時系列でみた消費者心理と消費者行動 ~Macromill Weekly Index 300週の軌跡~

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リサーチャーコラム

2019/3/20(水)

日本の消費者動向や景気動向を把握するための公的統計として、総務省が実施している家計調査がある。家計調査は、日本国民の縮図となるよう層化二段抽出によって抽出された全国約8,000世帯が、紙の調査票に毎日の消費支出を記録するという方法を取っているため、対象となった世帯への負担が大きいとされる。そして、紙の調査票に記録してもらった回答結果は、対象世帯が回答した翌月に回収され、その後データ入力・システムチェックという工程を経ており、調査の実施から公表までに2カ月を要している。

マクロミルでは、即時性の高い消費者のマインドや消費動向を把握するために、毎週水曜日に1,000名のマクロミルモニタ※1を対象にした定点観測調査を実施している。この調査では、主に過去1週間に消費した金額や、消費したモノ・サービスのカテゴリーの消費実態のほか、内閣府が実施している消費動向調査や景気ウォッチャー調査の調査票を参考にした消費マインドや景況感などを聴取している。そして調査を実施した翌週の火曜日には、その集計データの一部を「Macromill Weekly Index」として、マクロミルのホームページ上で公開しており、家計調査よりも早いスピードでデータ活用が可能である。本調査は2011年3月に定点観測調査を開始し、8年間のデータが蓄積されている。

今回はこのデータの中の2013年4月から2018年末までの5年間(300週分)、のべ30万人の時系列データを取りまとめた。消費者の消費に対するマインドや消費金額、そしてどの商品・サービスのカテゴリーに支出したのかという項目に注目して、長期的な視点での消費の動きを見ていく。

過去5年の「消費マインド」と「消費金額」の動き

「消費マインド」とは、今後1カ月の消費金額の増減を予想してもらった結果を指標化したものである。スコアの平均が50よりも大きければ消費が増え、50よりも小さければ消費が減る、という消費予想の一つの判断材料になるだろう指標だ※2。消費マインドには年単位の周期性というものがあり、毎年年末にピークが来て、年始に一気に下降するという動きを続けている。

内閣府は、2012年12月以降、高度成長期の「いざなぎ景気」(1965年11月~70年7月)と並ぶ、戦後最長の景気拡大局面が続いていると認定した。この間、2014年4月の消費税増税や2015年6月の中国株の大暴落による世界同時株安の影響で、消費者心理に与えるマイナス材料もあった。しかし2016年からは日本経済は勢いを取り戻し、トランプ米政権発足後のアメリカ経済の好景気にも支えられてか、Macromill Weekly Indexの「景況感」の指標を見ても上昇が続いている。このように消費マインドは、年単位の周期変動を繰り返しながらも上昇傾向が続いている。

「消費マインド」と「景況感」の時系列変化

図1 「消費マインド」と「景況感」の時系列変化

先ほど紹介した「消費マインド」の指標は今後の消費を予想したものであるが、それに対して、実際にいくら消費したのかをみる指標が「消費金額」である。この消費金額は、個人が過去1週間にモノやサービスに対していくら消費したのかを直接質問している。この際、週単位での消費金額の変動をみるために家賃や水光熱費、通信費などの固定費用は含めていないようにしている。この個人ごと消費金額の平均値を算出したものと、家計調査における週単位の消費支出の変化を比較したものが図2である。

個人消費金額と家計調査の消費支出との比較

図2 個人消費金額と家計調査の消費支出との比較

総務省の家計調査は「世帯」での消費金額を調査しているが、Macromill Weekly Indexにおける消費金額は「個人」での消費を調査している。単位が異なるため、絶対値としての金額には当然ながら差が生じるが、両者の挙動は実によく似ている。図1の消費マインドでも年末にピークがきていたように、日本人の消費金額は年末年始が最大となるような周期性を伴っている。

冒頭でも触れたように、総務省の家計調査では1カ月間の消費をすべて記録し終えてから回収、データを入力、集計という工程を経るため、どうしてもの調査結果が公表されるまでに2カ月という時間を要してしまう。一方、Macromill Weekly Indexはインターネット調査であるため、スピーディーにたった1週間弱で情報を届けることができるというメリットがある。簡易なアンケート調査であるため消費の詳細な実態までを把握することはできないが、消費者の最新動向を知りたい人にとっては有益な情報となるだろう。

消費の長期トレンドの変化

このような周期性のあるデータの時系列分析では、要素を3つに分解することがある。

1つ目は、「季節変動」。年末年始やお盆、ゴールデンウィークといったある特定の時期になると消費が増えたり、減ったりする動きをいう。2つ目は、「長期トレンド」。季節的ではなく、長期的に見たときにデータの大きな変化の傾向がどちらに向かっているのかを示す。そして3つ目が、「不規則変動」と呼ばれるもので、季節変動や長期トレンドでは説明できない要因による動向である。

