
一人ひとりに最適化された情報や体験を届ける「パーソナライズ」は、いまや多くの企業にとって当たり前の考え方になりました。
LINEで届く誕生日クーポン、アプリのプッシュ通知、購入履歴に基づくレコメンド機能……。
CRMやMA、AIの普及により、デジタル上のコミュニケーションは高度化を続けています。
一方で、2026年に向けて企業と生活者の関係は、単発の接点である「点」から、継続的な「線」、さらには生活全体を捉える「面」の体験へと進化しつつあります。
しかし現実には、多くの企業がその途上にあり、生活者が期待するパーソナライズとの間には、依然としてギャップが存在しています。
本コラムでは、博報堂DYグループのシンクタンク部門やプロダクト開発をリードし、現在はマクロミルにてCRM/CX事業を推進する原田俊が、2026年の展望を解説。
テクノロジー活用とプライバシー保護の両立という視点も踏まえながら、システム起点ではなく、受け手となる「生活者の変化把握」を軸に、2026年に求められるコミュニケーションと顧客体験(CX)の在り方を紐解きます。
2026年が始まって早くも1か月が経とうとしていますが、企業のCRM担当者や顧客体験担当者においては、2025年の各施策を振り返り、今年の新しいチャレンジを検討・決定し始めているタイミングでしょうか。私も各社から発表される年頭所感やトレンド予測レポートを読むのを楽しみにしており、それらをもとに戦術、施策などを考える方も多いのではないかと思います。
ご存じの通り、CRMという手法は、デジタルの特徴をもとに構想された「One to Oneマーケティング」という理想に向けて、一般企業も大規模データベースを導入できるようになって以来の取り組みです。そのため、技術(CDPやMA、AIなど)の進歩によってできることが増えてきた歴史があります。
他方で「顧客体験(CX)」の改善という、より大きな流れの中で見たときに、現在のCRM施策(=Eメールなどのデジタルチャネルでのコミュニケーション最適化が中心)によるCX改善への貢献は限定的だと思われます。顧客体験設計・改善の一般的な流れ(顧客のペルソナを把握し、カスタマージャーニーを把握し、顧客接点ごとのCX最適化を図る)を考えたとき、デジタルチャネルという顧客接点の一つだけを最適化しても不十分な印象は否めません。
従来の「技術進化によって何ができるようになるか」という視点はもちろん重要ですが、本稿では企業からのコミュニケーションや顧客体験の各施策を受け取ってきた「顧客(生活者)の変化把握」を中心に、2026年に求められているコミュニケーションや顧客体験の在り方、それを実現する各手法について探っていきたいと思います。
1.生活者の課題とパーソナライズの現状
景気や社会の変化は、生活者の悩みの種でしょう。生活者の悩みや変化をとらえている調査を紹介していきます。
■物価高の影響の強い日本
まずは物価高の影響は避けて通れません。
Nielsen IQの「Consumer Outlook Guide to 2026」レポートによると、経済状況悪化の体感は国ごとに異なり、日本は世帯における経済状況が「改善した」と感じる人より「悪化した」と感じた人が29.9p上回り、ハンガリー、トルコに次ぐ3位となっています。
グラフ:経済状況への楽観度は国や地域ごとに異なる

2026年には外食やフードデリバリー、スナック、アルコールへの支出削減が明確になり、公共料金や教育費、ヘルスケア、食品や日用品のような必需品の支出に充てることが見て取れます。
グラフ:2026年も消費者は生活必需品への支出を継続

■物価高によってブランドスイッチが起きている
マクロミルが実施した「2025年 買い物に関する自主調査」(未公開)でも、①物価高を機に買う頻度が減ったカテゴリと、②頻度は変わらないがより安い商品銘柄にスイッチしたカテゴリの存在が明らかになりました。
グラフ:①物価高を機に買う頻度が減ったカテゴリ
…食品ではアイス・菓子、飲料ではノンアル・機能性飲料など

グラフ:②頻度は変わらないがより安い商品銘柄にスイッチしたカテゴリ
…日用品ではベビー用品、食品では生鮮食品・菓子、飲料ではノンアル・炭酸飲料など

家計支出の抑制方法として、カテゴリのカット、カテゴリ内のブランドスイッチが起きています。
後者に対しては、巷に溢れている、競合企業のより安価なプロダクトや、流通企業のプライベートブランドに対して、企業はブランドスイッチを防ぐ努力が必要になります。
■自分のことを理解した情報や体験の提供
