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マーケティングリサーチの未来 IIeX, Insight Innovation Exchange NA 2017に参加して

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小林健(株式会社マクロミル エグゼクティブマネジャー)[著]
2017年9月15日

『IIeX、Insight Innovation Exchange』をご存じですか?

私が知る限り、最も先鋭的かつ実用的なマーケティングリサーチのカンファレンスです。ヨーロッパやアジアでも開催されていますが、年間で最大かつ内容が濃いものは北米(アトランタ)で開催されるのもの。マクロミルは2014年から毎年参加しており、今年も6月にアトランタで開催のIIeX NAに参加してきました。

私が初参加した2014年の来場者数は500名くらいでしたが、今年は950名以上で、毎年規模が拡大しています。カンファレンスの主旨・精神は、「より良いリサーチを実現するために・インサイトを抽出するために、出来ることは何か。活用出来るテクノロジー・コンセプトの共有(デモ)と議論」に置かれており、毎年刺激的で新しい発見を得ることができます。

はじめに、このカンファレンスの特長(素晴らしさ)をご紹介した後、IIeX2017での気づきについて述べていきましょう。

IIeXの特長

1. マーケティングリサーチに関連した、インサイトを抽出するための最新技術テクノロジーに触れられる。
セッションとは別に、「Insight Innovation Competition」というコンテストが開催され、ベンチャー企業が積極的にソリューションを共有します。今年もAIをどうリサーチに活用するか等のプレゼンに触れることができました。

2. セッションは20分間のTED方式。4セッションが同時並行的に走り、3日間で150セッション開催。
よくありがちな、「このプレゼン興味ない…」という時間は少なく、反対に「この時間帯にどのプレゼンを聴くべきか…」と悩みます。また、仮に聞き逃したとしても、カンファレンス終了後には資料がデジタル共有され、アプリを通じてプレゼンターとコンタクトが可能です。

3. リサーチプロバイダー、リサーチバイヤー、そしてテクノロジープロバイダーが多く参加。
ランチ休憩、Networking休憩、カンファレンス終了後の懇親会など、多くの方と話す機会があります。他のリサーチ系カンファレンスでは、参加者が旧交を温めるようなシーンが多く、文字通り異邦人である私たちが入っていくのに躊躇することがあります。しかし、歴史の浅いカンファレンスであり、参加者がリサーチ業界に限らないこともあって、オープンな雰囲気です。

それではそろそろ、今年のIIeXでの気づきをまとめます。

IIeX2017での気づき

1. Automation(自動化)
多くのプレゼン、ツール、ディスカッションがマーケティングリサーチと自動化について、でした。自動化できる場面はどんなことか。自動化がもたらすことは何か。本当に実現可能なのか(質とコストの両面において)等、深く掘り下げて議論すべきポイントがまだまだあることも事実ですが、取り扱うデータの種類と量が増える一方で、リサーチに従事するプロフェッショナルの絶対数が減っていること(労働市場においての奪い合い)、マーケティングの実務において、よりスピーディな判断と実行が求められていること、市場や生活者がより複雑化していることを考えると、自動化できるプロセスについては躊躇せずに取り組んでいくべきだと、個人的には強く感じました。カンファレンス内で確認できた自動化についての文脈は大きく4点にまとめられます。

①音声や画像、動画データの自動収集、自動解析
インタビュー速記録の自動生成だけではなく、声の速さやトーンから感情を推定する技術や、画像の類似度を解析したり、画像に掲載されている色や形だけではなくロゴや文字情報まで特定して収集、カウント、解析したりできる技術などです。

②定量データの加工、可視化の自動化
いわゆるダッシュボード的なものではありますが、ますます見た目や運用の負荷低減などが洗練されつつある印象です。ブランドイメージ調査やCS調査など、一定のフォーマットでデータを取り続けるようなリサーチにおいては、アウトプットにかかる時間と費用の圧縮、結果共有の容易さなど、改めて有効なものだと感じました。

③定性データの収集、解析の自動化
チャットボットをインタビュアーとして、MROCのコミュニティマネジャー的な役割を担わせたりすることが早晩実現しそうです。少なくとも、ある程度「やりとり」が予測しやすい調査テーマ、インタビューフローであれば、簡易なチャットボットでも十分対応できそうです。カンファレンスでは、スマホのメッセンジャーアプリ(日本ではLINEでしょうか)とチャットボットの組み合わせで実現するリサーチが紹介されていました。アンケートというクローズな環境ではなく、テキストによる対話形式で定性的なデータをオープンに集めて、それを自動的に定量化するという仕組みなのですが、見た目も含めて回答する側のことを良く考えてあり、スマホ時代のリサーチにベストマッチと感じました。

