【中国編】生活者の価値観・地域での違い

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リサーチャーコラム

2022/7/6(水)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、中国の以下のような世代ごとに「生活者の価値観・地域での違い」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 50后(1950~59年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 60后・70后(1960~79年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 千禧一代(中国版ミレニアル世代 1980~1994年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 95后(1995年以降生まれ)

政府の政策によって生じた地域格差

1978年に始まった中国の経済改革以降、中国は体制の移行期に入り、社会的にも文化的にも大きく変化し始めました。厳格で計算しつくされた経済システムから市場主導型の経済システムに切り替えられ、まず沿岸部の都市が経済的に解放され凄まじい発展を遂げました。

1985年には政府主導の西部開拓が進められ、多くの安価な労働力を求めて内陸部にも外資系企業が進出、工場が建てられ経済発展が全土に広まりましたが、都市部と農村部での経済格差は大きく、また南部沿岸部と内陸・東北部での発展の度合い、経済格差も依然として残っていました。

中国における都市化とは

大都市では、中国各地域の様々な文化や価値観が入り混じっています。中国における所得の不平等さは、1980年代初期のころから急激に拡大し始め、2013年まで中国は世界で最も不平等な国の一つというレッテルを貼られていました。この所得の不平等さが拡大していった原因を調査した結果、様々要因が見つかりました。教育の格差、スキル格差(スキルプレミアム)、都市化や高齢化といった社会構造的な要因によって、賃金格差が生み出されました(出典:Inequality in China – Trends, Drivers and Policy Remedies, IMF Working Paper)。所得の不平等さは、価値観の違いを生み出す原因にもなります(出典:China Daily, June 2019)。

経済格差に対する意識

1級都市の北京・上海・広州、および、新1級都市の成都で、定量調査を行いました。沿岸部の1級都市と内陸部新1級都市の成都でさえ、経済的な不平等感に差が見られます。

地域間経済格差の認識

大都市生活のプレッシャーと国内移住

Gen3~4世代の多くは、大学まで教育を受け、大都市に住んでいれば常に競合と戦い、プレッシャーを感じて生活しています。仕事は地元ではなく他の町に引っ越して探します。これも国内移住の一つの形です。ほとんどの人が都市部に引っ越して仕事を探します。

Gen1~2に比べると、引っ越しはもっと一般的なものになりました。競争の激しい社会で暮らしているため、自分たちの子供には、大人になったらもっといい仕事について欲しいという願いから、放課後は習い事をさせ、大きなプレッシャーをかけます。親の世代とは違う社会的ネットワークの中にいるため、自分たちの住んでいる町でまた新たにネットワークを築いて行く必要があります。

大都市は競争が激しく、人々はプレッシャーを感じて暮らしているという有識者の見解について、定量調査でも同様の結果が表れました。特に北京・上海の若い世代の国内移住の意向が高いようです。

現都市への居住意向

海外文化を受け入れて育った大都市の生活者

1979年以降、中国には多くの外国人が訪れるようになりました。このような訪問者たちを受け入れるための高級ホテルが軒並み建設されました。また、欧米諸国の映画や本が、中国市場に紹介され始めました。外資系企業が次から次へとビジネス展開し始めると、中国人も勉強し、海外へ出るようになっていきました。このような動きは、どのような形であれ、中国人に様々な影響を与える重要な要素でした。

地域による考え方の差 ~開発地域と開発途中の地域~

開発途上の地域の人と比べると、開発地域出身者の方が近代的な考え方をします。開発途上の地域には伝統的な考え方がまだ残っています。

改革開放が始まった頃の1979年、4つの経済特区(SEZ)が設定され、市場主導型の資本主義政策が施行されました。政府は、この4つの経済特区と中国の沿岸部の都市を起点に改革政策を展開していきました。当時、中国への投資を始めていた外資系企業が目をつけていたのも、より開発の進んだ地域です。この改革政策は外国の投資家にとって、大変魅力的なものでしたが、もちろんそこに注目をしていた国内の投資家もいました。あらゆるタイプの優遇措置や政策、そして資金の流入のおかげで、経済特区と沿岸部の都市は、中国の他の都市よりも早く開発が進みました。しかし、中国西部の開発は遅れ気味でした。このような開発地域に住む人々の価値観や考え方は、1.お金持ちになりたい、2.高い社会的地位が欲しい、3.高い文化的な意識を持ちたい、の3ステップで進化していきます。

