
マーケティング施策の効果検証にMMM(マーケティングミックスモデリング)を導入する企業が増えています。この記事では、MMMの意味やMTA、消費者調査との違いや、導入のメリット、手順などについて解説します。MMMの基本情報から注意点まで知り、マーケティング活動に役立ててください。
MMMの意味と基本
MMMの意味や特徴、MTA、消費者調査、ログ分析との違いについて解説します。
MMMの意味とは
MMM(マーケティングミックスモデリング)とは、売上や利益にマーケティング施策がどのように貢献したかを計測し、把握するための統計分析法です。マーケティング活動を、Product(商品)、Price(価格)、Place(流通経路)、Promotion(プロモーション)の4Pに分類し、それぞれどの部分が影響を与えたかを分析し、効果検証を行います。
MMMとMTAの違い
MTA(マルチ・タッチ・アトリビューション)は、Cookieやピクセルなどの技術を利用して、個人のデジタル行動をリアルタイムでリサーチすることです。個人行動をもとに、効果測定を行います。
MMMは、MTAと異なり個人の行動データをリアルタイムで分析しません。また、MTAが現場の担当者に向けて、短期的に戦術の最適化を目的とするのに対し、MMMは、経営層や戦略担当者に向けて長期的な意思決定に役立つ手法という違いがあります。
MMMと消費者調査の違い
消費者調査とは、消費者の商品やサービスに対する好感度や認知度など、心理、態度変化などに有効な手法です。おもに、消費者のニーズや行動パターンの把握に使われます。消費者調査はMMMと異なり、マーケティング施策が売上にどれだけ貢献したかを定量的に把握することはできません。
MMMとログ分析の違い
ログ分析とは、Webサイトやアプリ、システムのログデータをもとに、ユーザー行動を記録、分析し、課題解決に役立てる手法です。データを可視化することにより、異常や障害を検知し、早期原因究明、業務過程の最適化に役立ちます。
MMMと異なり、オンラインデータのみに限定されるため、オフライン施策の把握は困難です。また、消費者のプライバシーに関するデータを必要とします。
MMMの特徴
MMMは、いくつかの特徴が挙げられます。以下は、MMMのおもな特徴です。
- マーケティング施策の効果を数値化し、多角的に分析する
- 直接的な貢献度だけでなく、相乗効果や共食い効果も定量的に把握する
- 分析にあたり、ユーザーの個人情報は使用しない
- 複数メディア間の相互作用を考慮した上での投資効果を可視化する
MMMでできること・できないこと
MMMは、できること・できないことが明確です。おもに以下に対応しています。
- 施策ごとのROI(投資利益率)を正確に把握する
- データにもとづいた最適な予算配分を計画する
- 投資額と売上の関係性を明確にし、より精度の高い売上予測や事業計画を立案する
- 競合の動向、季節トレンドなどの外部要因を含めた分析をする
一方、以下のようなことはMMMでは不可能です。
- 消費者心理を直接的に把握する
- 個人の行動を詳細に分析する
- 未来の市場の環境変化を完全に予測する
MMMの活用場面
MMMは、マーケティング活動においてさまざまな場面で使われています。活用場面の例として、以下が挙げられます。
- マーケティング施策の効果を横並びで比較することで、予算配分を検討する
- 施策を採用したと仮定して、最終的な売上の予測値を算出する
- 数値的根拠をもとに目標を達成できなかった原因を明らかにし、解決策や改善案の発見に役立てる
- 予算や各施策の配分を変更することにより、成果がどう変わるかシミュレーションすることで、最善策の発見に役立てる
MMMのメリット
MMMをマーケティング活動に活用するメリットを4つに分けて解説します。
柔軟性がある
MMMはさまざまなマーケティング施策の効果を総合的かつ柔軟に分析できます。MMMは柔軟にデータポイントを取り込めるため、用途や自社の広告出稿状況に合わせて、モデル式を変更することもできます。長期の時系列データや多種多様な予測変数を用いることで、より精度の高いモデルの構築が期待できます。
リスクを抑えられる
MMMは、ユーザーのプライバシーを守りながら、有効なマーケティング活動ができます。内部要因と外部要因をもとに分析を行うため、ユーザーのプライバシーデータを必要としません。そのため、個人情報が流出するリスクを抑えられます。
施策全体の成果を把握できる
MMMでは、相互作用や外部要因、内部要因、過去事例など複数の要素をもとに、成果を総合的に把握します。そのため、施策全体を包括的に分析し、俯瞰的に把握できます。広告や価格設定など多角的な要素を1枠で評価できるため、容易にマーケティング施策の全体を把握できます。これにより、最適なマーケティング戦略の組み立てが可能です。
予測を立てられる
MMMは実績データを数式化し、予測変数にすることで、将来の売上予測やシミュレーションと組み合わせた予算配分の算出が可能です。KPIを達成できるかの予測やマーケティング活動の組み合わせによる成功率の予測も立てられます。
