
『リピート率を高めたいが、購買履歴に基づくクーポン配信しか手が打てていない』
『自社データだけでは顧客の本当のニーズが見えない』
——こうした悩みを抱えるCRM・マーケティング担当者は少なくありません。 人口減少や新規顧客獲得コストの高騰を背景に、多くの企業が既存顧客のLTV(ライフタイムバリュー)向上を最重要課題と位置づけていますが、LTV向上戦略の実現には多くの壁があります。
そのような中、2026年8月25日、顧客起点マーケティングメソッドの9segs®を提供するM-Force株式会社とマクロミルの共催により、ロイヤル顧客・LTVをテーマとしたセミナーが開催されました。
ロイヤル顧客を増やすために欠かせない、
①育てるべき顧客をどう見極めるか
②見極めた顧客にどうアプローチするか
という2つの勘所を、M-Forceのフレームワーク(9segs)と、マクロミルの意識データ活用の手法も使いながら、対談形式で解説しました。
そこで本レポートでは、自社が保有する行動データの限界を乗り越え、顧客心理を捉えることで真の「1to1コミュニケーション」を実現し、顧客のロイヤル化を促進するための実践的なアプローチについて、セミナーで講演した内容を元にアフターレポートとして要点を詳しく解説します。
※当日のセミナー資料全編が本ページよりダウンロード可能です。
■セミナー概要
タイトル:
<マクロミル × M-Force>
「次のロイヤル顧客はどこに眠っているのか?〜自社データの限界を超え、『顧客心理×行動』でLTVを最大化するアプローチ〜」
登壇者:
元P&Gブランドマネージャー マクロミルグループ M-Force株式会社 代表取締役CEO 竹中野歩
株式会社マクロミル CRM/CX支援事業シニアディレクター 椋橋順平
- 1. なぜ今、LTV(Life Time Value)が重要なのか?
- 2. LTVを阻む壁:行動データの限界と「Why」の重要性
- 3. 解決策:顧客を構造化し「行動を変える理由」を見つける「9segs®」
- 4. 具体的な実践方法:マクロミルのデータを活用し、見極めた顧客へ「刺さる1to1」を届ける
- 5. まとめ:LTV向上に向けた3つのステップ
1. なぜ今、LTV(Life Time Value)が重要なのか?
セミナーの冒頭では、現代ビジネスにおいてLTVが最重要指標となっている社会的・ビジネス的な背景が整理されました。主な要因として、以下の3点が挙げられます。
- 新規獲得からリピート重視へのシフト:
人口減少や広告費の高騰により、新規顧客を獲得するコストが上昇しています。そのため、既存顧客からのリピート購入やクロスセル(関連する別の商品やサービスを「追加」で提案)を促進することが、事業成長においてより重要になっています。 - 商品のコモディティ化とCX(顧客体験)の重視:
機能や価格だけでの差別化が難しくなっている中、購買後の顧客体験やブランドへの愛着(エンゲージメント)を高め、競合への乗り換えを防ぐファン化戦略が求められています。 - 顧客データ活用の民主化:
データクラウド環境の進化により、大量の顧客データを統合・活用することが容易になり、データドリブンなマーケティングやLTVの算出がより身近なものになりました。
また、各企業が行っているLTV向上施策を例に、どのような特徴があるかを議論し、大きく2つに分類してまとめています。
- リピート/単価引き上げ施策:
エクスペリエンス(体験)そのものを変え、エンゲージメントを高めることで、同ブランド・サービスに対しユーザーのリピート・継続を生む施策。
例として、SpotifyのWrapped(「今年あなたが一番聴いた曲」を個別化して提示することで強いエンゲージメントを生んで解約防止につなげている。)などが取り上げられました。 - クロスセル施策:
既に購入・契約しているブランド・サービスとは異なる自社の別商材に対するクロスセル施策。
例として、ZOZOTOWN(アパレルに加えてコスメを販売)、メルカリ(メルカリShopsでの野菜・農産物販売)が取り上げられ、本来のサービス・商材よりも購入スパンが短いサービス・商材を取り扱うことで来店頻度・接点量を高める効果も狙っている点がユニークだと伝えています。
2. LTVを阻む壁:行動データの限界と「Why」の重要性
LTVを向上させるためには、顧客一人ひとりの属性や状況に合わせた「1to1コミュニケーション」が理想とされます。しかし、多くの企業では既存顧客を大まかにひとくくりにし、全員に一律のキャンペーンを配信してしまいがちです。その根本的な原因は、分析に用いているデータが「行動データ(いつ、何を、いくら買ったか)」にとどまっていることにあります。
行動データは「結果」を示すファクトとしては優秀ですが、「なぜリピートしたのか」という行動の裏にある「Why(理由・心理)」までは教えてくれません。
【CASE STUDY:化粧品ブランドにおけるデータ活用の差】
セミナー内で紹介された化粧品ブランドの事例では、利用するデータの種類による施策精度の差が示されました。
① 「行動データ」のみでできる施策
行動データからは、「新規顧客は2回リピートすると継続率が跳ね上がる」「コア商品を使うと継続率が跳ね上がる」という結果がわかります。これに基づいて考えられる施策は、「初回・2回目購入者に、コア商品の割引クーポンを配布する」という特定のタイミング・商品に対するアプローチになります。
② 「意識データ」も活用することでできる施策
アンケート等で意識データも収集することで上記の行動データに加え、「多くの顧客が“知人からのおすすめ”をきっかけに購入している」「肌への“効果”を実感するとリピートにつながる」という顧客心理(Why)が見えてきます。この「Why」を踏まえることで、単純なクーポン配布にとどまらず、「紹介キャンペーンの実施」や「店頭・アプリ等で肌への効果を可視化するサービスの提供」といった、顧客に「何を(What)」伝えるべきかまで踏み込んだ精度の高い戦略へと昇華させることができるのです。

