企業活動のすべてにデジタルの影響と恩恵がもたらされる今、データドリブンなマーケティング思考が、マーケターには必須の要件です。
しかし、現状ではまだネットマーケティングに特化したスキルと、従来のマスマーケティング手法で継承されてきたスキルが分離している企業が多いと思われます。
お互いに文化の違いのようなところがあり、融合を難しくしている面もあるでしょう。しかし、何度も言っているように、デジタルマーケティングという特殊なマーケティングがある訳ではなく、マーケティングがデジタル化するのであって、企業マーケティングの本丸がデジタル化を果たさないと意味がないのです。
その意味で、双方のデータの扱い方での考え方の違いを、「分離」から「収斂」または「統合」に向けてお互いを理解する必要があります。
前回に述べたように、ネットマーケティングでは、インターネットを介して初めてユーザー行動を全数で把握すること、データ化することができるようになりました。これは画期的でしたが、ネットの行動ですべてが把握できるわけではありません。ネット行動に閉じたマーケティングになってしまうのは、ネットマーケターに従来の消費者意識データを中心にしたマーケティング経験がない故であることも影響していたと思います。
ネットマーケターがもっと従来のマスマーケターがやってきたことを吸収しておけば実効性があったであろうと思われることのひとつに、DMPによる拡張ロジックがあります。
そもそも「DMP」に関しては、導入はしたものの、本格的な活用にはほど遠いという企業がほとんどではないでしょうか。
その要因のひとつに、せっかく購買行動まで起こしてくれた消費者を捉えたのに、そのユーザーを逆引きして潜在層(まだ名前も分からない、どこにいるかも分からない)から、見込み客を浮き彫りにする(マーケターの思い込みではなく、データから新たなセグメントをつくる)、つまり、拡張する(=拡張ロジックをつくる)作業ができなかったことが最大の理由だと思います。
この逆引き(=拡張)によって潜在層から見込み客を抽出するという作業ができなければ、それはDMPではなく、従来のCRMツールの機能拡張版でしかありません。今存在するプライべートDMPはほぼそうしたものになっていると思います。
では、なぜそうした拡張ができていないのでしょうか?
日本では当初からDMPはおもにDSP事業者が開発してきました。彼らはテクノロジーには強くても実際のマーケティング活動や消費者インサイトを探る経験はなかったと思われます。 ですから「拡張」も同じような「閲覧URL」などで「look alike」を探すことくらいでした。こうした拡張は「同じようなURLを閲覧するlook alike」ではあっても、「化粧品の購買行動のlook alike」でも「SUV購買のlook alike」でもないのです。
こうした拡張ロジックは、マーケターがロジック構造をつくるしかないのです。このあたりのスキルは従来のマーケター、戦略プランナーがやってきた知見が活きる世界です。
ここでは、ネット行動だけでは構成できないロジックがあります。デモグラフィックやジオグラフィック、サイコグラフィックなセグメント経験が活きてきます。特に従来DMPにうまく生かせていない意識データも必要になるでしょう。
そういう意味でも、従来のマーケターの知見に、デジタルデータやデジタルテクノロジーを駆使するイメージを持つべきだろうと思います。きっと、長年、意識調査をしてきた調査会社やそれを使ってきたマーケターの素養が次世代マーケティングに必要なのです。
意識調査から消費者をいくつかのクラスターに振り分けるノウハウが調査会社にあるとすれば、それをDMPにおけるデータや拡張ロジックに使えるようにすべきです。
データドリブンなマーケティングを実現するためには、従来からの調査の知見、従来からの消費者インサイト探索の知見、従来からあるマーケティング施策の企画実施の知見、こうしたものを総動員する必要があります。 むしろ、従来からマーケティング施策を仕掛けてきたマーケターこそが主役であり、かれらがデジタルを取り込むことでしか実現できないといえるでしょう。
ただデジタルによって起きている構造変化への認識は新たにする必要があります。 その一つは、マーケティングのサイクルです。
従来は年1回程度のキャンペーンのために、企画し、予算化して、企画したことを執行する、そして調査する。というアニュアルなサイクルが一般的でした。
しかし、今は日々データが取得可能です。また調査設計して実査するモデルより、全数データは常に供給されているので、それらをリアルタイムでフィードしてきて、分析し、マーケティング施策を最適化することを前提に、そうした判断ができるようにダッシュボードに表示するモデルになっています。
デジタル化ということの大きな要素は、データ収集だけでなく、マーケティングの施策実施のリードタイムがとても短くなっている、ということを意識すべきです。 筆者はある出版社への講演で、その出版社が紙媒体からWebやアプリ対応にも一生懸命力を入れてデジタル化を進めていると言っているものの、Webの編集タイアップも基本的に従来の紙媒体のリードタイムで行っていることを挙げて、デジタル化していないと指摘しました。
マーケティング活動もアジャイル型になり、事前に企画したものを企画したとおりに実施する(予算を使い切る)ことだけではダメだといえます。競合ブランドの動きや消費者の反応がリアルタイムで把握できる今、キャンペーンは実施しながら最適化することが必要です。
こうした環境変化に伴って、調査によるデータ収集の考え方も大きくシフトしてきていると言っていいでしょう。この環境変化を従来からの知見をもつ調査パーソン、マーケターが認識して、自分のものにすることが重要です。
著者の紹介
横山 隆治
1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年(株)旭通信社入社。1996年インターネット広告のメディアレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株)を起案設立。同社代表取締役副社長に就任。2001年同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。2008年(株)ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。2010年9月デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。2011年7月(株)デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。
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