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売り手と買い手の距離を縮める"価格"を探る方法論

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モノの価値の捉え方は人それぞれだ。その価値を数字で現したものの1つに「価格」がある。売り手と買い手の、互いのモノの価値の捉え方(≒価格)に対する認識が近いほど、売買は成立しやすくなると言える。

― 街のカフェでスケッチをしているピカソを偶然見かけた女性が、自身の似顔絵を頼んだところ、3分ほどでサラサラと描き上げた後の話。買い手の女性が「おいくらかしら?」と尋ねたところ、売り手のピカソは「5,000フラン(現在の為替レートで換算し約50万円前後)」と答えたそうだ。「5,000フラン!!たった3分描いただけで…。」と驚愕した女性に対して、ピカソは「いいえ。私はここまで来るのに、一生を費やしています」と答えたと言われている。

秀逸な返しで有名なエピソードではあるが、売り手と買い手のモノの価値の捉え方に大きな隔たりがあるため、この売買成立の可能性はぐっと低くなったと言わざるを得ない。さて、この女性は一体いくらであれば、このスケッチを買う可能性があったのだろうか。

消費者の予算幅を把握するには:PRICE2

モノを買うときに、その商品が【絶対にこの価格でないとダメだ】という人は少ないのではないだろうか。何かしらモノを買うときは、「500円未満だと直ぐに壊れてしまいそう。でも最大でも1,000円くらいまでかな。できれば800円くらいにおさまると嬉しいけれど・・・。」といったように、おぼろげながらも予算の幅や価格に対する感覚を持っている。ピンポイントの点ではなく、その人の予算の幅におさまる価格であれば、購入可能性は高まるものと考えられる。

この消費者の予算(価格)の幅を把握する分析手法の1つとして「PRICE2」がある。PRICE2とは、価格の分析手法として一般的なPSM分析(Price Sensitivity Measurement、価格感度測定)を元にさらに進化させた、当社独自の分析手法だ。この「PRICE2」を用いることで、消費者の予算幅を予測する方法について、解説したい。

PRICE2の基本的な考え方は、以下の概念図であらわすことができる。

PRICE2の基本概念

図1:PRICE2の基本概念

  • 「Q1.安いと感じる価格」~「Q2.高いと感じる価格」の間にある価格は消費者にとっては、高くもなく安くもない、ちょうど良い「A:妥当な価格帯」。
  • 「Q4.安すぎて品質が不安に感じる価格」~「Q1.安いと感じる価格」の間にある価格であれば、「B:安いと感じる価格帯」。
  • 「Q3.高いと感じる価格」~「Q4.高すぎると感じる価格」の間にある価格であれば、「C:高いと感じる価格帯」。
  • 「Q4.安すぎて品質が不安に感じる価格」~「Q3.高すぎると感じる価格」の間にある価格は、楽観的にとらえれば消費者が買っても良いと考える「D:購買可能な価格帯」。

4つの価格の点を確認することで、それぞれの価格における消費者の感じ方とその比率を把握できる。この結果の具体的なアウトプット例は以下のようになる。

PRICE2のアウトプット例

図2:PRICE2のアウトプット例

オレンジ色の購買可能曲線は、特定の価格時に「安すぎ⇔高すぎ」の範囲におさまる回答をしている人の比率を示したもの。100円から150円あたりまでは、グラフのピークとなっており、およそ90%の人が該当していることが分かる。赤色の妥当曲線は「安い⇔高い」の範囲におさまる人の比率となり、オレンジよりも少し厳し目に許容する価格を捉えたものだ。ここに絞ると、ピークは125円~140円程度となる。その他の価格帯におさまる曲線も同様に描くことができる。

消費者心理を変える「価格の壁」を確かめる

価格は、データ上の特性で言えば、連続変数である。99円から100円の変化も、100円から101円の変化も、同じ1円の変化でしかない。ただし、価格が2桁から3桁へ変動し、桁数が変わるような場合、心理的な印象は必ずしも同じだとは言い難いのではないか。特売のチラシや特売コーナーで、99円や999円などの桁が変わる直前の価格設定が多いことも(実際は98円や998円など少し手前の設定が多いかと思われるが)、こうした消費者心理を捉えてのものと言える。

変化は同じ量(1円)にも関わらず、その変化による「買う可能性」の変化は必ずしも同一ではない。こうした、買う可能性の急激な変化がどこで生じているのかも、PRICE2では可視化できる。上記の例で言えば、100円と200円の前後において、急激に該当者の増減が見られる。このように、PRICE2で分析をすれば、購買の可能性を大きく分ける分岐点となる箇所が分かる。

価格の変化による購買意欲への影響(価格弾力性)を確かめる

消費者から支持されている商品は、価格に多少の変化があっても、買いたい気持ちの変化には影響が少ないものだ。逆の商品は、価格の変化によって敏感に買いたいと思う気持ちに変化が起きやすい。

例えば、100円から120円の間で、Aブランドは買いたい気持ちが10%の変化しか起きず、Bブランドでは20%の変化が起きたとする。この場合、AブランドのほうがBブランドに比べて価格に影響を受けにくいブランドと言える。「受容の変化率」を「価格の変化率」で割ったものを価格弾力性と呼び、価格弾力性は1より小さい状態であれば、価格を上げても受容されることが示唆される。PRICE2を用いると、どの価格のときにどのくらい受容されるのかを把握でき、価格弾力性についても取得したデータから算出することができる。

価格比較が容易なWeb上での購買活動の増加や、PB※1の勃興、EDLP※2などチャネル側での価格コントロールが多様な昨今、消費者の価格に対する感覚は必ずしも一定であるとは言えないのではないか。PRICE2は、定期的に消費者視点での価格感を確認する場合に、4つの質問で様々な価格に対する消費者の反応を把握できる有効な方法としてお勧めできる。

