「駅のホームで見かける“トイレ”のマーク」
「エレベーターの上下矢印」
「飲食店の“禁煙”アイコン」
「アプリ内で見かける“保存”や“共有”のシンボル」
これらすべてに共通しているのが、ピクトグラム(Pictogram)という表現技法です。
ピクトグラムは、視覚的・直感的な理解を目的として使われる記号のひとつですが、単なる“マーク”ではありません。
近年では、デザイン表現の一部としてだけでなく、インフォメーションデザイン、UI/UX、グローバルブランディング、SDGs文脈におけるアクセシビリティの鍵としても注目されています。
この記事では、「ピクトグラムとは?」という基本的な定義から、その起源・役割・ビジュアル表現・マーケティング活用・デザイン設計の原則まで、わかりやすく解説していきます。
- ピクトグラムの定義:言葉を使わずに“伝える”ための記号
- アイコンとの違いは?
- ピクトグラムの起源と進化
- ピクトグラムがマーケティングにもたらす3つの効果
- ユーザー行動に“ラグ”を生まないインターフェース設計
- ブランドの“非言語戦略”としてのピクトグラム
- ピクトグラムを設計する際の基本原則
- ピクトグラム制作時に参考になる国際ガイドライン
- 失敗するピクトグラムの特徴
- ピクトグラムはブランディングの“非言語資産”である
- SDGs・アクセシビリティとの接続:ピクトグラムの社会的価値
- ピクトグラム設計時のチェックリスト(制作・運用向け)
- まとめ:ピクトグラムとは、“意味を設計する”というデザインの本質
ピクトグラムの定義:言葉を使わずに“伝える”ための記号
ピクトグラムとは、言語や文化、知識の差に関係なく、“視覚的に情報を伝える”ために用いられる図記号やシンボルのことです。
英語では「Pictogram」あるいは「Pictograph」と表記され、「pict(絵)+gram(記号)」に由来しています。
一般的には、以下のような特徴があります。
- 誰でも直感的に意味が理解できる
- 文字情報を補完・代替する役割を持つ
- 国籍・言語・文化・リテラシーの違いを超える情報伝達手段
- グラフィックデザイン、標識、UI、地図、案内板など幅広く使われる
たとえば、「電話」「階段」「お手洗い」などの行動や、「禁止」「注意」「危険」などの指示を、図として簡潔に伝えられるのがピクトグラムの強みです。
アイコンとの違いは?
「アイコン」と「ピクトグラム」は混同されがちですが、厳密には以下のような違いがあります。
| 項目 | ピクトグラム | アイコン |
|---|---|---|
| 主な目的 | 公共性のある情報伝達 | UI操作やデジタル操作の補助 |
| 用途 | 標識・サイン・案内板など | アプリ・ボタン・ウェブUIなど |
| 表現の自由度 | 制約が強く、抽象度が高い | 柔軟でブランド表現に寄せられる |
| 意図する理解対象 | 不特定多数・多言語環境 | 特定環境(アプリユーザーなど) |
→ 実務では両者が融合するケースも多く、“用途によって使い分けるべき言語”と捉えるのが適切です。
ピクトグラムの起源と進化
ピクトグラムの歴史は非常に古く、人類が文字を発明する前から、絵文字(象形文字)として情報伝達に使われてきました。
- 古代エジプトのヒエログリフ(聖刻文字)
- 中国の甲骨文字
- 古代メソポタミアの楔形文字も、起源は絵でした
しかし、現代的な意味での「ピクトグラム」が国際的に整備され始めたのは20世紀中盤以降です。特に以下の出来事がエポックとなりました。
1964年 東京オリンピック
開催国として外国人観光客への対応が急務だった日本は、言語に依存しない“視覚言語”としてのピクトグラムを体系的に整備。
トイレ、案内所、飲食、喫煙所など、今日私たちが当たり前のように見る記号の多くが、このときに生まれました。
ISOによる国際規格化
その後、国際標準化機構(ISO)がピクトグラムの設計ルールや使用ガイドラインを制定。
工場、交通、空港、公共施設、災害対応などの現場でも、国境を越えた“共通言語”として利用されるようになりました。
デジタル時代の到来とUI/UXへの応用
Webやスマートフォンが普及すると、限られた画面内で多くの機能を直感的に伝える必要が生まれ、ピクトグラムはUIデザインでも不可欠な存在となります。
