【タイ編】各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは

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リサーチャーコラム

2022/4/7(木)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、タイの以下のような各世代における価値観に影響を与えた「社会慣習」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 ベビーブーム世代(近代タイの建国者)(1940~64年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 ジェネレーションX(政情不安世代)(1965~84年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 ミレニアル世代(テクノロジー世代)(1985~99年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 ジェネレーションZ(無関心世代)(2000年以降生まれ)

変わりつつある家族の関係

ベビーブーム世代のGen1は集団主義的な傾向が強く、家族が大変重要な存在です。一方、Gen2~Gen4も親や年配世代に対する義務を意識していますが、Gen1よりは個人主義的です。Gen3とGen4は、社会や家族よりも自分を優先し、社会的地位による圧力を感じることが他の世代よりも少なく、年配世代とは違って社会的な階層は自分たちの存在を定義するべきものではないと信じています。

タイの都市化と少子化により、Gen2以降のタイの家族サイズ(家族構成人数)は徐々に縮小してきており、西洋のスタイルの核家族型に近づいてきています。近年、タイの出生率が減少しており、2016年のデータによると、タイの出産率は東南アジアの中では最も低く、女性一人当たり1.48人です。その理由の一つには非常に高い子供の教育費と養育費が挙げられます。また、Gen2以降のタイ人は、会社のオフィスで仕事をするようになりましたが、オフィスでは二人目の子供を持つことは歓迎されない風潮があります。このようなストレスのある環境が二つ目の理由として挙げられるかもしれません。

家族サイズが縮小したとはいえ、結婚と家族を構成することはタイの人たちにとっては最優先事項であり、世代別な違いもあまり見られません。大家族の形は今もなおタイの社会を支える柱の一つです。そして、タイは観光客、駐在員、リタイヤ層に人気があるためか、異人種間結婚がよく見受けられ、文化的にも受け入れられています。

お互いが支えあうタイの家族

核家族化が進行しているとは言っても家族との繋がりは依然として強く、Gen2・ Gen3(20代から50代)の半数前後が親と同居しています。

親との同居率

家族は経済的にも支え合う傾向が見られ、親と子世代間の相互依存は44%に上ります。

また、女性の6割近くが働いており、専業主婦は4.8%と、日本と比べてかなり少ないようです。(参考までに、マクロミルモニタ(日本・女性)の専業主婦の割合は25%)

※マクロミルが保有する国内130万人超の消費者パネル

タイ人女性の職業(n=2,305)

タイ人にとっての教育とは

若い世代は、他世代よりも学歴が高く、学校に通うために(通常は学士号取得のために)より大きい都市に移り住む人が多い一方、タイの産業を支えていくだけの熟練者や高学歴者は足りていません。

孟母“二遷”なタイの親たち

Gen2・Gen3の6割近くが、教育のために住むところを変えており、その内、より良い環境を求めて1~2回引っ越しする人が4割以上にも上ります。“孟子の母親が子供のために3度引越しをした”という「孟母三遷の教え」という故事成語があり、子供の教育にはよい環境を選ぶことが大事だという教えがありますが、タイでは「孟母“二遷”」がボリュームゾーンと言えそうです。

タイ人にとっての宗教の位置づけ

タイは圧倒的な仏教国ですが、社会のグローバル化とともに宗教そのものの重要性は薄れてきています。宗教には社会的な役割もあり、年に何回かは重要な宗教的なイベントが執り行われる時期があります。

徐々に進む宗教ばなれ?

宗教は重要だと考える人はどの世代でも8割強存在します。一方、重要でないと考える人は、Gen1とGen4で倍ほどの差があります。

自由な時間が持てる週末の行動でも、若者の宗教への関心は減ってきていると言えます。

「休日によく行うこと(5つまで選択か)」の質問で、「宗教活動」を選択した人の割合

タイの社会構造の基盤となる「階級制度」

年配世代にとって、家族との付き合い、学歴、所属する階級は、とても大切なことです。タイの子どもたちの保護者は、階級に合わせた生活のノウハウを教えます。階級システムは、既に与えられている家族環境によって決まりますが、保護者が子どもたちの階級を押し上げようとする場合、多くは学歴や婚姻関係を利用します。

タイの人たちにとって、ビジネスの成功や高報酬の職など「お金」は今も非常に重要な役割を担っていますが、金銭的な裕福さだけでは社会的地位の階段を上ることができません。他の要素も必要なのです。

タイの階級システムは、固定されがちなインドの階級システムとは違い、流動的です。個人の成功、自己実現といった個人の功績が社会的な地位となるアメリカ的なシステムが一般的な韓国とも違います。

社会階級に対する意識、「属性主義」か「業績主義」か?

「人生で成功するためにはどんな要素が重要?」という質問に対して、どの世代も「家庭環境」が最も高く、生まれによって成功が強く規定されているという意識を持つ人が多いことが分かります。しかし、若い世代になるにつれ、「教育」の割合も高まっています。(ちなみに社会学では、「生まれ」のように本人の能力・努力・業績では動かせないものを「属性」、本人の能力・努力・業績などによって社会的地位が決まることを「メリトクラシー(meritocracy、業績主義)」といいます。)

タイの社会階級

  • 農民階級:貧しく、志す職業は工場の労働者、メイド、ウェイター等です。
  • 都市部低階級:中間層を目指している人もいます。
  • 都市部中流階級:この階層の人たちが地位を上げるためには教育が要です。学位次第では上の階層に受け入れられる可能性があります。
  • 上流階級(Hi-so class):「ハイソクラス」は、非常に裕福な人たちのことを指すタイのスラングです。財産相続をするようなもともと裕福な家系や苗字(家柄)で、生まれた時から高い階級が約束されている人たちや、ビジネスや投資で成功して最近裕福になった人達もこの中に含まれます。

社会階級に影響を与えられるのは、“富”だけではない

努力によって地位を確立した法律家、医者、学者などの職業には別格な性質があり、富裕層とは異なる消費行動を示します。また、タイで最も古い歴史を持つ国立チュラーロンコーン大学のような機関や組織で勉強したり、働いたり、何らかの関連があれば、社会的地位や階級を上げるのに、プラスに働きます。

以上が、タイの有識者の意見を交えた、各世代の価値観変化に影響を与えた社会慣習・制度です。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは【ベトナム編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: タイ全土
世代別回答者数: Gen1(n=154/男性92、女性62)、Gen2(n=1,935/男性904、女性 1,031)、 Gen3(n=920/男性 377, 女性 543)、Gen4(n=1,049/男性380、女性669)
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2020年2月

著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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