【中国編】各世代が影響を受けた文化背景とは

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リサーチャーコラム

2022/4/7(木)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、中国の以下のような各世代が影響を受けた「文化背景」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 50后(1950~59年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 60后・70后(1960~79年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 千禧一代(中国版ミレニアル世代 1980~1994年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 95后(1995年以降生まれ)

世代ごとの関心事の変化とその要因

各世代の価値観・関心事は、育ってきた時代・文化背景の影響を大きく受けます。それらは、制度・経済・文化・技術の複合的な外部環境が影響しています。『各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは【中国編】』でも触れていますが、例えばGen1は貧困の時代に育ったため「お金を稼ぐこと・贅沢をすることは悪」、Gen2以降は国の経済開放政策の影響を受け、また教育改革(1979年以降、より多くの層への大学教育への門戸が開かれた)などの影響により欧米の文化の影響を多く受け、経済活動に対しても抵抗なく、積極的なビジネスマインドを持ってきています。また、人々の生活・価値観に大きな影響を与える政府の決定として、党が発表する「5カ年計画」の指針が大きな影響要素です。過去5年間にわたり健康増進策が打ち出されると、市中に健康をサポートする施設が多く敷設され、全土でのマラソン大会の実施レース数は年間200回のペースで増えるほどです。新型コロナ対策に関しても、政府の対策強制力の強さが浮き彫りになりました。そして、「一人っ子政策(1979年~2015年)」は、子供に対する親の関心が一人に集中するという事から、教育熱が過熱する背景要因となっています。

世代ごとに異なるSNSでの話題

「健康」に対する関心は、どの国も高齢ほど高いことはある程度共通だと思いますが、中国でも同様で、特にGen1・Gen2ではその傾向の高さが顕著です。また、有識者インタビューで分析された“Gen1の経済活動に関する保守的な姿勢”が、SNSでの検索傾向にも表れており、Gen1は「ビジネス・勉強」への関心が他世代と比べて低い数値を示しています。一人っ子政策の影響が最も大きいGen2・Gen3は、「子育て・教育」に対する興味・関心の高さがうかがえます。

尊敬の対象は時代によって変わる

尊敬する人物について聞いてみましたが、ここでは有識者による分析と定量調査結果で、合致する傾向としない傾向が現れました。有識者の分析では、Gen1は文化大革命の影響を受けた世代であるため「過去の文化・慣習と途絶している世代」ということでしたが、定量調査結果では「歴史上の人物」が尊敬の対象として他の世代よりも高い数値を示しています。また、Gen3・Gen 4は尊敬する人物として「親・祖父母」を挙げており、経済成長を支えた世代、一人っ子政策時代に自分を支えてくれた世代として親・祖父母を見ているのかもしれません。中国発のグローバル企業・ユニコーン企業を輩出したGen3は、「ビジネスリーダー」を尊敬の対象(ロールモデル?)として挙げているのが興味深い傾向です。

文化背景の変遷による価値観の変化

前項で言及したように「文化大革命」による伝統的な価値観の途絶(Gen1)から、「開放政策」による欧米文化の流入、中国企業のグローバル化によるナショナルプライドの醸成など、文化(および経済)は各世代に大きな影響を与えました。全体の流れとしては、外からの情報が少ない時代の内向きのナショナリズムから、欧米の先進技術・文化を知った時代の欧米崇拝、それを受け入れようとする姿勢、そして欧米の文化・技術・情報を受け入れた結果として、中国の文化・技術レベルが欧米並みに(あるいはデジタル技術など部分的に独自進化を遂げている)なったことで生まれてきているGen4の「テクノロジーを中心としたネオ・ナショナリズム」があります。

生き方・働き方も古いGen1・Gen2の時代には安定した仕事(鉄飯椀という)が求められていたのに対し、Gen3・Gen4では鉄飯椀を避け、新しい働き方・生き方を求めるために様々な選択肢が広がっています。その反面、Gen3・Gen4では一つの職業に落ち着かず、昇給とスキルを上げるために次々と職業を変える傾向が高まっています。(上海など、都市部での転職期間は平均19カ月とも言われています。)

職業選択の「夢と現実」

Gen1・Gen2が子供の頃に就きたかった職業は、安定した職業と言われている「官僚(公務員含む)」と「専門職(教師・医師・看護師・弁護士・会計士など)」で50%以上を占めました。日本の子供が夢見るような「アーティスト」「スポーツ選手」といった職業を挙げる人は少ないようです。また、「会社員」を挙げた人は、Gen1・Gen2に限らず、全世代を通じてわずか10%程度でした。

