顧客の潜在ニーズを探る方法とは ~行動観察を例に~

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リサーチャーコラム

2018/6/18(月)

私は現在、リサーチャーとして、日用品・化粧品業界の市場調査を担当し、企業のマーケティング課題から調査企画・設計、分析を行っています。最近、さまざまな企業の調査担当者から、「顧客の潜在ニーズを発見するにはどのようにしたら良いだろう?」といった相談が増えています。これは、消費者ニーズの多様化、デジタル環境の変化による情報の変化、社会・マーケットの変化の中で、過去の成功事例のマーケティングでは通用しなくなってきたためだと捉えています。

このような変化の中、今求められているのは、“消費者の行動(事実)を基点に、消費者の奥にある気持ち・真意にまで踏み込み、洞察すること”です。その手法として、以前から「行動観察」が注目されています。

「行動観察」とは、実際に生活者の行動を“見る・観察する”ことにより、無意識行動の背景に潜む、インサイトおよび、行動の背景にある本人が気付いていない深層心理を探りだす手法です。行動観察には、調査の対象となった生活者の自宅に直接訪問する「訪問調査」や、製品の使用シーンや使用環境を生活者自身が撮影した写真や動画などを収集し観察する方法等があります。

なぜ、行動観察が注目されているのか

では、なぜ今、行動観察が注目されているのでしょうか。
それは、言語化されていない、生活者が無意識にとっている行動やニーズを把握することができるからです。
無意識の行動やニーズとは、たとえば普段の買い物で、“あらかじめ何を買うかを決めてお店に行ったが、実際はお店の中を徘徊し予め決めていなかったもの以外の商品をカゴに入れて買ってしまう行動”や、また浴室用洗剤が自宅の台所に置いてあるといった、“一般的に使用される場所とは異なる場所に置かれていたり使用されているといった行動”などを指します。また、“鼻歌や独り言をつぶやきながら掃除しているといった行動”も含まれます(以前、観察したある専業主婦は、掃除が終わったあと「今日はこのぐらいにしてやるか」と発言していたこともあります)。

従来の「Webアンケート」や「グループインタビュー」は、消費者が自分で言語化できる「顕在化されたニーズ」を把握することはできましたが、潜在的なニーズまでの把握はなかなかできませんでした。そんな中、「行動観察」は実際の消費者の行動を観察し、まだ消費者自身が言語化できない「潜在しているニーズ」を抽出することができるため注目されているのです。

行動観察による調査の方法や流れ

行動観察は定性(質的)調査であるため、対象者の人数は100~200人などの多人数に対して実施する必要はありません。1セグメントあたり、3~5人程度を確保します。実際に各対象者の自宅に訪問し(もしくは動画の撮影をしてもらい)、生活環境、また対象としている製品の使用行動を観察し、インタビューを行います。調査の目的によりますが、自宅に訪問する前に、毎日朝と夜の行動を動画撮影してもらうこともあります。

行動観察による調査の方法

※1:エクストリームユーザーとは、平均的なユーザーとは異なり、ある製品を頻繁に使っている方や他の人とは異なる使い方をしている方を示す。

図1 行動観察による調査の方法

“行動観察”で得られること

前提として、行動観察をすれば必ずインサイトが発掘できるというわけではありません。行動観察には、ネックでもありますが、「やってみないと何が発見できるかわからない」という特徴があります。ただ、調査対象者がある商品を使用する様を観察していると、想定外の使い方をしていたり、仮説とは全く違うシーンでの使用などが続出したりすることがあります。行動観察のメリットは、「仮説の検証」ではなく、「(調査対象者がとった)行動から新たな仮説を導くこと」にあります。そのため、行動観察をする上で重要なことは、観察者(行動観察の実施主体者)は、観察者の価値観で対象者を観察するのではなく、対象者の行動や発言を“純粋に受け止め”、また“気付く”ことです。

