
東南アジアでオンライン調査は活用できる?調査方法による回答者の違いを解説!|東南アジア オンライン・オフライン比較調査(第1回)
公開日:2025/12/17(水)
今回は、「海外リサーチ情報」としてマクロミルが実施した【東南アジアのオンライン・オフライン比較調査】の結果をご紹介します。
東南アジアは、マーケティング・リサーチの観点から見ると、以下のような特徴がある地域と言えます。
- 日系企業の進出展開や輸出が多く、また生産拠点も多い
- そのため、東アジアや北米、欧州と並んでマクロミルで海外調査の実施が多い
- ただし、定量調査の「方法」という観点から見ると、シンガポールなど一部の国を除き、インターネット調査(「オンライン調査」)の割合が低い
時代の流れを考えれば、東南アジアでも今後さらにオンライン調査の割合は高まるものと考えられます。しかし、これらの地域で新たにオンライン調査を始める、あるいは面接調査など「オフライン調査」で行ってきた調査をオンラインに切り替えるには、不安や懸念があるケースもあると思われます。
そこで、マクロミルではASEAN諸国の中で調査ニーズが高く、かつ現状はオンライン調査割合が低めのタイ、インドネシア、ベトナムの3ヵ国で、同時期に同じ内容の調査をオンライン調査とオフライン調査の両方で行い、結果の比較を試みました。
今回は、東南アジア地域の調査の方法や回答者の基本的な属性などの違いを取り上げます。
なお、調査の結果は実施方法や対象者条件、質問内容などによって大きく異なる場合もありますので、今回の結果は事例の1つとしてご覧いただければ幸いです。
1.ASEAN主要国のマーケティング・リサーチの方法(定量調査)
まず、業界統計からこれらの地域でのオンライン調査の現状を見てみましょう。【図表1】に、いくつかの国の通常タイプの定量調査(購買データやソーシャル・リスニングなどを除く)の売上に占める「オンライン調査の割合」を示しました。これは海外調査に限った数字ではなく、その国全体での統計です。
シンガポールや日本では、オンライン調査割合が80%を超えていますが、今回対象とするタイ・インドネシア・ベトナムでは、20~40%程度です。これらの国ではオフライン調査、特に調査員が家庭を訪ねる訪問面接調査が中心となっています。
【図表1】 ASEAN主要国および日本の通常型定量調査におけるオンライン調査売上の割合

※定量調査のうち、「電話調査」「面接調査」「オンライン調査」の合計を100%とした際に、「オンライン調査」の占める売上の割合を示す。ESOMAR “Global Market Research 2025”をもとに算出
2.調査が変われば結果も変わる
ところで、そもそも同一地域で同内容の調査を行ったのであれば、調査結果はほぼ同じにならなければおかしいのでは、と思う方もいらっしゃると思います。しかし、調査の数字(結果)は条件によって様々に変わります。これは調査データが信頼できないということではなく、調査もある一定の条件の下で行われるものなので、その前提となる条件が変われば回答者の反応は異なるということを意味します。
例えば「タイ風カレーが好きですか?」という単純な質問も、選択肢が「はい」「いいえ」の二択か、「とても好き」「やや好き」「どちらとも言えない」「あまり好きではない」「全く好きではない」「わからない/食べたことがない」といった6つの選択肢で尋ねた場合とでは、結果の傾向に違いが出る可能性が想像できるかと思います。
複数の調査の結果が異なる場合、一般的には【図表2】に示すように実に多くの要因が調査の結果に影響している可能性があります。
【図表2】 同じテーマの複数の調査間で、結果に違いが生じる要因の例

