海外市場は「色」で攻める!国ごとに異なる購買心理をデータで解説|海外市場開拓のためのカラーマーケティング第2回

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マーケターコラム

2025/9/25(木)

前回のコラム記事(第1回:「色彩」がブランドを差別化する!ブランド要素としての“カラー資産”の活用法)では、「色」とはそもそもどういうものか、また、それをビジネスで活用する際の基礎知識をお伝えしました。

今回は、色に対する生活者の嗜好や意識が国によってどう異なるかについてお伝えします。

この考察をするために、マクロミルではインターネット調査で日中タイ3カ国の男女20~40代の一般消費者、各国で約1000人、合計3000人以上もの方に、「好きな色」や「色のイメージ」、「色を気にして購入したもの/その理由」などを聴取しました。

聴取した色は下記の30色について、カラーパレットのような画像をアンケート画面で表示して、回答してもらいました。

先ずは手始めに、自動車や家電製品などの耐久消費財から、歯ブラシ・洗剤などの日用品に至るまで20カテゴリーの製品について、所有率(それを持っているか)と購入の際に色を気にしたかどうかを調べてみました。

以下は日本の結果です。横軸が「所有率」、縦軸が「所有者の中で色を気にして購入した人の割合」です。

これを見ると、日本では自動車、スマートフォン、ソファ、カーテンが特に色にこだわりを持って買われているようです。腕時計、自転車、オートバイ・スクーターも比較的色を気にしています。
一方で、エアコン、洗濯機などの白物家電や、シャンプー、食器用洗剤といった日用品に対しては、色のこだわりが少ないことが伺えます。

では中国はどうでしょうか?

色を気にして購入するものはスマートフォン、自動車、カーテン、ソファが挙がっており、こちらは日本と同じでした。オートバイやスクーターの所有率が20%強と低いのは意外かもしれませんが、これは国の環境面の法規制が厳しいため、電動自転車やEVがより普及している背景があります。

日本との違いとしてはイヤホン・ヘッドホンが顕著で、3番目にランクインしていることが興味深いです。日本では真ん中ぐらいの位置づけですので、日中での違いが顕著です。
イヤホンというとiPhoneの白いものを想像しますが、中国の家電店を訪れると、店頭ではもっとカラフルなものが並んでいます。一般的な白やシルバーに加えて、ファッション重視の人向けに赤があり、イヤホン本体だけでなく、ケースも凝ったデザインです。これは主に女性をターゲットにしているかと思いますが、口紅型のケースという発想がクリエイティブでしかも高級感を感じますね。
音を聞くというイヤホンの「機能的価値」だけではなく、気分が上がる・持っていて嬉しくなるような「情緒的価値」を、中国の方は日本人よりも重視しているのでしょう。

ではタイはどうでしょうか?

大きな傾向としては日本、中国と近しいですが、スマートフォンが頭1つ抜けて最も高い位置づけにありました。

また、オートバイ・スクーターが上位に入っていることが特徴的です。タイのような東南アジアはバイクが普及しているため所有率も高くなっています。(日本・中国では20%前後の所有率)さらに、冷蔵庫や歯ブラシも比較的位置づけが高く、日本や中国では下に位置していたので、色のこだわりに対する違いがありそうで面白いところです。

出典:(左)モーターサイクルナビゲーター(https://www.rock-tune.com/2016/12/04/7123)/(右)DENTAL LIFE DESIGN(https://d.dental-plaza.com/archives/2362)

タイの路上やバイク店の店頭では上の写真のようなカラフルなバイクを見かけます。左の写真はバイクのカスタマイズショップですが、バイクを自分好みの色に仕立てたり、さらにパーツを追加したりして、個性を主張したいのでしょう。

右側の写真は歯ブラシで、タイのショッピングモールにあるドラッグストアやコンビニでは、このようなカラフルな歯ブラシや歯磨き粉を販売しています。

以上から、色を気にして購入する商品は、各国共通点のものもある一方で、モノによってはかなり違いがあることが分かりました。

これは3カ国合算で、各カテゴリーの製品がそれぞれ「色で買われた理由」をマッピングしたものです。このマッピングでは、「コレスポンデンス分析」という手法を用いて、「近い位置にある製品が同じような理由で買われている」という見方ができます。

左上の象限を見ると、腕時計・スマートフォン・イヤホン・ヘッドホンといった外出時に使うような製品は「好きな色」「おしゃれ・かわいい色」で選ばれる傾向が読み取れます。近い位置に自転車・オートバイ・スクーター・自動車といったモビリティ製品があるので、腕時計やスマホなどと同様に好きな色=嗜好色が購買に影響しているようです。
右上を見ますと、ソファやシステムキッチンなどインテリア・住宅設備系の製品がまとまっていて、「汚れが目立ちにくい色」「飽きない色」「高級に見える色」が好まれています。
右下には炊飯器やテレビ・エアコンなど電化製品があり、「無難」「定番」な色で選ばれてることが伺えます。
このように改めて製品と色の関係を整理すると、なるほどそうだろうという印象です。

一方で、モノを買う際の色を気にする理由は国ごとでみると、かなり違いがありました。

これは製品ごとに色を気にする理由の上位TOP3をまとめた表です。日本は「飽きない」「無難な」色をどの製品に対しても好む傾向が見て取れます。
一方で中国、タイでは「無難・飽きない」はほぼ挙がってこず、「高級」「個性的」な色を求めている様子が伺えます。例えばTVやイヤホン・ヘッドホンといった耐久消費財だけでなく、食器用洗剤といった日用品でも、そのような傾向にあることが興味深いところです。

ここから言えることとして、日本の消費者は保守的ですが、中国・タイでは色を積極的に提案すると、消費者に受け入れられる土壌がありそうです。グローバルに商品を展開していく上で、色をローカライズするとか、競合との差別化のためにあえて違う色にするなど、「海外は色で仕掛ける」といった取り組みも戦略の1つになるのではないでしょうか?

上の表は、さきほどの20カテゴリー別に見ていたものを合算したものになりますが、改めて日本人と中国人・タイ人では「色を選ぶ基準が違う」ことが分かります。商品選定において、日本は「無難」「飽きない」が上位に挙がる一方で、中国・タイは「個性的」「高級」な色を好んで製品を選択する傾向が顕著です。

では、なぜそのような違いがうまれてくるのでしょうか?
社会的背景からの考察では、「経済成長の推移」が影響しているように思われます。日本では、高度経済成長期後のいわゆる「失われた30年」でGDPが伸び悩んでいる一方で、中国・タイは2000年以降も成長を続けています。

日本もバブルの時はそうでしたが、中国・タイのように経済成長し生活水準が年々上がっているときは、ステータスや優越感などを感じたいために、製品にも「個性的な色」や「高級に見える色」を求めるマインドになりやすいのではないか?と思います。

そうであれば、経済が安定成長期に入った中国やタイでも消費者の色に対する嗜好は変わっていくのかもしれません。

次回のコラムでは、日本・中国・タイの消費者が好きな色は何か?また、その裏側にはどのような背景があるのかを考察します。お楽しみに!

著者の紹介

岸原文顕

元マクロミル グローバルシニアプランナー

岸原 文顕

キリンビール株式会社を経て、2020年にマクロミルに入社。キリンビールでは酒類・飲料の国内外における商品開発・マーケティングや、アジア諸国・欧州・北米の事業探索、推進に従事。これらの知見を活かし、マクロミルでは日系企業の海外市場進出や事業展開におけるマーケティング活動を支援。調査領域を超え、事業の観点からマーケティングにおけるアドバイスを行った。BOONE合同会社代表、ソムリエ、全国通訳案内士。

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