
【広告効果測定の実践・事例編】次回施策の「再現性」を劇的に高める!とある食料品メーカーの「データに基づく予算最適化」の舞台裏
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- デジタルマーケティング×リサーチ
公開日:2026/10/30(金)
前回の【広告効果測定の理論・手法編】では、「課題の類型化(意識 vs 行動、マクロ vs ミクロ)」をベースに、効果測定の全体像を整理しました。
【実践・事例編】となる今回は、具体的な2大手法である「Marketing Mix Modeling(MMM)」と「広告接触者調査(ブランドリフト調査)」について、実務における具体的なデータ設計や注意点を詳しく解説します 。
さらに、とある食料品メーカー(以下、X社)の具体的なケーススタディを通じて、広告出稿終了後の事後検証から次回の戦略・戦術改善へのフィードバックを導き出すプロセスを詳細に再現します 。
本記事は、マクロミル主催の広告効果測定セミナー「“本当の広告効果”説明できますか?広告効果測定の基礎から、実践に必要なアプローチの方法を徹底解説 〜実践編〜」の内容を基に作成された連載記事の第2回です。
- 1. Marketing Mix Modeling(MMM)の実践方法
- 2. 広告接触者調査(ブランドリフト調査)の実践方法
- 3. 分析事例から見る広告効果測定の実際:食料品メーカーX社
- 総括:2手法を組み合わせた再現性のあるPDCA
1. Marketing Mix Modeling(MMM)の実践方法
MMMとは、テレビ、デジタル、販促など、あらゆるマーケティング活動と、売上などの目的変数との関係を時系列データから統計的にモデル化する分析手法です 。各施策がどれだけ目的変数に貢献したかを定量的に評価し、最適な予算配分を導き出します 。


MMMの分析フローとデータ設計の基準
MMMは、回帰分析という統計解析手法をベースにしており、大きく分けて下記の5つのステップで実施します 。個人単位のデータではなく、市場レベルの時系列データで分析を行うため、精度を担保するためのデータ設計には厳格な基準が求められます 。
MMMの分析ステップ
1. 分析期間・変数の設定 ➔ 2. データ収集 ➔ 3. モデリング ➔ 4. 結果の評価・可視化 ➔ 5. 示唆の抽出・シミュレーション
これらの各ステップには、分析精度を左右する重要なポイントが含まれています。
下記は、 1. 分析期間・変数の設定 ➔ 2. データ収集 のステップで留意すべき内容です。
- 分析期間(サンプルサイズ):
精度の高い分析を行うには、最低でも100時点以上のデータが必要です 。基本は週次データを使うことが望ましく、その場合は2年以上が目安になります 。広告投下から反応までのタイムラグが短い商材であれば、日次データ(3か月以上)での分析も可能です 。ただし、分析期間内にリブランディングなど、広告と目的変数の関係性に大きな変化が生じると精度に懸念が生まれるため注意が必要です 。
- 目的変数の選択:
事業成果指標(店頭売上、EC売上、新規登録者数、新規インストール数)のほか、指名検索数やSNS発話数といったKPI・中間指標、また消費者の意識の変容も含めた高度なモデル化を行う場合は認知率などの意識指標を設定します。
- 説明変数(要因側の変数)の投入:
目的変数に対する効果を測るために、複数の変数を投入します 。基本的には、目的変数に一定の影響を与える要因はすべて網羅的に投入することが望ましく、広告(テレビCM、デジタル広告、OOH)、オウンド施策(SNS投稿)、販促・店頭情報(キャンペーン、価格、取扱店舗規模)、外部要因(気象情報、カテゴリ需要)などを収集します 。
変数設定における2つの落とし穴と対処法
実務で説明変数を設計する際には、以下の「網羅性」と「変数の量・相関」 という2つの課題に対処しなければなりません。
- 説明変数設定の注意点:網羅性
外的要因を含め、重要な変数がモデルから抜け落ちていると、モデルの説明力が落ちるだけでなく、モデルに含めた広告の効果の測定にも“バイアス”(ズレ)が生じる可能性があります 。
例えば、ビールブランドは、気温が高く売上が伸びやすい夏の時期にテレビCMが投下されやすく、このとき外部要因である「気温」を除外して分析を行うと、気温の上昇による需要・売上の伸びが、誤って「テレビCMの効果」として判定され、効果を過大に評価してしまいます。 - 説明変数設定の注意点:変数の量と過度な相関
網羅性が重要な一方で、説明変数の量が多すぎると、影響度の測定精度が落ちることがあります 。また、説明変数の中で「過度に相関が高い」(連動して動く)変数の組み合わせがある場合、目的変数がどちらの影響を受けているか区別ができず、測定精度が落ちるケースがあります。変数の量の目安としては、サンプルサイズの1/10 – 1/5(100時点であれば10-20個程度)です 。
説明変数の中で過度に相関の高い組み合わせがあるときは、「数値を合算して変数を1つに統合する」「地域別分割などでサンプルサイズを増やす」「他の効果測定の結果を事前情報として組み込む」といった対処を検討します 。
続いて、下記は 3. モデリング➔ 4. 結果の評価・可視化 のステップで留意すべき内容です。
モデリングと結果の妥当性評価
モデリングの際は、重回帰分析をベースとしつつ、マーケティング・広告に特有の反応を捉えるため、曲線的な反応を考慮する「飽和効果」や、翌週以降への反応を考慮する「残存効果」を組み込むのが一般的です 。
モデルの精度評価としては、予測値と実測値の乖離を示す指標である、R²(決定係数)やMAPEを用います。さらに、乖離が小さい場合でも個別の貢献度が歪んでいる可能性があるため、算出された貢献度や費用対効果(ROAS)が他のデータや定性的な情報と整合しているか、「妥当性の評価(整合性確認)」を必ず行います 。
精度が確認された統計モデルを活用することで、「予算総額を変えずに売上を最大化する予算配分」や「各媒体の費用対効果を最大にする出稿金額」などを導き出す、高度な数値シミュレーション(最適アロケーション算出)が可能になります 。
2. 広告接触者調査(ブランドリフト調査)の実践方法
広告接触者調査(ブランドリフト調査)とは、特定の広告キャンペーン実施後に、広告接触者と広告非接触者(コントロール群)に対し、ブランディング指標を測るアンケート調査を実施する分析手法です 。

