SAL(Sales Accepted Lead)とは?マーケティングと営業の“断絶”を越えるための構造設計と共通言語
公開日:2025/12/25(木)
SAL(Sales Accepted Lead)とは、営業部門がマーケティング部門から受け取る見込み顧客の中で、「営業が正式に受け取り、アプローチ対象として“承認”したリード」のことを指します。
- MQL(Marketing Qualified Lead)=マーケ側が「営業に渡せる」と判断したリード
- SAL(Sales Accepted Lead)=営業側が「確かに受け取った」と同意したリード
- SQL(Sales Qualified Lead)=営業が「アプローチ・案件化に値する」と判断したリード
このSALの定義は、単なる言葉遊びではなく、“マーケと営業の責任領域を明確化し、分断を防ぐための構造”そのものです。
- なぜSALが重要なのか?“MQLが育たない問題”の根本原因と構造的解決策
- SALの定義を設計する:現場で機能するルールづくりの要点
- SALを機能させるための組織設計:マーケと営業の“共通言語”を育てる
- SALの運用における課題とその乗り越え方
- SALのKPI設計:成果とプロセスの両立を図る指標の考え方
- SALを起点としたマーケと営業の連携強化
- ABMやインテントマーケティングにおけるSALの位置づけ
- SALがもたらす“組織文化の進化”という副次的価値
- まとめ:SALとは、“分業の断絶”を超えて“共創の接点”を設計するプロトコルである
なぜSALが重要なのか?“MQLが育たない問題”の根本原因と構造的解決策
多くのBtoB企業において、「せっかくマーケティングが獲得したMQLが、営業に渡した瞬間に無視される」「架電されず、放置される」といった“断絶”が発生しています。
その主な要因は次の通りです:
- マーケと営業で“良いリード”の定義が違う
- KPIや評価制度が噛み合っていない(リード数 vs 受注率)
- 営業から「質が悪い」と突き返されることで、マーケが疲弊
- 結果、営業は信頼せず、マーケは送り控える悪循環に
SALは、この構造に“透明な合意フェーズ”を挿入することで、組織的な齟齬を防ぐ役割を果たします。言い換えれば、SALとは「リードの引き渡しを“イベント”ではなく“プロセス”に変える仕組み」です。
SALの定義を設計する:現場で機能するルールづくりの要点
SALは各企業・組織で自由に定義できますが、以下の3要素を含めることで実効性が高まります。
1. リードの品質要件(定性的条件)
- 決裁者本人かどうか
- BANT条件の何項目が満たされているか
- ニーズの具体性、緊急性
- 自社製品とソリューションの適合性
2. データ要件(定量的条件)
- フォーム入力の正確性(電話番号・メール・役職など)
- ホワイトペーパーDL数、セミナー参加履歴、閲覧ページ数などのスコア
- MAツールによるスコアリング指標(行動ベース/属性ベース)
3. 営業承認のワークフロー
- どの時点で営業が「受領」ボタンを押すのか
- 受け取った後、何日以内に初回アプローチを実施するか
- 営業が“却下”した場合、その理由を記録するフローがあるか
これらを明文化し、セールスとの“握り”を取ることで、SALは初めて機能しはじめます。
SALを機能させるための組織設計:マーケと営業の“共通言語”を育てる
SALの本質は“プロセスの定義”ではありますが、その裏には“人と組織の相互信頼”という心理的レイヤーが横たわっています。
そのため、SALを形骸化させないためには、以下のような組織設計が必要です。
SAL定義を“合意”でつくる
営業にとっても「自分たちが使いやすい定義」である必要がある。マーケが一方的に決めると拒否反応が起きやすく、形だけのプロセスになってしまいます。
SLA(Service Level Agreement)との接続
SALの受け渡しとSLA(マーケ・営業間のサービスレベル合意書)をセットで定義し、「送った側の責任」と「受け取った側の責任」のバランスを保ちます。
営業視点でのフィードバックループ設計
営業が「こういうリードは温度が高かった/低かった」というインプットを、マーケが次の施策に反映する仕組みを設けること。SALは、単なる“受け渡し点”ではなく、“学習点”にする必要があります。
SALの運用における課題とその乗り越え方
SALは設計しただけでは回りません。多くの現場で見られる課題と、その打ち手を整理します。
営業の温度感が“可視化できない”問題
→ 解決策:SFA/CRM上で“コメント義務化” or “リード温度可視化フィールド”の導入
→ 例:「対応済」「架電NG」「競合製品をすでに使用中」などの分類設定
SAL承認の遅延・スルー
→ 解決策:営業の初期アクションを“数字ではなく運用ルール”として設定(例:48時間以内に初回接触、1週間以内にステータス更新)
