トクホ(特定保健用食品)とは? 国の許可を受けた保健機能食品の仕組み

特定保健用食品(以下、トクホ)は、日本で定められた制度に基づき、国(消費者庁)が「からだの生理学的機能などに影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる」旨の表示(保健の用途の表示)をする食品です。たとえば、「おなかの調子を整えます」「食後の血糖値の上昇を緩やかにする」といった表示やトクホマークをパッケージ等に明記でき、消費者が食品を選ぶ際に、健康機能に関する一定の信頼や目安を得られる仕組みです。

従来、食品のパッケージや広告で「血圧を下げる」「体脂肪を減らす」など具体的な表現を使うことは、薬機法(医薬品医療機器等法)などの規定によって厳しく制限されてきました。しかしトクホは、科学的根拠が確認された保健機能について、国の許可を得ることで一定の表示が特例的に認められます。こうした取り組みは高齢化社会に対応するための国の政策とも結びついており、健康維持や生活習慣病予防を食品レベルでサポートする方向性を打ち出す意味合いを持っています。

ただし、トクホは医薬品ではなく、あくまで食品としてのカテゴリーです。そのため「病気を治す」効果効能を謳うことは許されません。あくまで「保健機能」をサポートするという立場にあり、医師の指示や医薬品の使用を代替するものではない点に注意が必要です。こうした制度の枠組みや表示基準は、消費者が安心して食品を選ぶための指針として日本独自に発展してきました。

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トクホが求められる背景と社会的役割

トクホ制度が整備された背景には、日本社会の健康課題が深く関わっています。高齢化の進展にともない、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)のリスクが高まると同時に、医療費の増大が社会問題として取り上げられるようになりました。そこで、医薬品に頼るだけでなく、食品を通じて日常的に健康維持を図る「セルフメディケーション」の考え方が注目されます。

この動きを後押しする形で、国の検討会を経て生まれたのがトクホ制度です。消費者庁(旧・厚生労働省からの移管)による許可を得た食品は、信頼性のある臨床試験やデータを根拠に、「血圧を抑える」「歯の健康を守る」などの表示を行えます。これにより、消費者はスーパーやコンビニで商品を選ぶ際に、健康効果をひとつの判断材料に加えることが可能になったのです。

また、日本特有の食文化や、健康志向が高い国民性も背景にあると言えます。味噌や納豆などの発酵食品、緑茶などの伝統的食品に科学的アプローチを加え、新たな健康価値を見いだす企業が増えました。こうした企業の取り組みがトクホの市場を拡大し、日常生活に自然に溶け込む健康サポート食品として普及を後押ししています。結果として、中高年だけでなく若年層にも「日々の食生活から健康を守る」という意識が浸透しつつあるのです。

トクホの認可プロセス

トクホとして認可されるまでのプロセスは、大きく分けて3つのステップがあります。まず、安全性の確認が不可欠です。新たな成分を使う場合、アレルギーや中毒性のリスクがないかをしっかり調べ、長期的に摂取しても健康に影響を及ぼさないかを科学的に検証します。

次に、有効性(保健機能)の裏付けを示すため、企業や研究機関はヒト試験(臨床試験)や観察研究などの調査を実施します。例えば、「血糖値の上昇を抑える効果」を表示したい場合、ヒト試験で有意なデータを取得する必要があります。ここで実験デザインの質やサンプルサイズ、統計的有意性などが評価のポイントとなります。

最後に、書類の提出と審査が行われ、消費者庁の検証を経て許可が下ります。許可表示としてパッケージに「特定保健用食品」のマークや具体的な保健機能が記載できるようになります。

トクホのメリットと意義

トクホのメリットとして、消費者が商品を選びやすくなるという点が挙げられます。「ただの食品」よりも科学的根拠が期待できるうえ、栄養成分だけでなく機能性に着目した購入が可能です。中高年層だけでなく、健康意識の高まる若年層にとっても、生活習慣を改善する選択肢として注目を集めています。

また、企業側にとっては差別化の手段となります。市場には数多くの健康関連食品があふれていますが、トクホの表示を得られれば、それだけで一定の信用を獲得しやすいという効果があるのです。商品パッケージに「特定保健用食品」と明示できるのは、マーケティング上も大きな武器となります。

さらに、医療費の抑制という社会的意義も見逃せません。生活習慣病をはじめ、長期的に健康を維持することが国全体のコストを下げる方向に働くことが期待されるため、セルフケアの促進という点でトクホ制度は大きな意義を持っていると評価されています。