上述のNielsen IQのレポートによれば、生活者はこの数年で、より簡便で、健康志向で、環境に配慮した商品を選ぶようになったといいます。
優れた顧客体験(スムーズな決済、正確な在庫管理、高度なカスタマーサービス、パーソナライズされたオファー等)は、生活者の摩擦を減らすこと(簡便化)に貢献し、プロダクトの魅力を超えて機能します。また、生活者は自身が重視している価値観(健康志向、環境配慮等)と合致したブランドやプロダクトを意図的に選ぶようになっています。
物価高の世界においても、CXやプロダクトの強化によって、値引きやクーポン施策に頼らないで済む可能性があるのではないでしょうか。
■セグメント化による選択肢の限定はアリ
情報が非常に多い中で、迷いたくないと思う令和女子の気持ちを、電通内の横断組織「GIRL’S GOOD LAB」の記事がとらえています。令和女子にとって「MBTI診断」や「成分買い」「パーソナルカラー診断」「骨格診断」「界隈」などの、人々をセグメント化したコンテンツやコミュニケーションの活用は、数限りなくある選択肢を限定してくれ、時間をかけて迷ったあげくに失敗する「無駄」を避ける手助けになっているといいます。
「情報洪水時代を生きる令和女子の「もう迷いたくない!」インサイトと、変化する情報選択の軸」https://markezine.jp/article/detail/50185
■パーソナライゼーションのニーズは満たされていない
このようにパーソナライズのニーズは高いにも関わらず、生活者へのパーソナライゼーションはあまり実現されていません。
弊チームが昨年実施した調査において、各業界で「生活者がどれだけパーソナライゼーションを受けたことがあるか」について調べたところ、最も高かった<小売業/モール系EC>でも「購入履歴に基づいた商品レコメンド」が33.9%で1/3程度にとどまっており、最も低かった<金融サービス>では6割の方がそもそもパーソナライゼーションを受けたことがないと回答していました。
グラフ:小売業/モール系EC

グラフ:金融サービス

■パーソナライズは求めているが、個人情報扱いの適切性には疑問を持つ
クアルトリクスが発表した「消費者トレンドレポート2026」でも、64%の消費者が「自分のニーズにあった体験を提供する企業を好む」という結果が出ています。
しかし、自分の個人情報が適切に扱われていると信頼している消費者は39%しかいない、というプライバシーの問題が提起されています。
https://www.qualtrics.com/ja/ebooks-guides/customer-experience-trends/
パーソナライズとプライバシーの両立をいかにして実現するかは、企業の課題であり続けています。
■デジタル以前の体験への回帰も
生活者はデジタルチャネルにおけるパーソナライズを求める一方で、アクセンチュアが昨年発表した「Accenture Life Trend 2025」では、デジタル化以前の豊かな手触りのあった生活への郷愁や、現実世界での他者とのより深い感情的つながりへの希求を背景に、人々はデジタル中心の生活バランスを見直し、実店舗に足を運び、雰囲気を楽しんだり、人と話したり、商品を実際に見て触れたりしたうえで、購入を決めるといった物理的な体験への揺り戻しが起きていることが指摘されていました。
同レポートでは、オンライン上での生成AIを用いたコンテンツの氾濫により、生活者は正規のコンテンツと虚偽のコンテンツの区別がつきづらくなり、これまでオンラインで行っていた商品発見や交流、購入といった活動にためらいを覚えるようになっていることが指摘されています(オンラインコンテンツの信憑性を以前よりも疑うようになったと回答した人は59.9%)。そういった観点も影響しているかもしれません。
https://www.accenture.com/jp-ja/insights/song/accenture-life-trends
オンラインだけの体験提供だけでなく、トータルでの体験提供が求められているといえましょう。
2.生活者の声を聴く、覆面座談会
先ほどのマクロミルのパーソナライゼーションに関する調査で、企業によるパーソナライズが最も行われていたメールというメディアについて、20~40代の男女3名に話を聞きました。
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原田:皆さんは普段、プライベートあてにくるメールって見ますか?