広告接触者と広告非接触者のスコアの差分(リフト値)で施策の効果を測定・評価します。

接触の定義と「属性の同質化」の設計
ブランドリフト調査の設計において最も重要なポイントは、「接触の定義」と「両群の属性の同質化」です。
「接触の定義」には、アンケート内で素材を見せて「見た」と答えた人を接触者とする「広告認知ベース」や、出稿メディアの利用を聴取する「メディア利用ベース」のほか、計測タグやデータクリーンルームを活用して取得した接触ログデータを用いる 「アクチュアルログベース」があります 。ログベースは事前準備が必要ですが、接触回数別などの配信最適化に活かせる軸で分析ができ、最も示唆に富んだ分析が可能となります 。
そして、効果を正しく測定するためには、比較する両者で接触情報以外の属性が同一となるよう対象者条件を設定しなければなりません。

もし両者に属性の違いがある場合、スコアに違いがあったとしても、それが広告効果なのかそもそもの属性の違いによるものなのか判別がつかなくなります(属性の違いがもたらす悪影響)。
そのため、属性の性質に応じて以下のようなアプローチで同質化を図る必要があります。
- 基本属性(性年代・世帯情報など):
同様の属性を持つ人が集まるように回収数(サンプルサイズ)を決めておく「割付」によって同質化します。
- 事後的な属性(カテゴリ購入頻度・メディア利用頻度など):
調査内で初めて判明する属性であり、接触/非接触でズレが生じやすいため、集計時に“重み付け”(ウェイトバック補正)を用いて事後的に属性構成を一致させます。
比較軸の発展と評価指標
単一メディアの接触/非接触比較だけでなく、次へのアクションに繋げるうえでは、「接触メディア別(クロスメディア分析)」「クリエイティブ別」「接触回数(フリークエンシー)別」など、接触者の中に複数の群を設ける発展的な比較軸が有効です 。
聴取するKPI(ブランドファネル、ブランドイメージなど)は、スコアをTOP2集計などの割合で算出することが一般的です。また、接触者あたりの効率を示す「リフト値」だけでなく、広告リーチ人数を掛け算した「リフト人数(市場において態度変容が起きた純増人数)」や、費用対効果を示す「コスト・パー・ブランドリフト(CPB)」まで算出することで、次回のメディア選定や戦術改善への具体的な示唆が得られます 。
3. 分析事例から見る広告効果測定の実際:食料品メーカーX社
セミナーで紹介された、手法を適切に組み合わせた実践的な検証事例を見ていきましょう。
【事例:食料品メーカーX社のサブブランド展開】