- メール=封筒のアイコン
- 保存=フロッピーディスクのアイコン
- シェア=矢印とネットワークのアイコン
→ ピクトグラムは今や、“文化”や“行動様式”までも内包した、意味を持つ図形として進化しています。
ピクトグラムがマーケティングにもたらす3つの効果
ピクトグラムは、単なるデザインパーツではありません。
その存在は、顧客体験・ブランド認知・情報伝達の3つの視点で、マーケティングにおいて重要な役割を果たしています。
では、具体的にどのような効果があるのでしょうか。
1. ユーザーの“迷い”を減らし、行動を加速させる
ユーザーは常に「分かりづらさ」に対してストレスを抱えています。
そのストレスは、離脱・誤操作・購買中止といったコンバージョン低下の主因にもなります。
ピクトグラムは、そうした“言語化されない迷い”を減らすツールです。
たとえば…
- 「カートに入れる」「レジへ進む」などのアイコンでECサイトの動線がスムーズに
- 多言語ユーザーに対して「配送・返品・支払い方法」を言語に頼らず案内
- タッチパネルやアプリの「ホーム」「戻る」「検索」などを直感操作可能に
→ 結果として、購入率・完了率・満足度が向上し、マーケティングROIに直結します。
2. 記憶されやすい=ブランドの“視覚資産”になる
人の記憶に残る情報の約80%は「視覚から入る」と言われています。
ピクトグラムは、言語よりも速く・強く・感情に響く形で記憶に残るため、ブランドの一部として機能する視覚言語になります。
例:
- YouTubeの再生マーク(三角形)
- Appleの設定アイコン(歯車)
- Googleマップのナビゲーションアイコン
- 無印良品やニトリのタグアイコン(店舗での統一表記)
→ アイコンがブランドの“印象記号”となることで、検索される前に思い出されるというポジションを獲得できます。
3. “非言語”での接点が信頼と快適さを生む
言葉を交わす前に「理解された」と感じる体験には、深い信頼や好意が宿ります。
ピクトグラムによって、次のような“ストレスフリー体験”が設計できます。
| 状況 | ピクトグラムの効果 |
|---|---|
| 外国人観光客の施設利用 | 言語が分からなくても設備・ルールを理解できる |
| 高齢者のアプリ利用 | 文字が読めなくても機能の意味が伝わる |
| 子どもの店舗体験 | マークで場所や使い方を予測できる |
→ ピクトグラムは、「私のことを考えてくれている」設計として、好印象を醸成する要素になるのです。
ユーザー行動に“ラグ”を生まないインターフェース設計
マーケティングにおいて「ユーザーが迷わず動ける設計」は、CV・LTV・NPS®などの指標に直結します。
ピクトグラムは、この“行動までのラグ(時間差)”を削減する設計ツールとして非常に有効です。
タッチパネル/モバイルUIでの動線誘導
メニュー内のアイコンで項目を視覚的に仕分け
- 商品一覧のカテゴリ分けにアイコン+ラベルを併用
- 操作説明を動画やGIFではなく、簡潔な図で表現
→ とくにモバイル環境では、ピクトグラムが文章よりも早く、広く届くコミュニケーション手段となります。
ピクトグラム×コピーの組み合わせで“視覚と言語”を補完
例:
- ❌:文字だけ →「ログインしてご利用ください」
- ⭕:ピクトグラム+テキスト →「🔑 ログイン(会員ページへ)」
このように、図とテキストが“二重構造”になっている設計は、視認性・可読性・可理解性を高め、ユーザー満足度向上に寄与します。
「読む」より「見て判断する」UXへ
「見る→考える→理解する」ではなく、
「見た瞬間に判断できる」状態を設計するのが、ピクトグラムを活かしたUXです。
たとえば…
- 通知:🔔
- 保存:💾
- ダウンロード:⬇️
- 音量ON/OFF:🔈/🔇
→ 行動の“スキップ設計”こそが、ピクトグラムの真価です。
ブランドの“非言語戦略”としてのピクトグラム
マーケティングは「言葉で伝える技術」と思われがちですが、これからの時代は“言葉を超えて伝える技術”=非言語戦略が差別化の鍵となります。
ピクトグラムは、その象徴的な存在です。
- UIだけでなく、SNS投稿・動画・マニュアル・チラシでも活用できる
