過去調査とAIを掛け合わせ、新たなマーケティングプロセスを創出。 アイデアを量産し、イノベーションを生み出す挑戦

業界・業種
食品・飲料

2026/10/21(水)

アサヒビール株式会社様

アサヒビールはビール類、ビール類以外の酒類(洋酒、RTD、ワイン、焼酎)及びアルコールテイスト飲料を製造・販売しています。ニッカウヰスキー(株)やエノテカ(株)などグループ各社とも力を合わせ、各カテゴリーにおいて幅広い商品ラインアップを提供しています。

飲料市場において常に革新的な商品を生み出し続けるアサヒビール株式会社。同社はお客様のインサイトを深く理解し、より良い商品開発に繋げるため、長年にわたりマクロミルと共に多種多様な消費者調査を実施してきました。

今回、マクロミルのマーケティングDX推進本部がメインパートナーとして参画し、これまでの調査で蓄積された膨大な調査データをAIと掛け合わせた「AIペルソナ(AIパネル)」による新たな評価モデルの構築に取り組みました。そのプロジェクトの背景や苦労したポイント、今後の展望などについて、アサヒビール株式会社 マーケティング本部 消費者インサイト部 樋口群様にお話を伺いました。

※「AIペルソナ(AIパネル)」とは、マクロミル独自のデータ・ノウハウを用いて消費者を模したAIエージェントを指し、AIに対する定量・定性調査が実施可能です。

INDEX

組織のミッション:マーケティング全体の推進と新プロセス構築

――はじめに、樋口様が所属されている「消費者インサイト部」の役割と、ご自身のミッションについてお伺いできますでしょうか。

樋口様:
私たちが所属する「消費者インサイト部」のミッションは、大きく3つの柱に分かれています。

1つ目は、単にリサーチ業務を遂行するだけでなく、マーケティングプロセス全体をしっかりと推進していくことです。我々はリサーチを起点としながらも、マーケティング全体の進行をサポートする役割を担っています。

2つ目は、ビジネスストラテジーの観点です。「消費者インサイト部」という名の通り、お客様のインサイトを深く研究・理解した上で、各カテゴリーの商品開発に対して、消費者理解に基づく示唆を提供し、関係部門とともに推進していくことが求められます。

そして3つ目が、AIなどの新たな技術を活用したプロセスの構築です。これまでのやり方に留まらず、AIなどを前提とした「新たなプロセス」を試験的に導入し、検討を進めていくミッションがあります。私は現在、この新しいプロセス構築の推進をメインの役割として担っています。

樋口様

アサヒビール株式会社 マーケティング本部 消費者インサイト部 樋口群様

導入の背景:蓄積された調査データを「新たな価値創出」へ活用

――今回、マクロミルと共同で「AIペルソナ(AIパネル)」を活用したプロジェクトに取り組まれた背景には、どのような課題があったのでしょうか。

樋口様:
これまでマクロミルさんには、初期段階のコンセプト調査などを数多くご依頼し、我々の社内には膨大な調査データのアセットが蓄積されていました。しかし、課題は、蓄積したアセットを商品開発初期のアイデア創出や改善に横断的に活かす余地が残されていたことでした。

具体的には、過去のデータをTableauのようなBIツールに落とし込み、「過去の類似商品と比較して今回のスコアはどうだったか」といった現状把握や振り返りには使えていました。一方で、蓄積されたデータを「新しいものを生み出す」「長期的な視点でより良い商品を作るための示唆に活かす」という、次のステップには十分に展開できていませんでした。

ちょうどその課題に直面していたタイミングで、マクロミルさんから今回の「AIによる消費者パネルや評価モデルの構築」に関するご提案をいただき、我々の抱えていた課題感と目指したい方向性が合致したため、プロジェクトがスタートしました。

パートナー選定:ビジネス・商品理解に対する信頼とAIの回答精度

――様々なAIサービスを提供する企業が存在する中で、マクロミルをパートナーとしてお選びいただいた決め手は何だったのでしょうか。

樋口様:
一番大きな要因は、長年我々の調査をサポートしていただいており、アサヒビールのビジネスや商品特性を非常に深く理解してくださっている点です。

AIを使って消費者の評価モデルを作るにあたっては、単なるシステム開発の技術だけでなく、リサーチやAIに関する深い知見や、我々のビジネスに対する理解が絶対に欠かせません。その点において、マクロミルさんには、これまでの協業実績に基づく信頼がありました。

我々がAI活用の具体的な進め方を検討していた時に、具体的なご提案をいただけたことも大きな決め手でした。日頃から我々のビジネスを理解しているマクロミルさんからの提案だったことも、社内で検討を進める上で重要な要素でした。