では、具体的な例をみていきましょう。以下は、50代男性の髪のケア行動を観察した調査です。

調査対象となった50代男性の生活環境や髪の悩み

対象者にインタビューをしたところ、以下の生活環境や悩みがあることを確認しました。

  • 人と会う機会が多い仕事に就き、顔のケアや、またファッションには気を遣っている。
  • 髪の悩みは2つあり、1つ目は年齢が上がるにつれ、髪が細くなっていることを感じ、将来、薄毛・抜け毛になるのでは?と、不安があること。2つ目は、髪の傷みや翌朝の髪がうねったり、はねたりすること。
  • 若い頃についてインタビューすると、学生から20~30代は眉毛を整え、髪はシャンプーやコンディショナー以外に、トリートメントをするなどケアをしていたが、年代が上がるにつれ、若いときと同じケアをしても結局キープはできないという諦めと面倒さを感じ、トリートメントやスタイリング剤までのケアは止めていた。

夜の髪のケア行動を観察

シャンプー・コンディショナーで髪を洗った後、ドライヤーを使用せずタオルで拭き、髪が完全に乾いていない状況でネットのようなものを頭にかぶり、就寝。

「ドライヤーを使わない」、「ネットをかぶって寝る」という行動は『面白い』発見です。それ以外にもわかったことは、「入浴後~寝るまでの一連のケア行動は、まるで動画を早送りするかのようにスピーディーに行動していること」でした。Web調査(アンケート調査)を行えば、「普段、あなたは夜のケアでどのようなことをやっていますか」と質問し、「ネットをかぶって寝ています」などの行動を把握することはできると思います。しかし、ケアするまでの行動が、何かに追われたように、短時間で済まされているということまでは、実際の行動を見てみないことには発見できません。

このようにして発見した“早送りをするように、スピーディーにケア行動をしている動き”、“ドライヤーを使わず生乾きの髪状態で、ネットなどの被りものをする”という行動背景に、この人が求めていることが隠れていそうです。それを探るため、観察している最中や、一連の行動を観察し終わった後に、「対象者がどのような気持ちでこの行動に至ったのか」、また「行動をとっている時にどのようなことを考えていたのか」などをヒアリングし、行動と気持ちの紐付けをして理由を探っていきます。

行動観察後の進め方と最近の潮流

行動観察やインタビューを終えた後は、撮影した(または調査対象者から回収した)動画の見直しを、企業の調査担当者と、私のような調査会社のリサーチャーとで行います。「対象者の人となり」、「生活環境」、「製品の使用行動」、「発言などで気づいたことや、この人ならではの面白いこと」を洗い出して、パーソナリティや現在に至るまでの背景、なぜその行動に至るのか、どのようなことを求めているのか等をディスカッションします。最近では、さらにその上で、インサイトを抽出し、そのインサイトを共有するワークショップや、発見されたインサイトから商品やコミュニケーションのアイデアを開発するためのワークショップなどを、一緒に実施するケースが増えてきました。

ワークショップの流れ

図2 ワークショップの流れ

その背景には、調査は実施したものの、その結果を商品開発等の実際の業務にうまく活用しきることができていない、という課題感を持つ方が増えてきたことがあると言えそうです。せっかく調査を行ったのだから、その結果を多様な視点から深掘りし、これまで以上に深く上手に活かすことで、課題解決・商品アイデアにつなげたいというニーズが高まっていると考えています。

今回は行動観察を例に、「顧客の潜在ニーズをどうしたら発見できるか?」について説明しましたが、顕在化されていないニーズを抽出するアプローチ方法は他にも「MROC」、「日記調査」、「アクセスログや購買データといった事実データと意識データを紐付け分析する方法」、「ニューロリサーチ」など様々なものがあります。また今後は、テクノロジーの進歩によって、さらに多様なアプローチ方法が増えてくるでしょう。このような中、私達リサーチャーは、人間工学や心理学など、「人間に関する知見」を持ち、企業のマーケティング課題に応えられるよう、スキルを高めていかなければと感じています。その上で、企業などの調査担当者も、より生活者の理解を深めるために生活者の行動を観察し、人間に関する知見をもって解釈をし、生活者が気付いていないニーズを抽出することが求められていくのではないかと思います。

著者の紹介

鈴木恵

鈴木 恵

株式会社マクロミル リサーチソリューション本部 第2ソリューション部 リサーチャー
マーケティング会社にて、プロモーションの企画立案、消費者調査の設計・分析業務に従事した後、2008年4月にマクロミルに入社。日用品・化粧品業界を中心に、調査の企画・設計・分析業務を担当。

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