【中国編】各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは

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リサーチャーコラム

2022/4/7(木)

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、中国の以下のような各世代における価値観に影響を与えた「社会慣習」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 50后(1950~59年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 60后・70后(1960~79年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 千禧一代(中国版ミレニアル世代 1980~1994年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 95后(1995年以降生まれ)

変化する“家族の権威構造”

人間関係を育むモデルとしての家族の形も、経済が急成長する中で、その役割を果たさなくなってきました。現在の中国では、子供たちの世代が親の世代の20倍もの収入を得ていることが珍しくなく、家族で外食をする際の支払いは、親ではなく子供であることもよくあることです。また、親から社会的なこと学ぶよりも、ネットで情報を検索したり、SNSで情報交換をしたりすることの方が、正確な情報を得られるといった事象が起きています。このような現実を目の当たりにし、今、伝統的な家族のヒエラルキーと権限の構造の真価が問われています。

家族との繋がりが強い中国Gen3(ミレニアル)世代と、若くても親を経済的に援助するGen4世代

親子の相互依存関係について聞いた定量調査の結果で、「自分が、親を経済的に援助している」という割合を世代間で比べると、Gen1からGen3までの世代に大きな差はありませんが、Gen3世代はむしろ「親に、家事や子育てを手伝ってもらっている」ことが顕著に見られます。Gen3世代は、経済的には自立している一方で、家族との繋がりは未だ薄れていないという傾向があります。

また、Gen4世代は「自分が、親を経済的に援助している」という割合が22.5%と、一見他の世代よりも低いように見えますが、20歳から25歳の社会に出たばかりの年代にしては、比較的高い割合に思われます。有識者も話していたことですが、やはりこの世代は、親の世代よりも収入が多い人たちが相当数存在し、親の買い物や食事の支払いをしているのかもしれません。この点については、今後の連載で明らかいにしていきたいと思います。

家族観は、集団主義から個人主義へ

中国における集団主義的な社会的統制は、ここ数年で緩和されてきています。それによって、家族の生活よりも、個人としてのキャリアを積むことを選ぶ人が増えてきました。 この現象が顕著なのが、近年中国で増加する共働きで子供を意識的に持たないDINKs(ディンクス)です。中国の伝統的な文化として、子供を持たないことは「道徳的に最も罪深い」ことでした。しかし、現代中国の大都市に住む人にとっては、子供を産む・産まないの選択、もっと後になってから産む、といったライフステージに対する意識変化が起きてきています。

結婚に拘らないGen3

教育レベルが高く、独立心の旺盛なGen3世代は、他の世代に比べて結婚に対する意識が低いようです。Gen3の未婚者のうち、「未婚のままでいい」と考えている割合は29%と、全世代平均の20%を上回っています。また、結婚するとしても、Gen3の未婚者の希望結婚年齢も30歳と、全世代平均の26歳より高くなっています。

離婚に賛成か反対か?

有識者の分析では、中国は離婚に対する手続きが煩雑なことから、Gen2までは離婚率が低く、男女ともに経済的に独立してきている割合の高いGen3以降は離婚率が増加しているということでした。

内陸部は、結婚・離婚に保守的

一方、離婚に対する考え方(許容度)は、世代によるばらつきは大きくはありませんが、都市別で差異が見られました。沿岸の大都市部では離婚に対する許容度が高く、内陸部との差が大きく見られました。(北京>上海≒広州>成都)

一人っ子政策の影響とその世代の社会不安

中国のミレニアル世代は、一人っ子政策の影響で王子様・お姫様のように手塩にかけて育てられました。与えられて当たり前、と考えている世代です。この世代の中には、大人になっても親に頼り続ける人もいるかもしれません。また、他の世代と比べて、自己中心的で、自己認識度も高いと言われています。 その反面、この世代は家族からのプレッシャーも大きいのが特徴です。懸命に仕事をし、子供を育てるだけではなく、この世代は「子は親を敬い、親に従う」という中国の伝統的な教えを守り、親の面倒を見なくてはいけないとも考えています。 しかし、一人っ子であることもあり、一人で全てをこなすことができないことに無力感を感じています。つまり、心理的には葛藤があり、いくらか不安を抱いている可能性があります。

家族の中心は誰?

一人っ子世代は「自分」、その親世代は「子供」

一人っ子世代にあたるGen4にとって、家族の中心は「自分」が最多の70.6%。一方、その親世代にあたるGen2にとって、家族の中心は「子供」が最多の42.2%と、他世代に比較して高いという結果が出ています。

家族の中心は誰か

一人っ子世代の将来予想で浮き彫りになる乖離。その理由とは?

社会心理学者は、一人っ子世代(Gen3-4)は「心理的には葛藤があり、いくらか不安を抱いている可能性がある」という分析コメントを挙げました。しかし、定量調査の結では、Gen3は将来に対して「幸福になっている(Top2Box:88.4%)」と答えています。有識者の分析と定量調査の結果が最も大きな乖離したのがこのトピックスでした。これは、中国における定量調査ではポジディブ・ネガティブをアンケートで尋ねると、ポジティブな回答結果に偏る傾向があるためです。単にポジ・ネガを聞くだけではなく、「なぜそう考えるのか」という仮説を立てて聞くことが重要です。

将来の自分の人生の予想(今後20年)

また、有識者には、それぞれの国の生活者における「調査への参加意識」を聞いています。各テーマ回にて、各国の生活者の調査に対する意識・態度はどういったものか、改めて解説できればと思います。

以上が、中国の有識者の意見を交えた、各世代の価値観変化に影響を与えた社会慣習・制度です。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「各世代の価値観に影響を与えた社会慣習とは【インドネシア編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: 北京(n=206)、上海(n=220)、広州(n=190)、成都(n=184)の各都市居住者
世代別回答者数: Gen1(n=150)、Gen2(n=225)、Gen3(n=225)、Gen4(n=200)
※各都市および世代で男女が概ね半数ずつになるよう割付
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2019年12月

著者の紹介

北島尚

北島 尚

株式会社マクロミル グローバルリサーチ本部 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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