開発地域出身の人たちは、他の地域と比べると近代的な考え方を持っており、開発が進んでいない地域の人たちはまだ従来の伝統的な考え方を保持しています。デジタル技術のおかげで、地域差が縮まってきていますが、都市化が進むにつれ、所得の不平等さと地方と都市部の人たちの考え方の違いの差は広がっていくと考えられています。

経済発展には目を見張るものがありましたが、その発展にも地域差がありました。デジタル技術は中国全体に広がっています。経済的発展が遅れている地域の方が昔の価値観が残っていますが、SNSのパワーは広く行き渡っており、地域差を縮めています。

「テクノロジーの浸透は、大都市と地方で格差がある」という有識者の分析結果について、定量調査でも確認しました。しかし、対象とした4大都市に関しては、沿岸部・内陸部の差異はほとんど見られません。

日用品のオンライン購入割合(都市別)

地域ごとの特徴や歴史

1級都市

北京、天津、上海、杭州、香港、深圳、広州など、主に東海岸沿いに位置する大都市が1級都市です。このような都市の市場はほぼ飽和状態です。これから中国に投資を考えている人たちは、2級・3級の都市を狙っていくべきです。1級都市は、インフラと消費の観点から言えば、すでにかなり開発されてしまっています。このエリアの消費者たちには「欲しいものは、自分の好きな時に欲しい」という心理が根底にあります。仕事や余暇で海外に行く人も多いため、都会化が進んでおり、西洋の価値観が他よりも浸透しています。子供を海外へ留学させる家庭も多いです。このような都市には外資系企業も多く、様々な国の人が住んでいるため、国際色が豊かです。つまり、このエリアの中国人は、国際的な環境に囲まれており、その価値観に触れる機会も多くあります。仕事をしてお金を稼ぐことは重要なことだと考え、今後も生活レベルを上げて良い人生を送りたいと考えています。

2級都市

2級都市も素晴らしい成長を見せています。特に、重慶、成都、西安、武漢、鄭州は躍進しています。この地域は、今後10~20年でさらに成長していくと考えられています。この地域の消費者は自由な時間が多少あるため、オンラインではなく、実際の店舗に足を運んでショッピングをします。

価値観については、伝統的な考え方が若干残っています。また、西洋の価値観に触れる機会がまだあまりなく、西洋の商品や食品を試すことはあまりしません。開発地域と比べると、この地域の生活はシンプルです。

都市ごとに異なる自国製品と海外製品へのパーセプション

中国の生活者に「どの国の製品が優れているか」という質問を投げかけました。工業都市の広州・成都、商業都市の上海、行政・商業の中心都市の北京では、自国製品と海外製品に対するパーセプションに差がみられるようです。

どの国の製品が優れていると思うか?(都市別)

低開発エリア

低開発エリアには、北東部のように特別な地域があります。改革開放以前の50年代から70年代にかけて、北東部は計画経済の中心地でした。この地域の当時の生活レベルは国内のどこよりも高いものでしたが、1979年以降、政府が自由市場を推し進め始めると、この地域への支援や投資は減り、北東部は開発の波に乗り遅れました。

この地域には今までの伝統的な生活の名残がまだあります。価値観という意味では、北東部に住む人たちは、他の地域と比べると「面子」を大変気にします。他人が自分のことをどう考えているのかが常に気になるこの特性は購買行動にも表れています。買い物は、自分に必要であるとか、自分のために考えてするものではなく、買ったものを人が持っているものと比較することが目的だったりします。これを、「伝統的消費」と呼んでいます。北西部や遠隔地域の4級都市や5級都市に住む人たちにとって、経済的な発展はもっとゆっくりです。インターネットへのアクセスや、外部からの情報が限られており、伝統的な生活を維持。周りの人たちとの関係を大切にする相互協調的自己観を持っています。

以上が、中国の有識者の意見を交えた、各世代に影響を与えた生活者の価値観・地域での違いです。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「生活者の価値観・地域での違い【インドネシア編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: 北京(n=206)、上海(n=220)、広州(n=190)、成都(n=184)の各都市居住者
世代別回答者数: Gen1(n=150)、Gen2(n=225)、Gen3(n=225)、Gen4(n=200)
※各都市および世代で男女が概ね半数ずつになるよう割付
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2019年12月

著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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