ヒト試験(臨床試験)とは?実際の生活者を研究対象者(被験者)として食品やサプリメントの有効性や安全性を学術的に検証する研究手法
ヒト試験(臨床試験)とは、医薬品、食品、サプリメント等を人間を対象に有効性、機能性、安全性を科学的に評価する研究手法です。動物実験や実験室レベルの評価とは異なり、実際の人体反応をデータとして取得できるため、製品の効果や安全性を実証的に把握することができます。二重盲検ランダム化比較試験(RCT)など、臨床試験の多くは、データの信頼性を高める研究手法が採用されるのが特長です。
次章以降では、その中でも食品臨床試験について取り上げていきます。
食品臨床試験が求められる背景
食品科学や栄養学などの分野が進展する中で、食品の安全性や機能を生活者の実生活環境に近い形で検証するニーズが高まっています。実験室での評価や動物モデルでは予測しきれない人間特有の代謝や行動特性が存在するため、最終的な有効性や安全性を示すにはヒトを研究対象者(被験者)とした研究が重要とされています。
また、研究者や開発企業は成果を科学的根拠(エビデンス)として機能性表示食品の届け出や特定保健用食品(トクホ)の承認申請に利用さするため需要が増加しています。
食品臨床試験を支える要素
食品臨床試験を実施する場合、以下の要素が大きく影響します。
1.倫理審査とインフォームド・コンセント
学術的ルールやガイドライン(人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針等)に基づき、研究対象者(被験者)の人権保護やプライバシーを配慮した審査を経て、研究対象者に対して十分な説明と直接の同意を得る。
2.試験デザインと統計学的設計
二重盲検法、ランダム化比較試験(RCT)、クロスオーバーなどを活用し、外的妥当性と内的妥当性を両立。サンプル数や割り付け手順を慎重に設定し、バイアスを排除。
3.データ収集と解析
血液検査などの生化学指標や生理学的指標、アンケートなど多面的にデータを取得し、有意差を検証。学術論文や研究報告書に反映。
これらを厳密に実施運用することで、学会や学術誌の査読に耐える科学的エビデンスを確立できます。
食品臨床試験実施時の大まかな流れ
研究機関や企業が食品臨床試験を実施するには、まず研究目的の明確化と計画書の作成を行い、倫理委員会へ提出して承認を得ます。次に、研究対象者(被験者)の募集を行い、インフォームド・コンセントを取得した上で臨床試験を開始します。
開始後は、期間中に定めた生化学・生理学検査や各種測定、アンケートを行います。同時に日誌形式で研究対象者(被験者)から体調や服薬状況を聴取し、有害事象の収集も行います。集められたすべてデータを整理し、解析対象者を明確化したうえで統計解析を実施します。
最終的に、学会発表や論文を投稿し得られた知見を次の研究や製品開発に活か場合や、機能性表示食品の届け出や特定保健用食品(トクホ)の承認申請に用いることが一般的です。
食品臨床試験のメリットとデメリット
メリットとしては、実際の人間を対象にした試験結果であるため、研究成果の現実適用性(外的妥当性)や説得力が高まり、学術評価を得やすい点が挙げられます。また、研究対象者(被験者)の生化学・生理学検査に加え、主観的感想を含め多面的なデータを得られるため、様々考察から結論に至ることができます。
一方、デメリットとして、実施コストや期間、被験者の募集などハードルが高く、倫理面での配慮や厳密な計画が必須です。サンプル数やバイアス対策が不十分だと、学術的信頼性に疑問が生じる可能性や結果の解釈が難しくなります。
現代における食品臨床試験の役割
科学技術や学術分野が急速に進展する現代、ヒトを対象とした臨床試験や臨床研究は、製品・素材が実際の生活シーンでどのように作用するかを明らかにする上で非常に重要です。研究成果の社会実装を目指すにあたり、データを厳密に取得して安全性や有効性を立証する過程は避けて通れません。取得できるデータ種が多様化し復数間のデータ解析が進むことで新たな知見を得ることも可能となりつつあります。倫理的配慮とともに、学術的・社会的価値を見出すための食品臨床試験は、今後ますます学問と産業をつなぐ架け橋として発展が期待されています。
結論
食品臨床試験とは、実際の生活者を研究対象者(被験者)として食品の安全性・有効性を学術的に検証する研究手法であり、試験デザインや倫理審査、統計解析などを厳密に行うことで高い信頼性のエビデンスを得ることができます。