生活者へのリーチという側面から最適化を考える

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リサーチャーコラム

2018/10/18(木)

今年も日本のバスケットボールリーグB.LEAGUEが開幕した。B.LEAGUEの観戦はこの季節の私の楽しみの1つである。私が応援しているチームは昨年までは有望な大型選手が多く、比較的ゴールに近いインサイドエリアを使ったハーフオフェンスを強みとする一方、速攻や3P(スリーポイント)といったアウトサイドからの攻撃の少なさに課題の残るチームであった。そこに今シーズンから、走れて外からも打てる選手を何名か補強し、今年は本当に楽しみなチームに仕上がっている。

さて、本日のテーマは「最適化」である。チームスポーツにおける補強の最適化とは基本的には足りないRole(役割)を埋めることとほぼ同義であり、上記したバスケットボールチームにさらに大型センターを優先的に補強するということは考えにくい。

制約がある中でのラインアップの最適化

スポーツであれば感覚的に分かりやすいこの話、ビジネスにおいてはどうだろうか?小売で言えば、店舗面積が縮小する中で棚効率を上げるための最適な商品ラインアップはどのように考えられているか?メーカーで言えばカテゴリートータルでの利益率向上のためにSKU※1を削減する検討はどのようになされているか?最近はこのように、ある制約(フェイス数やSKU数)の中でのラインアップの最適化に関して、弊社にご相談をいただくケースが増えている。

例えば、既存SKUからいくつかを削って利益率向上を目指す場合である。各SKUの利益構造は大きくは変わらないとして単純にその中での最適化を考えるのであれば、実売実績が低く売れないSKUから削って行くのが最もシンプルな解である。一方、生活者へのリーチという側面から考えると、一概にそれが正しいとも言い切れない。以下のようなデータを例に取り上げたい。

図1

このデータは期間併買が起こりうるカテゴリーにおける、個人ごとの各SKUの購買状況を表している。つまり、sample1の人はAとCを購入しており、sample2の人はAとBとCを購入していることがわかる。この状況において、例えばSKUを2つ削減することを考える場合、最もシンプルに考えれば購入者数の少ないDとEを削除するだろう。結果として、以下の図の通り購入個数は14個と最大数を維持するがsample5、6、9、10という4人の購入者を失うことになる。

図2

一方、極力購入者数を担保する(リーチを最大化する)という観点で考えるならBとCを削除する方が得策である。以下の図の通りDとEを残すことによってsample5、6、9、10などAでは捉えきれなかった購入者もDとEでカバーすることができ、消費者へのリーチという意味では最大化することが可能である。どちらの考え方を採用すべきかについては商品カテゴリーや自ブランドのポジションによって異なるが、単純に売れていないものから順に削減することが正しいとは限らない、ということがおわかりいただけるだろう。

図3

TURFを活用して最適な組み合わせを求める

上述した10人×5SKUでの最適化であれば目視での検討も可能だが、10,000人×10SKUでの最適化となると目視で行うには相当な時間とガッツを要するだろう。このようなマーケティング課題に対して最適化を実施するアプローチに「TURF Analysis」がある。TURFとはTotal Unduplicated Reach and Frequencyの頭文字をとったもので、基本的な考え方は上記したようにある制約の中での最適な組み合わせを求める分析手法である。
TURF Analysisでは、リーチ(上の例での購入者数)を最大化する分析も、フリクエンシー(上の例での購入個数)を最大化する分析も可能であり、上記したような実売データでの分析や上市前のバリアント検討などであればアンケートデータから分析を行うことも可能である。また、以下のようにリーチをXX%獲得するためにはいくつのSKUが必要か?などブランド立ち上げ時の中期プランにも活用できる。

図4

棚効率にせよバリエーション効率にせよ、今後も成熟したマーケットでは、あらゆるビジネス制約の中での最適化という文脈は1つの抗えない流れであることは間違いないだろう。今回紹介した内容はReachとFrequencyの最適化という小さな事例だが、同様の課題感をお持ちの際にはTURFなどを利用して勘や経験だけに依存しない、科学的なアプローチが必要となるだろう。

※1:Stock Keeping Unit(ストック・キーピング・ユニット)の略。受発注・在庫管理を行う際の最小の管理単位。

著者の紹介

西部君隆

西部 君隆

株式会社マクロミル 執行役員
東京理科大学卒業。2006年インタースコープ入社、ヤフーバリューインサイトを経て現在に至る。飲料・食品業界を中心にリサーチのプランニング・提案・分析に従事。2010年8月よりリサーチャー部門のマネジメントを行い、2014年4月よりネットリサーチ総合研究所主席研究員を兼任。

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