→ KPIで評価するのではなく、“プロセス合意”を最優先
SAL承認率が低すぎる or 高すぎる
→ 解決策:定期的にマーケと営業でSAL承認率・理由別内訳をレビューし、定義そのものを見直す運用を組み込む
→ 100%承認=ザル、10%未満=マーケと営業の認識乖離の可能性
SALのKPI設計:成果とプロセスの両立を図る指標の考え方
SALは“中間指標”であり、最終成果(受注・売上)との相関性が高まるほど「機能している」と言えます。KPIを以下の観点から設計することが重要です。
- SAL数(月次/週次)
- SAL承認率(MQL → SAL)
- SALからの初回架電率/コンタクト率
- SALからSQL化した率
- SALから最終受注に至った率(SAL-to-Close)
- SAL却下理由の内訳とトレンド
このように“数量・品質・運用”の3軸でKPIを設計・評価することで、SALは数字としても意味を持ちます。
SALを起点としたマーケと営業の連携強化
SALの最大の価値は、「マーケと営業の間にある“非言語領域”を見える化する」ことにあります。これを単なる受け渡しのチェックポイントに終わらせず、組織連携の“起点”にするためには、次のような設計が有効です。
“リード会議”の定例化
毎週/隔週で、営業とマーケが同席する「リードレビュー会議」を設け、下記を定点観測します:
- 承認されたSALのコンバージョン動向
- 却下リードの理由分析
- 最近の商談トレンドとMQL定義のチューニング
ここで重要なのは、“データを見ながら一緒に考える”という姿勢です。合意形成が現場で起きれば、SALは生きた構造になります。
担当者同士の“1:1運用”
組織構造としてのSALも大事ですが、「マーケ○○と営業△△は、常にSlackで連携してる」状態がもっとも効果的です。担当者同士の信頼関係があれば、SAL承認も形骸化しません。
経営がSALを見ているか
SALは中間指標とはいえ、「部門間連携の健康度」を示す重要なバロメーターでもあります。経営層が“SALの承認率”や“リードの流れ”に関心を持つことで、部門間の接続は文化になります。
ABMやインテントマーケティングにおけるSALの位置づけ
SALは“リード中心の世界”で語られがちですが、ABM(Account Based Marketing)やインテントベースのマーケティングにおいても、その概念は応用可能です。
- ABMでは、ターゲットアカウント内の“ホットコンタクト”をSALとして営業に渡す
- インテントスコアやシグナルから“営業起点でのSAL生成”も可能(逆方向)
つまり、SALはリード数の多寡に依存しない「共通言語としての構造」。リードマーケティングであれ、アカウントベース戦略であれ、営業とマーケの“握り”が必要な限り、SALは使えます。
SALがもたらす“組織文化の進化”という副次的価値
SALはKPI管理やプロセス改善のためだけの道具ではありません。うまく機能すれば、次のような“カルチャー変化”を引き起こす可能性を持っています。
- マーケが「MQLを作る人」から「売上を支えるチーム」へと変わる
- 営業が「リードを断る人」から「フィードバックと育成のパートナー」へと変わる
- リードが「一方通行で流れるもの」から「両者が育てる資産」へと再定義される
このように、SALとは“構造の話”でありながら、実は“関係性の質”に深く関わる仕組みでもあります。数値で測れるようで測れない、“空気の設計”こそがSALの本質かもしれません。
まとめ:SALとは、“分業の断絶”を超えて“共創の接点”を設計するプロトコルである
SAL(Sales Accepted Lead)は、マーケティングと営業のあいだにある“わかりづらい境界”を、明文化し、プロセスに落とし込み、責任の所在をクリアにする構造です。
- MQL→SAL→SQLの“リードの旅路”に透明性と共通理解をもたらす
- 営業の納得感と、マーケの自信を両立させる交渉点となる
- ただの“渡した・受け取った”を、“育てる・評価する”に変えるプロトコル
SALはツールではなく、“合意”の仕組みであり、“信頼”のルールです。
そして、マーケティングの成果を営業が“受け取れる形”にするという意味で、SALこそがBtoBにおける「成果のデザイン」の要とも言えるでしょう。
著者の紹介
株式会社マクロミル 事業統括本部 事業開発ユニット スペシャリスト 人間中心設計専門家
伊賀 正志
アクセンチュアを経て2010年に株式会社マクロミルに入社。BtoBリサーチ事業の成長・拡大に大きく貢献し、同領域における「エキスパートインタビューサービス」や「UI/UXリサーチサービス」の立ち上げを主導。また、事業企画部門においては全社基幹システムの刷新やBIツール導入、生産性改善プロジェクトなど、組織基盤の強化にも従事。現在は新規事業開発に携わり、自ら多数のクライアントインタビューを行いながらセミナー登壇も務める。
