【タイ編】生活者の価値観・地域での違い

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リサーチャーコラム

2022/7/6(水)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、タイの以下のような世代ごとに「生活者の価値観・地域での違い」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 ベビーブーム世代(近代タイの建国者)(1940~64年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 ジェネレーションX(政情不安世代)(1965~84年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 ミレニアル世代(テクノロジー世代)(1985~99年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 ジェネレーションZ(無関心世代)(2000年以降生まれ)

地域による価値観の違い

バンコクは、通信のインフラ、教育、社会的地位の中心であり、タイの中でも特別な存在です。北部、東北部、および南部の地域は、それぞれその境界線付近の動きに強く影響されており、各地域特有の独特な変わらない文化的性質がそこに住む人たちに引き継がれています。タイの農村部は全般的に貧しく、社会の底辺層を形成しています。

大規模な都市化

都市化が進むにつれタイの社会は変貌し、中心となる大都市が誕生しました。タイの総人口6,900万人に対してバンコクの中心部の人口は、約1,000万人強です。しかし、特にイーサーンの東北部や南部を中心とした農村部に、まだ3,000万人もの人たちが住んでいます。

スマホアプリの利用で見る地域差

定量調査の結果を見ると、一般的なEコマースやコンテンツ配信系のサービスなど、物理的なサービスが伴わないものに関しては、地域差は少ないようですが、デリバリーサービス、タクシー配車、チケット予約など、近隣で利用をすることを伴うサービスに関しては、商業設備が集中しているバンコクと、それ以外の地域に差が見られます。

スマートフォンアプリでよく利用するサービス

関心事に関する地域差

若い世代は政治に対しては消極的で無関心な姿勢を保っています。しかし、2018年に自分たちの国が最も不平等な国として評価され(出典:Credit Suisse)、それを変えたいと考える若い世代が集まり、政治に関わっていこうとしています。国の権限による厳しい検閲があることにも気づいており、SNS上では気をつけて情報発信をしています。特にタイには王政に対する不敬罪法(lese majeste laws)があるため、注意が必要です。政党もSNSを利用するようになりました。例えば新未来政党(アナコットマイ政党 )はSNS上で非常に大きな成果を出しており、主に学歴の高い都市部の若い人たちに支持されています。

また、興味深いことに、年齢に違いがあるにもかかわらず、バンコクの人たちは全世代を共通して、公共の場で政治の話はしないように教えられており、政治に関してはあまり声を上げません。タイの人口の1/3が住み、ほとんどが農村部である東北部の地域 (イーサーン)の人たちは、政治に対してはもっと落ち着いた姿勢であり、バンコクの人たちよりも政治にはもっと関わっています。

地域による情報格差

全体的には、タイ社会はモバイルテクノロジーとインターネットを積極的に取り入れています。世界のSNSおよびデジタルの最新トレンドをまとめたGlobal Digital Report 2019によると、タイには4,900万人にも及ぶモバイルSNSユーザー(浸透率71%)、およびインターネット上のSNSアクティブユーザーが5,100万人いるそうです。 (出典:Bangkok Post)

ネットの浸透は全世代に共通していますが、特にバンコクでは顕著です。バンコクがデジタルのインフラの整備に力を入れたのがその理由ですが、国内の他地域との情報格差の原因ともなりました。

地域ごとの特徴や歴史

東北部 (イーサーン)

この地域は、人口2,300万人のタイの農村部です。王国に安い労働力を提供している地域でもあります。イーサーンのタイ人は、前国王のラーマ9世や住んでいる村の村長のような準拠グループやロールモデルに信頼を置いています。イーサーンの村では、今も村長が強い影響力を持つ存在です。仏教のカルマ(業)を信じており、伝統的な信仰の習慣を続けています。しかし、他民族の祝祭も祝うなど、人生を楽しもうとする姿勢が見て取れます。

また、農業はこの地域の人にとっては重要な社会的な繫がりでもあります。米の収穫はコミュニティの集団活動であり、イーサーンではとても人気のあるイベントです。全ての世代を通して非常に気前が良いのもこの地域の特徴です。

第二次世界大戦中はウドーンターニーには米軍基地が置かれており、70年代になるとその地域は共産主義派のゲリラに支配されていました。当時のタイ政府は一般国民から食べ物を奪い軍隊に流していました。イーサーンの年配世代はその影響を強く受けています。

南部

イスラム教徒が多く、タイ語とマレー語の2つの言語を使うマレーシアとの国境を挟む地域です。大変真面目に生活しています。どちらかというとマレー人に近い気質を持ち、あまり遊び心がありません。この地域には、中国系タイ人、タイ人、マレー系タイ人の3民族が住んでいます。

南部の人にとってコミュニティはさほど重要ではありません。南部のタイ人は、夜中に1人で収穫をするゴムの木を昔から栽培していました。近所の人たちと共同で作業をする必要性がないことがその理由の一つでしょう。