40代女性:ものによりけりですね。いま家を建てようとしているので、ハウスメーカーとのやり取りのメールは見ますが、広告・メルマガは見ません。クーポンもメールでは見ませんね。アプリで通知が来たものくらいでしょうか。
30代男性:未読を残したくないタイプなので、一回は開くものの内容は見ないで消すこともありますね。あと、GmailやYahooなどのメーラーを使っていると、プロモーション/メインで分けられていて、基本プロモのほうに割り振られたメールは見ないですね。ポイント有効期限とか期間限定とかのお得なタイミングを逃したくないっていう気持ちが強いのですが、たまにプロモを見に行ってクーポンの有効期限とかが終わってるとがっかりします。企業努力でメールがプロモに振り分けられないようにしてほしいところです。
20代男性:プロモに振り分けられたのは僕も見ませんね。「すべての受信トレイ」しか見ないです。メールは家計簿をつけるためにクレカの明細メールはチェックしているのと、興味が惹かれたタイトルのメールはたまに開けることがあります。あと好きなアイドルのファンクラブのメールも見ますね。メールって、過去に登録したけど今は興味のない企業やサービスのメールがノイズになっている気がします。
原田:興味あるメールは見ているんですね。他にもついつい見ちゃうメールってありますか?
20代男性:その企業からのメールの頻度が結構高いと「見なくてもいいか」っていうマインドになっちゃうんですよね。そんな中で、自分に宛てたメールって珍しいのでつい見ちゃいますね。いろんな会社からくる件名って大体決まっているじゃないですか。その中に定型でない、自分向けのものがあると開いちゃいます。
原田:なるほど、こういうメールは嫌だったってありますか?
30代男性:自分が個人的に嫌なのは「重要:返信ください」っていうタイトルのメールで、重要かどうかはこっちが決めることなのになって。ユーザー想いで書いた「重要」でなく、キャッチーにするための「重要」はNGだと思いますね。 あと、年1回しか使わない商品やサービスなのに、毎日のように案内がくるのも。
原田:ユーティリティ的位置づけのサービスなのに、必要としていない時に何度も案内きても困ってしまう感じですね。
原田:他のチャネル、例えばLINEとかはどうでしょう? メールよりはブロックとか簡単ですよね?
20代男性:LINEの公式アカウントは基本見ないですね。溜まったらメッセージを見ないでアカウントごと削除です。メールもアプリも通知を切るのが面倒くさいんですよね。
30代男性:あまりにも頻度が高ければ通知を切ったり、アンインストールしています。 個人的な印象ですが、アプリのほうが通知変更や解除しやすいなと。自分でオンオフにするかどうかの精査ができている気がします。
40代女性:入れているアプリはその時点で思い入れが強いです。スマホには結果的に使うアプリが残っていて、使わないアプリは消しちゃっていますね。その意味ではメールって解除するのにひと手間、二手間かかりますよね。あと、最近詐欺の勧誘とかもあるのでショートメールサービス(SMS)でくるのも怖いなって。
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皆さんの話を伺うと、企業はそのサービスの性質や現在の会員の温度感を加味して、メールの送信頻度を最適化したりタイトルや内容をパーソナライズするのは必要不可欠な取り組みであることが改めてわかりました。
一方で、一つのアプリに複数企業からの連絡が届くというメールやLINEのメディア特性は、自社一社だけ最適な送信頻度や内容にしても、他の企業のコミュニケーションによってメディア全体の受容性が悪化しやすいため、影響を受けるという特徴も見て取れました。
3.点から線、線から面に向かうCX
ここで、顧客体験領域において今起きている変化を共通認識化するべく、顧客体験に関する言説の変化を点から線、線から面というメタファーを通じて紐解こうと思います。
■点のCX
80年代のスカンジナビア航空立て直しの立役者であるヤン・カールソンが提唱した「真実の瞬間(Moment of Truth)」では、従来のマーケティングの4P(製品やプロモーションなど)でなく、15秒に満たない顧客と従業員の接点(航空業界ではチェックイン時やトラブル問い合わせ時、機内サービス提供時など)の蓄積によって企業イメージが形成されるとしました。それゆえに顧客体験を担う従業員の教育や権限移譲が重要だとされました。
(このMOTの流れを汲んで、P&Gは小売店舗の陳列棚に接触し購入を決めるまでの3~7秒間=First Moment of Truth(FMOT)を提唱したり、Googleは消費者は購買行動を行う前の段階で積極的に情報収集を行い意思決定を済ませている=Zero Moment of Truth(ZMOT)理論を提唱しました。)
