この寄稿もこれが最終回になる。最終回らしく、マーケティングのデジタル化の本質論を書こうと思う。 デジタルトランスフォーメーションは、企業のバリューチェーンのすべてで起こることであるので、マーケティングだけのデジタル化を論じるのはナンセンスでもある。「ビジネスのデジタル化」というのが本当のところだろう。
ただ、「マーケティング」という概念が日本企業では曖昧、または非常に狭義に解釈されていて科学として信用されていない現状で、そのデジタル化による再定義(他部門との横串しでのデジタル化)は、ある意味チャンスではないかと思える。
そこで、重要なのはCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)の設置と、その役割(ロール)の持たせ方である。今、日本企業でCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を置いても、その役割の範囲や権限は知れている。そもそもマーケティングがしっかり定義されていない以上、CMO設置はただ欧米企業を真似ただけに成り兼ねない。
一方、ビジネス全体のデジタル化をミッションとしてCDOを設置することになると、これはかなり部門横断の役割と権限を持たさざるを得ないので、COOやCFOクラスの上位レイヤーのオフィサーになる。
筆者はデジタル化の本質は「人材育成」と唱えているが、まさに「人材教育」もCDOのミッションとなるだろう。それだけ、デジタル化は従来の部門(縦割り)概念を打破することになると同時に、企業内の全部門でマーケティング思考が出来るいい機会となるだろう。
さて、マーケティングのデジタル化の本質を5つに整理してみると、下記のようになる。
- 1. アナログ施策のデジタル化こそ本丸
- 2. ブランドごとの施策から、消費者ごとへの施策へ
- 3. リアルタイムでの施策運用なしで最適化は叶わない
- 4. 教育こそがデジタル化の本質
- 5. マーケティングファネルが崩れるDNVBの台頭
1. アナログ施策のデジタル化こそ本丸
「マーケティングのデジタル化」の本丸が、従来からアナログ的に作業してきた施策のデジタル化(デジタルテクノロジーやデータを活用してプロセスを変革すること)であり、いわゆるデジタル施策を従来の施策に付け加えることではない、ということだ。
企業内に従来のマーケティング活動とは一線を画すものとして「デジタルマーケティング本部」を設置してそれを「デジマ」を略称するケースがよくみられるが、これがまさに「出島」になっている。すなわち、デジタルというエーリアンとは特別区「出島」でだけインターフェイスし、江戸城本丸はそのままにしようということになっている。いわゆる「デジタル施策」だけに特化してもマーケティングの幹の部分は従来のままで、枝葉の部分をデジタルで装うだけになってしまうため、これでは返ってデジタル化を遅らせる。
「本丸のデジタル化」
これを経営者は認識しなければならない。
2. ブランドごとの施策から、消費者ごとへの施策へ
広告マーケティング活動はブランドごとに行うよりも、デジタル化によって消費者ID単位で管理する方が機能的になるということだ。複数のブランド展開をしている企業にとってはブランドを横串しにしてマーケティングする機能が必ず必要になる。
リスティング広告やDSPは、すでに入札による広告購入モデルになっている。“ブランドごとに発注していると、社内で競争入札して価格を上げている”ということに気が付かないといけない。逆に言えば、ブランド横断で買い付ければ最適化が可能になる。
3. リアルタイムでの施策運用なしで最適化は叶わない
「事前に最適なプランなどない」ということだ。リアルタイムダッシュボードを活用して、リアルタイムに施策を展開する。つまり事前に最適化しようとするのではなく、「運用でリアルタイムに最適にする」というのが正解になる。
そもそも広告キャンペーンは、予算化する際に稟議書に書く仮プランをベースに、代理店も従来型の予約型広告でプランを構成し、そのプランどおりに執行されるということが続いてきた。しかし、予算ありきのプランは、結局予算を消化することが目的化してしまう。数値による達成目標が設定され、予算内で目標を達成したらそこで投下をやめればよい。あくまで目標値達成が目的であって、予算消化が目的ではない。運用型の広告キャンペーン施策はこうした思考を前提にするもので、リアルタイムに状況や効果が把握できる時代だからこそ、「運用して最適にする」を実践すべきである。
4. 教育こそがデジタル化の本質
デジタル化対応ができる人材教育こそが「デジタル化の本質」であるということだ。これには求められる人材のスキルセットを具体的に定義することが大事だ。そうしたスキルセットが育成されるには、どのような場で、どのような協力者・連携先とどのように仕事を進めるべきか、その知見をどのように共有して組織として機能させるか…。前述したようにCDOのメインのロールが「教育」ということになる。
5. マーケティングファネルが崩れるDNVBの台頭
ソーシャルメディアによる新たなマーケティング形式として、サブスクリプションモデルの新形態「DNVB(Digital Native Vertical Brand/デジタル・ネイティブ・ヴァーティカル・ブランド)」を注目すべきだ、ということである(当稿では詳細は省く)。
これらのデジタル化の本質でも、例えば『2. ブランドごとの施策から、消費者ごとへの施策へ』ではAIによるデジタル広告配信の最適化が想定される。今後のデジタル広告は、良質な掲載面をバルクで買っておいて、インプレッションごとに、タイミング、オーディエンス、掲載面コンテンツに最適なブランドの広告を最適なメッセージをAIが選んで配信することになろう。
AIはマーケティングをどう変えるのか…?
端的に言うと、「旧来の意識調査に依存した調査会社は要らなくなる」時代が来るだろう。
AIによってマーケティング施策の実行が行われると、なぜそうなっているかを突き詰める必要がなくなる。AIは因果関係ではなく、相関関係値の高いものに自動的に寄せていき結果を出すだけなので、理由を追及する意味がない。人間が頭で理由を追及して施策に応用するモデルにおいてこそ調査というプロセスが必要だったが、AIによる自動最適化モデルではそれが要らない。
そうした時代に、調査会社はどう対応すべきか?
その解答はまた次回投稿する機会に。
著者の紹介
横山 隆治
1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年(株)旭通信社入社。1996年インターネット広告のメディアレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株)を起案設立。同社代表取締役副社長に就任。2001年同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。2008年(株)ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。2010年9月デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。2011年7月(株)デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。
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