南部における宗教の重要性

定量調査で、宗教の重要性について聴取しました。イスラム教徒の多い地域である南部は、他地域よりも宗教を「とても重要」ととらえる割合が非常に高いことが分かります。

宗教の重要性

南部は「マレーシア文化」に興味あり

親日国として知られているタイでは、どの地域においても日本の文化に対しての興味・関心が高い傾向が見られます。しかし、近年は韓流ブームの影響で韓国の文化に興味を持つ人が多いようです。イスラム人口の多い南部では他地域と比較してマレーシアの文化に対する関心が高いのも特徴です。

興味を持っている外国・地域の文化
※回答対象者:いずれかの外国・地域の文化に興味があると回答した人

中央部

タイの中央部は、シャム人の文化発祥の地であり、バンコクもこの地域に位置しています。宗教的な習慣を守り、富と地位を誇示したがります。

バンコクの成功にあやかり、新規ビジネスが繰り広げられている地域です。民泊ビジネス、タイの民族工芸品ビジネス、自営ビジネスをブランド化してネット上で展開、地元で生産し海外で販売するといった商売がみられます。これはネット上のメディアという新しい流通経路を持った新しいビジネスのトレンドです。

しかし、バンコクは特別で、地域文化圏のカテゴリーとして別枠を設ける必要があります。その理由は二つあります。

  1. 情報へのアクセス
    4GとWi-Fiなどの通信インフラが整備されており、バンコクの人たちはタイの他の地域に比べて、情報へのアクセスが容易であること。
  2. 学歴
    バンコクに住む人たちはタイの他の地域に比べて教育レベルが高いこと。保護者はより高いレベルの教育を子供たちに勧めることができるため、家族が果たす役割は大きい。

バンコクで信仰心を誇示するのは社会的な理由がある時だけで、タイの他の地域と比べると全体的に宗教的な信仰心が薄い地域です。また、バンコクの人たちは保守的であり、王国の権力構造に深くかかわっているため、政治的な見解はあまり表に出しません。

また、有識者は、「サブカルチャーの中で育った人たちにとって、サブカルチャー的な態度は大切です。違うサブカルチャーで育った人がバンコクに仕事や勉強のために引っ越してきた場合でも、その人たちの考え方や価値観、そして行動は自分たちのサブカルチャーに基づいています。また、バンコクの人々は、高品質やユニークな商品には積極的に出費します。」と分析します。

北部

タイの北部は、中国およびミャンマーとの国境沿いにあり、中国のビジネスに支配されている、特に雲南省との越境貿易の盛んな地域です。主な都市にチェンマイがあります。チェンマイには保守的な消費者が多く、優れた競合相手も多い地域です。そのため価格はそれほど上がりません。

また、有識者によれば、東北部の郊外にあるコーンケンの人々は非常に気前が良いことで知られているそうです。この気質はコーンケンのどの世代にも当てはまりますが、第二次世界大戦を体験した世代は、自分たちのために出費はあまりせず、子供たちのためにお金を使いたいと考えています

民族性による違い

タイの文化は入り混じっており多様性があります。もともとのタイ民族の他に、バンコクを中心に住んでいる1,400万人もの中国系タイ人、その他マレー系やモン族系といった近隣諸国の民族が混在しています。

中国系タイ人

主にバンコク首都圏を中心に在住しており、都市部の豊かなエリート層を形作り、タイの最も裕福な社会階級に君臨しています。ビジネス経営を中心としており、非常に高学歴な人が多いです。保守的な消費傾向があり、ビジネスに投資するといった資産を増やす活動を好んでいます。しかし、タイ民族との異民族間の結婚が増えていく中で、民族的、文化的には中国の要素は薄れてきています。Gen1の祖先は出身地の方言である潮州語を使っていましたが、公用語の標準中国語を学んだことがなかったこともあり、子どもたちに方言を教えることはしませんでした。東南アジアでは中国の影響が大きく広がっているため、タイの若い世代は積極的に自分たちの中国へと繋がるルーツを再発見し、中国語を学んだりしています。

シーク系タイ人

バンコクに住んでおり20万人ほどいます。非常に裕福であり、高学歴で、仕事に献身的です。タイの文化を受け入れながらも、自分たちの文化や価値観を維持し子どもたちの世代へとつないでいる閉ざされたコミュニティです。インドの文化では婚姻はビジネス的な側面があり、二つの家族の完全な統合を意味するため、異民族間の婚姻は避けられています。

以上が、タイの有識者の意見を交えた、各世代が影響を受けた生活者の価値観・地域での違いです。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「生活者の価値観・地域での違い【ベトナム】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: タイ全土
世代別回答者数: Gen1(n=154/男性92、女性62)、Gen2(n=1,935/男性904、女性 1,031)、
Gen3(n=920/男性 377, 女性 543)、Gen4(n=1,049/男性380、女性669)
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2020年2月

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著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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