タグラインとは?ブランドの“心”を一言に凝縮する言葉の設計術

「それ、聞いたことあるけど、何の会社だっけ?」
「このフレーズ、どこかで見た気がするけど、意味が思い出せない」
そんな経験は誰にでもあると思います。そして逆に、「あの言葉=あのブランド」と即座に結びつく瞬間も、同じように誰の記憶にも刻まれているはずです。

この「ブランドと記憶をつなぐ役割」を担うのが、タグライン(Tagline)です。企業や商品のアイデンティティを、数文字から一文で表現するこの“短いことば”には、驚くほど大きな役割が詰め込まれています。

本コラムでは、「タグラインとは何か?」という基本から、その目的、コピーとの違い、有名事例、作り方、マーケティングとの関係、社内外への影響、そして良いタグラインに共通する要素までを深掘りしていきます。

監修

Macromill News 事務局

監修:株式会社マクロミル マーケティングユニット

20万人以上が登録するマーケティングメディア「Macromill News」を起点に、マーケティング知見や消費者インサイトに関わる情報を発信。

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タグラインとは?定義と役割の基本

タグラインとは、企業や商品・ブランドのメッセージや理念、価値を短いフレーズに凝縮して表現したキャッチフレーズのことです。「ブランドの核となる言葉」「理念を伝えるシグナル」と言い換えてもよいでしょう。

広告でよく使われる「キャッチコピー」と混同されることも多いですが、タグラインは「一時的」ではなく「長期的」に使われる前提で設計される点が異なります。たとえば、CMのキャンペーンコピーは数か月で変わっても、タグラインは何年、あるいは十年以上も使い続けられることがあります。

タグラインの主な役割は以下の三つです。

  • ブランドの世界観や価値観を明示すること
  • 他社との差別化ポイントを直感的に伝えること
  • 顧客の記憶とブランドを結びつける「記号」として機能すること

つまり、タグラインは「意味のある合言葉」として、ブランドの存在意義や方向性を一文で語るための装置なのです

キャッチコピーとタグラインの違い

混同されやすい「キャッチコピー」と「タグライン」ですが、両者には役割や設計思想において明確な違いがあります。

項目キャッチコピータグライン
目的一時的な注目喚起・集客長期的なブランド構築
使われ方キャンペーンごとに変わる一貫して使い続ける
デザインとの関係主に広告物(LPやバナー)で目立たせるロゴや名刺、Webサイト全体に紐づく
長さ自由。ときに長文も原則として短く、言い切りが多い

タグラインは、広告よりも“ブランディング”の文脈で使われることが多く、企業の“言葉の顔”として位置づけられます

印象に残る有名なタグラインの事例

タグラインの力は、記憶に残りやすさと、ブランドの意味づけのうまさに現れます。ここでは、国内外で知られるいくつかのタグラインを紹介します。

  • Apple「Think Different.」
  • Nike「Just Do It.」
  • L’Oréal「Because you’re worth it.」
  • ユニクロ「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」
  • サントリー「水と生きる」
  • JT「ひとのときを、想う。」
  • パナソニック「A Better Life, A Better World」

これらに共通するのは、「商品説明ではなく、価値観を語っている」という点です。機能や価格ではなく、「何のためにこのブランドは存在するのか?」という哲学や思想がにじみ出ています