3. 解決策:顧客を構造化し「行動を変える理由」を見つける「9segs®」
行動データの限界を超えるための具体的な解決策として、M-Forceが提唱する顧客起点マーケティングのフレームワーク「9segs®(ナインセグズ)」が紹介されました。
顧客を9つのセグメントに分解・可視化
「9segs®」は、自社および競合ブランドの顧客を「行動軸(購入頻度や利用状況)」と「心理軸(次回購入意向=NPI)」の掛け合わせによって、9つのセグメントに分類するフレームワークです。
これにより、単なる「一般ユーザー」の中にも、「これからロイヤル顧客になるポテンシャルを秘めた人(積極一般顧客)」と「離反予備軍(消極一般顧客)」が混在していることを定量的に可視化し、どこにLTVの「伸びしろ」があるのかを特定できます。

行動を変えるための「意識データ(Why)」の取得
「9segs®」の真価は、単に顧客をセグメント分類するだけでなく、そのセグメントの顧客の行動を変えるための「意識データ(Why)」を取得・分析できる点にあります。たとえば、「一般顧客」を「ロイヤル顧客」へ引き上げるためには、どのような価値(知覚品質やブランドイメージなど)を提供すればよいのか。顧客がブランドを選ぶ本当の理由(=選ばれる理由)を明確にすることで、勘や経験に頼らない、データを根拠とした「顧客を動かす戦略」を描くことが可能になります。
4. 具体的な実践方法:マクロミルのデータを活用し、見極めた顧客へ「刺さる1to1」を届ける
「9segs®」によって「誰に(Who)」「何を(What)」届ければよいかが明確になった後、それを実際のマーケティング施策に落とし込むための強力な武器となるのが、マクロミルが提供するデータ連携ソリューションです。
「意識データ」の拡張推計によるパーソナライズ
自社が保有する全顧客に対して詳細なアンケートを実施することは現実的ではありません。そこで、マクロミルが保有する130万人規模のモニターパネルと自社の顧客IDをセキュアに連携します。アンケートに回答した一部の顧客から得られた「詳細属性」「重視点」「メディア・行動習慣」「趣味嗜好」「ライフスタイル」「価値観」といった意識データを教師データとし、機械学習モデルを用いて自社の全会員データに「推計付与(拡張)」することが可能です。これにより、アンケートに未回答の大多数の会員に対しても、それぞれの価値観を予測し、精緻なパーソナライズを実現する土台が整います。
CDP/MA連携による「動く施策」への昇華
推計付与されたセグメントや価値観のデータは、CDP(顧客データ基盤)やMA(マーケティングオートメーション)ツールに連携して具体的なアクションに活用します。顧客が「なぜそのブランドを選んだのか(あるいは選ばなかったのか)」という意識データ(Why)に基づき、一人ひとりの心に直接刺さるクリエイティブやオファーをピンポイントで配信します。
これにより、単に購買履歴に基づき自動通知を送るだけの施策から脱却できます。一般顧客に対して上位商品への「クロスセル・アップセル」を成功させたり、離反傾向にある顧客に対して最適なメッセージを届けて「解約防止」につなげたりと、顧客の態度変容を促し、LTVを確実に向上させる「動く施策」へと進化させることができるのです。

5. まとめ:LTV向上に向けた3つのステップ
最後に、LTVを向上させるための戦略立案のステップが以下の3点にまとめられました。
- 構造化と目標設定:
顧客を単一の集団として見ず、「9segs®」を用いて行動と心理で構造化し、どのセグメントのLTVを高めるべきかを見定める。 - WhoとWhatの見極め:
ターゲットに対して、行動データだけでなく「意識データ」を活用し、その顧客が誰であり(Who)、何を求めているのか(What)、行動を変える「Why」を深く理解する。 - 刺さる施策の実行:
見極めた顧客理解に基づき、適切なタイミングで、顧客の価値観に響く1to1のコミュニケーションを届ける。

あらゆるデータが取得できるようになった今だからこそ、自社データの枠を超え、顧客の心理と行動を深く理解するアプローチが次世代のCRM戦略において不可欠な視点と言えるでしょう。