DINKSとは?夫婦の選択とライフスタイルの多様化から読み解く新消費層のリアル
少子化、晩婚化、多様化。現代の社会構造は、昭和・平成の標準モデルとは異なる形で人々の生き方を変化させ続けています。その中でも近年、改めて注目を集めているのが「DINKS(ディンクス)」というライフスタイルです。
DINKSとは「Double Income, No Kids(共働きで子どもがいない夫婦)」の略語で、もともとは1980年代に欧米で登場した言葉ですが、現代の日本でも、人口構成・働き方・価値観の変化とともに新たな意味を持ち始めています。
本コラムでは、「DINKSとは何か?」という基本から、定義、歴史、背景、特徴、価値観、消費傾向、住宅・保険・金融・旅行など業界別マーケティングへの影響、よくある誤解、そしてこれからの展望までを丁寧に解説します。
- DINKSとは?言葉の定義と歴史的背景
- DINKS層が増えている社会的背景
- DINKSの特徴とライフスタイル
- DINKS層の消費傾向とマーケティング視点
- 業界別に見るDINKSマーケティングの可能性
- DINKSに対する誤解と社会のまなざし
- DINKSという選択肢が広げる社会の可能性
- まとめ:DINKSとは“二人で生きる”を戦略的にデザインする人たちである
DINKSとは?言葉の定義と歴史的背景
DINKSは、「Double Income, No Kids」の略で、日本語に訳すと「共働きで子どもを持たない夫婦」を意味します。明確な年齢や結婚年数の定義があるわけではありませんが、一般的には「夫婦の両方が働いていて、かつ意図的に子どもを持たない選択をしている家庭」を指します。
この言葉が登場したのは1980年代のアメリカ。ベビーブーマー世代の中で、従来の専業主婦モデルではなく、夫婦がともにキャリアを重視し、経済的に自立しながら、子育てではなく自己実現や趣味、旅行、資産形成などに時間とお金を使う価値観が広まりました。
日本でも1990年代に一部で使われていましたが、ここ数年、再び「DINKS層」が注目されている背景には、共働きが標準化し、子どもを持たないことが「特殊ではない選択肢」として定着してきた時代性があります。
DINKS層が増えている社会的背景
共働き比率の増加とライフデザインの自由化
内閣府の統計によると、いまや夫婦世帯の約7割が共働き。男女ともに大学進学率が高まり、就職してからも正社員として働き続ける女性が増えています。その中で「結婚=出産」という価値観が崩れ、「夫婦=チームとして暮らす」というスタイルが広がっています。
子育てコスト・将来不安の増大
教育費、住居費、共働き家庭の保育所探しの難しさなどを考えると、「子どもを持つこと=人生の豊かさ」ではなく、「子どもを持たないことで得られる自由と充足感」に価値を感じる人が増えてきています。
社会の許容性とメディア影響
YouTubeやSNSでは、DINKS夫婦の生活やマネープラン、旅行Vlogなどが人気を集めており、「子どもがいない暮らし=孤独」ではなく、「選択の一つ」として自然に受け入れられるようになってきました。
DINKSの特徴とライフスタイル
DINKS層の価値観や行動パターンには、次のような特徴があります。
- 経済的に比較的安定しており、自由に使える可処分所得が高い
- 子どもがいない分、時間のコントロールがしやすく、趣味や学びに投資する傾向が強い
- パートナーとの関係性を重視し、“夫婦の時間”を楽しむライフスタイル志向
- 仕事もプライベートも“自分で決める自由”を大切にする
- 将来設計においても、「子のため」ではなく「自分たちのQOL」が中心
このように、DINKS層は「子どもを持たないことで犠牲が生まれる」のではなく、「自分たちの人生を自分で設計できる」ことに魅力を感じているのが特徴です。
DINKS層の消費傾向とマーケティング視点
DINKS層は、既存の家族モデル(夫婦+子ども)を前提としたマーケティングでは捉えきれない、独自の購買行動を持っています。