MMMの手順
MMMを導入する際は、手順に沿って進めることが重要です。ここでは、手順を6つに分けて解説します。
分析ロジックを決める
MMMを行う際は、まず、分析の目的を明確にすることが重要です。「新規顧客数を上げたい」「売上を最大化したい」など、具体的な目標を設定します。「重回帰分析」や「時系列分析」などの計量経済学的な統計的手法の中から、目的に合わせたモデルを採用します。採用する手法に優劣はなく、あくまでも、目的に合ったものを選ぶべきです。
内部要因と外部要因を洗い出す
続いて、分析対象に影響を与える内部要因と外部要因を包括的に洗い出します。このとき、分析の目的に合わせた粒度で洗い出せるかがポイントです。洗い出した要因が大きく影響しているか否かの見極めには、過去の分析結果をはじめとする経験値が必要です。
顧客の購買行動をモデル化する
要因の洗い出しが終わったら、どの要因が顧客の購買行動に影響しているかを分析し、モデル化を進めます。パス図などを用いることで、要因の関係が視覚的に明確になります。漏れや抜け、重複がないか関係者への聞き込みなども含め、慎重に確認します。
購買活動をモデル化する手法として、AIDMA(アイドマ)、AISAS(アイサス)、SIPS(シップス)、DECAX(デキャックス)などがあります。分析対象に合わせたモデルを選ぶことが大切です。
データを収集する
続いて、内部要因と外部要因に関するデータを収集します。データの適切な収集期間は、分析の目的により異なります。日次・週次・月次単位で収集期間を決め、目的に合った粒度を選定することが大切です。なお、季節変動の影響を分析する場合は、目的に関わらず、少なくとも1年分のデータを収集しなければなりません。
分析をする
収集したデータは、分析ロジックに基づいて分析を進めます。回帰分析をはじめとする統計的手法を用いて、各要因が与える影響を定量的に評価します。グラフや表を用いて、目に見える形にすることで、傾向や関係性の直感的な理解が可能です。収集したデータと予測との差を確かめた上で、成果が得られなかった施策を割り出し、原因を突き止めます。
原因がわからない場合は、より粒度を細かくし、分析の精度を高めて原因を探ります。
分析精度を向上する
MMMでは、初期の分析は精度が低い傾向にあるため、最終的な結果を出すまでには、いくつかの調整が必要です。データのクリーニングや欠損値の補完、粒度の設定、予算の配分などを調整し、再度分析し、精度が高まったかを確かめます。MMMを使いこなすには、高度な統計知識と分析スキルが求められます。必要に応じて、専門家と連携することが有効です。
MMMの課題
MMMは、柔軟性があり、施策全体の成果把握に役立つ分析手法です。その一方で、分析やデータ収集においては課題があります。ここでは、4つの課題について、解説します。
個人ベースの詳細な分析が難しい
MMMでは、顧客の個人情報や利用情報などのデータは収集しません。顧客の購入履歴や氏名、クレジットカード情報などのプライバシーデータを必要としないため、情報漏洩のリスクを下げられるメリットがある一方で、個人ベースでの詳細な分析は困難です。
高い専門性が要求される
複雑に作用し合うデータを分析するためには、高度な統計知識や統計学、計量経済学などの専門知識が必須です。施策間の相互関係や複雑な要素を適切に反映できなければ、誤った分析結果につながりかねません。MMMを効果的に活用するには、信頼できる専門家・パートナーと連携することが不可欠です。
データがなかなか集まらない
MMMの分析精度はデータの質に比例します。MMMは複数の要素を包括的に評価する分析手法のため、正確な結果を獲得するためには、データの種類と長さが必要です。売上データ、広告費、季節性など多角的な視点のデータと、2〜3年分の週次または月次のデータを組み合わせることで分析精度が高まります。データが不足したまま分析を行っても、マーケティング戦略によい影響を与えません。
細かい粒度の分析には向かない
MMMは、顧客のフィードバックやエンゲージメントデータは必要としません。顧客体験に関するデータを組み込まないため、特定の広告クリエイティブやターゲットセグメントなど、細かい粒度の分析には不向きです。
まとめ
MMMを活用し、施策ごとの効果を定量的に測ることで施策全体の把握や成功率の予測立案に役立てられます。ただし、MMMは、個人データを収集しないため、細かい分析は不向きです。株式会社マクロミルでは、マーケティングリサーチとデジタルマーケティングリサーチを中心に、多様な社会・消費者ニーズを分析し、クライアントに的確な消費者インサイトを提供しています。
株式会社マクロミルでは総合マーケティング支援企業として、当社が提供するデータと顧客が保有するデータなどを融合させ、その利活用にともに取り組む「データ利活用支援事業(データ・コンサルティング)」と、広告配信やCRMなど、最終的に顧客企業のマーケティング活動と連動するソリューションを提供する「マーケティング施策支援事業」を一気通貫で提供しています。