広告効果測定の歴史と、メディア・デバイスの多様化に伴う課題
毎年電通が発表している「日本の広告費」によれば昨年(2016年)の広告費は5年連続でプラス成長、特にインターネット広告は前年113%の成長で初めて1兆円を突破し、広告費全体の2割を占めるまでになっている事は周知の事実だろう。この背景にはスマートフォンを中心とするモバイル端末接触時間の拡大やコンテンツの多様化、アドテクを駆使した高度な配信技術の浸透などの大きな潮流があり、インターネット広告は今後も広告市場の成長をリードすることは間違いない。
年代問わずスマートフォン保有が当たり前になりつつあり、多くの消費者がスマートフォン画面の中で広告に接触する機会は増えている。動画広告は場所と時間の制約なく視聴者に映像・音楽も合わせて表現力が豊かな情報を伝達することができる。画面を眺めて関心を引き、商品名を覚えさせ、理解・共感させることも可能だ。精緻に選ばれたターゲットに対しテレビ広告と同等もしくはそれ以上のブランディング効果をもたらすことも期待できる。
私もこれまでマーケティングリサ―チに従事する者として多くの広告効果測定の作業に関わってきた。クライアントは商品ごとのキャンペーンを一元的に管理し、最適な媒体配分や表現内容の適正化を通じてプロモーションの効果を最大化することに大きな関心があった。そのためキャンペーン終了後には、一般生活者全体に対し広告の認知と表現に対する評価や、商品ブランドに対する理解・態度の変容を測定するための大規模なアンケート調査を行ってきた。マス広告によるキャンペーンの検証であればこの方法論が有効であった。
しかし、ターゲット配信を前提とするインターネット広告の効果の検証となるといくつかの問題点が発生する。一般生活者全体の枠の中において、測定すべき当該インターネット広告の接触者はテレビ広告に比べると限りなく少ない。またインターネット広告のリーチをアンケート回答者の記憶に依存するアスキングで正しく測定することも難しい。もちろん広告のアクセス数や滞留時間などのデータでリーチを測定することは可能であるが、ログデータだけでは理解や態度の変容までを測定することはできず、残念ながら広告の最終効果を明らかにする手段には至っていない。
デジタル時代に有効となる広告効果測定の手段とは
そこで、調査パネルのログデータを活用したデジタルマーケティングリサーチが有効な手段になる。オンライン媒体にタグを埋め込むことによりメディア毎にリーチしたモニターを精緻に特定することができるため、そのモニターの基本情報との照合によるプロフィールの把握、また実際に媒体に来訪したモニターに直接、追加でアンケートを配信してブランドの認知、理解、共感、購入意向など意識質問をなげかけることができる。
昨今ではテレビ広告など既存のマス媒体とインターネット広告を組み合わせたキャンペーンが主流であるが、インターネット広告はリーチの一部を補完するだけにとどまらず、自社HPへのリンク誘導やオフラインの来店促進など、消費行動を促す役割が期待されている為、その効果を正しく測定したいというニーズはますます高まっている。デジタルマーケティングリサーチでは、豊富なプロフィールデータを付帯したモニターが、インターネット広告へ接触した実態を、実行動データで収集できることのメリットも大きい。これまでのアスキングによるリサーチでは把握したい情報を1つのアンケート(記憶ベース)で聴取している為、広告のリーチの測定はできても、一人あたりの接触回数までを精緻に測定することは難しかった(消費者は覚えていない)。
一方ログデータであれば接触回数だけでなく接触時刻や接触延べ時間・接触ロケーションなどの詳細なデータ収集が記憶に頼らずに収集可能であり、これらと意識データのかけ合わせが可能になる。つまりインターネット広告の効果測定を、複数のデータソースを組合せる事でより高い精度で実施できるという事なのだ。接触回数とブランド認知率の関係、接触のタイミングと共感形成の関係が明らかになれば、理解やイメージ醸成にふさわしい配信のタイミングや「欲しい・参加したい」気持ちを喚起させる表現のあり方なども明らかになるかもしれない。
これらの新しい技術による広告効果の理論やノウハウはまだ確立には至っていない。今後調査や事例研究が積み重なることでインターネット広告を通じたブランディングや広告効果の測定が高まることを期待したい。
後編では、マクロミルのエグゼクティブマネジャー 後藤新がデジタル時代における広告効果測定について語ります。
著者の紹介
芦沢 広直
株式会社マクロミル 取締役
株式会社電通リサーチに入社し、調査企画部、市場調査事業の営業企画部門統括を経て、2009年4月マクロミル入社。 2010年1月より、リサーチのプランニング・提案・分析を行うソリューション事業本部を執行役員として統括し、2010年4月より、ネットリサーチ総合研究所の研究員を兼任。現在は、株式会社マクロミル エグゼクティブマネジャー、株式会社電通マクロミルインサイト 取締役を務める。
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