
生成AIの登場から数年、日々進化するその技術に多くのビジネスパーソンが注目しています。
しかし、生成AIは、ビジネスに変革をもたらす大きな可能性を秘めている一方、組織的な導入・活用においては、多くの企業が共通の課題や疑問に直面しています。
本記事では、マクロミルのBtoB市場調査ビジネスパネルによる企業調査の一部を抜粋し、生成AIの導入・活用に関する企業の「今」を読み解いていきます。
「期待先行と成果の不確実性」「リスクへの不安と推進の停滞」「組織・人材面の壁」——これらの課題は、単なる技術的な問題ではなく、組織の制度、文化、「人」のマインドセットに深く関わっています。
これらの課題の根源を探り、乗り越えるためのヒントを提供します。そのヒントとなる調査結果をぜひご覧ください。
目次
- 生成AI活用はDX先進企業を中心に進展。全体浸透には教育・啓蒙が不可欠
- 通信・金融業を中心に生成AI活用が進展。公共部門・インフラ業でも本格化の兆し
- 導入目的は「守り」の生産性向上が中心。価値創出への転換はこれから
- ChatGPTとMicrosoft 365 Copilotが主流。企業独自モデルも一角を占める
- 生成AIの活用は「情報部門」と「企画中枢」に集中。現場部門への波及は弱い
- 生成AI業務利用の満足度は77%。ツールによって評価に差も―利便性・連携性が鍵
- 生成AIの成果実感は「経営企画」「情報部門」で最大。R&D・製造では評価が伸び悩む
- 生成AIを活用しても業務時間削減につながらず、満足度が低い層も一定存在する
- 企業の生成AIの導入・活用実態──第一章のまとめ
- 調査レポートのご案内
- 調査パネルについて
- 調査概要
生成AI活用はDX先進企業を中心に進展。全体浸透には教育・啓蒙が不可欠

生成AIの導入は、DX推進が進んでいる一部企業に中心で、全体ではまだ過半に届いていない。特に「わからない」と回答する層が約45%を占める現状は、社内リテラシーの低さと情報共有不足が最大のボトルネックであると推察できる。

導入済企業ではDX全社展開が進んでいる割合が高く、生成AI活用の進展はデジタル成熟度と密接に相関している。したがって、生成AIの全社展開に向けては、単なる技術導入ではなく、DX・AI活用に関する組織的な方針共有と、従業員教育の制度設計が不可欠である。
通信・金融業を中心に生成AI活用が進展。公共部門・インフラ業でも本格化の兆し
生成AIの導入・活用が最も進んでいるのは「通信・情報サービス業」「金融業・保険業」。業務のデジタル集約度が高く、ナレッジワーク(知的生産)比率の高い業種で先行している様子がうかがえる。これらの業種では、ドキュメント生成や問合せ対応、リスク評価などにおいて生成AIの導入メリットが明確であることから、業務活用に進展しやすいと考えられる。

また、注目すべきは、「官庁・自治体」および「電気・ガス・熱供給・水道業」といった公共性・インフラ性の高い業種でも導入率が3割前後に達している点である。これらの領域では、行政文書の作成や窓口対応、点検報告書の自動生成など、ルーチン業務の自動化・効率化が進んでおり、従来「デジタル後進」とされてきた業界においても、業務の再設計と生成AIの実装が本格化し始めている兆しが読み取れる。
導入目的は「守り」の生産性向上が中心。価値創出への転換はこれから

企業が生成AIを導入する主目的は、「生産性向上・業務効率化」が圧倒的で、次いで「コスト削減」が続く。これらのはいずれも “既存業務の合理化・省力化”という「守り」の視点に基づくものであり、現在の導入フェーズが業務最適化・オペレーション改善に軸足を置いていることが示されている。
一方で、「イノベーション促進・競争力の強化」や「新規事業・サービスの創出」、「顧客満足度(CS)の向上」など、「攻め」の領域に属する目的の回答率は相対的に低い。これは、現時点で多くの企業が生成AIを「変革ドライバー」ではなく「生産性ツール」として位置づけていることがうかがえる。
ChatGPTとMicrosoft 365 Copilotが主流。企業独自モデルも一角を占める
勤務先が許可している生成AIツールは、「ChatGPT」と「Microsoft 365 Copilot」が2大主流。これらのツールは既存業務環境との親和性が高く、特にCopilotはMicrosoft Officeとの統合が評価され、導入ハードルの低さと業務フローへの即時適用性が支持を集めている。