一方、現実はどうかというと、現役世代であるGen2~Gen4は「会社員」が圧倒的に多く、夢と現実のギャップは大きいようです。しかし、これは単にネガティブな側面ではなく、経済活動が自由になったことで、会社員としてよい条件で働けるポジティブな機会(オポチュニティ)が増えたことが背景にあると言えるかもしれません。

外国文化への関心

2001年のWTOへの加盟を機に、外資系企業や海外ブランドが中国市場へ参入したことによって、中国国内では体制の移行や、社会的、文化的に急速な変化がみられるようになりました。(ちなみにGen1(世代文化大革命期)に許可されていた映画は、ロシアか北朝鮮が制作した映画のみでした。)

経済成長と外国文化は、人々の自己認識度を向上させ、それが政権の付加価値となりました。これは、明らかに若年層世代の自己表現と、その一つ上の世代の自己啓発を推し進める要因となりました。外国文化への関心には地域差もあります。一級都市(北京、天津、上海、杭州、香港、深圳、広州など、主に東海岸沿いに位置する大都市)では仕事や余暇で海外に行く人も多いため都会化が進んでおり、西洋の価値観が他よりも浸透しています。子供を海外へ留学させる家庭も多いです。このような都市には外資系企業も多く、様々な国出身の人が住んでいるため、国際色が豊かです。つまり、このエリアの住人は、国際的な環境に囲まれており、その価値観に触れる機会も多くあります。

外国文化への関心は全世代で高く、特にGen3は9割に迫る

有識者の見解で、“2001年のWTO参加以降に外国文化の流入が拡大”とありましたが、定量調査の結果ではどうでしょうか。外国文化への関心について聞いてみると、Gen3はトップ2ボックス(非常に興味がある+やや興味がある)で9割に迫り、全世代の中で最も高いことが確認できました。Gen3だけでなく、全世代を通じて高い外国文化への関心ですが、関心分野やどの国の文化など、詳細に関してもいずれ検証してみたいと思います。

中国の平等意識と格差

Gen1の価値観の根底にある共産主義的イデオロギーからすれば、「社会は平等」でしたが、1980年代初期には、中国の都市に新しい中流階級が生まれてきました。開放政策により都市部と農村部、沿岸部と内陸部に経済格差が生まれましたが、その後の西部開拓(内陸部の開発)に伴う経済成長により、地域的な格差は無くなりました。一方で個人間の経済格差は広がってきたのが実情です。

また、情報技術の進歩により、特に若い世代(Gen3,4)では地域による情報格差はかなり改善されたようです。男女間での平等意識に関してはGen1では問題にされることすらありませんでしたが(女性の社会に対する意見が表面化されていなかった)、教育改革で男女ともに高等教育を受けられるようになると、女性の社会進出が盛んになり、また男女ともに個人主義的な価値観を持つようになり、社会の不平等に対して問題提起がされるようになりました。

経済的に平等?

「中国社会において世代間は経済的に平等か」と定量調査で尋ねた結果を、「経済的に不平等(ボトム2ボックス(非常に不平等+やや不平等)」のスコアで比較すると、Gen4が58%と最多でした。これは、経済成長に伴い、個人間における収入差の顕在化が原因かもしれません。一方、共産主義的な価値観の中心にいたGen1ですが、意外にもGen4に近い傾向を示しました。有識者インタビューから推測される背景仮説では、「抑制され続けた国民は、集団や国のために自己犠牲を払う必要があったのにもかかわらず、十分な恩恵を受けていない」ということが関連していると推察します。

男女間の格差の意識

一方、男女間での格差意識については、Gen1とGen4で大きな違いがみられました。有識者の分析からこの傾向を読み解くと、Gen1が競争のない集団主義的な価値観を持っているのに対して、Gen4は教育レベルが高く、社会競争にさらされ、個人主義的な価値観を持ち、自我に目覚めているため、より男女間の格差にセンシティブに反応していることが考えられます。

以上が、中国の有識者の意見を交えた、各世代が影響を受けた文化背景です。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「各世代が影響を受けた文化背景とは【インドネシア編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: 北京(n=206)、上海(n=220)、広州(n=190)、成都(n=184)の各都市居住者
世代別回答者数: Gen1(n=150)、Gen2(n=225)、Gen3(n=225)、Gen4(n=200)
※各都市および世代で男女が概ね半数ずつになるよう割付
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2019年12月

著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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