公開日:2025/10/17
「UIは綺麗なのに、なぜかユーザーが途中で離脱する」
「導線通りに進めば迷うはずがないと思っていた」
「思ったよりユーザーに伝わっていない…その理由がわからない」
こうした課題を解決するために、製品やサービスの“使いやすさ”をユーザー視点で評価する調査手法が「ユーザービリティテスト(Usability Testing)」です。
ユーザービリティテストとは、ユーザーが実際に操作する過程を観察・記録し、製品・サービスにおける“使い勝手の問題”を明らかにする評価手法です。UIの見た目だけでなく、機能の理解度、操作の負荷、ユーザーの迷いや感情の動きに至るまで、定性的・定量的な観点から検証できます。
この記事では、ユーザービリティテストの定義、目的、主な手法、設計・実施プロセス、分析・活用のポイントなどを体系的に解説します。
- ユーザービリティテストとは何か?その定義と評価対象
- ユーザービリティテストが必要とされる理由
- ユーザービリティテストとユーザーテストの違い
- 主な実施手法とその特徴
- テスト設計のステップと評価指標
- 観察・記録・分析のポイント
- まとめ:ユーザービリティテストは“直感”に頼らない設計改善の道具
ユーザービリティテストとは何か?その定義と評価対象
ユーザービリティテストとは、「ユーザーに製品やサービスを使ってもらい、その過程を観察・分析することで、使いやすさ(Usability)を定量・定性に評価する調査手法」です。
ここでいう“使いやすさ”には、以下のような観点が含まれます。
- 初見での理解しやすさ(Learnability)
- 実行時の操作しやすさ(Efficiency)
- 操作ミスの少なさと回復のしやすさ(Error rate & Recovery)
- 満足感(Satisfaction)
ユーザービリティテストは、開発・リリース前の段階で課題を洗い出すためだけでなく、すでに運用中のサービスの改善フェーズにおいても非常に有効です。
ユーザービリティテストが必要とされる理由
多くのプロダクトは、企画段階でユーザー目線を意識して設計されています。しかし、実際のユーザーがそれを“直感的に使えるかどうか”は、開発者やデザイナーの思いとはしばしば異なります。
ユーザービリティテストが重要とされる理由は、次のような現場課題に対する“可視化と解決”を可能にするからです。
見た目ではなく“使い勝手”の問題を明らかにする
「デザインが洗練されている=使いやすい」とは限りません。見た目が良くても、ユーザーが迷ったりストレスを感じたりすることは珍しくありません。テストでは、実際の操作行動に基づき“表には現れにくい問題”を発見できます。
ユーザーの行動は“期待通り”ではない
設計者は、“この位置にボタンがあるから押されるはず”という前提で構成をつくります。しかし、ユーザーは異なる文脈や経験をもとに操作します。テストによって、“設計者の意図とユーザーの実際”のズレが浮かび上がります。
改善すべき“優先順位”が明確になる
テストを通じて得られる「離脱箇所」「操作ミス」「所要時間」「感情のゆらぎ」などのデータは、改善点の優先度付けに役立ちます。見た目の印象や個人の主観に頼らない意思決定が可能になります。
ユーザービリティテストとユーザーテストの違い
よく混同されるのが「ユーザーテスト」と「ユーザービリティテスト」の違いです。両者は目的や観察ポイントに共通点も多いですが、その焦点には明確な違いがあります。
比較項目 | ユーザービリティテスト | ユーザーテスト |
---|---|---|
主目的 | 使いやすさ(操作性)の検証 | 概念や機能の受容性の確認 |
評価軸 | 誤操作・迷い・操作時間など | 理解度・感情反応・行動理由など |
主な評価対象 | UI/インタラクション設計 | 機能そのものや体験価値 |
観察の中心 | タスク実行中の効率と障害 | 思考や選択の背景 |
ユーザービリティテストは“使いやすさ”、ユーザーテストは“使いたさ”に関する評価に適しています。
主な実施手法とその特徴
ユーザービリティテストは、目的や対象ユーザー、評価したいプロダクトの状態によって実施形式を柔軟に選ぶことができます。以下に代表的な手法を紹介します。
モデレーテッド(進行者付き)テスト
モデレーターが同席し、リアルタイムで観察・質問を行う形式です。操作時の戸惑いや発話内容を即座に確認でき、深掘りも可能です。
- 特徴:問題発見と背景理解の精度が高い
- 向いている場面:初期検証/仮説の掘り下げ/複雑なUIの評価
アンモデレーテッド(無人型)テスト
あらかじめ設定されたタスクを、ユーザーが独自の環境で実施する形式です。録画・ログデータを通じて行動を後から分析します。
- 特徴:大人数に対して短期間で実施可能/コストも低め
- 向いている場面:量的な傾向の把握/複数画面の比較テスト
シンクアラウド方式