■線のCX
さらには、こうした点(顧客接点)ごとの最適化ではなく、顧客理解に基づき、点同士をつなぎ合わせた総合的な顧客体験(線のCX)の重要性が提唱され、カスタマージャーニーマッピングによる顧客理解、それに基づく顧客への体験最適化(=カスタマージャーニーマネジメント)へとつながりました。
こうした顧客理解のためには、インタビューなどを通じた従来型のリサーチだけでなく、IDレベルで顧客を識別し、そのオンライン/オフラインの行動や、顧客のフィードバックを収集・集積し、分析するアプローチが重要視されはじめました。そうしたプロセスを実現させるためのハコであるCDP(Customer Data Platform)が登場しました。
いま多くの企業は、「CDPを導入し自社データの統合にトライしている」、あるいは「統合が終わってそのデータをもとにしたCRM/CX施策にトライしている」、「デジタル接点の見直しとしてECや予約管理システムなどの入れ替えを行っている」、「CRM/CX施策の成果を計測するためのアンケートツールやNPS等のフレームワークを導入して改善に取り組んでいる」といった状況ではないでしょうか。
■面のCX
未来像あるいは先進的な企業においては、「線のCX」のさらに先として、顧客が能動的にサービスを利用していない時にも顧客の状況を把握し、その状況に寄り添ったプロアクティブな対応を行う「面のCX」が語られています。それは例えば、システムが洗濯機の中の洗剤が足りなくなることを見越して、自動的に追加発注するといったような世界です。
2022年のGoogle I/Oで、AlphabetのシニアバイスプレジデントであるRick Osterloh氏は「アンビエントコンピューティング」というキーワードを取り上げて、ユーザーが様々なコンピューティングデバイスを直接操作して意図した結果を得るのではなく、すべてのデバイス同士がシームレスに連携し、ユーザーのニーズに自動的に応える世界になっていくこと(それにGoogleの各デバイスが寄与すること)を述べていました。
しかし、現時点で「面のCX」や「アンビエントコンピューティング」が可能な企業は、GoogleやAmazon、Appleといったプラットフォーム企業くらいでしょう。企業が収集・保有している行動データは、顧客がECや店舗といった接点にて行動・購入することで蓄積されていますが、企業は顧客が今おかれている状況(例えば顧客が今いる場所であったり、実際に自社商品が保管されている冷蔵庫や洗濯機のリアルタイムの状況)は捉えられていません。企業がそうした従来の顧客接点の先のデータを得るには、何らかの方法(新しいアプリケーションやデバイスの開発・提供、データを持つ他企業との連携など)が必要でしょう。
図:自社だけで様々な顧客接点やデータ収集ポイントを持つのは不可能

■「バックエンド」の重要性が増加
Forrester ResearchのシニアアナリストHarley Manning氏とKerry Bodine氏が整理した「カスタマーエクスペリエンス・エコシステム*」において、顧客体験を提供する従業員(コールセンターや店舗スタッフ、フライトアテンダント、営業、ウェイター等)は、オペレーションや法務、財務、マーケティング、IT、資材調達~在庫状況といった「バックエンド」に影響を受けることが指摘されていました。
「点のCX」から「線のCX」や「面のCX」に移行するにしたがって、接点やオペレーションの背後である「バックエンド」の存在がますます大きくなってきています。中でも特にIT(データ基盤など)や、それを活用する人々の組織文化の影響が大きくなっていることが見て取れます。
*Harley Manning, Kerry Bodine “Outside In: The Power of Putting Customers at the Center of Your Business”
4.企業の状況
しかし、日本企業のCXへの取り組み状況は端的にいうと志半ば、というところです。関連性の高いDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みや生成AI活用を見ていきながら、その背景にある組織構造との相性について説明いたします。
■未完のDX
2018 年 9 月に経済産業省がまとめた「DX レポート」において、既存システムの複雑化・ブラックボックス化が、データ活用や業務プロセスの改善を阻むことで、2025年以降に莫大な経済的損失が生じる可能性=「2025 年の崖」が指摘されました(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/20180907_01.pdf)。