高単価の体験型消費に意欲的
旅行、グルメ、レジャー、エンタメなど、「今この瞬間を楽しむ」消費が強く、プレミアムホテルやワンランク上の旅行プランなどが人気です。
インテリア・住宅選びにこだわる
子育てしやすい間取りではなく、「2人が快適に暮らせる」「来客が楽しめる」「趣味部屋がつくれる」など、自分たちの生活スタイルに最適化された住環境を重視します。
将来不安に備える“堅実な資産形成”も重視
保険や投資、確定拠出年金(iDeCo)など、早い段階から“自分たちの老後”をシミュレーションしている人も多く、ファイナンシャルリテラシーが高い傾向があります。
外食・デリバリーの利用率が高い
共働きゆえに、平日は効率的な食事管理、週末はご褒美外食やホームパーティなど、「食」の領域でも二人のスタイルを大切にする動きが見られます。
業界別に見るDINKSマーケティングの可能性
住宅・不動産
広さよりも“質と設計”。ワークスペースや趣味空間、ホテルライクな設備の提案が有効です。また、子ども部屋の代わりに収納やシアタールームを充実させるニーズもあります。
旅行・レジャー
夫婦二人で海外、地方、ラグジュアリー、短期リトリートまで、DINKSは旅行頻度も満足度も高めの層です。静かで上質な滞在や、美術館・ワイナリー・グランピングなど、“没入できる非日常”との相性が良好です。
保険・金融
世帯単位で資産運用を考える傾向が強く、共働き・子なし前提のライフプラン設計に対応した金融商品、保険設計、セミナー需要が高まっています。
ファッション・ライフスタイル
家族向けではなく、“自分たちの審美眼”で選ぶライフスタイル提案が響きます。家電、家具、ファッション、アートなどで“夫婦で揃える”世界観を演出することが差別化になります。
DINKSに対する誤解と社会のまなざし
DINKSという言葉が再注目される中で、根強い誤解や偏見も存在しています。
- 「子どもがいない=わがまま」「家庭の責任から逃げている」
- 「将来的に後悔するはず」「一時的なライフステージだ」
- 「マーケティングの規模が小さいニッチ市場」
こうした見方は、過去の“標準モデル”に囚われすぎていると言えるでしょう。DINKSは「何かを諦めた人たち」ではなく、「何を選ぶかを自分たちで決めた人たち」です。
マーケティングにおいても、「家族向け」か「独身向け」かの二項対立ではなく、「夫婦ふたりで生きる」を前提とした提案設計が求められています。
DINKSという選択肢が広げる社会の可能性
DINKSというスタイルが定着することは、「結婚・出産・家庭はこうあるべき」という既存価値観のアップデートにもつながります。実際に、行政もDINKSやチャイルドフリー層を含めた多様な世帯構成への対応を模索し始めています。
また、都市部では「DINKS向けマンション」「夫婦二人の終活設計」など、ライフスタイルに特化した商品やサービスも増加中です。
重要なのは、「子どもがいないかどうか」で人を分類するのではなく、「どんな人生設計を望み、そのためにどんな消費・暮らしを選んでいるか」を丁寧に見ていくことです。
まとめ:DINKSとは“二人で生きる”を戦略的にデザインする人たちである
DINKSとは、「子どもがいない夫婦」という属性を超えて、「共働きだからこそできる暮らし方」「ふたりで選ぶ人生設計」を実践している人たちです。彼らは、自立し、戦略的に消費し、感性を大切にする“高感度な生活者”として、これからのマーケティングで注目すべき存在です。
企業は、家族構成ではなく“価値観と行動”にフォーカスすることで、DINKSという層に寄り添う提案が可能になります。彼らの目線に立ち、彼らが本当に求めるものに気づいたとき、それは決して小さな市場ではないことに気づくはずです。
DINKSとは、“今”を重視し、“ふたり”で築く、“自分たちの人生”を選んだ人たちです。そのスタイルを尊重し、応援するようなブランド・サービス・社会が、これからの当たり前になっていくのではないでしょうか。