ネットリサーチモニタの投票行動は世の中の縮図となり得るか ~衆議院選2017を振り返って~

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リサーチャーコラム

2017/11/9(木)

マクロミル総合研究所では、所長の萩原雅之を中心に、2017年衆議院選挙において、投票行動に関する調査を実験的に行った。調査対象者は全国の男女18~69歳とし、人口構成比になるように割付して実施した(調査期間2017年10月22日(月)~27日(金)、n=2,840)。その結果から、ネットリサーチのモニターの投票行動は、世間一般の投票行動を代表しうるのかについて考察する。

インターネット調査に存在する母集団の偏り

インターネット調査のアクセスパネルは、選挙人名簿から無作為抽出して構築されたものではなく、インターネットの利用頻度が高く、そしてアンケートに回答してもよいという自らの意思で登録している人たちである。このためネットリサーチの結果は世論の映し鏡となるものではなく、ある一定のバイアスがあるものとされている。
マーケティング・リサーチにおいては、アクセスパネルが持つバイアスを是としてインターネット調査が利用されているが、調査の手続きを重視する世論調査や社会調査においては、母集団バイアスが存在しているインターネット調査には使うべきではないという意見も多い。
ネットリサーチの普及期(2000年代前半)においては主にPCを利用することができた30-40代の人にしか調査を依頼することができなかった。しかし現在では、ネットリサーチが普及して10数年が経ち、PCユーザー、そしてスマホユーザーを含めた幅広い年齢層でネットリサーチを実施できるようになった。

18歳以上人口の性年齢階層比率の比較

図1 18歳以上人口の性年齢階層比率の比較

しかし、図1に示すようにネットリサーチでいくら幅広い年齢層をカバーできるようになったからといっても、日頃からインターネットに接する機会が少ない高齢者層の回答を得るには限界がある。人口構成比に合わせた大規模な調査において、アクセスパネルの年齢構成を考えると、70代よりも上の世代も調査対象に含めることは現実的ではない。

政治に対する意識が高いネットリサーチモニタ

ネットリサーチを選挙調査に適応するには、上述したようなアクセスパネルの問題や公職選挙法などの問題を抱えているが、マクロミル総合研究所では2017年衆議院選での投票行動に関する調査を実験的に行った。調査対象者は全国の男女18~69歳とし、人口構成比になるように割付して実施した(調査期間2017年10月22日(月)~27日(金)、n=2,840)。
まず今回の衆議院選(2017年10月10日公示、10月22日投票)での投票率であるが、総務省発表による実際の投票率は53.68%、一方、ネットリサーチの投票率は72.30%であった(図2)。

衆議院選挙2017年の投票率の比較

図2 衆議院選挙2017年の投票率の比較

今回のネットリサーチでは調査対象とした年齢に69歳までという上限を設けたという違いがあるものの、ネットリサーチの投票率は実際の投票率よりも約20ポイントも高い結果となった。
ネットリサーチのモニター(本調査ではマクロミルモニタ)は、「継続的にアンケートを回答してくれる人」という集団であり、共通した特徴として「真面目で忍耐強い」傾向があるといえるだろう。インターネット調査の結果には、世間一般の人よりも「生真面目バイアス」とも称することができるような偏りが存在しているかもしれない。

ネットリサーチによる政党得票率

投票行動に関する調査では、(1)「小選挙区」でどの政党から公認・推薦をもらった候補者に投票したのか、(2)「比例区」でどの政党に投票したのか、を調査した。小選挙区、比例区の投票先を示した調査結果と、実際の政党別の得票率の比較を示したものが図3である。尚、ネットリサーチの結果は何ら補正を加えていない生の数値である。

衆議院選挙2017年の投票率の比較

図3 衆議院選挙2017年の投票率の比較

小選挙区は選挙区ごとに候補者を擁立している政党が異なるが、小選挙区ごとにきめこまやかな割付が難しいため、回答者が投票可能な政党の中で回答する投票先と実際の政党の投票先との間には乖離が生じやすい。このため、小選挙区での自民党の投票率には約7ポイントの差が開いている。一方、比例区は回答者の居住地に関わらず、自由に投票したい政党を選択できる。ネットリサーチ(マクロミルモニタ)では公明党の得票率がやや低く、日本維新の会の比率がやや高くなっている。しかし、独立性の検定を行ったところ、小選挙区、比例区ともにネットリサーチと実際の得票率には統計的な差が生じていないことが確認された。
比例区の投票先を年代別にみると、若年層ほど「自民党」へ投票した割合が高く、18-19歳では約45%、20代では約46%となっていた。そして、60代のみ「自民党」ではなく「立憲民主党」への投票率が最も高かった。

比例区の年代別投票先(比例区

図4 比例区の年代別投票先(比例区)

また、RDD※1や出口調査では回答者に時間をとらすことができないため、あまり多くの質問を聞くことができない。一方、ネットリサーチではある程度の付加設問も追加することができるので、政策に対する考えや投票先を決定する際の重視項目など、多面的に投票行動との関係性を把握することが可能となる。

※1 RDD(Randam Digit Dialing):電話番号調査。電話をかけて調査を行う方法。

回答者の政治意識別にみた投票先(比例区)

図5 回答者の政治意識別にみた投票先(比例区)

このようにネットリサーチはパネルバイアスという問題を抱えているものの、今回の衆議院選挙においては特定の政党への投票に偏りはなく、一定精度の再現性を確保していることが確認された。
ネットリサーチであれば、単純な投票結果だけではなく、投票理由や投票先重視項目などの国民の心理をスピーディに把握できるため、結果の背景を数字で解釈できるという利点もある。今後、有権者の政治に対する意識把握や実際の投票にもインターネットが活用されることを期待したい。

著者の紹介

村上智章

村上 智章

元マクロミル 事業統括室
名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻修了。都市計画コンサルタントを経て、ヤフーバリューインサイト株式会社に入社。その後、マクロミルとの経営統合により、マクロミル総合研究所に配属。アナリストとして調査データの分析を担当するとともに、アンケートモニターと調査データのクオリティ管理に従事。2013年より日本マーケティング・リサーチ協会インターネット調査品質委員会委員長を務める。専門統計調査士。

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