【後編 その1】 広告効果測定の課題と進むべき方向性|デジタル時代の広告効果測定を考える

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リサーチャーコラム

2017/12/7(木)

技術革新に伴う消費者データの拡大

スマートフォンを始めとして、様々な革新的なデバイスやサービスが人々の生活を大きく変化させてきました。最近では、「Google Home/グーグルホーム」や「Amazon Echo/アマゾンエコー」など、家庭用として販売され始めているスマートスピーカーが話題です。日本でもこの秋に「Google Home」と「Amazon Echo」の発売がスタートしました。

この音声AIを搭載したスマートスピーカーをGoogleやAmazonが開発し発売する狙いは何でしょうか?スマートスピーカーは音声を認識して好きな音楽を流したり、天気予報を読み上げたりします。しかし、彼らはただ便利で快適なサービスを提供するためだけに端末を販売するのではないと思います。

スマートスピーカーで取得できる音声データは、朝起きてから就寝までの家庭生活に密着したものです。まさに、家の中にGoogleやAmazonのコンシェルジュがいるようなもの。その音声データを活用すれば、適切な広告配信や最適な商品のレコメンドなどができ、消費者にとって今よりも心地良いサービスが提供できるはずです。そして、既存のマーケティングプレーヤーよりも競争優位なポジションを確立できるのです。このように、彼らは、消費者と自らのプラットフォームとの関係性をより強固なものにしていく狙いがあるのではないでしょうか。

そして、さらに次なる展開としては、PCやスマートフォン上での数億人に上る膨大なアクセスログと音声データを統合した、革新的な消費者データベースを構築していくことが予想できます。非常に強力で他社の追随を許さない存在になり、マーケティングKGIを取り巻く膨大な説明変数を、彼らが保持していく可能性を意味しているのです。

マーケティング手法、概念の変化

「Google Home」のような新たなプロダクトは、ようやく日本でもLINEをはじめ、ソニーや東芝といった国内メーカーが販売を開始し始めてきましたが、利用する消費者はまだまだ多くありません。しかし今後、その利便性が認められ、普及とともに関連サービスも充実していくと、消費者のライフスタイルも変わっていくはずです。そうなると既存のマーケティング手法や概念は確実に大きく変わり、マーケティング業界は大きな変革を強いられることになるでしょう。そしてそれは不可避なものになると考えています。

このような大きなパラダイムシフトは、既に“メディア領域”において起こっています。若者のテレビ離れが叫ばれて久しいですが、ゆっくりと確実にスマートフォンの利用時間が伸びてきており、今後、長らくお茶の間の中心であったTVの視聴時間を超えていくことはほぼ確実なようです。

メディア総接触時間の時系列推移

図1 メディア総接触時間の時系列推移

出典:博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 「メディア 定点調査2017」

また、LINEやFacebook、TwitterなどのSNSサービスは、一定の地位を確立しています。皆さんの生活の中でもなくてはならないものになっているのではないでしょうか。私の周囲では、携帯キャリアのデータ通信が月7GBでは足りず、毎月のように追加で課金して利用している、なんていう人も珍しくありません。

2020年には各大手通信事業者が、「5G」と呼ばれる次世代移動通信網を実用化する、と言われています。大容量の高速通信が可能となり、消費者がモバイル端末で動画を視聴する機会がますます増えていくことも予想されます。

インターネットサービス利用状況

図2 インターネットサービス利用状況

出典:マクロミル「インターネットの利用動向に関する定期調査」調査報告書 2017年6月

こういったテクロジーの進化に伴い、生活も進化する中で、「人が処理する情報量」は、ますます増大を続け、既に人の情報処理能力を遙かに超えています。また、消費者が接触する情報は媒体ごとにパーソナライズ化されており、一人一人が接触している情報は異なっています。ある意味マーケターは、 人々の”記憶“に情報を残すことに、より多くの努力と工夫が必要になるということを意味します。そして、消費者を理解する手段として、人々の“記憶”を尋ねる「Asking Research(アンケート調査)」だけに頼っていても、いずれ限界を迎えるでしょう。

情報過多な時代の消費者理解

従来のAsking Research(アンケート調査)のデータに、Webのアクセスログや位置情報、SNS上のつぶやきなどといったBehavioral data(行動データ)と呼ばれる消費者の行動情報を組み合わせる方法で、より的確に消費者を理解することができます。

例えば私の場合、昨晩目にしたテレビCMや、チャンネルを合わせていたテレビ番組を思い出せるかどうか、正直微妙なところです。今朝の通勤時間にスマホでアクセスしたサイトも、自分の意志で行ったにも関わらず正確にすべてを思い出すことはできません。しかし仮に、メディアに接触した情報がタグ計測などのデジタルテクノロジーによって記録されていたとしたらどうでしょうか。

人の意識と行動のギャップ

図3 人の意識と行動のギャップ

具体的には、ある特定の消費者がWeb広告に接触したログ(リーチやフリークエンシー)を、事実データとしてタグ計測(Behavioral data)します。そして、Asking Researchによって、その消費者の「ブランド純粋想起」や「ブランド助成想起」といった意識データを測定することができれば、その個人におけるブランド純粋想起のスコアをあげるためには、どれだけのリーチとフリークエンシー(Behavioral data)が必要だったのかを解釈できるのです。その結果、メディア接触状況(広告出稿量=いわばマーケターが努力した足跡)と紐づけて分析することが可能になります。

これは、“Asking data”と“Behavioral data”が、シングルソース(同一ユーザー)で取得できていることが重要です。それにより、例えば広告フリークエンシーとブランド認知の関係性を個人ベースで解明することができます。そしてこうしたデータが蓄積されてゆけば、広告にX回接触すれば、認知をY%確保できる、という予測も可能になるでしょう。

行動データとアスキングのブリッジ

図4 行動データとアスキングのブリッジ

これまでのWeb広告の評価はインプレッション数(Impression)やコンバージョン率(CVR)で測られてきましたが、消費者の質的な変化を測定することができませんでした。Behavioral dataとAsking Researchを組み合わせることで、その広告を見たことによる消費者の態度変容や行動変容を理解することができるようになります。こうした消費者理解が今後のデジタル時代の広告効果測定において重要な価値指針の羅針盤になると、私は信じています。

次回はさらに掘り下げ、「マーケティングの効率を上げるために有効な広告効果測定とは」についてお伝えできればと思います。

著者の紹介

後藤新

後藤 新

株式会社マクロミル 執行役員
2006年4月株式会社マクロミルに新卒入社。営業として通信ネットクライアントを担当、ユニットマネジャーを務める。2014年1月よりマーケティングプラットフォーム部へ異動、「AccessMill」を起案し、企画やマネジメントを行う。デジタルマーケティング事業本部の部長を経て、2017年7月エグゼクティブマネジャーに就任。

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