【タイ編】各世代の価値観に影響を与えたテクノロジーの背景とは

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リサーチャーコラム

2022/7/6(水)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、タイの以下のような各世代に影響を与えた「テクノロジーの背景」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 ベビーブーム世代(近代タイの建国者)(1940~64年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 ジェネレーションX(政情不安世代)(1965~84年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 ミレニアル世代(テクノロジー世代)(1985~99年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 ジェネレーションZ(無関心世代)(2000年以降生まれ)

タイ人の価値観変化に与えたテクノロジー背景

インターネットの浸透

タイでは、社会全体でモバイルテクノロジーとインターネットを積極的に取り入れています。世界のSNS、および、デジタルの最新トレンドをまとめた『Global Digital Report 2019』によると、タイのモバイルSNSユーザーは4,900万人で浸透率は71%にのぼり、SNSのアクティブユーザーは5,100万人と言われています。

インターネットは全世代に共通して浸透しており、エリアでは特にバンコクで顕著です。バンコクが、デジタルのインフラの整備に力を入れたのがその理由ですが、国内の他の地域との情報格差が生まれた原因にもなりました。

成長分野であるEコマース

タイは、インフラがしっかりと整備されており、テクノロジーも浸透しています。また、企業は早い段階からSNS上でマーケティングを展開し成功しているため、そこからさらにEコマースを広げていこうとしています。2020年時点ではタイの消費行動の5%に留まっていましたが、Eコマースへ切り替える土台はでき上がっているため、その後の成長が期待できます。

人気があるECサイトはLazada(ラザダ)とShopee(ショッピー)です。FacebookのMarketplace(マーケットプレイス)はあまり利用されていません。また、若い世代は、Food Panda(フードパンダ)などのフードデリバリーや、Grabに代表される配車サービスといったスマホアプリに熱中しています。この世代はスピーディさ、利用の即時性に、大きな価値を置いています。

世代ごとのテクノロジーとのかかわりの違い

テクノロジーの視点でタイ人の特徴を見ると、大きく2世代(Gen1~2とGen3~4)に区分できます。

Gen1~2はアナログ重視型

この世代区分の生活者は全面的にインターネットを信用しておらず、その危険性も意識しながら使っています。インターネットを情報収集ツールとしても使用しますが、アナログな口コミ(家族・同僚)からの情報も確認し、商品購入時には店舗に赴き「見て、触れて」から、最終判断をする傾向があるようです。

Gen1~2も、必要に迫られればデジタルシフト?

2020年7月に行った定量調査では、新型コロナ前と比較してGen1~2でも決済方法がオンラインにシフトしていました。それまではアナログ派であったGen1~2でさえ、コロナ禍という特殊な状況では、インターネット取引の危険性より衛生上のリスクを考慮していました。デジタルの利便性を一度経験したGen1~2世代は、今後も時代の流れに沿って生活していくと考えられます。

新型コロナウイルス流行による利用状況の変化(世代別)

Gen3~4はデジタル重視型

人格形成期には既にインターネットへのアクセスができるようになっていたGen3と、デジタルネイティブのGen4は、インターネットから得られる情報やネット購買に対する抵抗感は低く、SNSからの情報を重要な情報源として捉えているのが特徴です。すでに頭角を見せ始めているEコマースを、さらに盛り上げていくのはこの二世代です。若い世代はネットで買い物をすることに全く抵抗は無く、ECサイトと実店舗の間を行き来しています。

タイはこれからますますモバイル化が進み、ネットショッピングもますます増えていくと考えられているため、地理的な条件はあまり重要ではなくなります。そのため、地域的な違いは今後無くなっていくでしょう。遠隔地に住むタイ人が何を買うにしても、ショッピングは簡単で便利なものになり、比較購買も多くなっていくでしょう。今後10年間で、タイのビジネスが反応し、ビジネスモデルを新しく作り直して成功していくための3大要素は、「情報」、「ネット上のメディア」そして「ビジネスをスピーディに新しく蘇らせること」です。

まだテレビ世代なGen1

この世代には、テクノロジーはあまり大きな影響を与えません。ネットショッピングのやり方は自分で覚えることはせず、子どもや孫たちにお願いしています。 主流メディアはテレビ(最近ではスマートテレビの利用が増えています)で、従来型のプライムタイムのドラマなどが人気コンテンツであり、テレビCMにも影響を受ける世代です。

スマートフォンを保有していますが、利用時間は他の世代に比べて少なく、複雑な機能を使うにはまだ手助けが必要です。音声アシスタント機能やショートメッセージ、LINEのような基本的な機能は問題なく使えます。

Gen2はデジタルとアナログのはざま世代

インターネットとスマートフォンの普及により、テクノロジーへの接点が急激に増えた世代ですが、アナログ世代とデジタル世代の過渡期であるようです。

ネットショッピングには前向きですが、家族や友人といった準拠集団の意見を重視しています。キャッシュレス社会や電子マネーといった決済手段には不安を感じています。

とは言っても経済的には最も余裕のあるこの世代。ECサイトはLazadaやShopeeが人気です。しかし、商品が配達されないのではないか…という不安も持っています。

テクノロジー世代のGen3

人格形成期にインターネットとスマートフォンに触れてきたこの世代にとってテクノロジーがライフスタイル与える影響はとても大きいようです。

自己学習をする世代で、社交性も変化してきています。また、価値観はデジタルメディアを介してもたらされることが多いです。

テックネイティブなGen4

この世代はテックネイティブであり、テクノロジーが周りにあって当たり前の世代です。子供の頃からスマートフォンを使い始め、一日中スマホを手にしているといったスマホ依存の傾向があります。そのため、実際の人間との関わりや両親、先生、学校の先輩といった人間のロールモデルによる手引きが十分ではありません。

この世代とSNSは、同時期に生まれました。インターネットは情報を取得するための道具だとすると、SNSは仮想人生というもう一つの人生であり、インターネットとSNSは違うものとして認識されています。また、自分たちの実際の生活を犠牲にするほど、SNSに依存しています。

学歴は高く、デジタルテクノロジーを中心とした考え方を持ち、デジタルに対して前向きな姿勢が特徴の世代です。様々なモバイルサービス・アプリを体験し、またそれらのアプリを展開する成功者を見てきたこの世代は、卒業後は起業家になってスタートアップ企業を設立するなどして、成功したいと考えています。

新型コロナウイルス感染拡大によるオンライン購入の変化

以下の定量調査の結果は、日用品のオンライン購入率をコロナ以前と比較したものです。コロナ以前からインターネット・モバイルに抵抗感の無かったGen4は、コロナ流行後でもオンライン購入に対する態度変化は見られませんが、Gen1-2のオンライン購入に対する態度変化は著しいものが見られます。

日用品のオンライン購入率、コロナ以前との比較(世代別)

以上が、タイの有識者の意見を交えた、各世代が影響を受けたテクノロジーの背景です。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「各世代の価値観に影響を与えたテクノロジーの背景とは【ベトナム編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: タイ全土
世代別回答者数: Gen1(n=154/男性92、女性62)、Gen2(n=1,935/男性904、女性 1,031)、 Gen3(n=920/男性 377, 女性 543)、Gen4(n=1,049/男性380、女性669)
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2020年2月

著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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