Macromill Weekly Indexの“消費マインド”を要素分解したものが図3である。元々、年周期の特徴があるデータだと予想はしていたが、要素分解をしてみると「季節変動」として消費される金額が抽出され、毎年ほぼ一定の動きで推移していることがわかる。「長期トレンド」については、過去5年のうち2014年の夏頃に最も低くなっており、その後緩やかに上昇基調で推移してきた。最も低下した原因としては、2014年4月に消費税が5%から8%へと増税されたことが影響していると考えられる。その証拠に、消費増税のタイミングで「季節変動」や「長期トレンド」では測れない、「不規則変動」が大きくマイナス方向へと作用している。わずか3%の増税ではあったが、長期トレンドが元の水準に到達するまでにおよそ3年半はかかっている。

消費マインドの要素分解結果による長期トレンドの抽出

図3 消費マインドの要素分解結果による長期トレンドの抽出

Macromill Weekly Indexでは周期性を伴う様々な項目を取得しており、長期トレンドはそれぞれの項目のスコアの水準が異なるため、項目間の長期トレンドを直接比較してもわかりづらい。そこで、今回の分析の起点となる2013年4月1週の調査データのスコアを基準としたときの週ごとの長期トレンドの比率を算出した。図4は消費マインドと消費金額の長期トレンドについて、対2013年4月比としたものを比較したものである。先にも触れたとおり、消費マインドは2014年の夏に最も低くなり、その後は緩やかに上昇を続け、2018年末には1.01まで回復した。一方、消費金額は2014年の消費増税までは1.0を上回っていたが、その後は1.0を上回ることはなかった。

さらに、総務省が公表している消費者物価指数の変化も重ねてみた。消費者物価指数は、家計にかかる財及びサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定したものと定義されており、商品の小売価格の変動を示す指標である。消費者物価指数は2014年の消費増税のタイミングで、大きく上昇している。そして、消費者物価指数はその後も緩やかに上昇傾向にあると言えよう。この価格上昇によって、消費増税前のダウントレンドであった消費マインドが上昇に転じてきていると考えられる。消費マインド、すなわち消費が増えるということは、物価の上昇によって財布から出ていく金額が増えてしまうことを懸念しているように思える。そして、節約しなければいけないという防衛本能の働きにより、“消費マインドが上昇するものの、消費金額は低迷”というメカニズムになっているのではなかろうか。

消費マインドと消費金額の長期トレンドの比較(対2013年4月比)

図4 消費マインドと消費金額の長期トレンドの比較(対2013年4月比)

消費カテゴリーの類型化の試み

Macromill Weekly Indexでは、過去1週間にどのようなカテゴリーの商品やサービスを消費したのかも聞いており、これらについても長期トレンドを抽出できる。そして、似たような長期トレンドの傾向を持つカテゴリーを見つけるために、図4と同じようなカテゴリーごとの長期トレンドの2013年4月比を算出し、消費金額の長期トレンドとともに多次元尺度法を用いてマッピングしたものが図5である。そして、各カテゴリーの位置座標を非階層クラスター分析によって、消費カテゴリーの長期トレンドを幾つかのクラスターの類型化を行った。このときに、相対的に近い位置関係にあるカテゴリーほど、この5年間の消費の長期トレンドが似通っているということを示している。

「趣味・スポーツ」「ギャンブル」「洋服」などは“消費金額“と近い距離にある。食品や日用品といった生活必需品は、消費者の財布の紐が緩んでも締まってもある程度固定的に支出されているものであるが、「趣味・スポーツ」「ギャンブル」「洋服」などは、余剰金の中で消費しているものだと考えられる。そのため優先順位が低いカテゴリーは、消費金額の増減との連動性が高いと考えられる。

消費カテゴリーの長期トレンドの二次元散布図

図5 消費カテゴリーの長期トレンドの二次元散布図

2019年の消費トレンドは?

消費マインドの長期トレンドは、確かに緩やかに回復してきているが、2014年4月の消費税増税が消費者の意識や行動に与えたインパクトは非常に大きかった。2019年10月には次の消費税増税が予定されているが、これが消費マインドや消費金額にまた大きなインパクトをもたらすことは間違いないだろう。日本国民の消費が落ち込み、経済全体において負のスパイラルが生じないことを願うばかりである。

クロス・セクションの調査だけでは大きな消費のトレンドを掴むことが難しいが、このように時系列データとして蓄積していくことによって価値あるデータとなっていく。今後も継続するマクロミルの定点観測調査「Macromill Weekly Index」で、消費者の動きに大いに注目していただきたいと思う。

※1:マクロミルがインターネット上で募集し、自社管理するマーケティングリサーチ専用パネルの名称。

※2:過去1か月間と比較した、今後1か月の個人消費量について聴取し、5段階評価の回答結果に「大幅に増える(100点)、やや増える(75点)、変わらない(50点)、やや減る(25点)、大幅に減る(0点)」と点数を与えたときの平均値

著者の紹介

村上智章

村上 智章

元マクロミル 事業統括室
名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻修了。都市計画コンサルタントを経て、ヤフーバリューインサイト株式会社に入社。その後、マクロミルとの経営統合により、マクロミル総合研究所に配属。アナリストとして調査データの分析を担当するとともに、アンケートモニターと調査データのクオリティ管理に従事。2013年より日本マーケティング・リサーチ協会インターネット調査品質委員会委員長を務める。専門統計調査士。

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