ユーザーに「今何を考えながら操作しているか」を声に出してもらう形式です。思考プロセスや認知の流れを可視化するのに有効です。
- 特徴:思考の裏側を観察できる/インサイト抽出に強い
- 向いている場面:初見UXの検証/新機能の理解度評価
ベンチマークテスト
所要時間、成功率、エラー数などの定量指標を使い、ユーザービリティを数値で評価します。複数バージョンの比較や、リリース前の品質チェックに適しています。
- 特徴:再現性が高く、データで説明しやすい
- 向いている場面:リニューアル評価/改善効果の測定
テスト設計のステップと評価指標
ユーザービリティテストの効果を最大化するには、調査前の“設計段階”がカギを握ります。以下に設計の基本ステップと、代表的な評価項目を紹介します。
テストの目的を明確にする
- 例:「会員登録フォームの完了率を高めたい」
- 例:「モバイル画面の操作ミスを減らしたい」
目的は1回のテストで1〜2個に絞り、評価軸と観察対象を明確にします。
タスク設計を行う
ユーザーに実行してもらうタスクは、“具体的なゴール”を持たせながらも、“操作の自由度”を残して設計するのがポイントです。
✕:このボタンを押してログインしてください
○:このサービスにログインして、プロフィールを編集してください
評価指標を設定する
- タスク完了率:指定されたゴールに到達した割合
- 所要時間:タスクにかかった時間
- 操作エラー数:誤クリック、無駄な操作など
- ヘルプ要請数:モデレーターへの質問・確認の回数
- 主観的評価:満足度スコア、操作負荷の自己申告値など
複数の指標を組み合わせることで、ユーザー行動の全体像が把握しやすくなります。
観察・記録・分析のポイント
ユーザービリティテストでは、テスト中に起きたすべての事象が“改善のヒント”になります。観察と記録を丁寧に行い、構造的に分析することで、設計の精度と意思決定のスピードが大きく向上します。
観察:行動・発言・表情を多角的に見る
- 単に「どの操作をしたか」だけでなく、「なぜそうしたのか」「どう感じていたか」を観察します
- 特に重要なのは“沈黙”や“言いよどみ”など、無意識の反応です
- シンクアラウド法を併用することで、思考の流れがつかみやすくなります
記録:定性と定量をセットで残す
- 動画録画、スクリーンレコーディング、行動ログ、タイムスタンプ付きのメモなど、複数の手段を併用します
- モデレーターだけでなく、複数人で同時に観察することで視点の偏りを抑えられます
- テスト終了直後に“ホットレビュー”(即時ふりかえり)を実施するのが効果的です
分析:構造化されたインサイトを抽出する
- 共通する失敗や迷いを抽出し、「どの画面で」「なぜ」「何が起きたか」を整理します
- 「頻度」「深刻度」「発見のしやすさ(直感性)」を基準に、改善優先度を分類します
- チームでの分析レビューでは、観察者ごとの所感を突き合わせながら、因果関係を明確にしていきます
まとめ:ユーザービリティテストは“直感”に頼らない設計改善の道具
ユーザービリティテストとは、ユーザーが製品やサービスをどのように“感じながら”“操作しながら”使っているかを、客観的に捉えるための実践的な評価手法です。
- 美しいUIも、意味が通じなければ機能しません
- 複雑な機能も、理解できなければ存在しないも同然です
- 想定どおりに動いても、ユーザーが迷えばそれは“失敗”です
こうした“使われ方”に潜むギャップを可視化するのが、ユーザービリティテストの役割です。
“つまずき”の中にこそ、最高の設計ヒントがある
ユーザーが迷う瞬間、躊躇するタイミング、想定外の操作。
それらはすべて、設計者が“もっとよくできる余地”を見せてくれている証拠です。
ユーザービリティテストによって得られたフィードバックは、単なる批評ではなく“次の改善”の起点となります。
- 自社のサービスに対する思い込みを捨て
- ユーザーの行動を丁寧に観察し
- データと実感を両輪にした意思決定を行う
それこそが、プロダクトの価値を引き上げ、継続利用や好意形成につながる最短ルートです。
“調査”ではなく、“共創”として捉える
ユーザービリティテストを単なる検証フェーズと捉えるのではなく、ユーザーとの共創プロセスと考えることができれば、開発やデザインの現場にも“ユーザー視点”が根付きます。
ユーザービリティテストは、
“正解を探す道具”ではなく、
“より良い問いをつくる装置”です。
テストを重ねるごとに、チームもプロダクトも成長していきます。
著者の紹介

株式会社マクロミル
鳥居 慧
2009年に株式会社マクロミルに入社。
10年以上にわたり定量調査から定性調査まで幅広いリサーチサービスの運用部門に従事し、10,000件以上のプロジェクトに関与。
2024年、セルフ型のオンラインインタビュープラットフォーム「Interview Zero」を立ち上げ、プロダクト責任者として従事。