【ベトナム編】各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは

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リサーチャーコラム

2022/4/7(木)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、ベトナムの以下のような各世代における価値観に影響を与えた「社会慣習」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 ベトナム戦争世代(リタイヤ層)(~1975年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 ドイモイ世代(ジェネレーションX)(1976~89年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 ミレニアル世代(フリートレード世代)(1990~99年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 ポスト・ミレニアル世代(ジェネレーションZ)(2000年生まれ~)

ベトナム人の価値観

ベトナムの一般的な家族の価値観は、父親が家長、子は父母と祖父母に従う、という儒学の教えに基づいています。以前は一つの家に3世代が住んでいるのも珍しくはありませんでしたが、若い家族は違う都市へ移住したり、アパートへ引っ越したりするため今ではもうあまり見なくなりました。

1980年代には多くの女性が仕事を持つようになり、子どもたちが家で留守番をする時代が誕生しました。子供たちは親が仕事に行っている間、家の中で過ごすわけですが、フランス植民地時代の名残の青や緑の窓のある家に住んでいる人が多かったこともあり「青い窓の内側で」や、「鍵っ子」という言葉がよく使われていました。

また、人口に焦点を当てると、ベトナムはいま黄金時代です。若い世代が多く、中間層が台頭してきています。またこの先20年は高齢化社会の影響をそれほど受けないと予測されています。

支え合うベトナムの家族

親との経済的依存関係について聞いた定量調査の結果では、Gen3(20代)の4割以上が「親から経済的援助を受けている」と答えました。Gen 2(30~43歳)でも2.5割、つまり4人に1人が親から援助を受けています。他方、「親を経済的に援助している」という割合は、Gen 1・Gen3が25%超、Gen 2が約20%でした。このように、核家族化が進む中でも、親子相互の経済的依存関係は残っているようです。

「親」の権威は顕在

家族の中心は誰か?と尋ねると、若年層は「親」、年代が上がると「自分」または「配偶者」に票が集まりました。つまり、親世代(Gen1・Gen2)もその子供世代(Gen3・Gen4)も、お互いに「親(Gen1・Gen2にとっては自分)が中心」と思っていることが読み取れます。経済成長や一人っ子政策の影響によって親子関係が変化してきた中国に比べ、ベトナムは伝統的な家族の価値観が残っていると言えます。

※参照:各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは【中国編】

教育の改善と将来への期待値の変化

以前のベトナムの高校生は、希望の大学で入試試験を受けて、その大学や希望のコースに関係のあるテーマについてのみ勉強をしていました。勉強と言えば暗記で、両親や周りの大人の言いなりになることもよくあったそうです。その後、国家試験が導入され、学生はもっと多くの教科を学ぶようになり、テストでは批判的な思考能力を試されるようになりました。この新しい教育システムには、子どもたちの分析能力をより高める効果があります。英語を早い時期から学び始め、海外留学も人気があり、保護者は日本やアメリカをはじめとした様々な国の教え方を取り入れています。国の政策により、学校ではEラーニングなどのスマート教育も始まりました。ここ10年間で、高等学校の教育範囲は拡大され、科学や工学系の教科もカリキュラムに加わりました。

さりげない宗教の影響

ベトナムは公式的には無宗教の国ですが、実際は様々な宗教が存在します。中国の影響を受けているベトナムの仏教は独特であり、大乗仏教を基本に儒教と道教が融合されています。民間信仰も、ベトナム人の信仰と実践に大きく影響しています。ベトナムでは実際にはこのような宗教の正式な信者の数はそれほど多くはありませんが、宗教や信仰からの影響はさりげなく受けています。

急激に進む都市化

ベトナムの都市化率は、東南アジアの中でもトップレベルです。2009年以降、新都市の数は31都市増え、合計73都市になりました。ベトナム統計総局のデータによると2019年には、農村地域の人口は6,300万人、都市部の人口は3,300万人となりました。都市部に住む人の割合は、2007年は総人口の28%だったのが、2017年には35%に増加しました。

ベトナムでは、多くの人が国内移住をします。2015年に実施された調査によると、ベトナムの人口の13.6%は国内移住(移動)者です。この割合は、農村地域では13.4%であるのに対して、都市部在住者の方が19.7%と高く、最多は東南部で29.3%が国内移住(移動)者です(ベトナム統計総局2016年データより)。

よりよい環境を求めて移住をいとわないベトナム人

定量調査の結果を見ると、Gen2・Gen3の約80%が、よりよい進学・仕事の機会のために地の地域へ引っ越しをしていることが分かります。

親から子への「進路指導」と「消費」

ベトナムの子どもたちの保護者は、自分たちの快適な暮らしを犠牲にして、子どもたちのために尽くす傾向があります。子どもたちだけではなく、自分の両親の面倒を見ることもよくあります。経済成長に伴い、保護者はベビーフードと子供の教育にますます消費をするようになりました。特に都市部では、保護者の39%が子どもの英語レッスンや旅行、スマートフォンなどのテクノロジー系製品にお金をつぎ込み、インターナショナルスクールに通う子供たちの数も増えてきています。

ベトナム人は医者や博士などのような高学歴の人に敬意を払います。専門の学位が高ければ高いほど、仕事の能力も高いと信じています。このことから、保護者は子どもたちに高い学位の取得を勧めており、実際30歳以下の世代の多くは、家族から金銭的な支援を受けながら博士号を取得しています。熟練労働者と非熟練労働者の給料の差があまりないことが原因で、熟練労働者の割合は26%と低いです。しかし、学術系の高学歴保持者の場合は、最初から高い報酬が約束されているようなものなので、若い人たちは職業訓練学校にいくよりも大学に進学する傾向が強いです。

借金をしてでも、子供の将来にかける親

Gen1~Gen3の貯金の目的として、半数以上が「子供の教育のため」と回答しました。また、「金融機関からの借金がある」と回答した人の割合を、子供のあり・なし別に見ると、子どもがいない人よりも子どもがいる人のほうが2倍ほど高いことが分かります。

環境に対する意識の向上

ハノイと並んで、ホーチミン市は東南アジアの都市の中で最も公害が深刻なエリアです。Shell社の発表によると、大気汚染が間接的な死因と認定された2016年のベトナムの死亡者数は6万人を超えるそうです。直接の死因は主には脳卒中、心臓疾患、肺がんです。近年実施された調査の結果から、環境問題に対する人々の意識は高まってきており、非常に懸念している人も多いということが分かりました。調査に協力してくださった人の多くは、「政府高官や大手企業のリーダーたちは環境や公害のことは問題視していない」と思っています。

深刻だと思う社会問題は?全世代で「環境汚染・公害」が1位

前の世代が経験した経済成長と引き換えに、環境汚染が深刻化するベトナム。社会問題の深刻さを聞いたところ、すべての世代の1位に「環境汚染・公害」が挙げられました。

以上が、ベトナムの有識者の意見を交えた、各世代の価値観変化に影響を与えた社会慣習・制度です。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回からテーマが変わり、「各世代が影響を受けた文化背景とは【中国編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: ベトナム全土
世代別回答者数: Gen1(n=221/男性138、女性83)、Gen2(n=485/男性198、女性287)、Gen3(n=597/男性204, 女性393)、Gen4(n=332/男性130、女性202)
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2020年2月

著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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