同性パートナー制度など)
「みんなが同じ時間に、同じ場所で、同じ働き方をする」という発想をやめることが、ダイバーシティの第一歩です。
推進を支える仕組み・風土づくり
制度だけでは、ダイバーシティは定着しません。
その背景にある“組織文化”をアップデートすることが求められます。
D&I委員会・ダイバーシティ担当部署の設置
社内に横断的な機能を設け、部門を超えて議論・推進を行うことで、トップダウンとボトムアップの橋渡しが可能になります。
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)研修
- 「男性の方が出張に向いている」
- 「若手にはまだリーダーは早い」
- 「英語を話せる=即戦力」
こうした“悪気のない偏見”に気づき、組織全体で自省し続ける文化を育てることが重要です。
エンゲージメントサーベイの実施とフィードバック設計
年次調査やパルスサーベイを通じて、「働きがい」「納得感」「安全に発言できるか」などを測定し、声を吸い上げて制度に還元する循環を整備します。
日本企業にありがちな3つの壁とその乗り越え方
1. “多様性=女性活躍”の一面的理解
ダイバーシティ=女性管理職比率と捉える企業もまだ多くありますが、本質は「性別」に限りません。
→ 性的指向、年齢、国籍、家庭環境、価値観、すべてが対象であり、包括的な視点が必要です。
2. 遠慮と“空気読み”が支配する組織文化
“違い”を語ること自体がタブー視され、「言わない=問題がない」と誤解されているケースもあります。
→ 社内での対話の場(ダイアログセッション/ワールドカフェなど)を設け、対話と共感を育む土壌づくりが求められます。
3. 経営層の関与が形式的/現場任せ
- トップが施策を“知っている”が“信じていない”
- 担当部署に任せきりで“進捗を把握していない”
→ 成果やKPIだけでなく、トップ自身が体現者となり、対話を続ける姿勢こそが、最も強力なメッセージになります。
ダイバーシティの未来:多様性のその先にあるもの
ダイバーシティは“目的”ではなく、“前提”です。
多様性を「受け入れるかどうか」の議論から、「どう活かすか」「どう進化させるか」へとフェーズが移りつつあります。
これからは、多様性を持つこと自体ではなく、その先にある組織成果・ブランド成果をどう設計するかが問われていきます。
ダイバーシティから“DEI”へ
近年、Diversity(多様性)だけでなく、以下の2つの概念とセットで語られることが増えてきました。
- Equity(公正):すべての人が自分の持ち場で力を発揮できるよう、公平ではなく“必要な支援”を差し出すこと
- Inclusion(包括):多様なメンバーが“疎外感なくチームに属している”と実感できる状態をつくること
つまり、「違いを並べる」だけでは足りず、構造上の不平等や孤立の発生を防ぐデザインこそが次のテーマになります。
ウェルビーイングとの接続:働く“幸福感”の多様性
ダイバーシティ経営は、単なる人事制度ではなく、“その人がその人らしく、健康で誇りを持って働ける”環境設計へと拡張されています。
例:
- 精神的安全性の確保
- ハラスメントゼロ文化
- キャリアの選択肢の多様化(昇進しない・移住する等)
「多様な個性がある」→「それが活かされている」→「組織に貢献している実感がある」→「幸福を感じる」
この循環をつくることが、持続可能な組織と社会の鍵です。
マーケティングやブランドへの影響
ダイバーシティの取り組みは、組織の中だけでなく、企業の外側=顧客や社会との関係性にも強く影響します。
コミュニケーションの信頼性が高まる
- DEIを体現している企業のメッセージは、広告にリアリティを生む
- 当事者が関わっている企画は、共感や拡散の起点になりやすい
- SDGsやESG文脈と整合性のある企業は、Z世代・ミレニアル世代に選ばれやすい
ブランドはもはや「製品スペック」で差別化するのではなく、「どんな価値観の企業か」で支持される時代です。
ブランドが「語る」から「開く」ものへ
- 性別非公開のアパレルモデル起用
- 障がいのあるクリエイターとの共創プロジェクト
- 社員によるダイバーシティストーリーブログの展開
こうした取り組みは、企業が「言葉を持つだけでなく、場を開いている」ことの証明になります。
それがブランドの奥行きや“選ばれ続ける理由”につながっていくのです。
まとめ:ダイバーシティを成果につなげる7つの視点
- “違い”はリスクではなく資産である
- 多様性は採用だけでなく、育成・評価・活躍の構造でこそ活きる
- D&Iは制度よりも、日常の言葉・態度・対話でつくられる
- トップと現場が同じ言葉で語れる組織文化が必要
- 顧客・社会の多様性に応えるには、組織も“開いている”ことが条件
- ダイバーシティの本質は「その人がその人らしく活躍できる」こと
- 成果を問うなら、“どれだけの人が本音を出せているか”を見よ
ダイバーシティとは、“人と企業の信頼を編み直す営み”である
表に出ている「多様性」は、ほんの一部にすぎません。
本当の違いは、目に見えず、声に出しにくく、無視されやすいものです。
だからこそ、企業がその“声にならない声”を見つけ、認め、活かし、届けること。
それが、一人ひとりの人生と、ブランドの未来をつなぐ道になるのです。