④アンケートの調査設計や解析の自動化
これらはどちらかというとリサーチプロバイダーの業務を効率化するもので、AIによって解析を行えば、多くの調査票の作成を「こういう調査目的、調査課題のときは、調査票はこうあるべし!」と自動的に出力される仕組みを作る、という内容です。確かに特定の調査目的であれば実現しそうですが、マーケティング課題が常に更新されていくことを考えると、その有効性は果たして…?特に2017年時点では、自動化まで実現するためにはかなり大きな投資が必要であることも障壁となりそうです。

2. VR(バーチャルリアリティ)とAR(拡張現実)
バーチャルリアリティは2014年のIIeXでもテーマとして取り上げられており、私も3年前にデモ(バーチャル店舗評価のようなもの)を体験しましたが、その当時の評価としては「使い物にならない」でした。私はビデオゲーム会社に勤めていた経験があり、バーチャルリアリティとその技術は比較的身近なものであるのですが、当時のデモで提案されていた「VRリサーチ」はそのリアルさ、準備の煩雑さと費用の高さから、実用にはほど遠いと判断していました。しかし、今年体験した店舗評価、棚評価のデモは、「リアリティ」を感じさせるのに十分な出来映えで、本当に驚かされました。 商品を触ったり、嗅いだりすることはもちろんできませんが、商品の3Dデータや、パッケージ画像が第三者機関によってデータベース化される環境があるアメリカでは準備も比較的容易なため、十分に実用に耐えうる状況までいくかもしれません。また、米国のリフォームや生活家電販売チェーンであるLoew’s社が一部の店舗で既に導入しているHoloroom/HoloLensなるVR、AR展示場の技術とマーケティングリサーチの組み合わせもとても興味深いものでした。キッチンのリフォームを行いたい顧客に、Loews店舗にあるVRルームを提供し、iPadを使って、家具やシンクを配置し、VRヘッドセットで実際に(バーチャルに)リフォーム後のキッチンを体験させるという仕組み。この仕組みを使えば、今まで難しかった住宅の評価、店舗の評価も容易になるかもしれません。棚割り調査や自動車のモックテストなどの準備にかかるコストや時間も大きく削減できる可能性がありそうです。

3. マーケティングリサーチが直面している課題が“世界共通”であることの再確認
以下のことについて、多くのプレゼンターがカンファレンス中に言及し、パネルディスカッションでも何度も議論されていました。

  • マーケティングリサーチに参加してくれる生活者は全世界的に減少中
  • アンケートの長さ(質問数)が減らない
  • モバイル(スマートフォン)は成熟期を迎えているのに、モバイルを使ったリサーチは未だに初期段階
  • 多くの新しいテクノロジー、手法が提案されているのに、上手く活用出来ていない
  • Faster, Cheaper, BETTERへの期待値が高まる一方で、応える側の疲弊や行き詰まり感が高まっている

どれも本当に難しい課題で、一朝一夕に解決できるものではなく、現時点でこれといった正解が見つかっていないと捉えています。スマートフォンでいかに心地よくアンケートに参加して貰えるか、事実や履歴はアンケートで自主申告するのではなく、別のデータソースにあたり、アンケートでは意識の質問だけを回答して貰う仕組みの構築、回答者を囲い込む(パネル方式=プール)のではなく、川や海から引き込んでくる(リバーサンプリング)仕組みの構築など、考えられることは沢山ありそうです。また、変化を恐れずにチャレンジする姿勢が不足していると改めて思いました。

IIeXはとても刺激的なカンファレンスであり、参加直後は「手法」や「テクノロジー」の話に終始しがちです。しかし、テクノロジーありきではなく、「お客様や生活者の課題を解決するためのイノベーションであるかどうか」、をまず考えることを忘れずに、これからもリマーケティングリサーチに向き合ってまいります。

最後に、2018年のIIeXの日程は6月11日~6月13日、アトランタでの開催が決定しているようです。この記事をみて、参加したいとちょっとでも感じた方は是非ご一緒させてください。願わくは、そこで得られた気づきや課題について、ディスカッションするような機会を設けて、広く公開するようなことまでできると、IIeXをもっと楽しめそうだと考えています。

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小林健
小林健(こばやし・けん)
株式会社マクロミル エグゼクティブマネジャー
大学卒業後、ビデオゲーム会社にて営業職。海外留学中にマーケティングリサーチに出会い、帰国後は多国間調査専業のリサーチ会社に勤務。2001年11月インタースコープ入社。2013年7月より、リサーチの企画・提案・分析を行うソリューション事業本部、グローバルリサーチ部を執行役員として統括。現在は、株式会社マクロミル エグゼクティブマネジャーを務める。

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