- 商材・課題:主要アイテムは手厚い支持があったが、近年強化している他のサブブランドについてユーザー数の伸び悩みが見られていた。
- コア・ターゲット:カテゴリライトユーザー(女性30-50代)。
- 広告目標:期間中に女性30-50代におけるサブブランドの名称認知率を5pt上昇させ、かつカテゴリライトユーザーにおける新しい利用用途(シーン)での想起率を高める。
- 広告施策:テレビCMに大きな投下を行うほか、動画メディア・SNSなどを補完的に活用。
効果測定の分析設計(アプローチ)
重要視する分析課題は目標達成の評価、媒体レベルの効果測定、そしてクリエイティブの分析です。KPIは全て意識指標であるため、効果測定も「意識」で行います。
1. 全体目標の評価(マクロ×意識):

2. 媒体別・クリエイティブ別の効率可視化(ミクロ×意識):

徹底的な事後検証の結果とネクストアクション
出稿終了後にデータを集計・分析した結果、以下の事実と次回の施策に向けた明確なフィードバックが導き出されました。

- ①全体目標の評価:
- サブブランドの名称認知率の上昇は+4ptとなり、目標の5ptには届かなかったものの、全体として名称認知率は大きく上昇。また、カテゴリライトユーザーにおける新しい利用用途での想起も+1ptと増加が見られ、新しいシーンの訴求は一定成功したと判断されました。
- ②媒体別の効率の可視化:
- 認知率のリフト値はテレビCMが+7pt、動画メディアAが+3ptとなった。一方、動画メディアBはマイナスリフトという結果になりました。
リーチ規模を加味した「リフト人数」ではテレビが圧倒したものの、金額あたりの態度変容効率を示す「CPB」では動画メディアAが最も優れた結果となりました。 - ➔ ネクストアクション:次回の施策では、金額あたりの効率が良かった動画メディアAの予算配分(アロケーション)を増やすことを検討。
- 認知率のリフト値はテレビCMが+7pt、動画メディアAが+3ptとなった。一方、動画メディアBはマイナスリフトという結果になりました。
- ③クリエイティブの分析:
- 素材AとBの比較において、素材Aの方が「素材認知率」が高く、接触者の「名称認知率」を大きくリフトさせていました。一方で、クリエイティブ詳細評価を見ると素材Bの方が狙ったシーンを正しく訴求できており、結果として「購入意向率」においては素材B接触者が素材A接触者を上回るという、態度変容のメカニズムが可視化されました。
- ➔ ネクストアクション:次回の配信戦術として、キャンペーンの前半では素材Aのような「アテンション」を取れるクリエイティブを投下し、認知が増えてきた後半のタイミングで、活用シーンを想起させ購入意向を高める素材Bのようなクリエイティブの配信比率を増やすというフライトパターンを設計しました。
総括:2手法を組み合わせた再現性のあるPDCA
本連載で解説してきた2つのアプローチには、それぞれ明確な長所と限界点が存在します。
Marketing Mix Modeling(MMM)は、時系列データを用いて各施策の効果を俯瞰的に横比較し、シミュレーションによる戦略へのFB(投資判断の是非など)や成果の評価を得意とします。
一方で、網羅的なデータ収集の難易度が高く、個別クリエイティブの深掘りといったミクロな視点での評価は不可能です。
対する広告接触者調査(ブランドリフト調査)は、比較的短期間に調査データのみで実施でき、クリエイティブ別や属性別など、次回の戦術改善(配信面やフリークエンシーの決定など)に直接活用可能なミクロな効率評価・プロセスの評価を得意とします。
しかし、すべてのメディアをログベースで横並び比較することは難しく、直接的な費用対効果(売上ROI)の測定には向きません。
課題に合わせて適切な手法を選択することはもちろん、この2つを「年に一度の健康診断(MMM)」と「毎回のキャンペーンの振り返り(ブランドリフト調査)」のように組み合わせ、互いの限界点を補う運用をすることで、初めてマーケティング成果に再現性をもたせることが可能になります。

実施の際は、事前の分析設計が大きなカギを握っています。分析課題に的確に答え、かつ精度を最大限意識した分析設計ができると、効果測定のクオリティは高まり、次回施策に向けた示唆に富んだ結果を得ることができます。
広告効果測定のフレームワーク構築や、実際のデータ設計について課題をお持ちの方は、ぜひマクロミルへお気軽にお問い合わせください。貴社の課題に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。
MMMならBrand Dynamics Modeling
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著者の紹介
株式会社マクロミル デジタルマーケティング本部 DataScientist
宮嵜 健太
マクロミル入社後、データサイエンティストとして事業企画部門に所属。
入社以来、計量経済学のバックグラウンドを活かして、因果推論の考え方を活用した広告効果測定サービスの企画に従事。
現在はコミュニケーションが複雑化する時代の指針となる「クロスメディア広告効果測定フレームワーク」の整備とソリューション提供に取り組む。
