「あなたの会社は、何のために存在していますか?」
「そのブランドは、社会にとってどんな意味を持っているのでしょうか?」
こうした問いが、いま世界中の企業に突きつけられています。業績や市場シェアだけでは、もはや企業の価値を語りきれない時代。利便性や機能だけでは、ブランドが選ばれない時代。そこで注目されているのが「パーパス(Purpose)」という概念です。
パーパスとは、簡単に言えば「存在意義」のことです。企業やブランドが“何をするか”ではなく、“なぜそれをするのか”を言語化したものであり、社員、顧客、社会といったすべてのステークホルダーに向けた“意味の設計”といえます。
本コラムでは、「パーパスとは何か?」という基本から、背景、MVVとの違い、設計方法、実例、ブランド戦略・採用・社内文化への影響、そして“言葉で終わらせないための運用視点”まで体系的に解説します。
- パーパスとは?定義と意味
- なぜ今、パーパスが注目されているのか?
- パーパスとMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の違い
- パーパスを設計するための4つの視点
- 良いパーパスの共通点
- パーパスが企業活動に与える影響
- パーパスを“言葉だけで終わらせない”ために
- まとめ:パーパスとは“問いを持ち続ける組織”の旗印である
パーパスとは?定義と意味
パーパス(Purpose)とは、企業やブランドが「なぜ存在しているのか」「何のために活動しているのか」という“存在意義”を明確にした言葉です。
単なる目標や戦略ではなく、もっと根本的な問い――
「私たちは、どんな価値を世の中にもたらす存在なのか?」
「このビジネスは、誰に対して、どんな意味を持っているのか?」
に答えるものです。
たとえば、以下のようなパーパスがあります。
- Unilever:「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」
- IKEA:「より快適な毎日を、より多くの方々に」
- 日本航空(JAL):「多くの人々やさまざまな物が自由に行き交う、心はずむ社会・未来を実現し、世界で一番選ばれ、愛されるエアライングループを目指します。」
パーパスは、企業理念の一部として掲げられることも多いですが、単なる言葉ではありません。パーパスが「機能する」とは、それが戦略、行動、意思決定にまで浸透していることを意味します。
なぜ今、パーパスが注目されているのか?
社会課題との向き合い方が問われている
環境問題、格差、ジェンダー、戦争、パンデミック…。現代の企業は、社会と切り離されてビジネスを続けることができなくなっています。株主ではなく社会全体に対して「どんな存在であるか」が問われています。
“共感”によって選ばれる時代へ
商品スペックや価格では差別化が難しくなった今、「どんな世界観を信じているか」「社会とどう関わっているか」が、選ばれる理由になりつつあります。
Z世代の価値観の変化
「給与よりも理念」「スキルよりも共感」「効率よりも意味」を重視する若い世代にとって、パーパスは“働く理由”や“買う理由”の根拠になっています。
サステナビリティとガバナンスの要請
ESG投資、SDGs、人的資本開示など、企業に“外向きの意味づけ”が求められる流れが強まっています。パーパスはその根幹にある“軸”となります。
パーパスとMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の違い
混同されがちなMVV(Mission / Vision / Value)とパーパスの違いは以下の通りです。
| 概念 | 定義 | 時間軸 | 主語 | 対象 |
|---|---|---|---|---|
| パーパス | 存在意義 | 永続的 | なぜ | 社会・世界 |
| ミッション | 使命・役割 | 中期 | 何を | 顧客・業界 |
| ビジョン | 目指す姿 | 将来 | どこへ | 組織全体 |
| バリュー | 行動指針 | 常時 | どうやって | 社員・文化 |
パーパスは最も抽象度が高く、他のMVVを貫く“背骨”として設計されるべきものです。
パーパスを設計するための4つの視点
パーパスは机上でひねり出すものではなく、企業の本質と対話しながら見出していくものです。以下の4つの問いがその出発点となります。
原点:創業の理由は何か?
創業者が見ていた社会課題や、初期に大切にしていた哲学を再確認します。
影響:自社が社会に与えている価値とは?
直接的な顧客への提供価値だけでなく、間接的な影響や長期的貢献にも目を向けます。
独自性:他社にはない“らしさ”とは?
ビジョンや商品は似ていても、「なぜそれをやるのか」の答えは企業によって異なります。
共感性:社員や顧客に“自分ごと”として語られるか?
聞いた人が「それって私たちの話だ」と思える言葉になっているかが、共感の鍵です。
良いパーパスの共通点
- 短く言い切れている(15〜30文字程度が理想)
- 意志が感じられる動詞が含まれている(例:届ける、変える、支える)
- 社会との関係性が含まれている(誰のために、どんな価値を)
- どの部署の仕事にも通じる抽象性がある
- 社員が説明できる、語れる言葉になっている
パーパスはセールスコピーではなく、“翻訳可能な信念”である必要があります。
パーパスが企業活動に与える影響
経営判断の軸になる
新規事業、投資、採用方針などあらゆる意思決定において「パーパスに沿っているか?」が判断基準になります。
マーケティングと一貫性を生む
商品開発、広告表現、PR、顧客体験において“伝えるべき価値観”が明確になります。
社員のモチベーションを支える
単なるKPIではなく、「なぜこの仕事をするのか」という内発的動機づけにつながります。
ステークホルダーとの関係性が深まる
株主、地域、行政、メディア、未来世代との対話の軸として機能します。
パーパスを“言葉だけで終わらせない”ために
- 採用・研修で語る(社員全員が言語化できるように)
- 経営会議で照合する(施策とパーパスの整合性を確認)
- 広告・PRに登場させる(単なる“理念”ではなくブランドの一部に)
- KPIに紐づける(たとえば「売上×社会的貢献」など)
- 社内報やナレッジ共有で具体事例を積み上げる
パーパスは“掲げて満足”では意味がありません。パーパスを“組織の習慣”にする運用こそが、本質的なブランディングです。
まとめ:パーパスとは“問いを持ち続ける組織”の旗印である
パーパスとは、組織にとって「なぜ、いまこの事業を行うのか」「なぜ、私たちでなければならないのか」に対する明確な答えであり、未来に向けた問いでもあります。
それは、単なる社会貢献ではなく、ブランドが自らに課す“態度表明”であり、ビジネスと社会をつなぐ“翻訳装置”でもあります。
パーパスが機能することで、
- 顧客との絆は深まり
- 社員の視点は統一され
- 社会との対話が生まれ
- 意思決定の速度と納得感が高まる
という好循環が起こります。
パーパスとは、企業を“何をするか”ではなく、“なぜそれをするのか”で語るための、強く静かな羅針盤なのです。