昨年はその2025年になり、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)は現状をまとめたレポートを発表しています。それによると2024年度に日本で何らかの形でDXに取組んでいる企業は77.8%となり、企業へのDXの浸透は進んでいますが、2023年度の73.7%と比べて大きくは増えておらず、頭打ちの状態だといいます。
DXの取組において設定した目的に対して成果が出ているかを国別で見ると、米国とドイツは 8 割以上が「成果が出ている」と回答していますが、日本は 57.8%と、2か国と比べて成果創出に大きな差が出ています。また回答企業のうち、成果が出ているか「わからない」と答えた企業が26.2%存在し、その理由を聴取したところ「成果の評価はこれから進める予定」「DXの成果目標を定めていない」がトップ2となり、あらかじめ成果目標やその評価方法を決めないで進めていることがわかりました。
グラフ:DXの成果がわからない理由

https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/tbl5kb0000001mn2-att/dx-trend-2025.pdf
DXで成果が出ているとした企業を対象に、具体的な取り組み項目別の成果を聞いたところ、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」において「すでに十分な成果が出ている」「すでにある程度の成果が出ている」と回答した日本企業はわずか16.4%で、米国の69.7%やドイツの60.2%と比べて著しく低く、その実現に貢献するパーソナライゼーションが部分的であった前述の弊社調査内容とも一致しています。
■効率化にとどまる生成AI活用
様々なレポートで生成AI活用の浸透や可能性について語られていますので、詳細な記述はそちらに譲りますが、企業がAIをコミュニケーションや体験に使っているかどうかについてのみ言及すると、弊社調査によると、現状は主に効率化(生産性向上・業務効率化)が中心で、「新規事業・サービスの創出」「顧客満足度(CS)の向上」といったコミュニケーションや体験に使用するのはこれからのようです。
グラフ:生成AIの導入目的は「守り」の生産性向上が中心

■CX対応疲れへの危惧
Forrester Researchの2026年の予測記事では、グローバルにおいてもほとんどのチームがカスタマージャーニーマネジメントができず、カスタマージャーニーマッピングにとどまっている現状や、人手不足や予算削減により、従来の顧客の課題解決という背景を忘れ、ミニマムにCX KPIトラッキングのみを行うCXチームの姿などが指摘されています。
https://www.forrester.com/blogs/predictions-2026-2/
■既存の組織構造と相性の悪いCX
こうした「テクノロジードリブンな顧客体験の最適化」という新しい領域は、既存の組織構造と相性が悪いのだと思われます。
顧客ペルソナやカスタマージャーニーの理解は、マーケティング部門や、その傘下のマーケティングリサーチ部門が担当してきました。他方でCRMのような実ログデータをもとにしたレコメンデーションやメール配信は、システム導入やデータ分析などを必要とすることから、IT部門や、その傘下のデータ分析部門が担当してきました。
マーケティング部門によるアプローチは、マーケティングの潮流も把握しているため、CXによるビッグピクチャーを描いて、顧客についてマーケティングリサーチなどを通じて把握すること(カスタマージャーニーマッピング)はできるのですが、実際に顧客へのエグゼキューションの最適化(カスタマージャーニーマネジメント)を行うには、マーケティング人材にシステム導入やデータ分析のスキルセットがないため、IT部門などの協力を仰ぐ必要がありました。
IT部門のアプローチは、システム導入によるデータの統合などの足回りは揃えることができているのですが、そのデータやシステムを用いてどのような顧客体験を提供し、それによってどのようなビジネスインパクトをもたらすかについて、事業や現場からの遠さゆえに描けていなかったり、社内の合意形成に苦労するシーンが見て取れます。
このような各部門が専門化しているゆえに新しい領域への対応が難しいという傾向は、大企業ほどに顕著に表れています。優れた顧客体験を提供するには、これらの複数部門が協力してことを進める必要性があります。垣根を越えて進められるかは「企業の組織文化」というバックエンドに由来する部分も大きいのではないでしょうか。
5.カスタマージャーニーマネジメントへ踏み出すためのマクロミルの提案
現在のCXを立て直し、LTVの増加や退会率の低下といったサクセスストーリーに軌道修正していくには、まずは現状把握が重要です。
■顧客体験のPDCAサイクルの不全箇所の特定
