アンケートやインタビューなど従来型サーベイのこれから

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リサーチャーコラム

2017/3/20(月)

1.すべてが記録される世界へ

2020年の東京オリンピック開催が決まってから、テレビなどで1964年の東京オリンピックの映像を見る機会が増えた。先日近所の居酒屋で、私よりもふた回り以上は先輩であろう方々がたまたまそんな映像を見ていたところに居合わせた。その時の、人生の大先輩たちの郷愁的な泥酔顔が非常に印象的だった。今から50年前、この大先輩たちはどんな若者だったのだろうか?とぐろを巻きながら酒をかっ込む老紳士たちの若者時代にはそれほど興味はないが、そんな気持ちを抱かずにはいられない程のノスタルジーに浸った泥酔面だった。
過去にその人がどんな人だったのか?どんな事をして、どんな事を感じていたのか?映像や手記などが残っているごく一部の人は別として、多くの庶民にとっては自分や周りの誰かの記憶の中にしか存在しない淡くて曖昧な思い出だろう。

さて、昨今、世の中ではウェアラブルデバイス、IoT、センシングなど近未来感あふれるワクワクするワードが飛び交っている。これらの技術がさらに発展していけば、近い将来私たちの周りで起こる全ての現象はデジタルデータ化され、どこかのDBに半永久的に格納され続ける未来がやって来るかも知れない。
50年後の居酒屋で2020年の東京オリンピックの映像を見る私の人生の記録は全てどこかのDBに格納されている・・・、私がいつどこで誰と何をしていたかが全て・・・。
身の毛もよだつ様な恐ろしい話だ。夏の夜にこんな話を聞いたら一人でトイレに行く自信はない。しかし、こんな世界も技術的には不可能ではなくなって来ているのだ。これらの世界は出来れば漫画や映画の中だけであって欲しいし、出来れば私には関係のないところで起こって欲しいのだが、どうやらそうとも言っていられないようだ。これらのテクノロジーの進化は我々マーケティングリサーチの業界にも大いに関係する。

図1

これまでもマクロミルのQPRなどの購買データでは誰が何を買ったのかは記録として保存されていたし、先日マクロミルからリリースしたMHS(個人支出調査)はバーコードがついていない買い物データも全て記録として保存できる【蓄積型】のデータサービスだ。
よく知られた〔Be〕-〔Do〕-〔Have〕の関係性(のどの渇きを癒したい〔Be〕から、水を飲む〔Do〕必要があり、水を買う〔Have〕)でいうところの〔Have〕に関してはこれまでもデータとして蓄積されて来た。今後、上述したような技術の発展とともに1つの上の階層である〔Do〕に関してもデータ化される時代がすぐそこまでやって来ている。ウェアラブル端末では心拍数や血圧などの健康機能だけでなく、瞬きや視線の動きなどもデータとして蓄積される。IoTの世界観ではどの家電がどのタイミングで使われたかや、どの扉がいつ開閉したかなどもデータとして蓄積される。もちろん、GPSやBluetoothなど人や物の位置情報がデータとして蓄積されているのは昨日今日始まった話ではない。

マーケティングリサーチにおいて『どのように行動(消費)をしたか』はこれまではアンケートやインタビューの仕事だった。しかし、これらが上述した技術によって【蓄積型】のデータサービスに取って代わられる未来を想像するのはもはや突飛な妄想ではないだろう。

2.既存のリサーチ手法の役割

〔Be〕-〔Do〕-〔Have〕の関係性に話が戻るが、〔Have〕と〔Do〕が【蓄積型】のデータサービスに置き換わっていく中でも、その上にある〔Be〕については、そう簡単には他の手段では代替出来ない。
もちろんソーシャルメディアのコメント分析など消費者の「感情」が現れる【蓄積型】のデータサービスは存在するし、脳科学や認知科学的なアプローチで「感情」が表出する事もある。またそれらから価値のあるインサイトを抽出する事も可能であるが、安定的にかつ双方向性を持ってデータを聴取するには、これまでの既存の手法以上のものは今のところは見当たらないと私は感じる。

私はマクロミル総合研究所の主席研究員の傍ら、リサーチャーとしての業務も担当している。というかそちらが本業である。手元にある最近の調査票やインタビューフローを複数本ざっと眺めてみたが、上述したような未来がやって来ても、アンケートやインタビューなどで聴取するべき要件として、“認知”、“ブランドイメージ”、“満足度”、“○○理由”、“○○意向”、“上市前商品評価” etc…というようなものは残りそうだ。ただし、認知やブランドイメージや購入/再来店/推奨意向などが今後も我々のお客様が追って行くべき指標として用いられ続けるかというと、はなはだ疑問ではある。グローバル化/ソーシャル化/モバイル化の流れの中でお客様が追って行くKPIも変化していく事は想像に難くないが、それはまた別の機会に論じたい。

結論、近い将来既存のマーケットリサーチ手法で聴取すべき要件は「理由」と「上市前商品評価」に集約されていくだろう。我々はリサーチファームとして〔Have〕と〔Do〕を押さえる【蓄積型】のデータサービスを提供すると同時に〔Be〕を押さえる既存の手法をよりブラッシュアップして行かなければ、お客様の期待には益々答えられなくなる。

想定外の未来を想定しつつ、来たる未来においてもマーケティングリサーチのリーディングカンパニーでいられるように、今後も真摯にお客様と技術に向き合って行かなくてはならない。

著者の紹介

西部君隆

西部 君隆

株式会社マクロミル 執行役員
東京理科大学卒業。2006年インタースコープ入社、ヤフーバリューインサイトを経て現在に至る。飲料・食品業界を中心にリサーチのプランニング・提案・分析に従事。2010年8月よりリサーチャー部門のマネジメントを行い、2014年4月よりネットリサーチ総合研究所主席研究員を兼任。

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