一方、注目すべきは「企業独自モデル」の存在。導入率は相対的に低いが、特定業務や社内セキュリティ要件に応じてカスタム設計された 生成AIソリューションを選ぶ企業が一定数存在している。特に情報管理が厳格な業界においては、外部サービスではなく社内専用環境での運用を選好する傾向が見られる。
注目すべきは、「Gemini」が「Azure OpenAI」を上回っている点。Azure経由のOpenAIサービスは、企業導入を前提とした堅牢な環境・セキュリティ要件への対応力が評価されやすい一方、GeminiはGoogle Workspaceとの統合性や無償版の存在、導入容易性の高さが評価されていると推察される。

この結果は、企業が「現場の使いやすさ」や「アクセスの手軽さ」を重視する傾向を持っていることを示唆しており、生成AI導入がIT部門主導ではなく、現場部門発で進んでいる可能性も示唆している。
生成AIの活用は「情報部門」と「企画中枢」に集中。現場部門への波及は弱い
生成AIの活用が“できている”とされる割合は49%に留まり、企業内でも活用が限定的であることが分かる。その中でも、活用が進んでいる部門は「IT・情報システム・DX推進」、「経営・経営企画」と、いずれも全社の中核を担う戦略・システム部門が強い。

これは、生成AI導入が企業の変革ドライバーや効率化戦略の一環として“上流から”導入されている構図を示しており、部門横断的な推進の意図がある程度見られる。一方で、「人事・総務・広報・法務」などの管理系部門や「研究・開発(R&D)」など、活用が期待される現場寄りの部門では、まだ半数未満にとどまっている。これは出力の正確性への懸念や、業務への直接統合の難しさが背景にあると考えられる。
生成AI業務利用の満足度は77%。ツールによって評価に差も―利便性・連携性が鍵

業務利用における生成AIツールの満足度(「満足」「やや満足」の合計)は全体で77%に達しており、実務における評価は非常に高い水準にある。これは、前スライドで示された業務時間の削減や、定型業務支援への貢献が、実際に従業員の手応えとして可視化されていることを裏付けている。
ただし、ツール別に見ると満足度には明確な差があり、AIツールを「導入した」だけでなく、“どのような体験価値をユーザーに提供できたか”が満足度獲得の分岐点になることが示唆される。

生成AIの成果実感は「経営企画」「情報部門」で最大。R&D・製造では評価が伸び悩む

生成AIツールの業務利用に関して、「業務時間の削減を実感した人の割合」と「ツール満足度」をかけ合わせてプロット図にした結果、右上に位置するのは「経営・経営企画」と、「IT・情報システム・DX推進部門」であり、両部門が最も高い成果実感と評価を得ていることが明らかとなった。円の大きさ(=削減された業務時間割合)も比較的大きく、“業務構造と生成AIの親和性”が極めて高い領域であることがうかがえる。
一方で、研究・開発(R&D)や製造・生産管理・品質管理などの技術系・現場系部門では、満足度・削減実感ともに低めであり、導入の難しさや期待とのギャップが残されている。特にR&Dは、業務特性が非定型かつ創造性に依存するため、「汎用的な生成AI」が効果を発揮しづらい構造的要因が存在すると
推測される。
生成AIを活用しても業務時間削減につながらず、満足度が低い層も一定存在する

