PR(パブリック・リレーションズ)とは?広告とは違う“信頼をつくるマーケティング”の本質と実践手法を解説

PR(Public Relations)という言葉は、マーケティングや広報の世界でよく使われますが、その実態は意外と誤解されがちです。「PR=宣伝」「PR=広告のこと」と捉えられることもありますが、それは一面的な理解にすぎません。

本来のPRとは、“関係性の構築”を通じてブランドや組織に対する信頼や理解を高めていく活動全般を指します。

情報発信によって世の中との“接点”を生み出し、“文脈”を共有し、“共感”を得ていくプロセス——それがPRの本質です。

本コラムでは、「PRとは何か」をマーケティング視点で体系的に整理し、以下の観点から実務に活かせる内容を解説していきます。

  • PRの定義と広告との違い
  • 広報とパブリックリレーションズの関係
  • PR戦略の立て方とステークホルダーの捉え方
  • PR手法の種類(メディア、SNS、イベントなど)
  • PR効果の測定指標とKPIの考え方
  • 国内外のPR成功/失敗事例
  • 現代におけるPRの価値と今後の展望

監修

Macromill News 事務局

監修:株式会社マクロミル マーケティングユニット

20万人以上が登録するマーケティングメディア「Macromill News」を起点に、マーケティング知見や消費者インサイトに関わる情報を発信。

20万人以上が登録するマーケティングメディア「Macromill News」を起点に、マーケティング知見や消費者インサイトに関わる情報を発信。

PRとは?定義と本質を押さえる

PRとは「Public Relations(パブリック・リレーションズ)」の略であり、直訳すれば“公衆との関係”です。もう少し実務寄りに解釈すれば、“組織やブランドが、あらゆるステークホルダーと良好な関係を築くための活動”ということになります。

PRの代表的な定義として、米国のPR協会(PRSA)は次のように述べています。

「PRとは、信頼のおける、倫理的なコミュニケーション手法を通し、組織と組織をとりまくパブリックとの間に、関係と利益を築くため、意思決定の管理を実践することである」

この定義の中には、次のようなPRの特徴が表れています。

  • 一方通行ではなく“相互性”が重視される
  • 単発の施策ではなく“継続的なプロセス”である
  • 説得より“理解と信頼”を獲得することがゴールである

つまりPRとは、広告のように“お金で露出を買う”のではなく、“第三者の信頼”を通じて“語ってもらう”構造をつくる活動と言えるでしょう。

広告との違い:PRは“信頼の獲得”、広告は“認知の購入”

PRと広告はどちらもマーケティング活動の一部ですが、その本質は大きく異なります。以下に、両者の違いを明確に整理します。

観点PR(Public Relations)広告(Advertising)
目的関係性の構築、信頼の獲得認知度の拡大、購買促進
アプローチ第三者による報道や評価を得る自社が内容と掲載枠を購入する
主な媒体メディア記事、SNS、イベントなどTV、Web、新聞、交通広告など
コントロール性低い(報道判断に依存)高い(内容・タイミングを調整可)
費用構造 直接的な枠購入は原則なし枠を買う=費用が必ず発生する

PRが“信頼”を生む理由

PRによる情報発信は、企業自らが「言う」だけでなく、メディアや個人の「語り」を通じて間接的に伝わるという特徴があります。たとえば、以下のようなケースです。

  • 自社がリリースした情報がニュース記事に掲載される
  • SNSで一般ユーザーが好意的にシェアしてくれる
  • イベント登壇が専門誌に取り上げられる

こうした第三者の視点を通じて伝わる情報は、広告よりも信頼度が高く、“社会的証明”の役割を果たします。

広告だけではブランディングできない時代に

広告は確かに即効性のある手段ですが、“売ること”に直結しすぎるがゆえに、「本当の姿」「思い」までは届きにくくなります。とくにZ世代をはじめとする情報感度の高い層は、“企業の顔”よりも“企業の姿勢”に共感を求める傾向が強まっています。

その文脈において、PRは「商品を売るため」ではなく「信頼を得るため」の活動としてマーケティングの中核に再評価されつつあります。

PR戦略の立て方:誰との関係をどう築くか

PR活動を効果的に行うためには、“誰に対して、何を、どう伝え、どのような関係を築くのか”という戦略設計が必要です。その骨格となる考え方を以下に示します。

ステークホルダーの整理

PRは“パブリック”に向けた活動ですが、その“パブリック”は一枚岩ではありません。以下のような利害関係者を分類し、目的ごとにコミュニケーションを設計する必要があります。

  • 既存顧客/潜在顧客
  • メディア関係者/ジャーナリスト
  • 投資家/金融機関
  • 社内従業員/内定者
  • 業界団体/行政機関/地域コミュニティ
  • SNSインフルエンサー/エバンジェリスト

「今、誰に理解されたいか」を明確にする

全方位的に発信するのではなく、「どのステークホルダーとの関係性を強めるべきフェーズか」を見極めることが重要です。

  • 新規サービスを出した直後なら→テック系メディアへの集中
  • 社会貢献活動を強化したタイミングなら→地元メディアやCSR領域との連携
  • 組織文化を発信したいなら→社内報や採用系メディア、SNSでの発信強化

伝えるべき“意味”を設計する

PRは「伝えるべき情報」ではなく、「共感される意味」を編集する作業でもあります。

  • 単なるニュースではなく、“何のためにやっているか”まで含めて語る
  • 数字よりも“背景”や“ストーリー”を重視する
  • 社内外の“応援者”が増えるような文脈づくりを意識する