タグラインの設計で意識すべき7つの要素

良いタグラインにはいくつかの共通点があります。以下のポイントを意識することで、精度の高いフレーズ設計が可能になります。

1. 短く、覚えやすい

原則として10文字〜15文字以内で、音として読みやすく、語呂も重要です。読み上げたときに“口に残るか”を意識します。

2. 理念と行動がつながる

単なるきれいごとではなく、「それを掲げることで、ブランドの選択や行動が変わる」内容であることが望まれます。

3. 差別化ポイントが含まれている

他社と比較したときのユニークさ、自社のポジショニングが伝わるようにします。

4. 未来を語っている

過去や現在ではなく、「これからどういう未来をつくっていくか」を語るタグラインは長く使われます。

5. 顧客目線がある

「企業が言いたいこと」ではなく、「顧客が共感し、繰り返したくなる」言葉かどうかを検証します。

6. 視覚との親和性がある

ロゴ・名刺・Webサイト・看板などに載せたときの「デザインとの収まり」も重要です。文字数や配置も考慮しましょう。

7. 語感・響きが美しい

語尾の音、リズム、母音の流れなどが耳に心地よいと、覚えてもらいやすくなります。

タグラインの作り方:プロセスと発想法

タグラインはひらめきだけでつくるものではありません。ブランドの戦略や言語設計と密接に関係しています。以下は一般的な制作プロセスです。

  1. ブランドのパーパス(存在意義)を明確化する
  2. ターゲットと提供価値(ベネフィット)を整理する
  3. 競合との差別化ポイントを洗い出す
  4. 上記をもとにキーワードやキーフレーズを抽出
  5. 言い換え・再構築・短文化を繰り返す
  6. 発音・視覚・多言語での確認
  7. 社内外でのテスト(共感性・汎用性・誤解されないか)

このプロセスを通して、「ブランドの軸」と「言葉の響き」をすり合わせていきます。

タグラインが果たす社内外への影響

タグラインは“外に向けた表現”であると同時に、“内に向けた言葉”でもあります

社内的には、

  • 社員がブランドのビジョンを日常的に意識できる
  • 組織の判断基準や文化形成に影響する
  • 採用活動での一貫性が保たれる

といった効果があり、ブランドの“共通言語”としての役割を果たします。

社外的には、

  • 顧客がブランドの価値を一言で想起できる
  • 取引先・投資家・メディアへの印象が統一される
  • 時代を超えて“語り継がれる”要素になる

つまり、タグラインは「伝える言葉」であると同時に、「組織と顧客の記憶に残る言葉」なのです。

タグラインの“失敗あるある”と注意点

タグラインづくりでありがちな失敗には、以下のようなものがあります。

  • おしゃれすぎて意味が伝わらない(例:「未来を想像しよう」→誰でも言える)
  • 抽象的すぎて記憶に残らない(例:「こころ、つながる」→どの会社でも通用する)
  • 社内向けに振りすぎて顧客目線がない(例:「挑戦を止めない」→顧客との接点が弱い)
  • ロゴやデザインと相性が悪い(例:長すぎてレイアウトに収まらない)

こうした“空振りタグライン”を避けるためには、制作初期にしっかりと「誰に何を伝えるか」を整理し、実際の使用シーンを想定したシミュレーションが欠かせません

タグラインの未来:AI・SNS時代における言葉の設計とは

AIコピーライティングやSNSの台頭により、ブランドの言葉はかつてないスピードで拡散され、変化し、時に切り取られます。そのため、これからのタグラインには次のような力が求められます。

  • 短くても意味が深い(140文字文化に耐えうる)
  • 社会性や多様性を考慮して炎上リスクを避ける
  • 響きだけでなく“文脈”として使える

また、生成AIの登場により、タグラインの初期案を機械的に出すことは容易になりました。しかし、「ブランドらしさ」や「文脈の奥行き」までを担保するには、依然として人間の審美眼と編集力が不可欠です。

タグラインは“会社の顔”であると同時に、“変化に耐える骨格”でもあるのです

まとめ:タグラインとは“ブランドの哲学を伝える一行”である

タグラインとは、単なるキャッチコピーではありません。それは、企業やブランドの存在意義を問い直し、誰のために、なぜこの事業をしているのかを一行に込める“言葉の中核”です。
優れたタグラインは、広告を超え、ロゴに刻まれ、社員の胸に残り、顧客の記憶に生き続けます。逆に、芯のない言葉は、いくらおしゃれでも意味を持ちません。
だからこそ、タグラインは“感性”だけでつくるのではなく、“設計”によってつくるべきものなのです。
そして何より、タグラインを通して自分たちのブランドをもう一度「言葉にしてみる」こと自体が、組織のアイデンティティを深く見直すきっかけにもなるでしょう
あなたのブランドには、どんな“言葉の背骨”が必要ですか?

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