企業の生成AIの導入・活用実態──第一章のまとめ
生成AIはDX先進企業を中心に浸透。一方で全社的活用には課題も残る
企業の生成AI導入は、DX先進企業や特定業種(通信・情報サービス業、金融業・保険業など)で先行する動きが見られるものの、全体としてはまだ初期段階にあり、全社的な浸透には情報共有と教育・啓蒙が不可欠な状況。現時点での導入目的は「生産性向上・業務効率化」といった「守り」の効率化が中心であり、“イノベーション促進”のような「攻め」の活用は今後の課題といえる。
生成AIに求められるのは「実務への直結性」
一方で、「使いこなせていない」「業務で使うシーンが分からない」といった“非利用層の声”は、導入フェーズにおける構造的な障壁を示しており、効果的なオンボーディングの不足や、日常業務との接続が不明確であることに要因があると考えられる。
※「オンボーディング」:生成AIを使う人が、早く使い方を理解し、業務に活かせるようにするための支援プロセス。
生成AI活用の拡大は“部分最適”から“全体最適”への脱皮が鍵を握る
実際に満足度が高いツールは、「操作のしやすさ」「即効性」、そして日々の情報収集や文章作成といった「業務との親和性」が評価に直結しており、生成AIに求められているのは、 網羅的な『多機能性』よりも、具体的な『実務への直結性』であると推測できる。
これらの実態を踏まえると、生成AIは単なる“業務効率化ツール”に留まらず、働き方・スキル・価値創造の再設計を促す「変革基盤」としてのポテンシャルも秘めていると思われる。
導入目的は現状「効率化」が中心であるが、削減された時間が新たな価値創造やスキルアップに繋がり始めている兆候も見られるため、「導入」したという事実だけでなく、組織全体に「浸透」させ、その価値を最大化するための戦略的視点も不可欠である。
そのためには、生成AIの導入・活用は“部分最適”から“全体最適”へと脱皮していくフェーズに移っていくことが望ましいと思われる。
第二章以降、全体像を把握したい方へ──レポートのご案内
本記事では、調査結果を分析した第一章の一部をご紹介しました。
ダウンロード版レポートでは、詳細なデータに加え、問題の本質理解から具体的な解決策へのヒント、未来へ向けた具体的なアクションプランを全66ページでまとめています。
下記よりレポートをダウンロードいただけます。調査データ全体と、各セクションの示唆を網羅的に収録した一冊です。
企業での生成AI活用の課題と可能性
─調査データから見える「現状」と「定着」のための4つの提言─
本レポートは、企業における生成AI活用のリアルな実態と導入・推進における本質的な課題を明らかにします。そして、その分析から得られた具体的な示唆を通じて、皆様の組織における生成AI活用戦略の策定と実行を支援することを目指します。
現状認識の深化
- 生成AIの企業導入率、具体的な活用用途、成果実感のリアルなデータを把握できます。
- 従業員規模、業種、担当部署、役職といった属性別の傾向の違いを理解し、自社の立ち位置を相対化できます。
課題の本質理解
- なぜ生成AIの活用が進まないのか?「関心の低さ」の裏にある構造的な要因を理解できます。
- 企業が直面する具体的な課題(セキュリティ、リテラシー、コスト、ユースケース等)とその優先順位を把握できます。
具体的な解決策へのヒント
- 生成AI活用を成功に導くための組織体制、ルール整備、人材育成のあり方について、データに基づいた具体的な示唆を得られます。
- 現場が求める具体的なサポートや情報、そして個人の悩みを解消するためのアプローチを理解できます。
未来への羅針盤
- 生成AIを、単なる「効率化ツール」から「組織変革のレバー」へと進化させる糸口をつかめます。そのための具体的なアクションプランと未来に向けた視点を得られます。
このレポートが、皆様の組織における生成AI活用の「次の一手」を考える上での信頼できる情報源となり、そして具体的な行動を後押しする一助となれば幸いです。
精度と深度を両立した調査──調査パネルについて
本調査は、企業の意思決定に資するインサイトを抽出するために、BtoB市場調査ビジネスパネルを利用し実施されました。
ビジネスパーソンを対象に構成された調査パネルを活用し、構造的な背景要因の整理や、行課題の根源を探り、乗り越えるためのヒントを提供までを含むレポートとしてまとめています。
生成AIという注目テーマにおいても、「一過性ではない本質的な活用」を見通す材料として、精度・深度ともにご活用いただける内容となっています。
調査概要
- 調査手法
- マクロミルが保有するビジネスパネルに対するインターネット調査
- 調査対象エリア
- 全国
- 調査対象者
- 【スクリーニング調査】20歳~59歳の男女
【本調査】生成AIを導入・活用している(試験導入を含む)、または、導入検討中の企業に勤務している20歳~59歳の男女 - 回答者数
- 【スクリーニング調査】4,567 人
【本調査】1,030 人 - 調査実施期間
- 2025年4月22日~2025年4月24日
- 調査実施機関
- 株式会社マクロミル
著者の紹介

中嶋 正純
株式会社マクロミル カスタマーディベロップメント本部
セールスディベロップメント部プランニンググループ
リサーチプランナー/生成AI活用スペシャリスト
リサーチプランナーとして顧客のマーケティング課題解決を支援。現在は生成AI導入・活用推進PJも担い、生成AIの実用化・社内普及を推進。また、社外での講演や寄稿活動を通じて、生成AI活用の知見を広く共有。
【登壇、記事寄稿】
・MarkeZine、インプレス「ThinkIT」、NewsPicks、宣伝会議等で記事寄稿
・生成AI-EXPO 登壇
・海外プロンプトハッカソン、国内生成AIハッカソンで入賞実績あり
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