PRの主な手法とチャネル:報道・SNS・リアルイベント

PR活動の成果は、どのチャネルを使って誰にどう届いたかによって大きく左右されます。ここでは代表的なPRチャネルと、それぞれの活用ポイントを解説します。

メディアリレーション(報道・取材・記事掲載)

最も伝統的なPR手法であり、新聞・テレビ・雑誌・Webニュースといった第三者メディアを通じて情報を伝える方法です。

  • メリット:信頼性が高く、波及効果が大きい
  • 活用場面:新商品発表/資金調達/経営人事/社会的取り組み
  • ポイント:単なる事実ではなく、“ニュース性”や“社会性”があるかどうかが掲載可否の鍵

SNS・オウンドメディアによる発信

近年では企業自身がTwitter(X)、Instagram、YouTube、noteなどを活用し、自社の視点でストーリーや裏側を伝えるケースが増えています。

  • メリット:即時性と拡散力/直接のフィードバックが得られる
  • 活用場面:ブランドストーリーの継続発信/リアルタイム対応/採用ブランディング
  • ポイント:一方的に“伝える”のではなく、“対話”と“共感”を設計することが重要

イベント・カンファレンス・記者会見

リアルあるいはオンラインでの“場づくり”は、PR活動においても重要な戦術です。報道関係者を招いた記者発表や、社外に向けたカンファレンス開催は、信頼構築と認知拡大の両方を実現できます。

  • メリット:参加者との接点強化/報道への波及/関係性の深化
  • 活用場面:新規サービスのローンチ/業界キープレイヤーとの連携表明
  • ポイント:発信内容だけでなく、空間・演出・参加者設計も含めた“体験の設計”が鍵

インフルエンサー・ステークホルダーとの協業

発信力のある個人(インフルエンサー/エバンジェリスト)との連携は、PRの手段としても活用されています。タイアップとは異なり、“共感・共鳴”を起点とした関係づくりがベースです。

  • メリット:特定のターゲット層に深く刺さる/拡散ではなく“語られる”設計が可能
  • 活用場面:共通の価値観やテーマを軸にしたPRキャンペーン
  • ポイント:一過性で終わらず、長期的な“味方”としての関係を築く

PR効果の測定とKPI設計:どう成果を可視化するか

PRは“成果が見えづらい”とよく言われますが、設計次第で効果は十分に可視化できます。重要なのは「何を目的としたPRか」を定めたうえで、目的に合った指標を選ぶことです。

定量指標(メディア掲載数・SNS数値など)

  • メディア掲載数/記事露出数
  • 記事閲覧数・読了率
  • SNSのリーチ/エンゲージメント(いいね・シェア・保存)
  • サイト流入/コンバージョン数(PR経由)
  • セミナー参加者数/アンケート回答数

定性指標(トーン・内容・態度変容)

  • メディア掲載記事の論調(ポジティブ/ニュートラル/ネガティブ)
  • 自社の語りと報道の“解釈ズレ”の有無
  • 社内外の意識変化(例:採用応募者が“あのPRを見た”と語る)
  • イベント後のステークホルダーからの反応(DM/口コミ/SNS投稿など)

PR KPIの設計ポイント

  • 単なる“露出量”ではなく、“伝えたい意味が届いたか”を評価軸に含める
  • 広告指標との比較で語らず、“中長期的な態度変容”として追跡する
  • 組織としてPRに何を期待するのかを明文化し、事前に関係者と握っておく

国内外のPR事例:バズと信頼のあいだ

PRの成果は「話題になったかどうか」だけでは測れません。むしろ“信頼や共感をどのように生み出したか”“ブランドがどう見られるようになったか”という中長期的な影響こそ、PRの本質的価値といえます。ここでは、国内外の代表的なPR事例を紹介しつつ、成功と課題の両面を読み解きます。

事例:Patagoniaの企業メッセージ(アメリカ)

アウトドアブランドのPatagoniaは、「地球環境の保護」という理念を軸に、製品の販売よりも“社会的スタンス”を強く打ち出すPR戦略をとっています。CEOの発言や寄付活動、政治的キャンペーンまでが一貫したブランド文脈として扱われており、PRが経営と直結している稀有な例です。

  • 成功要因:“中立”ではなく“姿勢を明示する”ことで、強い共感を獲得
  • 波及効果:ブランドとしての“ファン化”と“活動への巻き込み”が自然発生している

事例:某スタートアップの過剰なバズ戦略(日本)

あるスタートアップでは、SNS上での話題づくりを優先したPR施策を展開しましたが、過激な表現や炎上マーケティングが裏目に出て、ブランドへの不信感を招いてしまいました。

  • 問題点:一時的な話題性と、長期的な信頼構築のバランスが崩れていた
  • 教訓:拡散数ではなく、“誰にどう語られたか”を可視化する視点が重要

PR成功の本質とは何か?

  • 一過性の“盛り上がり”ではなく、文脈に沿った“語られ方”を獲得できているか
  • 情報の「主導権」が企業ではなく、生活者や社会に移っていることを理解しているか
  • 声高なメッセージよりも、“行動が語っている”状態をつくれているか

まとめ:PRとは“文脈をつくるマーケティング”である

PRは、認知を取るための手段でも、露出を稼ぐだけの戦術でもありません。それは“誰と、どんな関係を築きたいか”を起点に設計される、信頼と共感のマーケティングです。

SNS時代のいま、企業の本質は“語られ方”で決まります。伝える力だけでなく、“伝わる構造”をいかにつくるか。PRとは、まさにその設計図であり、対話の戦略です。

一方的な発信では信頼されない時代において、PRはますます不可欠なマーケティングの柱となっていくでしょう

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