データドリブンという罠

2019/1/9(水)

「データドリブン」というキーワードは相当浸透してきた。多くの業界で「データドリブン〇〇〇」が語られるようになっている。

しかし、このキーワードの落とし穴の一つに、“すでに持っているデータを起点に、ビジネスやソリューションを作ろう”と発想することがある。『こんなデータが保有できているのだから、こんなビジネスやこんなサービスが出来るのではないか?』。こう考えている時点でありもののデータに縛られている。

データ活用は入り口から議論すると隘路に入る。データの出口から議論しないといけない。しかし今はまだ、出口発想がないままデータの入口を議論する、出口の知見のない人が非常に多い。データドリブンとは、本質は「生活者ドリブン」であって、「生活者にどのような新しい価値、ベネフィットを創造できるか」から発想しないといけない。

データはマーケティングの米、いやビジネスの米である。しかし、コメは炊かないと食べられない。また料理人が調理しないと高く売れない。料理人が「どんな料理をつくるか」によって「どんなコメを用意するか」が決まり、そのコメによってその調理方法を変える。コメを供給する事業者は、料理人を味方につけてどんなコメが使えるコメか、どう調理すればうまい料理になるかの知見を共有することから始めることが重要だ。

つまりは、マーケティングであれば、マーケティング施策やアウトプットを理解している人が、インプットであるデータとその分析手法を発想できるかどうかが鍵となる。ビジネスロジックが分からないデータ分析官では成果が上がる見込みは極めて小さく、データは宝の持ち腐れとなる。そこで、必要な人材像が定義できそうだ。ビジネスロジックに明るい(その領域のビジネスに実際に精通している)人が、“最適化すべき施策の企画実施ベースで、どのようなデータをどのような分析手法を用いて、施策の最適化指針を出せるか”に関する知見を磨き、それによりデータ分析官を自在にディレクションするイメージである。

筆者はよく、講演で比喩を用いてこのようなことを話す。
「アメリカの連続テレビドラマシリーズ『24-TWENTY FOUR-』※1に出てくるクロエ・オブライエンがいかに天才分析官でも、ジャック・バウワーが指示しなければ成果を出せない」。

現場で成果を出すジャック・バウワーは、衛星から取得できているデータの種類や、どのような分析をかければどのような情報になるかを熟知している。だからこそ、自らオペレーションはしないが、分析官クロエ・オブライエンを使いこなすことができるという訳だ。ただしこの話にはオチがあって、「ずっとコンビで仕事をこなしていくと、クロエ・オブライエンはその後、拳銃をもって現場にでていく」のだ。マーケティングの分析官もそうなれば「儲けもの」というものだ。

また、アメリカの新聞『ニューヨークタイムズ』の記者は、データアナリストがコンビを組んで仕事をするという。記事というアウトプットを最適化するために、データ分析官とのコンビネーションが決め手となっている訳だ。

一方、日本ではデータ分析官の人材不足が嘆かれている。ビジネスの現場を担っている人材に、データ分析のオペレーションも得意という人は少ないだろう。しかし現場が分かっている人こそ、データとは?分析手法とは?データからどのような情報を創出できるか?などについて勉強すべきだ。そこが理解できて、分析官に指示ができる人がどれだけ育成できるか、これが企業のこれからを決めると言っていい。

ビジネスを理解している人たちに、データ分析ディレクターとしてのスキルセットを具体的に定義して、そのスキル習得のためのナレッジ研修、スキル獲得プログラム、OJTプログラムを作れるかどうか、おそらく企業にCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を置くとすれば重要な役目のひとつになるだろう。いわば、「アナログおじさんデジタル化計画」※2である。「経験と勘と度胸」でビジネスをこなしてきた、現場を熟知している人こそ、データを活用してほしい。経験と勘の実績をデータで再現性のあるものにしてほしいし、人海戦術ではできない規模にまでその知見を活かすためにもアナログ知見のデジタル化が必要なのである。

※1:ジャック・バウワーはCTUという架空の米国政府機関(国内テロ攻撃の標的保護を担う)で組織の中枢を担う。クロエ・オブライエンは上級分析官であり、時に上司の命令を無視して捜査を行うジャック・バウアーを、的確かつ高速な情報処理でフォローする。

※2:データ分析に明るくない人材が全て当表現に該当する訳ではないが、ここでは現場を熟知して経験を積んだ人物を分かりやすく示す一例として用いている。

著者の紹介

横山隆治

横山 隆治

1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年(株)旭通信社入社。1996年インターネット広告のメディアレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株)を起案設立。同社代表取締役副社長に就任。2001年同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。2008年(株)ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。2010年9月デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。2011年7月(株)デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。

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