また、本筋とはそれるが、PRICE2は価格以外にも応用可能な手法である。例えば「時間」や「距離」、容量などの「広さ/大きさ」といった連続した数字であらわせるもので、生活者や消費者が「幅」をもって捉えているものであれば応用することができる。(例えば通勤時間の許容範囲や、アルコールの摂取量など)。

競合と比較した上での価格設定、その方法とは:コンジョイント分析

世の中には多くの商品があふれており、1つだけの商品しか存在しないブルー・オーシャン※3のようなカテゴリーは、残念ながらあまり多くは存在していない。1人の消費者としてみれば、選べる楽しさやリーズナブルな商品を選ぶことができるので喜ばしいことではあるが、作り手側/売り手側からすれば、コストの観点だけでなく、ライバルの価格も考慮して価格設定をしないと、競争に勝つことはできない。

現在では、Eコマースが進むにつれて、Web上では最安値の商品を見つけやすくなり、場合によっては店頭での値引き交渉の情報としても使われるような時代になっている。そんな中、“他と比べていくらに設定するのか”、という課題はより重要さを増している。消費者も、売場におけるモノの「価格」に対する評価(その価格が買うに値するものかどうか)は、他の商品と比べてどうか、という相対評価で判断している状況が多いのではないか。この状況に似た状態で、自社商品の価格に対する評価を把握するための有効なアプローチ方法の一つにコンジョイント分析がある。コンジョイント分析における基本的な質問形式は、自社の商品と複数の競合商品を呈示し、様々な価格の状態のときにどれを選択するのかを、繰り返し聴取するだけだ。

全く同一の商品であれば、単純に最安値のものへ流れていくと想定されるが、メーカーも異なれば、ブランドも異なる状況では、そう単純には決まらない。また同一カテゴリーであっても、様々な機能面において異なる商品が並んでいる。コンジョイント分析では、そうした様々な条件の違いの1つとして「価格」も含め、様々な要素の組み合わせで考えうる商品を複数表示させ、繰り返し選択実験をおこないながらデータを収集し、解析できる。

コンジョイント分析の調査票イメージ図

図3:コンジョイント分析の調査票イメージ図

この手法そのものは古くから存在していたのだが、現実的に様々な要素で構成される商品を表現するためには、細かいレベルで設定できることが必要だ。例えば、あるメーカーで販売されているパソコンのカタログで、掲載されている機種ごとのスペック表の違いを再現できるような細かさが必要になる(更にそれを複数社のカタログスペックも網羅するような細かさが必要)。従来のコンジョイント手法では、こうした細かい商品の違いを再現できるような設定が現実的に難しい状況だった。しかし、CBCACBCといったコンジョイント手法が開発されたことにより、かなり細かいレベルで商品の違いを設定できるようになった。調査の回答者にかける回答負荷とのバランスを考慮する必要はあるが、実際に販売されている商品の違いを提示した状態でデータを取得/分析する多くのケースで活用されている。

コンジョイント分析の活用

コンジョイント分析では、自社に限らず、他社商品も含めて様々なスペックの商品が存在する架空上のマーケットにおいて、様々な価格設定時にどのくらいのシェア(仮定上のマーケットでのシミュレーションのため、マインドシェアと称している)を獲得することができるのか、無数の数値シミュレーションをおこなうことができる。※当社の専用シミュレーターで、アンケートで得られた結果と実際の売上データとの乖離を補正するため、「調整係数の設定」や「配荷率の設定」が可能。

また、特定の機能の変化を価格換算することで、「特定機能のスペックを一つ上げることは消費者にとっては○円余計に支払って良い価値を生む」といった計算も可能だ。

当社が提供するシナリオシミュレーター

図4:当社が提供するシナリオシミュレーター

最後に

消費者の価格に対する評価や反応を捉える方法論は、上記で紹介したPRICE2やコンジョイント分析以外にも様々なアプローチがある。ここでは、あくまでも特定の商品やブランドだけの評価として把握をしたい場合は絶対評価となるPRICE2を、競合との比較の上で相対評価として受容される価格を把握したい場合はコンジョイント分析を、といった観点で紹介した。

アンケートデータから得られる価格は、消費者がモノやサービスの価値を数値で現したものである。価格設定をおこなう場合に限らず、消費者が自社の商品やサービスに対する評価を把握する1つの手段として、PRICE2とコンジョイント分析を活用してみてはどうだろうか。

※1  PBとは … プライベート・ブランドの略。小売店・卸売業者が企画し、独自のブランドで販売する商品。製品を製造するメーカーが販売しているナショナル・ブランド (NB)の対義語。
※2  EDLPとは … Everyday Low Price の略。特売期間を設けず、年間を通じて特定の商品を同じ低価格で販売する価格戦略のこと。
※3  ブルー・オーシャンとは … W・チャン・キムとレネ・モボルニュの共著『ブルー・オーシャン戦略』で提唱された用語。ライバルがひしめき合う競争の激しい市場を「レッド・オーシャン」、逆に競争者の少ない未開拓の市場を「ブルー・オーシャン」と呼称。
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小笠原道明
小笠原道明
株式会社マクロミル リサーチソリューション本部 第2ソリューション部 部長
千葉大学大学院修士課程修了(文化人類学専攻)後、2005年インタースコープ(現マクロミル)に入社。日用品・飲料・食品業界を中心に市場調査および購買データの調査企画~設計/分析業務を担う。現在はリサーチソリューション本部第2ソリューション部の部長を務める。

お客さまの課題・ニーズを伺ってリサーチの企画・提案を行います。
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