3.オンライン調査とオフライン調査の回答者の違い
仮に調査票の言語や尋ね方、調査実施時期などが同じだったとしても、今回着目する「調査方法の違い」があると、いくつかの面で条件の違いが発生します。
例えば、多くのブランドが選択肢にある質問を見るときに、オンライン調査をスマートフォンの画面で見る場合と、オフライン調査で調査員が読み上げたり一覧のカードを提示して見せたりする場合とで、一度に見える情報量が異なることで、情報処理の違いが起こることもあります。
また、オンライン調査は調査会社やマーケティング会社等への登録モニターから対象者を選ぶことが多く、オフライン調査は指定地域の一般住民から選ぶことが一般的です。それにより、結果として調査方法別に回答者の層(職業や収入などの属性分布)にも一部に違いが生じることがあります。
これは厳密には「調査方法」そのものの問題ではなく、「対象者の抽出」の問題ですが、実際は上述のように調査方法との関連が強いため、同時に発生しやすい現象となっています。
ここでは、今回の調査結果から、例として「世帯収入」の分布を【図表3】に示しました。
【図表3】 世帯収入についてのオンライン調査・オフライン調査比較

※各国の回答を3グループに区切り直して集計。インドネシアは「支出」を用いて家計状況を把握することが多いが、ここでは他国と聴取法を揃えて世帯「収入」を聴取した。調査エリア・回答者数などの詳細は下記の<調査概要>参照
どの国も首都圏(ベトナムではハノイ首都圏と最大都市のホーチミン都市圏)での調査のため、それぞれの国の全国平均よりは収入が高めですが、特に今回はインドネシア調査とベトナム調査では、オンライン調査のほうが相対的に富裕な世帯の回答者の割合が高いといった違いがありました。
回答者の特性分布に少し違いが生じる背景としては、まだオンライン調査の登録モニター数がそこまで多くない国・地域においては、こうした調査モニターの存在を知って登録する層は、比較的情報感度が高く富裕な人が多い場合があります。
一方で、オフライン回答者についても、調査員が地域を回る時間に在宅しており、そこで面接調査に応じることができる人なので、職業や行動特性などに何らかの特性を持った人が多い可能性もあります。
全て完璧な条件で調査をすることは現実的には極めて難しいので、回答者の特性なども考慮して結果を解釈するとよいと言えるでしょう。
4.今回のまとめ
調査の方法によって、回答者の情報処理プロセスや回答者層の特性には、若干の違いが生じます。
マクロミルでもそれらを踏まえて、お客様の調査目的や課題にお応えできる最適な実施方法を提案させていただいています。
次回からはタイ・インドネシア・ベトナムでの具体的な質問結果への反応と、それに基づいてオンライン調査設計をどのように考えたらよいかを検討していきます。
<「東南アジアのオンライン・オフライン比較調査」調査概要>
●調査エリア・対象者、時期
(1) タイ:グレーター・バンコク地域に居住する一般消費者男女20~49歳、2024年1~3月実施
(2) インドネシア:グレーター・ジャカルタ地域(ジャボデタベック)に居住する一般消費者男女20~49歳、2024年8~9月実施
(3) ベトナム:グレーター・ハノイおよびグレーター・ホーチミン地域に居住する一般消費者男女20~49歳、2024年8~9月実施
●回答者数
(1) タイ:オンライン調査=800人、オフライン調査=400人
(2) インドネシア:オンライン調査=800人、オフライン調査=400人
(3) ベトナム:オンライン調査=1,600人、オフライン調査=800人(いずれもハノイ地域とホーチミン地域で半数ずつ)
*本調査結果は、「ミルコミnote」(https://note.com/macromill/m/me0d171521691)記事で、主として国別に結果をまとめ、5回に分けてご紹介しております。このコラムでは、全体結果をまとめてトピック別に掲載していきます。
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著者の紹介
株式会社マクロミル マクロミル・グローバルリサーチ・インスティテュート シニアフェロー
熊谷 信司
東京大学大学院教育学研究科修了。総合調査会社勤務を経て、マクロミル入社後はリサーチャーとして国内外の数々の調査プロジェクトを担当。2019年よりグローバルリサーチ本部に異動し、現在は海外調査のプランニングや海外調査の知見創出・情報発信、また産学連携による研究・教育取り組みなど多岐に活動。専門社会調査士。
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