- グローバル展開時に翻訳せずに情報が届く
- “見た瞬間に伝わる”=ユーザーの感情に働きかける
→ 「わかりやすい」は競合優位性になります。
ピクトグラムを設計する際の基本原則
ピクトグラムは「誰でも伝わる」ことが前提となるため、自由なアートとは異なり、厳密なルールや設計思想が存在します。
そのため、企業や自治体、Webプロジェクトでオリジナルのピクトグラムを作成する際にも、「美しさ」より「伝わりやすさ」が優先されるのが特徴です。
ここでは、ピクトグラム設計の際に意識すべき基本原則を解説します。
抽象と具象のバランス
ピクトグラムは抽象記号である一方、意味が伝わらなければ意味がありません。
つまり、リアルすぎても抽象すぎてもNGであり、「誰が見ても“それ”とわかる形状」である必要があります。
例:
- 正解:手洗い → 手と水・泡がわかるシンプルな形
- 誤解されがち:洗濯か料理か分からない、抽象化しすぎた手のイラスト
→ ポイントは、詳細を削ぎ落としつつ“行動・意味の最小単位”を残すことです。
線の太さ・角の丸み・傾きの統一
複数のピクトグラムを1セットとして使う場合は、統一感が命です。
| デザイン項目 | ガイドライン例 |
|---|---|
| 線幅 | 2px〜4pxなど規定の太さで統一 |
| ラウンド具合 | 全ての角を角丸4pxで統一、または完全直角に揃える |
| 向き | 全アイコンの視線・矢印の向きを同一方向に |
| グリッド | 16px・24px・32pxのいずれかのベースに沿って配置 |
→ 統一感のないピクトグラムは情報としての信頼性や完成度を損ねるため、デザインルールを明文化しておくことが重要です。
配色とコントラストの設計
ピクトグラムは、視認性と意味の伝達が最優先。
そのため、「色に頼りすぎない」こと、逆に「色の意味性を整える」ことが両立して求められます。
| 配色の注意点 | 解説 |
|---|---|
| 単色での利用を前提に設計する | 色覚多様性に対応しやすく、印刷媒体でも対応可能 |
| カラーに意味を込める場合は一貫性を持たせる | 青=案内/赤=注意/緑=許可 など |
| 色だけに頼らず形や記号でも補完する | 色弱者や視認性の低い環境への配慮 |
ピクトグラム制作時に参考になる国際ガイドライン
ピクトグラムには、国際的な規格やリファレンスがいくつか存在し、それらを参照することで「伝わる表現のベースライン」が見えてきます。
ISO 7001(公共施設の案内用図記号)
- 空港・鉄道・病院・市役所などでよく見られる案内ピクトグラムの国際基準
- トイレ・出口・案内所・駐車場などの図記号が網羅されている
- フォントで言えば“Helvetica”のような標準性があり、応用のベースになる
JIS Z8210(日本産業規格)
- 安全標識や案内表示に関する国内ガイドライン
- 警告・禁止・指示などの「意味と形状の対応関係」が明確に規定されている
- 官公庁や自治体のデザイン案件では遵守が求められるケースもある
Olympic/Paralympic ピクトグラムの設計事例
- 1964年東京オリンピック:視覚言語としてのピクトグラムの起源
- 2020年東京オリンピック:動きのある“動くピクトグラム”が話題に
- 各競技の動作特性を記号に落とし込む設計プロセスは、UI/UXにも応用できる
失敗するピクトグラムの特徴
マーケティングやサービス開発の現場で、“わかりにくい”“使いづらい”ピクトグラムに遭遇することがあります。
それらの多くは、以下のような誤りを含んでいます。
デザイナーの感性が先行しすぎて意味が伝わらない
- アーティスティックすぎて「何を表しているのか」が曖昧
- リアルな人物イラストに寄せすぎて記号性がなくなる
- 個性的な線やタッチで、ブランドトーンとは合っていない
→ ピクトグラムは表現ではなく“機能”であるという意識が重要です。
ブランドごとに意味が変わってしまう
- 他社では「+」が“お気に入り追加”、自社では“共有”
- 「ハート」アイコンが“いいね”と“購入済”で共存
- 「ベル」が通知だけでなく「在庫アラート」にも使われてしまう
→ ユーザーの記号解釈に一貫性がないと、UXの混乱を生み、誤操作や離脱につながります。
コピーや文脈との整合性がとれていない
