新型コロナウイルスの感染が拡大する今、消費者心理にはどのような変化が起きているのか、速報をお届けしたいと思う。働き方や暮らし方が急激に変化した人も多く、調査データを見ると消費者心理もそれに呼応しつつあることがわかった。今回分析した調査データは、マクロミルが全国1,000名の消費者意識を週次で定点観測しているMacromilll Weekly Indexである。 このわずか1カ月間で景況感や消費マインドが過去最低のスコアを更新するなど特異な挙動を示しており、今注目すべきデータをいくつかピックアップしてご紹介したいと思う。
消費者が気になった話題やニュースの変化
「この1週間で気になった話題やニュース」を自由記述で回答してもらい、ワードクラウド※1を用いて視覚的に表した(図1)。2019年12月の第1週は、“桜を見る会”に関する話題を中心に芸能関連ニュースなどが様々挙げられていた。話題は、年が明け2020年1月1週に“ゴーン氏の海外逃亡”に移り変わり、そして2月1週には“コロナウイルス”が挙げられ始めた。3月1週には“新型コロナ”一色となり、関連する“トイレットペーパー”や“小中高休校”といったキーワードもちらほらと見られる。もはや日本中の消費者が注視してせざるを得ないものになっているようだ。
図1 過去1週間で気になった話題やニュースの変化
ポジ・ネガスコア、初めて逆転
次に、消費者が過去1週間を振り返ったときの“気分”に注目したい。
「楽しかった」「うれしかった」というポジティブスコアは2020年に入ってからはダウントレンドとなっている。一方、「不安だった」「憂鬱だった」というネガディブスコアは2020年に入ってから上昇を続けており、2月4週には「楽しかった」を上回った。このように、ネガティブスコアがポジティブスコアを上回ったことは、調査に当設問を追加した2013年4月以来、初めての傾向である。
図2 週間センチメントの変化
景況感、先行判断が過去最低
消費者の景気の状態に対する印象、“景況感”についてはどうだろうか。「今の身の回りの景気判断(現況)」と「2~3カ月先の景気の見通し(先行き)」を用いて、景況感DIを算出したデータを見ていく(図4)※2。
これまでを振り返った際の景況感DIの特徴として、国内外の経済状況や物価の変動によってスコアは変動しており、過去2回の消費増税のタイミングで大きく低下した。また、長期間に渡って「先行き」が「現況」を上回ってきた。即ち、将来の景気は今よりも改善されるだろうという期待感があったと捉えられる。
2014年4月の消費増税では「先行き」と「現況」の差分がプラスであったが、2019年10月の消費増税ではマイナスに転じた。そして、2019年の年末に「先行き」が上回ったものの、2020年2月には「先行き」が過去最低となり、再びマイナスへと大きく転じた。先の見えない今後の景気を憂えている様子がうかがえる。
図3 これまでの景況感DIの変化
消費マインドと消費金額の変化
今後1カ月の個人の消費金額について増減予想を指標化した「消費マインド」※3を見ていく(図4)。
消費マインドは、スコアが50よりも大きければ消費が増え、50よりも小さければ消費が減る、という今後の消費全体の動きを予測することができる。消費マインドには毎年、年単位の周期性がある(グラフ縦軸は左側が“前年同週比”、右側が“消費マインド”)。年末がピークとなり年始に一気に下降するという動きがあり、2018年のグレーの折れ線グラフと、2019年のブルーの折れ線グラフも同様である。しかし、点線グラフの“前年同週比”を比較すると、2019年の消費増税以降、1.0を下回ることが多い。年末年始にかけては前年同週比が1.0を上回ったものの、2020年2月以降は前年同週比が低下しつつある。
図4 消費マインドの変化(2019年9月~)
「消費マインド」に対し、実際の支出を示すものが「消費金額」である(図5)。
消費金額は、消費マインドと同様に年末年始にピークがある。消費金額は2019年9月の時点では“前年同週比”が1.0を上回っている。これは「消費を抑えよう」という意識とは別に、増税前のタイミングにおける駆け込み需要があったものだと考えられる。そして、増税されてからは前年同週比が1.0を下回るときが多くなってきている。また、消費マインド同様に、2020年2月以降に前年同週比が急激に低下しつつある。
図5 消費金額の変化(2019年9月~)
定点観測調査は平穏な毎日が続くのであれば、週次のスコアの振れ幅も安定したものとなり、もしかすると定期的なチェックは必要ないかもしれない。しかし、日々刻刻と状況が変わりつつある今だからこそ、消費者の心理や行動を観測する装置としてMacromilll Weekly Indexがその役目を果たしていきたいと思う。
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※1 出現頻度が高い単語を抽出し、その頻度に応じた大きさで図示する手法
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※2 今の景況感(現況)は「良い(100点)、やや良い(75点)、変わらない(50点)、やや悪い(25点)、悪い(0点)」、2~3か月先の景況感(先行)は「良くなる(100点)、やや良くなる(75点)、変わらない(50点)、やや悪くなる(25点)、悪くなる(0点)」とそれぞれ点数を与えた時の平均値
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※3 過去1か月間と比較した今後1か月の個人消費量について「大幅に増える(100点)、やや増える(75点)、変わらない(50点)、やや減る(25点)、大幅に減る(0点)」と点数を与えたときの平均値
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※4 マクロミルがインターネット上で募集し、自社管理するアンケート専用モニター
著者の紹介
村上 智章
元マクロミル 事業統括室
名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻修了。都市計画コンサルタントを経て、ヤフーバリューインサイト株式会社に入社。その後、マクロミルとの経営統合により、マクロミル総合研究所に配属。アナリストとして調査データの分析を担当するとともに、アンケートモニターと調査データのクオリティ管理に従事。2013年より日本マーケティング・リサーチ協会インターネット調査品質委員会委員長を務める。専門統計調査士。
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