①目指す顧客価値の策定から始まり、②実際にデータを集めて、③分析を通じて顧客を知り、それにもとづいて④顧客体験をパーソナライズし、⑤顧客からのフィードバック収集を通じて評価し、CX戦略を見直す、という一連のPDCAサイクルにおいて、自社サービスはどの部分で躓いているのか、早急に把握する必要があります。
図:顧客体験のPDCAサイクル

弊社がお客様と話していてよく伺うのは、以下のような「直前のプロセスに起因するサイクルの不全」です。
- データの収集が足りておらず、顧客解像度が上がらない
- 顧客解像度が低いため、CXやコミュニケーションを改善できない
- 顧客フィードバックは行っておりNPSを収集しているが、CX改善に生かせていない
しかし、そもそも目指すべき顧客価値が定義されていなかったり、CXを改善することで得られるビジネスインパクトが試算されていなかったりするゆえに、追加でデータ収集するジャッジができていない印象も受けます。こうした大本の議論がされずに、ITに莫大な投資を行っているケースも多いのではないでしょうか。
■AIによるCX最適化に向けた準備と課題
上記サイクルにおいて、生成AIだけでなく機械学習も含む広義のAIを使うケースは増えていきます。
KPMGのレポート「Total Experience: Redefining excellence in the age of agentic AI(総合的な体験:エージェンティックAI時代の卓越性の再定義)」では、顧客体験を構成するのは人間だけでなくAIも含み、信頼性の獲得のためには、両者で一貫性のある体験を提供する必要性が述べられています。
人とAIが一貫した体験提供をしていくには、判断の根拠となる顧客データは同一かつ完全(項目の抜け漏れなく)で、よりリアルタイムに反映されたものである必要があります。その実現は非常に難しく、店舗において顧客と相対することで得られる顧客に関する情報に対して、オンラインで得られる情報(登録した会員情報や、サイト訪問、商品購入履歴といった行動データなど)はあまり多くないのが現状です。そのため、オフラインでの顧客体験には自信のある企業でも、オンラインチャネルではパーソナライゼーションをはじめとする体験の最適化を避けている企業もいらっしゃいます。
■オーセンティックかつスケーラブルなデータによるCX最適化
このようにファーストパーティデータという自社顧客の同意をもとに、自社顧客接点で収集したデータは、データ活用の正当性(Authenticity)はありますが、前述の同一性や完全性、そして多様性に欠けることが多くあります。
そもそもファーストパーティデータ戦略は、マーケティングの主体性をプラットフォーム企業やリテール企業から自社に取り戻すための取り組みであったにも関わらず、その実現において、ファーストパーティデータの質と量の問題から、プラットフォーム企業やリテール企業に勝つことができないという事態になりかねません。他社とのオープンイノベーションやパートナー戦略を通じた、データドリブンなCX、コミュニケーションの実現を検討する必要があります。
マクロミルという会社はこれまでも、自社で集めたモニターに対するアンケートやインタビューを通じて顧客の意識データ(商品購入の動機や価値観)を集め、統計的な正確性を担保し、企業の重要な意思決定に生かすための支援をしてきました。CRM/CX事業ではその支援の対象を、顧客の生活に寄り添うサービスを運営し、サービス提供を通じてLTV最大化を目指す企業も対象に広げました。
CRM/CX領域の課題解決に向けたコンサルティング、マクロミルが同意を得て収集したパーソナルデータによる顧客分析、一部の顧客にしかなかったデータを統計的正確性を維持しつつ全顧客で使用できるようにする技術や、企業間でセキュアにデータ連携できる環境など、多様なアセットを用意しています。これらを活用し、顧客の行動・購買履歴に加えて、価値観やライフスタイルをもとにパーソナライズされた顧客体験を実現する準備は整っています。
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著者の紹介
株式会社マクロミル 事業統括本部 事業企画部 CRM/CX事業ユニット ユニット長
原田 俊
2008年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社に入社し、広告配信システムのインフラシステムエンジニアとして開発・運用業務に携わった後、アドテクノロジーをはじめとする先端テクノロジーのマーケティングリサーチや、パーソナルデータ領域の新規ビジネス開発業務に従事。また、業界団体や研究機関にて生活者のプライバシー保護プロジェクトを推進。2023年より株式会社マクロミルにて、会員基盤を保有する企業のCRM/CX支援事業を立ち上げ、現在推進中。