また、AIの回答精度に関しても「どのような情報を踏まえることで評価結果の妥当性を高められるか」を共に検証し、一定の改善が確認できたことも、現在まで継続して取り組んでいる理由の一つです。

――これまでのお取り組みも含め、マクロミルの担当者に対する印象はいかがでしょうか。

樋口様:
マクロミルさんは、我々のビジネスや調査背景への理解が深いと感じています。私たちが「こういう分析やデータが欲しい」と考えた時に、意図を汲み取り、必要な分析やデータを先回りして準備してくださることがあります。リサーチのプロとしての意図を汲み取る力と、アサヒビールという企業を深く理解してくれている点が最大の強みです。

樋口様

開発プロセス:密なすり合わせで乗り越えた、AIの実務適用と社内浸透の壁

――実際に開発や導入を進めていく中で、苦労された点やハードルに感じた部分はありましたか?

樋口様:
最も難しかったのは、「AIの精度をどこまで求めるか、何を成功の基準とするか」というすり合わせの部分ですね。プロジェクト初期は、AIの評価基準や、どの水準をもって実務で活用可能と判断するかについて、双方で認識を合わせることに時間をかけました。

プロジェクトの途中で、「数値的な精度だけでなく、実際の現場でどう使われるのかが重要だ」という使い方の観点にシフトしていった時期がありました。その際、マクロミルさんから提出されるレポートの中で、「AIで何ができ、何ができないのか」「実際の業務でどのように活用できるのか」という使い方の部分を、継続的にわかりやすく提示していただけました。

そうしたマクロミルさんからの働きかけに対して、我々からもフィードバックを戻すといったやり取りを重ねながら一緒に形にしていった結果、我々自身のAIに対する解像度も上がりました。それにより、社内関係者に対しても、「このAIをどう業務に活かすのか」を具体的な活用場面と留意点を整理して説明できるようになりました。

また、AIペルソナを使用した汎用的な仕組みを導入するだけでは、必ずしも自社の実務に適合するとは限りません。今回は、我々固有のセグメントデータや定性・定量の情報を踏まえ、過去の調査結果との比較や実務メンバーによる確認を重ねながら、商品開発初期のアイデア評価や改善を支援する手段としての活用可能性を検証できた点に意義があったと感じています。

導入の成果:AIによる手軽な初期評価で、コストの壁で埋もれていたアイデアを磨き上げる

――導入から数ヶ月が経ちましたが、現状の成果や社内での反響、マーケターの方々の意識の変化はいかがでしょうか。

樋口様:
現在は従来の調査とAIをハイブリッドで活用している段階で、目指している姿に対して感覚的には6合目程度です。アイデアの初期評価や改善への活用は進みつつありますが、AIを前提としたマーケティングプロセス全体の設計や運用の定着はこれからです。

我々はこれまで、コンセプト調査に多くのコストを掛けて実施しつつも、「本当は調査にかけて検証したいアイデアがあるけれど、予算やスケジュールの枠が限られているため、調査にかける前に泣く泣く絞り込んで捨ててしまう」という課題もありました。

しかしAIを活用することで、これまで捨てざるを得なかったアイデアも手軽に評価し、どんどんブラッシュアップしていけるようになりました。AIによる評価結果を、アイデアを検討・改善する際の参考情報として活用し、仮説を磨いた上で、必要なものを実際の消費者を対象とした調査で検証する。このプロセスを取り入れることで、アイデアを検討できる機会が増え、初期段階でブラッシュアップを進めやすくなったという声が出ています。現場でも、アイデアを具体化するための新たな選択肢として受け止められ始めています。

樋口様

今後の展望:既存プロセスの代替を超えた「AI前提の新たなマーケティングプロセス」の創造

――今後のAI活用の展望や、目指している新しいマーケティングプロセスについてお聞かせください。

樋口様:
今後は、イノベーションの源泉となるような「ストックアイデア」を、AIを活用しながら継続的に生み出していきたいと考えています。将来の事業成長につながる可能性のあるアイデアの蓄積を、質と量の両面から充実させていくことが大きな目標です。

また、現在取り組んでいるのは「既存のコンセプト調査の一部をAIで支援・効率化する」というプロセスですが、我々が最終的に目指しているのはそれだけではありません。既存のプロセスの単純な置き換えではない、「AI活用を前提とした新しいマーケティングプロセス」そのものをゼロから作り上げたいと考えています。

――最後に、これからAI導入を検討している他社様向けのメッセージがありましたらお伺いできますと幸いです。

樋口様:
これからAI導入を検討する企業様にお伝えしたいのは、「とりあえずAIをやろう」ではなく、「明確な目的を持った上でAIを導入する」ことが何よりも大切だということです。「AIですること」と「しないこと」をしっかりと見極め、目的意識を持って進めることが、AI活用を成功させる最大の鍵になると思います。

――ありがとうございました。

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