- ピクトグラムは「禁止」なのに、隣のコピーが「ご自由にどうぞ」
- 「予約」のピクトグラムが“カレンダー”ではなく“電話”のイラスト
- 視線誘導と反対方向を向いた矢印ピクトグラムが置かれている
→ ピクトグラムとコピーはセットで意味が成立します。言語と非言語が矛盾すると、信頼性を損なう結果に。
ピクトグラムはブランディングの“非言語資産”である
ピクトグラムは“意味を伝える記号”であると同時に、ブランドにとっての“非言語的アイデンティティ”でもあります。
ユーザーが“無意識に触れる情報”の中で、印象に残る要素として、ピクトグラムは以下のようなブランディング効果を持ちます。
ブランドトーンの一貫性を強化する
ピクトグラムは、文字よりも感覚的で、ブランドの世界観や思想を“視覚的に統一”する手段になります。
| ブランド | ピクトグラム活用の例 |
|---|---|
| Apple | 極限までミニマルなUIアイコンで統一感と高級感を演出 |
| 無印良品 | 日本語を排し、ピクトグラム中心のタグやサインで世界共通化 |
| IKEA | 組み立て説明書で言語ゼロ、ピクトグラムと図だけで設計 |
→ 色・形・余白・丸みなど、ピクトグラムの“美学”そのものがブランドの語り方になっているのです。
多言語・多文化対応としての“開かれたブランド”をつくる
ピクトグラムを用いることで、企業やブランドは国籍・年齢・読み書き能力を問わずに“伝える力”を手にします。
- インバウンド対応:空港や観光地、自治体サイトなど
- 海外展開時のマニュアル・商品パッケージ
- アプリや製品における言語スイッチ不要な操作設計
→ 「翻訳しなくても伝わるブランド」は、“選ばれる”だけでなく“広がりやすい”ブランドになります。
SDGs・アクセシビリティとの接続:ピクトグラムの社会的価値
ピクトグラムの活用は、企業の“社会的責任”とも接続しています。
SDGs達成への貢献
| SDGs目標 | 関連するピクトグラム活用例 |
|---|---|
| 目標10:不平等をなくす | 情報格差をなくす視覚設計/言語に依存しない案内 |
| 目標4:質の高い教育を | 図解教材や非言語型eラーニングの整備 |
| 目標11:住み続けられるまちづくり | 誰もが理解できる公共空間の案内設計 |
→ 「誰にでも情報が届く社会」を、ピクトグラムは設計の力で支えます。
アクセシビリティ向上の重要な要素
- 色覚に左右されない形状と明度差
- 読み書きが苦手な方でも理解できる視覚言語
- 外国語が読めなくても、重要な意味を把握できるUI
→ これらは、「最初から誰も排除しない設計」として、組織のDEI(多様性・公平性・包摂性)実践にもつながります。
ピクトグラム設計時のチェックリスト(制作・運用向け)
ピクトグラムを制作・運用する際には、以下のチェック項目を確認することで、「伝わる」「整う」「育つ」デザインが可能になります。
制作時のチェックリスト
- 意図する意味が“一目で”わかるか?
- 他社の似たピクトグラムと差別化できているか?
- サイズを変えても見え方が崩れないか?
- 多言語環境・多文化文脈でも通じる表現か?
- 同じブランド内でスタイルガイドに従っているか?
運用・改善時のチェックリスト
- 定期的にユーザー行動と照らし合わせて“迷い”がないか検証しているか?
- フィードバックをもとに形や意味を調整できる柔軟性があるか?
- 新たに追加されるアイコンも、統一感を保っているか?
- ピクトグラムとコピー(言語)との整合性が取れているか?
まとめ:ピクトグラムとは、“意味を設計する”というデザインの本質
ピクトグラムとは、ただの図記号ではなく、“誰かの行動を助ける設計”です。
それはときに、安心や共感を生み、ブランドを思い出させ、社会をやさしく包み込むコミュニケーションにもなります。
- わかりやすく
- まぎらわしくなく
- 文化や言葉を越えて
- 記憶に残り
- 誰にとっても美しい
この5つを満たす設計ができたとき、ピクトグラムは“意味のデザイン”として、マーケティングにもブランディングにも、社会貢献にも通用する武器となるのです。
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