【インドネシア編】各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは

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リサーチャーコラム

2022/4/7(木)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、インドネシアの以下のような各世代における価値観に影響を与えた「社会慣習」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 ムルデカ世代(独立戦争世代)(1945~64年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 オルデバル世代(スハルト体制世代)(1965~74年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 インドネシアのミレニアル(1975~98年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 ジェネレーションZ(1998~2002年生まれ)

今も昔も変わらない「家族への価値観」

インドネシア人のアイデンティティの根底には「家族」への価値観があり、その価値観には今も昔もそれほど大きな違いはありません。結婚そのものや結婚関連の伝統に関しては昔ながらの価値観が保たれています。

また、離婚率は年間4%ずつ上昇(※2010年~2015年データ)しており、離婚率が高いのは意外にも都市部ではなく、社会的な抑制がより厳しい農村部の方です。農村部に根強く残っている「アダット(Adat)」と呼ばれるインドネシアの慣習法は、成文化されていない昔から行われているインドネシアの人々の社会的慣行のことであり、人々の生活の中のあらゆるシーンで大きな決定力を持っています。

インドネシア人の結婚観は保守的?

先進国では、世代が若いほど離婚率が高まる傾向が見られます。しかし、インドネシアでは、有識者の分析で、家族に関する価値観について世代間の差が少ないとされ、概ねどの世代も40%程度が「離婚を許容しない」という考え方を持っています。

※マクロミル調査より(日本の場合、「離婚を許容しない」は25%程)

家族に対する優先順位の移り変わり

インドネシアでは、子供たちが就職をしても結婚をしても、親の家に住み続ける習慣があります。保護者の伝統的な役割は変わりつつあり、親が成人した子供たちから日常生活の経済的支援を受けなくてはならないケースもあります。また富裕層の年長者たちは、コミュニティ内で、伝統的なくじ引きイベントである「アリサン」を開催し、経済的、社会的な相互援助の機会を提供しています。

依然として強い“家族の繋がり”

親子の相互依存関係を見ると、人口の50%以上を占めるGen3の3分の2が、経済的に、あるいは家事的に、親と支え合っています。有識者の分析と定量調査の両面からわかるように、インドネシアでは家族の繋がりが依然として強いと思われます。

親子の相互依存関係

また、年配世代は、「働くことが生きがい」でしたが、若い世代は仕事とプライベートのバランスが取れた「ワークライフバランス」を求めており、「生活のために仕事」をし、「がむしゃらに働くより効率よく働いた方がいい」と考えています。SNSが台頭し、少人数の家族、家族との充実した時間、個人/家族と楽しむレジャーや旅行などのライフスタイルに関わる価値観の幅が広がってきました。

核家族と拡大家族との繋がりは弱くなってきており、その重要性も薄れてきています。その代わりに、個人主義の傾向が強まっています。

親子の依存関係は核家族で低く、個人主義的な傾向が強まる

定量調査で、親と同居していない「核家族」と「同居家族」の親子の依存関係を比較してみると、核家族の相互依存関係は低く、個人主義的(拡大家族に対して小さな単位としての核家族という意味において)な傾向が強まっていることが分かります。

親子の相互依存関係(Gen3/親との同居有無比較)

家族の中心は「親」。伝統的な価値観、権威構造が保たれる

前回ご紹介した、「子供が中心」だった中国とは大きく異なり、インドネシアでは子供が中心と考える人は極めて少ない(平均で2.4%)という結果が出ました。 年配の世代Gen1-2(つまり自分が親)は「自分」。Gen3は「親」あるいは「自分(一部自分が親である年代)」、そしてGen4は「親」が中心となっており、伝統的な家族の価値観、あるいは家族内の権威構造が保たれていることが分かります。

家族の中心は誰か

ライフスタイルとしての宗教

インドネシアは、人口の87%がイスラム教徒というイスラム教国家であり、残りはキリスト教徒9%、ヒンズー教徒2%、その他2%で成り立っています。インドネシア人のライフスタイルの中で、宗教が持つ役割は増えつつあり、特に若いミレニアル世代の間ではその傾向が顕著です。巡礼の旅も、手軽に行けるような価格になりました。

宗教的ライフスタイルのプロモーションにはSNSのチャネルが主に利用されるようになりました。信仰心を持ちながら、表情豊かな快楽主義的なライフスタイルを送ることができます。情報発信に一役買っているのは、ブランドアンバサダーやインフルエンサーなどのインドネシアのセレブ達です。

宗教観に表れる変化

社会慣習の中で、宗教の位置づけは世代に関わらず重要性が高く、宗教に関わる時間は世代間で変わらないという結果が出ています。

宗教活動に費やす時間(1日あたりの平均)

ただ、それは「社会慣習」という平日のルーティンの中での行動であり、自由な時間が持てる週末の行動では、世代間で少し違いが出てきているようです。意識の中では、宗教の位置づけは若い世代に向かって薄れてきているのかもしれません。

「休日によく行うこと(5つまで選択か)」の質問で、「宗教活動」を選択した人の割合

以上が、インドネシアの有識者の意見を交えた、各世代の価値観変化に影響を与えた社会慣習・制度です。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは【タイ編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: インドネシア全土
世代別回答者数: Gen1(n=54)、Gen2(n=211)、Gen3(n=3299)、Gen4(n=598)
※各世代で男女が概ね半数ずつになるよう割付。民族別の割付は行わず、自然発生ベースで回収
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2019年12月

著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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