トクホの例—具体的な製品や表示

トクホとして許可された製品には様々なジャンルがあります。代表例としては、おなかの調子を整えるための乳酸菌飲料やヨーグルト、血圧が高めの方へアプローチするお茶やドリンク、歯の健康を守るキシリトールガムなどが挙げられます。いずれも商品パッケージに「特定保健用食品」のマークとともに、具体的な許可表示が書かれています。

例えば、乳酸菌飲料であれば、「乳酸菌が腸内環境を改善し、便通をスムーズにする」という形で、どのような機能を認められたかがわかりやすく表示されています。実際に、その乳酸菌の効果を検証する試験データを添付して消費者庁の審査をクリアしているため、消費者はある程度の科学的根拠が裏付けられた商品だと判断できます。

なお、同じように健康を謳う食品には「機能性表示食品」や「栄養機能食品」が存在します。これらはトクホと似てはいますが、審査プロセスや表示ルールが異なります。トクホは国による「許可」を受ける制度であり、他の制度は企業の「届出」で済むものもあるため、表示可能な範囲や法的根拠の位置づけに差があります。

トクホにまつわる誤解や課題

トクホが「健康に効く食品」であると捉えられがちですが、実際には医薬品のように病気を「治す」作用を謳うことはできません。あくまでも「保健機能をサポートする」範囲であり、表示できる内容は慎重に管理されています。例えば「コレステロールを下げる」ではなく「食後のコレステロールの吸収を緩やかにする」などの言い回しで、医薬品と混同されないよう表現が制限されます。

また、トクホマークがあるからといって、誰にでも同じ効果が期待できるわけではありません。個人差や、日常の食生活・運動習慣などが影響し、実際の効果は人によって異なります。誤情報を防ぐために、パッケージには「本品だけでなく、生活習慣の改善も大切」というような注意書きを添えたり、医師の指示を代替するものではない旨を明記したりします。

一方、消費者側でも「トクホだから絶対安心」という過信は避けるべきだという声があります。確かに国の審査を経ているという意味である程度の信頼性はありますが、あくまで一商品としての範囲を超える医療効果や劇的な変化を期待するのは適切ではありません。

トクホの未来と展望

社会の高齢化や健康志向が進むなか、機能性表示食品制度との違いをどう生かしていくかが課題となるかもしれません。機能性表示食品は企業が独自にエビデンスを提示し、消費者庁への届け出を行うだけで表示が可能ですが、トクホは「国による許可」を得る制度なので、表示に対する信頼度が高いと見る消費者も多く存在します。

一方で、法令や社会の理解との兼ね合いもあり、許可申請のハードルの高さが課題と指摘されることもあります。企業にとってはコストと手間がかかる一方、消費者にとっては安心して選べる基準として機能している側面があるため、そのバランスをどう取るかが今後も問われ続けるでしょう。

まとめ

トクホ(特定保健用食品)とは、国(消費者庁)が「特定の保健機能」があると許可した食品を指し、科学的根拠に基づいて、生活習慣病予防などの健康維持をサポートすると認められています。表示できる内容には厳しい審査を要し、医薬品のような強い効能表現は認められていませんが、その代わり一定の信頼性を消費者に与えます。

日本特有の食文化や健康志向が背景となり、トクホ制度は多くの企業にとって差別化の手段となってきました。商品にトクホマークを付けて「おなかの調子を整える」「歯の健康に役立つ」など、保健機能を明示できるメリットは計り知れません。消費者にとっても、こうした表示があることで「自分に適した食品」を選びやすくなる恩恵があるのです。

ただし、トクホの表示は「病気を治す」ことを保証するものではないため、ユーザーは過度の期待をしすぎないよう留意が必要です。セルフメディケーションや健康志向の高まりが続く現代社会において、トクホは食品と健康をつなぐ重要な基盤として、これからも独自の制度として存在し続けるでしょう。

著者の紹介

大出 聡馬

大出 聡馬

クリニカルトライアル事業ユニット長
2019年より、機能性表示食品のヒト臨床試験において、複数の食品CROと連携しながら、多くの臨床試験を推進し、試験を成功に導いてきた実績を持つ。
2021年にはマクロミルのライフサイエンス事業本部立ち上げにおいて中心的な役割を担い、オペレーション部門の責任者として体制構築を主導。
2024年より現職。臨床試験事業の責任者として、臨床試験の立案から実行までを統括し、企業の研究開発支援をリードしている。

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