
近年、消費者のライフスタイルや価値観の変化に伴い、洗濯関連製品の市場でも多様化が進んでいます。中でも「消臭専用剤」は衣類や室内干しのニオイを強力に除去し、清潔感のある香りを長時間キープするために開発された洗濯用アイテムです。従来の洗剤や柔軟剤では対応しきれないニオイの悩みに応える製品として注目を集めており、2015年から2025年にかけて着実に市場を拡大してきました。
しかし、単に「売れている」だけでは見えてこないのが、購買の背景にある生活者のリアルです。誰が、どんな価値観で、どのような製品を選んでいるのでしょうか?
今回、マクロミルの消費者購買履歴データ「QPR」を用いた「潜在クラス分析 *」を実施したところ、所得層や価値観によってニーズや行動パターンが異なることが明らかになりました。
「消臭専用剤」という日用品の中に潜むマーケティングのヒントを、弊社保有の購買データ 、意識調査データを基に探ります。
*潜在クラス分析は、アンケート回答や購買履歴などのデータから、表には現れない「タイプ」や「グループ」を統計的に推定する手法です。たとえば、消費者の行動パターンに基づいて「価格重視型」「ブランド重視型」などの隠れた属性を明らかにすることができ、マーケティング戦略のセグメント設計やターゲティングに特に有効です。
※本レポートの分析データは、15~69歳のモニター(消費者)の購買履歴を対象としています
1.「消臭専用剤」市場の変遷
2015年以降の10年間で、「消臭専用剤」市場は着実に購買金額を拡大してきました。次のグラフを見ると、「消臭専用剤」は2015年から100人あたり金額が右肩上がりの傾向となっており、金額規模を拡大していることが分かります。

また、2015年と2024年の衣料用洗剤(ランドリーカテゴリー)内の金額構成比を比較すると、衣料用洗剤の購入金額の中で「消臭専用剤」に費やされる割合が増えていることがわかります。

更に、季節性の傾向を見ると、例年、夏期に購買金額が伸びる傾向が見られ、気温や湿度、生活環境の変化が購買行動に影響を与えていることが示唆されます。

また、2015年~2024年にかけては、「スメハラ(スメルハラスメント)」という言葉が広く知られるようになり、社会全体で「におい」に対する意識が高まっています。こうした背景が、「消臭専用剤」の需要拡大を後押ししていると考えられます。
2. 購入者像の深掘り
2-1. 属性データから見る購入者像
ランドリーカテゴリ全体と比較すると、「消臭専用剤」の購入者は女性比率が高く、特に30〜50代の割合が大きいことが特徴です。中でも50代女性の構成比は年々増加傾向にあります。

また、同居する末子の年齢別に購入者の人数構成比を確認すると、カテゴリ全体と比べて「子供なし」世帯(18歳以下の子供と同居していない世帯)の割合がやや低い点も注目されます。

2-2. クラスタリングによる購入者の価値観深掘り
さらに購入者像を明らかにするため、2024年9月〜2025年8月の1年間の購買データを用い、「消臭専用剤」を購入、かつ、「合成洗剤・柔軟剤のいずれか剤型 *」を購入している1,454人 **を対象として「潜在クラス分析」を実施しました。その結果、以下の4つのクラスタが抽出されました。
Class 1:「ジェルボール」メインユーザー
Class 2:「粉末洗剤」メインユーザー
Class 3:「液体洗剤」メインユーザー
Class 4:「高濃縮・ドラム式専用洗剤」メインユーザー
また今回、弊社が年に1回実施しているアンケートデータ***を活用し、洗濯用品の購入時に重視する項目を確認しました。その結果から、各クラスタの価値観の傾向を分析しています。
*剤型とは、合成洗剤の形状を指しています。主な剤型は、液体、粉末、ジェルボールなどです。
**2024年9月〜2025年8月の1年間に活動しているモニタ25,457人の内、合成洗剤購入率(54.0%)、柔軟剤購入率(38.9%)、「消臭専用剤」購入率(5.8%)となっており、いずれか購入者は16,259人です。その内、「消臭専用剤」を購入、かつ、「合成洗剤・柔軟剤のいずれか剤型 」を購入している人1,454人を今回の分析対象としています。
***QPRモニタを対象とした意識データ(QPR-SCAPE)を使用しています。
■分析概要
・分析手法:潜在クラス分析(Latent Class Analysis)によるクラスタリング
・対象期間:2024年9月~2025年8月(1年間)
・使用パネル:QPR
・使用データ:洗濯関連製品の剤型別購入有無(合成洗剤、消臭専用剤、柔軟剤)
・分析対象者:「消臭専用剤」を購入、かつ、「合成洗剤・柔軟剤のいずれか剤型」を購入している人
・クラスタ数:4クラス(class1~class4)
■分析結果

<各クラスタの特徴>


この結果から、「消臭専用剤」は一般的な合成洗剤(液体・粉末)を使用する層よりも、特徴的な剤型(ジェルボール・高濃縮洗剤)を使用する層に多く購入されていることが示唆されます。特に、購入量が多いクラスタは、ニオイ予防や除菌効果への関心が高い傾向があり、洗濯用洗剤だけでなく「消臭専用剤」を併用することで、より高い効果を求めている可能性が考えられます。
<参考グラフ>



3.まとめ
2015年から2025年にかけて、「消臭専用剤」市場は着実な成長を遂げ、生活者の価値観やライフスタイルの変化を色濃く反映するカテゴリへと進化しました。社会的には「スメハラ」への意識の高まりが、においへの配慮を促進しています。
そうした中で、「消臭専用剤」市場における購買傾向は、単なる属性や購買データだけでは捉えきれない、複雑な生活者の選択を映し出しています。剤型の好み、購入チャネル、洗剤に求める機能など、表面的な数値の背後には、より深い価値観や行動パターンが潜んでおり、それらを丁寧に読み解くことが、今後の市場戦略において重要な視点となります。
特に、潜在クラス分析を通じて、所得層や家族構成によって異なるニーズが存在することが明らかになりました。消臭剤の選択は、単なる機能性だけでなく、時短志向、衛生意識、使い勝手といった生活価値に基づいており、購入量の多いクラスタでは、洗濯用洗剤との併用によってニオイ予防や除菌効果を高めようとする意識がうかがえます。こうした“選択の構造”を把握することで、生活者の輪郭がより立体的に浮かび上がり、商品やコミュニケーションの設計においても、より的確なアプローチが可能になります。
「消臭専用剤」市場は、生活者の感性や期待が繊細に反映される領域であり、今後もその奥行きのあるインサイトを捉えることが、マーケティングにおける重要な鍵となるでしょう。
著者の紹介
株式会社マクロミル 第2事業本部 データマネジメント部 アナリティクスユニット
菊池 結花
新卒入社後、消費者購買履歴データ(QPR)を扱うデータ集計部に配属。
パネルデータの集計・分析業務に従事し、消費財メーカーの専任アナリストとして、クライアントの課題に応じた分析設計も行う。購買データを軸に幅広い業務領域に従事する。
株式会社マクロミル 第2事業本部 データマネジメント部 アナリティクスユニット
櫻本 芳美
中途入社後、消費者購買履歴データ(QPR)を扱うデータ集計部に配属。
パネルデータの集計・分析業務に加え、クライアントへの常駐業務を通じ、分析設計・レポート作成を対応する。購買データを軸に幅広い業務領域に従事する。
