各世代が影響を受けた経済背景と、購買傾向とは【ベトナム編】

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リサーチャーコラム

2022/4/7(木)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、ベトナムの以下のような各世代が影響を受けた「経済背景と、購買傾向」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 ベトナム戦争世代(リタイヤ層)(~1975年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 ドイモイ世代(ジェネレーションX)(1976~89年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 ミレニアル世代(フリートレード世代)(1990~99年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 ポスト・ミレニアル世代(ジェネレーションZ)(2000年生まれ~)

50年で達成した劇的な経済的転換

1954年から1975年まで続いた第二次インドシナ戦争による破壊と国土の荒廃は、非常に大きな経済的負担となりました。さらには、戦後100万人を超える人たちが難民として国外へ流出し、状況は悪化の一途を辿るばかりでした。難民の中には何万人にも上る専門家や専門職人、学者、技術者、熟練労働者も含まれており、ベトナムにとっては大きな損失となりました。1976年の南北統一後は、国営化した工業が難航し、生産や不均等な需要と供給、非効率的な流通、高騰するインフレ率、上昇する負債水準など、多くの問題が発生し、ベトナムの経済は混乱に陥りました。ベトナムは戦後の再建時代に急激に経済が悪化した数少ない国の一つとして、世界近代史にその名が刻まれています。

ドイモイ改革政策は、自由市場を推し進めるために、外資系企業を含む民間企業の設立や海外投資を奨励しました。1990年代後半までには、3万を超える民間企業が設立され、経済も年間7%を超える勢いで成長。貧困率はほぼ半減しました。

現在、ベトナムは非常に活気のある国です。人口は9,554万人(2018年世界銀行データ)、この30年の間に貧困にあえぎ、荒廃しきった国から、新しく工業化された「アジアの虎の子“tiger cub” 」として、世界有数の精力的な経済を誇る国に生まれ変わりました。ベトナムのGDPは1990年から2016年の間に3,303%と驚きの成長を遂げ、中国に次いで世界第二位の急成長を成し遂げています。 (出典:WENR)

中間層の台頭

都市化、政府による都市計画、海外直接投資(FDI)は、不動産や株式市場価格、金の価格を大幅に引き上げました。加えて、勢いがある経済のおかげで、中間層は2009年から2019年にかけて88%の急成長を見せています。2009年に1,200USDだった平均所得額は、2019年には3,000USDにまで跳ね上がり、2029年には10,400USDに達すると予測されています。キックスターターやインディゴーゴーのようなクラウドファンディングによる資金調達手段を提供してくれるサイトは、新しい富裕層に大変人気があります。

貧困の削減

モバイルアプリを利用して簡単にお金を借りられるようになると、小規模金融も劇的に増加しました。借り入れを利用するのは主に女性です。借りた資金は、都市部に引っ越して新しい生活を立ち上げるために使われます。

Gen2とGen3の借り入れ傾向

前後の世代に比較して収入が安定していると言われるGen2とGen3ですが、収入がある分、消費意欲も高いためか、消費者ローンなどからの小口借り入れの割合が非常に高いです。

世代ごとの購買意識の違い

Gen1は安定志向派で用心深い

Gen1は戦争を乗り越え社会主義経済の中で育ってきたため、強い労働倫理観を持っています。仕事に励み困難な時代を乗り越えてきました。たくさん貯金をしていますが、将来を危惧しています。現在は安定した収入がありますが、消費に対しては保守的で、買い物をする際は自分で「見て触って体験して」と、確認してから買う傾向があります。

Gen1の貯蓄の目的と消費

Gen1の特徴である「消費に対して保守的」「将来を危惧している」「(自分を犠牲にしても)家族のために尽くす」という価値観は、貯蓄の傾向にも表れています。貯蓄は自分が欲しいものを買うためではなく、将来を危惧して老後のため、子供の教育のためが、他の世代に比較すると高い傾向を示しています。

また、消費については、製品の品質や提供価値がしっかりと伝えられているかを気にするので「あいまいな広告表現」は信用しません。製品やサービスに対する評価は「(信頼できる)友人や同僚などからの口コミ」に頼り、購入しても問題がなく安全であることが確認できない限りは、Eコマースは利用しない傾向があります。

旺盛な消費意欲と見栄消費のGen2

Gen2は、同僚や友達、世界のトレンド、KOL(Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー)の略称。専門性を持ったインフルエンサー。)に影響されます。 自分の購買体験、口コミ情報、Facebookやベトナム版LINE「Zalo(ザロ)」といった、SNSの製品情報の交換グループなどの情報を頼ります。

様々な国のブランドを好み、輸入品以外の新しいブランドは避ける傾向があり、新しい国内ブランドは友達から勧められない限りは購入しません。エコ製品(例えば、プラスチック削減に取り組んでいる会社やその商品、エコ包装、ゼロ・ウェイスト、有害成分除去済み製品、化学添加物不使用食品など)に関心があります。

Gen3は「意識高い系」?

Gen3も、同僚や友達、世界のトレンド、KOLに影響されます。今、自身が持っている知識や情報を基に購入を決定し、高価な製品の場合は、家族に相談します。

買い物は、製品の機能性が決め手。期待通りの機能や性能が発揮されている製品であり、宅配サービスなどの付加価値がついているとなお好む傾向があります。Eコマースを頻繁に利用。物を所有することよりも、オンデマンドサービスなどのアクセス権購入を好みます。一定のブランドにはあまりこだわらないこと、質の悪いカスタマーサービスにあまり寛容的ではない傾向があります。

エコ製品(例えば、動物虐待をしていない、化学添加物不使用・無添加な食品や家庭用品、トレーサビリティ対応食品、 環境に配慮した梱包など)に関心があります。

若い世代によるエコ意識は、環境汚染に対する意識の高さが背景に

若い世代(Gen3、Gen4)は、エコを意識した購買意思決定をしているようですが、その背景には環境汚染に対する高い社会意識があるようです。

実利的でTech-Savvy(科学技術に精通している知識がある)なGen4

Gen4は、利便性と価格に左右され、価格が同じ商品の場合は、その付加価値(送料無料サービス、ギフト包装無料サービス等)を重視します。欲しいものや必要なもの、欲求などは親に依存しており、親の意思や選択次第で決まります。Eコマースを頻繁に利用し、商品のレビュー参照は主にSNSを利用しており、Facebookで友達の感想や意見、広告、対象製品のコミュニティなどを見て参考にします。対象製品のコミュニティや製品を提供している企業のサイトをフォローするだけではなく、その商品や似たような商品を幅広く取り扱っている一般的な小売業者のサイトもチェックしています。超カスタマイズされたアルゴリズムやプロモーションに乗っかって商品へと導かれることに対して前向きという特徴もあります。

なお、ブランドロイヤリティは他の世代よりも低い傾向があります。

以上が、ベトナムの有識者の意見を交えた、各世代が影響を受けた経済背景と、購買傾向です。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「各世代が影響を受けた経済背景と、購買傾向とは【中国編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: ベトナム全土
世代別回答者数: Gen1(n=221/男性138、女性83)、Gen2(n=485/男性198、女性287)、Gen3(n=597/男性204, 女性393)、Gen4(n=332/男性130、女性202)
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2020年2月

著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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